腹黒に交われば最恐になる。(冬馬動乱編その9)
中間試験の結果が出た次の月曜日。
私は、いつも通り授業を受けた後の放課後、茶道部の活動中に一年生の子達と話していた。
「やっぱりあの二人がいねーと静かだよなー!」
「常に活動モードフルスロットルで動く子がいない日っていうのもちょっと落ち着いてていいんじゃない?」
明美がけらけらと笑っている。
遊くんと明美の言う二人とはもちろん三枝兄妹のこと。今年は月曜日から金曜日の5日間が一年生の天夢編入期間になっており今日が1日目だからだ。
「活気という意味で言えば寂しいですが、たまにはこういう雰囲気もいいですわね」
「たまには、っていうかむしろこれがあるべき姿よね?」
「まぁまぁ。私たちはあまり普通な部活動は送っていませんし、それに慣れてしまいましたから」
未羽に突っ込まれて微笑む京子をそっと盗み見るけれど、いつもと変わった様子はない。
昨日のあれは京子に間違いないけど……でもなんで東堂先輩といたんだろう?
とても気になる。気になるけど。
もし彼女が東堂先輩と付き合っていて、それを私たちに言っていないなら隠したい理由があるはず。それならみんなの前で訊くべきじゃないよね。
「祥子ちゃんとか大丈夫かなぁ〜?」
「湾内さん、先週頑張ってたし大丈夫じゃないかな?ほら、中間試験も85位で過去最高だ!って飛び上がってたよ?」
「それね。太陽が家でほっと息ついてたよ。『これで順位上がってなかったら即刻高校辞めろ!』とか言いまくって自分の勉強そっちのけで指導してたからね」
「相田ってそんなことしてたんですか?!」
「それできっちり1位でしたよね?相田くん怖いですねー」
私の暴露に八田くんと有子ちゃんが驚愕している。
「ていうか、雪先輩も今回2位っすよね?!やばくないですか?」
「……八田くん、私それ順位落ちて地味に凹んでるんだけどなぁ……」
「げ。そ、そっか、雪先輩って去年主席キープでしたっけ……」
「雪さんは今年の一学期も主席だったよ。でも雪さん、理転して2位なんだからすごいよ」
「そーだよー、雪。生物なんか上林くんすら押さえて1位だし、得意科目が減ってそれなら十分でしょ」
「理系総合は冬馬に10点も負けた」
「ふふ、雪は不本意そうですわね」
「雪ちゃんは負けず嫌いだもんね~」
かなり頑張った数学は冬馬と3点差で2位につけ、私にしては奮闘できたが、物理はもっと低くて7位だし、俊くん1位の化学では冬馬に続いて3位だったのでじわじわと差がついてしまった。英語など他科目で1位を取っても挽回できなかったのは悔しい。
これからもっと難しくなるのに、本気の冬馬に勝てるのかな?
「俺、相田姉弟嫌いだー!!」
いつも通りの成績をしっかりとキープした遊くんがわめいているのを明美が、「うるっさい!」と小突いている。ちなみに、まぁまぁと宥め役に徹する俊くんは理系250人中5位と大健闘した。彼の足を引っ張る歴史系や古典が減ったことでかなり上位に上がったんだって。
「相田くんっていえば、私、ここにお姉さんがいるのにこんなこと言うのあれなんですけど、怖いイメージだったんですよ!だから湾内さんにそんな風に話してたって意外すぎてびっくりです」
真子ちゃんの言葉に有子ちゃんは「私、逆だなぁ!」と楽しそうに身を乗り出してくる。
「確かに相田くん、愛想ないし女子に冷たいって思ってたけど、この前たまたま会った時に、ほとんど話したことない私が雪先輩と茶道部で一緒ってこと聞いてたらしくって『姉がお世話になってます。』って挨拶してくれてさ!そんなこと知ってたのもびっくりだし、義理堅いとこもポイント高くて逆にいいなって思っちゃった!」
太陽の魅力を分かってくれる子がいておねーちゃんは嬉しいよ。
「太陽くんって本当に生徒会と違うんだね〜。弥生くんはどうなのかなぁ〜?」
「弥生……って神無月くんですよね?私は彼の方が好きですー!他クラスの私たちにもにこにこしてて優しいし気さくだし!」
どうやら有子ちゃんは太陽派、真子ちゃんは弥生くん派のようだ。
「うわー引くわー。お前ら彼氏いるだろー?」
「いーの!これは芸能人にキャーキャー言うのと同じなの!」
未羽が「確かに現実世界で一番近いのは芸能人かもねぇ……」と呟いている。
「そーゆー意味なら五月が一番いいだろ?クールじゃね?つーか友達だろー?お前ら!」
「そりゃーあの五月くんの方が仲良いのは仲良いよ!でも人気って意味ではねぇ?五月くんもそれなりだけど、葉月がなにより一番って見るからに分かるからさ、多少二人には負けるよね」
「くっそー!どの子もなんだかんだ顔かよ!!イケメン爆発しろ!」
「遊の兄貴!俺が爆弾の準備をさせていただきますっ! 」
「いーぜ、ついてこい兄弟!ようし、こうなったらイケメン撲滅部隊発足だ!」
わぁっと叫んだ遊くんに泣きつく八田くん。うるさイイコンビだ。
「あ、俊。お前は入隊禁止だからな?」
「え?なんで僕だけハブかれるの?」
「よぉし!今年のバレンタインデーいくつチョコもらいやがったか吐け!今すぐ!」
「え?えーっと」
素直に両手の指を何度か折り曲げては広げてを繰り返し、首を傾げている俊くんを見た二人は、
「隊長!こんなところに早速敵が!」
「まさに灯台下暗し!いけ、八田隊員!」
などと言って後ろから俊くんをハイキックしている。
「……男子ってアホですよね」
「そーよー、有子ちゃん。結局やつらも女子を顔で見るくせにねぇ?」
「ま、まぁ、美しいものに心惹かれる気持ちは分かりますわよ?」
有子ちゃんと明美が彼らにジト目を向け、それをフォローする京子に未羽が激しく頷いている。
確かにあんたはその典型だろうからな。単に惹かれるだけじゃなくて相手が引くくらい熱狂的だもんな。
「そ、そんなことないよう〜?ちゃんと中身も見てくれてるって〜!」
「確かにそういう人もちゃんといてくれるけどね?それから私のところがその典型だから否定はしないけどね?第一印象って大事だからいいに越したことないわよ」
「普通の人は、外見対中身は8対3くらいかな~?」
「……こめちゃん、どういう意味かいろいろ訊いていい?」
「あ、そう!だから湾内さんって男子とかから超人気なんですけど、やっぱり相田くんと付き合ってるんですか?」
「ゴホッゴホッ」
「だいじょーぶですか?!相田先輩!」
こめちゃんの天然発言に詰め寄る明美を見て、空気の読める素敵な後輩の有子ちゃんが話題を変えた……のはいいのだけど、そこ来たか!
私が飲みかけたお茶を気管に詰まらせていると真子ちゃんが背中をさすってくれる。なんて素敵な子たちなんだろう、茶道部一年生(男子と妹分除く)!
「まだみたいだよ〜」
「まだ?!」
「あ、いや、付き合ってないよ?可能性としては…あるかないか微妙なラインかなぁ。私あんまりよく知らないんだよね、あいつ家で話さないし。あはははは。多分一年のみんなの方が知ってるよ、どんな感じ?」
白々しく笑って誤魔化すと、真子ちゃん有子ちゃんはうーんと顔を見合わせて答えてくれた。
「相田くんが生徒会の湾内さんと葉月には対応違うってことはみんな知ってますけど……葉月と比べて湾内さんだけ特別かっていうと、そんな感じではないって感じです」
「男子は相田くんがあの二人を独占してるって思ってるみたいですけど、相田くんは色々ずば抜けてるし、相田くん自身が恋愛の話が始まると興味なさそうにどっか行っちゃうんですよ。神無月くんはみんなに優しいけど彼女は要らないみたいで告白とか全部断ってますし、五月くんは葉月がいないと呼び出しに応じすらしないんで、まぁ、うちの学年はそういう意味でアイドルはアイドルって見守る傾向ですかねー」
「なるほどね。……あーなんか話してたら心配になってきたなー。今年は雹くんたちのおかげで向こう荒れてないし治安って意味なら平気だと思うけどさぁ」
「天夢高校の編入のことですの?」
「そう。祥子はとっても不器用だし、葉月は理系科目については恐ろしく出来ないしね?三人がフォローしてるとは思うけど不安なんだよね」
「あれ、でも今週雪、向こうに行くんでしょ?雨が言ってたわよ?」
「水曜に天夢高校の難関理系用特別授業の体験授業があるからね。そこで優秀だったら試験パスできる要件の一つの天夢高校推薦がもらえるから絶対行かないと。俊くんも行くんだよね?」
「うん。僕もどうやら他の条件クリア出来そうだし」
男子二人とじゃれていた俊くんがこっちに戻ってくる。
「上林くんは行きますの?」
「冬馬は行かないよ」
「へー珍しい。雪が行くところなら行きそうなもんなのに。しかも男子校でしょ?いくら雹くんや俊くんがついてるって言っても、ねぇ?」
「いやほら。冬馬は土曜日部活あるから!そもそも授業受けられないのに推薦権なんかもらっちゃったら他の人が可哀想じゃない?それにその日は用事があるって言ってたし。それより未羽は?あんたも理系だし、一応声かけてみようかと」
「未羽は勉強には興味ないでしょ」
「そんなことないわ。行くわよ」
「ええええ?!未羽ちゃんが勉強を!?」
「ふっ。遊くんとは違うわよ」
絶対に違う。未羽は攻略対象者様である雹くんや雨くん、そして編入中の一年生の様子を生で見たいだけ。相も変わらず欲望のために手段を選ばない女だ。
「それにその体験授業はタダなんでしょ?」
「まぁね」
「タダなら行くっきゃない」
「未羽ちゃ〜ん。タダより高いものはないって言うよ〜?」
「こめちゃん、未羽がせっかく勉強にやる気を出しているんだから突っ込んではいけませんわ!」
「そっかぁ、そうだね~!じゃあ私の代わりにみんなの様子見てきてあげてね〜」
こめちゃんは文系だからお留守番だ。
「水曜行くからにはそれまでにお仕事やっとかないとねー」
私が伸びをすると、俊くんとこめちゃんがふぅーと一斉に大きなため息をついた。
「きついね〜やっぱり4人で普段9人または14人でやってることやるのは〜」
「こめちゃん、補助員の猿くんたちを忘れてるよ。彼らを入れて7人だよね」
「あ、そっかぁ。忘れてたぁ!春先輩に、『彼らは人だと思わず自分がきつい時は全部代わりにやってもらってください』って言われてたから……」
黒い!今日は殊更黒い!こめちゃんの純白の布のような純粋さを会長がどす黒く染めて行ってるんじゃないかと彼女の将来が心配になる。
「彼らがいなかったら仕事回らなかったよね。今日だってこの後仕事に戻らないといけないし……」
「え?!俊、お前この後生徒会なの?!」
「うん」
「そういう意味で10月は生徒会メンバーが少なくて大変だけど頑張らないとだね」
「そうだね」
私の言葉に数々の修羅場を潜り抜けてきた二人は比較的明るく頷いた。




