茶道部合宿で東堂先輩のイベントを観よう
試合は進行する。東堂先輩はさすが攻略対象者。
群を抜いてうまいのはど素人の私にも分かる。あ、モブ山田くんもなかなかうまい。
東堂先輩がゴールを決めると、会場から大歓声が上がる。
あれ、敵チームの女子応援団からも歓声が上がるのはなぜ?
「そういえばさ、未羽って、何もメモ持ってないよね?」
未羽は一瞬たりとも東堂先輩の勇姿を逃さないように双眼鏡を外さないまま答える。
「ん?メモ?」
「いや、前世で読んだネット小説とかだと、大抵ゲームの記憶もちの転生者ってそれを忘れないようにメモとか書いて確認してたんだよね。それがないなって。君恋の第2弾って分岐やパラメーター操作が難しくて複雑だったんでしょう?」
「なめてんの?」
「え?」
「この未羽さまが、君恋の世界をメモしないと忘れるとでも?会話一つ、ミニ情報も残らずこの記憶に焼き付けているわ。」
御見それしました。
「あ、そろそろイベント始まるはずだよ?」
「でもここからじゃ会話なんて聞こえないよ?」
「口の動きを読めば分かる。」
口読みの術が使えるとは!
この女、つくづく普通人のスペックを超えている気がするんだけど、大丈夫かな?
ある方向に役立てれば多分一流のスパイとかになれると思うんだ。
「ほら。」
競技場から悲鳴が上がる。
東堂先輩が相手選手と激しく接触し、倒れたらしい。
試合が一時中断し、運ばれる東堂先輩とそれにかけよる主人公夢城愛佳。
夢城さんが東堂先輩にすがりつき口を開く。
『先輩!大丈夫ですか?』
『平気だ。問題ない。』
『問題ないわけないでしょう!酷い怪我しているじゃないですか!』
『大丈夫だ、問題ないって言ってるだろ。』
そう言って先輩は担架から起き上がろうとする。
それを押さえる夢城さん。
実況は隣から聞こえるが、二人の動きとぴったり合っているからアフレコを見ているみたい。
「はい、ここで分岐だよ。『①もう、やめましょう。補欠の選手もいますし。②先輩…無理しないでください③私は先輩が心配なんです!(抱きつく)』①は好感度0。負けず嫌いな先輩の一番嫌いな選択肢。③はハーレムルートで好感度ポイント60。②はハーレムルートで好感度80。さぁ、エセ主人公はどれを選ぶかな~?」
す、数字なの!?パラメーターっていうし、そうか。そんなもんか。
ていうか、セリフだけじゃなくて、そのルートにおける数値まで覚えているんかい。ものすごい記憶力だな。下手したら私より上だぞ。
「『…先輩…無理しないでください』。やっぱあの女、逆ハールート諦めてないのか。そろそろ無理だって気づけよなー。ほんと。」
未羽さん、口悪すぎです。
先輩はそれを聞いて、夢城さんの頭にぽん、と手を置き、爽やかなスマイルを浮かべた。
そしてフィールドに戻っていく。
「ふぅむ。」
一旦、双眼鏡から目を離し(試合始まってから初だ。)、未羽が解せない、と言う顔をする。
「どうしたの?予想外なことが起こった?」
「…逆。予想通りだった。ゲームだと、③を選んで、かつ東堂先輩の好感度が40、つまりそれなりにたまってると先輩があの反応をする。」
「てことは…。」
「東堂先輩との関係において、夢城愛佳の主人公としての立ち位置は変わってない、ってことよ。」
「でも、秋斗や上林くんは全く夢城さんに興味なかったし…。それに海月先輩なんて夢城さん全く興味ないどころかこめちゃんに一目ぼれって感じだったじゃない!」
「…もしかしたら、私たちはとんでもない勘違いをしているのかも。」
「どういうこと?」
「こめちゃんが、もし、海月先輩専用の悪役に設定されたとしたら、どうする?」
まさか。
「個別の、悪役?」
「そ。今のゲーム補正が動きすぎて、悪役が別に生まれたのかも。」
「でも!こめちゃんはそんな嫌がらせとかするようなタイプじゃないよ。あの子は陰からものを壊したり人を崖に突き落とすようなことができる子じゃない!」
「分かってるよ!私だって。あくまで想像よ。可能性の一つに過ぎない。…あ。夢城愛佳がどっかに行く。雪、あれついて、様子を窺うことってできる?」
「そりゃ、できるけど。未羽の方が適任じゃないの?」
「私は忙しい。」
未羽は再び双眼鏡をセットして東堂先輩を観始めていた。
はいはい。徹頭徹尾、頭のビデオの録画に忙しいんですね。
あと1話で茶道部合宿編は終わりですー。明日も2話アップ出来たらな、との野望を持っています。




