茶道部合宿のご褒美を堪能しよう
「へとへと〜」
私たちが1日目の掃除から解放されたのは午後6時を回ってからだった。
「まだ丸一日あるなんて…。」
「信じられませんわね…。」
「腰も肩も痛いよ〜。」
明美と京子がため息をつき、こめちゃんが腰を押さえて悲鳴をあげる。
「いいじゃんか…痛いだけなら…」
「遊くん?」
遊くんは廊下担当だったはずだ。
「俺のファーストキスは廊下だぜー!!あの廊下きったねーくせに拭くとつるつるになって滑んだよ!」
絶叫する遊くん。そりゃ御愁傷様だ。
「ちなみにセカンドキスは雑巾な。」
「お前近寄るなよ?」
秋斗がすすっと遊くんから離れる。「秋斗!そりゃないぜ!」と結局二人でじゃれているんだからなんだかんだ元気だな。さすがに体力が女子とは違う。
「私なんか、トイレ…いやあれはもう便所と呼んだ方が相応しいわ。だったのよ!臭い移ってないかな…。」
「秋斗のボイス聞いてたんでしょ?」
「あれなければ生きていけなかった!」
大げさな。
「はぁーい!みなさんお疲れ様ぁ!頑張ったわね。サボった悪い子は…。」
電波おねぇ先生がじぃっと私たちを見る。
そんな猛者は誰もいるまい。
「いないみたいね!じゃあワタシが言葉通りいい所に連れて行ってあげるわん!」
そういうと、例の黒塗り車に私たちを乗せる。
「先輩、どこ行くんですか?」
同じ車両になった天木部長に聞くと、「本当にいいとこだよ。」と笑って返してくれる。具体的な場所が知りたいんですが…
「でも僕たち埃、土まみれですよ?このまま着替えずに行って大丈夫なんですか?」
俊くんのまともな質問にもへーきへーき、と先輩は取り合わない。
「ほら、着いたよー。」
おおおおお!
着いた先は、お!ん!せ!ん!
豪華な旅館だ。
今日一日掃除で汚れたので、1年生なのに一番風呂を先輩たちが譲ってくれるらしい。
「温泉だー!やったー!」
明美が車を飛び出すと私たち女子の手を引いて女湯側にダッシュする。
明美は人一倍潔癖なところがあるから掃除は好きらしいが、汚れているのに我慢ならないらしい。
「特に未羽はよくよく洗ってね!」
びしっ!と名指しされた未羽が「酷い…」とぶーたれている。
中は事実上の貸切状態。もくもくと湯気の上がる露天風呂だ。
「見晴らしいいねー!さすが高級宿!」
広い風呂に私たちだけ。こうなると…
「未羽、泳がないで!」
「こういうとこでこそやりたいんじゃないの!」
「きゃあ!お湯を掛けないでくださいまし!」
未羽が京子にお湯を引っ掛けている。精神年齢がすごく低いぞ未羽。…あれ?未羽って転生者なんだよね、未羽通算何歳なの?
こめちゃんは離れたところでのーんびりとマイペースに湯に浸っている。こめちゃんの頬っぺたが髪と同じ薄紅色になっていて可愛らしい。
私も喧騒から避難する。
「こめちゃん、お疲れ様〜。」
「雪ちゃんも〜。」
「明日もまだ続きがあるとか信じられないね、どのくらい終わった?」
「残り3分の2くらいかなぁ。」
「同じだわ〜。」
そういえば。
「あれから会長から連絡とかあった?」
「う、海月先輩ぃー?…うん。」
「…事務連絡…なら私たちのところにも来るよねぇ?個別連絡は多分上林くんに来るし…もしかして、プライベートな連絡?」
「う、うん。」
へい!会長なかなか早いぞ!
ここは切り込んで訊いてみておくか。
「こめちゃん、会長のことどう思う?」
ブクブクと、湯に沈むこめちゃん。さっきより心なし顔が赤い気がする。分かりやすい。
「…ううぅ、分かんない。今まで私あんなに綺麗な人と話したりする事なくて…会長って顔だけじゃなくて中身も優雅な感じでしょお?だから側にいるだけで緊張しちゃって…。」
「ほっほー。でもそうやって沈んでるってことは満更ではないんだ?」
「お、おこがましいとは思ってるんだよ!?でも…少しそういう気持ちがあってくれたらいいなぁ、とか。ちょっと期待しちゃったり?」
上目遣いこめちゃんに私がノックアウト!可愛すぎです、こめちゃん。
「私だったらこめちゃんに一発KOだけどなぁ。まぁ、今後生徒会でも一緒になるんだからどっちにしても一緒に過ごす時間は長くなるよ。」
「う、うん。」
真っ赤なゆでだこになったこめちゃんが頷く。
なんて可愛いんだ。
向こうを見ると明美と京子を襲う少女の皮を被ったおっさんがいた。
「よいではないか、よいではないか。減るものではなしに!」
「ぎゃー!おっさんが!おっさんがここに!」
「柔らかいではないか!よいぞよいぞ!」
「も、揉まないで下さいまし!!」
未羽、本当に前世女だよね?それで男だったら付き合いなくすよ?
現世のあの子は女じゃない、おっさんだ。
お読みいただきありがとうございましたー。明美も京子も遊くんも暴れはじめるのです。2月2日の活動報告に、お話の今後に関わるちょっと大事なことを書きました。がっかりされる方を減らすためです。気になる方はご覧くださいませ。




