表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム補正を求めて奮闘しよう!  作者: わんわんこ
【高校2年生編・2学期】
245/258

戦いの前には一呼吸を。

 次の週。一年合宿で太陽たちが出て行った後、数日経った木曜日。

 先週かなり予定を詰めて頑張った上、桜井先輩(「みんな寂しかったろう!さぁボクの胸に飛び込んでおいで!いつまででも可愛がってあげよう!」とのお言葉つき)と東堂先輩がちょくちょく助けに来てくれたので、スケジュールに余裕ができた私と俊くんは、来週の土曜日にある天夢特別授業特待生試験のための勉強をしていた。


「俊くんのおかげで化学、かなり分かったかも!ありがとう!!」

「いやいやこちらこそ。雪さん教えるの上手いから数列の分からなかったところ理解出来たよ」

「二人とも頑張るねぇ〜!」


 冬馬が部活でいないので、こめちゃんと俊くんと一緒にまったりと時間を過ごしている。ゲームが進行していることが嘘だと思ってしまうくらい、穏やかな日常だ。


 事情を後から聞いたこめちゃんも心配していたが、弥生くんはちゃんとあの後生徒会にも来たし、弓道部を辞める届けも出していない。太陽に聞いたところ、「それなりに普通に過ごしている」らしい。まだ私や冬馬には気まずげな様子を見せ、二人きりにならないようにしているけれど、彼が自暴自棄になっていないことはゲームエンドを補正しようとしている私たちにとって大きなポイントかもしれない。


 本当に強い子だと思う。ゲームの設定なんかよりよっぽど魅力的な男の子である彼に、私なんか比べものにならないくらい素敵な人が現れることを心から願っている。

 そのためにもゲームは絶対に補正しなければならない。


「あ、ねぇこめちゃん、ちょっと息抜きにさ、クリーム系の甘いもの買いに行きたいんだけど一緒に行かない?」

「行く行くっ!!」

「俊くんもクリームとか平気だよね?」

「僕の分も買ってきてくれるの?」


 俊くんがにっこり笑った背景では、でかいのと細いのとちっさい高校生男子三人がそわそわと身を寄せあっている。

 ちらっとこっちを見ては目を逸らし、期待に目を輝かす。――やっていることは少女漫画のヒロインだが、やっているのは大きくてむさくるしいゴリラ顔に、中くらいの細っこいネズミ顔、そしてカビの生えるじめじめの中に生えたばかりのきのこのトリオだ。


「はいはい。三馬鹿のも買ってくるからそんな物欲しそうな目しない」

「いやったぁ!」

「女王陛下ぁ!!」

「俺っち、最高の紅茶を淹れておくッス!」

「……あのさ、買ってくるのはあんたたちがそのあたりで帰りに買うコンビニスイーツだよ?」


 盛り上がり方がクリスマスにプレゼントをもらった子供(繰り返し注意しておくが、やっているのは大きくてむさくるしい以下略)並みなのでつい突っ込むと、三人が悟りを開いた顔で遠くを眺めた。


「女王陛下は知らないッスね……」

「そこはカップルの温床なんです……」

「それもおいらのような人種を除くきゃっきゃうふふな人限定なんすよ……」

「人種~?」

「増井さんどうしてそこに疑問を持つんすか!!」

「それは俺たちは人ですらないってことッスか!?」

「うーん、ごめんねぇ?正直に生きるのが大事って春先輩に言われてるから……」


 財布を片手に、いつ転ぶかはらはらものの危なっかしい足取りで駆けてきたここめちゃんは、可愛らしく首を傾げたまま三人を言葉のナイフでめった刺しにしていく。

 これ以上精神攻撃を続けると三体の屍ができるので、早々にこめちゃんを回収して買い物に出かけることにした。






 駅前のコンビニに入ってそれなりの時間が経ち、私が、自分のシュークリーム、俊くんのチョコエクレア、桃のどら焼き3つ、雉と猿のミニシュー詰め合わせをセレクトし終えた段になっても、こめちゃんはカゴを持って眉間に皺を寄せていた。


「珍しく悩んでるね。いつもだったら悩んだやつ全部買って食べてるのに」

「うん、私の分は秋限定くりぃみぃスイートポテトとキャラメルパフェにしたんだけど――」


 二つは確定なんだね、こめちゃん。


「春先輩にね、差し入れを持っていくの、スイーツと栄養ドリンク系とどっちがいいかなぁって」


 あなたが行くことが一番の差し入れになると思います。そしてどちらでも大変お喜びになるでしょう。


 とはいえ、頰を染めて棚を行ったり来たりしている姿は可愛らしいので微笑ましく見守ることにして先に会計を済ませておく。



「雪ちゃんは冬馬くんにはいいの~?」


 ようやく会長の分にチーズケーキスティックをセレクトし終えたこめちゃんが会計を済ませながら尋ねてくる。


「ちょっと考えたけど、冬馬は甘い物苦手だからなぁ。どっちにしても部活中は集中してるから邪魔したくないんだ」

「そっかぁ!冬馬くん、雪ちゃんが傍にいたら落ち着かなくなっちゃうもんねぇ」

「そういう意味じゃなくて。い、行ったら邪魔になるかなって!冬馬はそんなにそわそわするキャラじゃないってこめちゃんも分かってるくせに」

「もう!何言ってるの~!彼女の雪ちゃんが一番知ってるでしょ〜?冬馬くんが顔に出さないのは!冬馬くん、結構そわそわしてるよー」

「……そう、かな」


 つんつんと突かれてからかわれてしまい、ついつい頬が熱くなってしまった。


「こめちゃんにからかわれた……」

「私だって雪ちゃんたちのこと、見守ってるもん。冬馬くんは本当に雪ちゃんがいる時といない時で全然違うんだよう?雪ちゃんがいる時は目線とかも柔らかくて癒されてるって感じなの〜」

「そっか――って、こ、こめちゃん!袋を振り回したらパフェがぐちゃぐちゃになっちゃうよ?!落ちないけど遠心力働いてるから!」

「そ、そうだった!!」


 うきうきしすぎてスキップしながらコンビニの袋をぐるぐる回し始めたこめちゃんのおかげで、甘く染まりかけた思考はあっという間に現実に返ることができた。






噂をすれば影、一匹いれば三十匹、こめちゃんいるところに会長あり。


君恋生徒会で共通の認識のとおり、生徒会室に戻ると今日も完璧の佇まいの会長様がプリント類を片手に立っていらっしゃった。


「お帰りなさい。まいこさん……と相田さん」

「春先輩ー!!」


 今の間が示しているとおり、私は完全なるおまけだ。会長の目には私なんて、背景の机程度にしか映っていないんだろう。そうじゃなきゃあんなに堂々といちゃつけないはず。


「ちょうど二人が行った後に手伝いに来てくれた――はずなんだけど、こめちゃんはどこだってうるさくて何も進まなかったんだ……」

「俊くん、ほんとに、お疲れ様です。会長がやらなきゃいけないほどの仕事はなかったと思うけど」

「もちろん口実だよ」

「ですよね」


 私と俊くんが話す間に既にお二人はお二人の空間を作り出している。周りに誰がいようと何があろうと関係なくこのモードに入られるお二人は本当にすごい。会話は聞こえているが実況などしたらコンビニスイーツを食べる前に甘さで胸焼けする。

 隣をちら、と見ると俊くんの笑顔が若干どころでなく引きつっている。


「俊くん、大丈夫?」

「こういうのはもう慣れたから……」

「これに慣れるとか相当だね」

「今の僕はどんな少女漫画のどんなクサいセリフを見ても笑えないよ」

「……おや、俊も相田さんも補助員のみなさんもまだいたんですか?」


 目が「邪魔だどっか行け」と言っている!会長、ここは仕事するための場所ですよ?

 こめちゃんに向けられる優しさの欠片もない目で見られた三馬鹿はあれだけ期待していたコンビニスイーツを握りつぶさんばかりの勢いで縮み上がった。


「おおおおおおいら、柔道部に顔出しに行ってくるんす!」

「ぼぼぼ僕は家でパソコンの調整を!」

「おおおおお俺っちは紅茶の準備次第すぐに出て行くッス!」


 私と俊くんも、三馬鹿が部屋から駆け出していくのに合わせて一緒に部屋を抜け出て中庭まで走り続け、ベンチで大きく息を吐いた。



「火傷しない間に退散できてよかったね」

「兄さんたちの場合、火傷じゃすまないよ」

「焼死する、に訂正します。それにしても、会長の変貌って相変わらず怖いわぁ。なんか見られると寿命縮まる気がする」

「雪さん……僕はいつもそれに晒されているからね……?」

「御愁傷様だね俊くん。チョコエクレアでよかった?食べて忘れよう?」


 君恋高校は敷地が広くて豪華さはまるでないもののちょっとした庭園みたいな場所もあるから、これだけ天気が良ければ食べる場所には事欠かない。


「ありがとう!いくらだった?」

「いいよいいよ」

「えぇ!?悪いよ!」

「俊くんにはいつもお世話になってるもん。気にしないでー。それより食べよ?んー!やっぱり小さいのいくつかよりも大きいのを1つ食べる方が好きだー!」


 言いながら袋から頭を覗かせたシュークリームにぱくりとかぶりつく。

 はしたなくてごめんね。ちぎると手がべとべとになっちゃうんだよ。


 生クリームとカスタードのダブルのこってり甘いやつを堪能していると俊くん最初はためらっていたが「じゃあ、ごちそうになります」とほほ笑んで隣でエクレアを齧り始めた。


「雪さん、甘いもの結構好き?」

「うん、こめちゃんほどじゃないけど好きだよ。特にこういうクリーム系はたまに食べたくなる」

「普段そういうの全く食べてない気がするからそこまで好きなのはちょっと意外だったよ」

「ああ、それは、冬馬が甘いの好きじゃないから遠慮してるんだ」

「え、どうして?」

「自分が嫌いなものを目の前で美味しそうに食べられても複雑な気持ちになるでしょ?冬馬を振り回すのはよくないって言われたし、自制してる!甘い物断ちしてたの」


 俊くんは私の言葉を聞いて苦笑した。


「別に冬馬くんを甘い物食べ放題に付き合わせるわけじゃないんだし、振り回すことにはならないよ。それに多分冬馬くんは雪さんが目の前で美味しそうに甘いもの食べてても嫌じゃないと思う」

「えーそうかなぁ?私は小豆ちゃんの踊っているお菓子を美味しそうに食べる桃を見て不快にはならないとしても不思議だなぁとは思うよ?」

「仮にそう思ったとしてもね?そんなに幸せそうな顔で食べてたら多分差し引いてもプラス、冬馬くんは絶対そういう雪さんが見たいと思うけどなぁ……。雪さんだって冬馬くんが満面の笑顔で幸せそうに何か食べてたら見たいでしょう?」

「絶対見たい!!」

「でも他の人には見せたくない?」

「うん」


 秒速で頷くと俊くんがほわっと笑顔を作った。


「冬馬くんのことになると素直だね雪さん」

「うっ。なんで今日はこんなにからかわれる日なんだろう……」


 小首を傾げて微笑む様は攻略対象者様でもないのに十分な威力がある。

 しっかり者の彼らしくなく口元にちょっとつけた生クリームすら、無意識だろうけど、母性本能もくすぐる立派な仕込み武器になっている。なんと恐ろしい天然女子デストロイヤーなんだろう。


「……俊くんもあの会長様の弟って気がするよ」

「えぇ!?どういうこと!?僕なんかまずいこと言った?」

「あ、今のは多分褒め言葉の方で。ん?褒め言葉なのかな……罪作りという意味では褒めてないか」

「最近の兄さんがやっていることは大体まずいことが多いのは否定できないけど、僕もそんなことをしてしまっているなんて……一体どこが……?」


 俊くんは、眉根を寄せ、真剣に悩み始めてしまった。過敏な反応だが、日頃彼がどれだけあの二人に振り回されているか痛いほど知っているので、絶対に神経が細いと笑えない。

 似てると言われて弟をこれだけ唸らせるくらい問題があるってことを自覚するくらいの繊細さは会長にこそあればいいんだけど、世の中そんなにうまくいかない。


「ほ、褒め言葉の方で!!」

「そう……?それならまだ……」


 ふぅと息をつき、眉間の皺を解いた俊くんが苦笑する。


「兄さんの他のところが似てるって言われたら手放しで喜べるのに」

「俊くんはやっぱり会長のこと尊敬してるんだね」

「うん。こめちゃんに関することを除けばやっぱり僕なんかとは比べものにならないくらい出来る人だから。両親も兄さんにはかなり期待してて、僕はそういう意味では全然期待されたりとかないからすごいなぁって思うよ」


 何と言っていいか分からず私が黙ったせいか、俊くんはすぐに慌てて付け加えた。


「あ、ごめん。卑屈に聞こえたかもしれないけどそうじゃないんだ。兄さんが両親の期待を一身に背負ってくれているおかげで僕は自分のやりたいことをやりたいようにさせてもらってる。だから感謝してるんだ」


 心からそう思っているのが一目で分かるくらい、自然な笑顔に見惚れてしまう。

 この人に「人」として惹かれる理由はこういうところなのかも。


「俊くん、すごいなぁ……」

「え、兄さんがすごいって話じゃなかった?」

「あんな完璧超人な兄がいてコンプレックスに思うことだってあるでしょ?それなのにそんなに純粋にお兄さんを尊敬できるのってすごいなって。なかなかできないよ。俊くんの心って綺麗だなぁって」


 チョコエクレアを片手に草花を見て話していた俊くんは私の言葉を聞いて頬を染める。


「褒め過ぎだよ。兄さんは僕が比べてもどうしようもないって小さい頃から思えるくらいすごすぎたんだ。それに兄さんは僕のことを昔から気にかけてくれた。捻くれることができないくらい構ってくれたよ。優しい兄だと思う。……こめちゃん関係を除けば」


 最後に心がこもりすぎていた。


「あ、でもね、そんな兄さんにこめちゃんみたいに大切な恋人ができたのはよかったと思ってるんだ」

「どうして?あんなに苦労させられているのに?」

「冬馬くんと同じで……いや冬馬くんよりもっと、なんというか常人離れしているところがあるから、こめちゃんのことで人っぽい部分を見せてくれて少しほっとしてる。こめちゃんには感謝してるよ」

「差し引きゼロ?」

「ううん、マイナス――なんてね」


 珍しく冗談を飛ばした後、にっこりといつも通りの柔和な笑顔のまま、俊くんは空を見上げた。


「こめちゃんにも、兄さんにも、他のみんなにも。誰一人欠けても今のこの幸せはなかったと思うんだ。だから、いつもみんなに感謝してるし、もしみんなのために僕にできることがあるなら、なんでもやりたいって思うんだ」


 俊くんは、あまりに素直で純粋だ。

 人としての恨みや妬みにまみれておかしくない環境だったはずなのに、彼はそれを持たない。見せないように無理している、というわけじゃなくて本当に持ってない。

 それは疑いようもなく彼の魅力だ。

 私にはこういう透明感はない。だって私は欲深い人間だから。誰もなくしたくないし、手に入れたものを理不尽に奪われるのだって納得できない。


 俊くんだったら、なんて言うだろう?


「……もし大事な友達や後輩が失われるかもしれないと知って、予めそれを防げるかもしれないって分かったら俊くんはどうする?」

「え?」


 こちらを向いた俊くんの琥珀色の瞳を見たときには、私の決心は固まっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ