episode3-4 ウィッチカップ④
『いきなりバトルの勃発だー! 最初の対戦カードはタイラントシルフ選手VSエクステンドトラベラー選手あ~~んどドラゴンコール選手ー!』
『通常の対抗戦ではある程度小クリスタルを確保してから戦い始めるのがセオリーですが、あえてそのセオリーを無視して1対2という有利な状況を作り出したわけですね』
『タイラントシルフ選手これは厳しいかぁ!?』
スタジアムの大画面にはいきなり凄まじいスピードで現れタイラントシルフを強襲し始めたドラゴンコールたちが映し出されており、右上の方で小さくワイプになった実況妖精が喧しい声をあげている。
『出ました! タイラントシルフの奥義、嵐の環境魔法です! しかしあーっとぉ!? 突如発生した大爆発に相殺されて消滅してしまいました!』
『ドラゴンコール選手は生命系統の中でも希少な幻獣系の魔法少女で、その火力は自然系統に迫るという噂も聞いていましたがまさにというところですね』
『これほど強力な一撃があるのであれば出会い頭に使用しても良かったように思えますが!?』
『距離が近すぎたのでしょう。ドラゴンコール選手に影響があるのかはわかりませんが、エクステンドトラベラー選手が巻き込まれて落ちてしまっては結局1対1の交換になってアドバンテージが弱いですからね』
「シルちゃん頑張れー、パイセンも頑張れー」
「二人でシルフちゃんを襲うなんてずるいよ! あぁ!? シルフちゃん逃げて!」
「チームの人数は同じなんだからエクステンドさんたちの作戦勝ちよ。でもやっぱりシルフさんも凄いわね。魔女を二人相手取ってここまで保たせるなんて」
レッドチームコンビの猛追を受けながらも何とか振り切ろうと魔法で牽制を行っているシルフの姿にエレファントはハラハラとした様子で何かあるたびに甲高い悲鳴をあげている。ブレイドはそんなエレファントを窘めつつ感嘆した。明らかに劣勢ではあるが、魔法少女になったばかりのシルフが魔女二人と同時に戦って未だに生き残っているのは流石と言うほかない。
『嵐が晴れた後もレッドチームコンビの姿が見当たりませんがこれは……? あー! 下から! 森の中から飛び出して来ました!』
『タイラントシルフ選手を油断させるためにあえて森の中に身を隠したようですね。奇襲の意味があったかはともかく、タイラントシルフ選手も真下からの攻撃というのは意識していなかったみたいですね。対応が遅れてしまっています』
しかしそうは言っても状況はジリ貧であり、とうとうシルフは痛烈な一撃を受け専用武器を取り落とし、前後もままならないところへ致命的な一撃が迫る。
「もう見てられないよぉ!」
「待ってエレちゃん! ラビちゃんだよ!」
「なるほど、シルフさんもただ闇雲に逃げてたわけじゃなかったってことね……」
凶刃がシルフへと迫る様をこれ以上見られないと思わず固く目を閉じたエレファントだったが、プレスの言葉に恐る恐る目を開くと、いつの間にかラビットフットがシルフにお姫様抱っこされて何かを話していた。
「ずるい!」
『幸運の兎、ラビットフットがここで参戦だぁ! しかししかしですよ! ラビットフット選手はイエローチームです! なぜブルーチームのタイラントシルフ選手を助けたのでしょうか!? やられてから奇襲しても良かったのでは!?』
『1対2でも勝てる魔女、イエローチームで言うなら例えばレッドボール選手であればその選択肢もあったでしょう。ですが、ラビットフット選手はエクステンドトラベラー選手とドラゴンコール選手を同時に倒せるとは考えなかった。つまりタイラントシルフ選手の二の舞になってしまうということですね。それならば、チームは違いますが今だけ共闘すると言うのは一つの手段として有効と言えます』
『なるほどぉ! 各個撃破されるのを防ぎ、逆に返り討ちにしてやろうということですね!』
『おそらくタイラントシルフ選手はこうなることを見越してあえてイエローチーム寄りの方向へ逃げていたのだと思われます。先行役が必ず近くに居るはずだと予想し、レッドチームのコンビを無視できない距離まで釣り出してまんまとラビットフット選手を引きずり出したのです。まだ魔法少女になったばかりと聞いていましたが中々の戦術眼をお持ちのようですね』
実際のところシルフは深いことを考えずただ闇雲に逃げていただけだったのだが、いかにもそれっぽい解説の言葉に会場のあちこちから感心したような声が漏れる。
「やっぱシルちゃん頭良いよね~」
「当たり前だよ! シルフちゃんは凄いんだから!」
「さっきまでキャーキャー騒いでたのに調子良いんだから」
ラビットフットの一撃で分断されたドラゴンコールとタイラントシルフ、それからエクステンドとラビットフットの戦いがそれぞれ空中と地上で始まり、先ほどまでの激戦が信じられないほどあっという間に決着はついてしまった。
『決着! 決着です! タイラントシルフ選手のトルネードミキサーがまるで生き物のようにドラゴンコール選手に食らいつき見事撃破しました!』
『ドラゴンコール選手、最後に領域魔法を使おうとしていましたが間に合いませんでしたね。彼女は他の魔女と比べると魔力量が多い方ではないので、序列的に格下であるタイラントシルフ選手には使わず温存しておきたかったのだと思われます。ですが序列はあくまでも外敵に対する強さの序列。出し惜しみするべきではありませんでしたね』
『さらに! 地上戦の方も決着が着いたようです! とても目で追いきれないほどの速さで乱反射するピンボールのように跳ね回っていたラビットフット選手がエクステンドトラベラー選手を蹴り倒しました! エクステンドトラベラー選手はほとんど棒立ちだったように見えますが何故抵抗しなかったのでしょうか!? あるいは魔女ですら反応することも出来ないほどのスピードだったということでしょうか!?』
『難しいところですね。エクステンドトラベラー選手は時間を拡張する魔法を持っていますので、それを使って抵抗した可能性はありますが、ライブさんの言う通り碌に抵抗も出来なかった可能性もあります。映像を見てもわかるように、負傷エフェクトがかなり出ていましたからすでに限界だったのかもしれません。拡張魔法ごとねじ伏せられたのか、あるいは抵抗も許さないほどのスピードだったのか。いずれにせよ、最速とも呼ばれるラビットフット選手の渾名に恥じない勝利ですね』
『レッドチームは一度に二人がリスタートすることとなってしまいましたが大丈夫なのでしょうか!?』
『作戦の変更は余儀なくされるでしょうが、試合はまだ始まったばかりです。それに、レッドチームは現状で小クリスタルを一つしか確保していないので、復活までにかかる時間はそう長くありません。まだまだ挽回は可能でしょう』
「エクステンドさんもかなり強い方だと思ってたけど……」
「エレちゃんさっきのあれ見えた?」
「ううん、全然目で追えなかった」
咲良町のチームの中では生命系統の魔法少女であるエレファントが一番目が良い。遠くを見る視力もそうだが動体視力にしても同じで、そのエレファントが全く目で追えないほどの速さとなると、あの状態のラビットフットを捕捉することはシルフでも出来ないということになる。
それぞれの戦いが終わって残るはタイラントシルフとラビットフットになったことで、次は二人で戦い始めるのではないかという緊張感からエレファントは固唾を呑んでスクリーンを凝視した。
『おっとぉ!? このまま生き残った二人がぶつかるのかと思いましたがどうやらタイラントシルフ選手は自陣の方角である南東へ移動を開始しました! 逆にラビットフット選手はブルーチームとレッドチームの境目である西方向に向かっています!』
『どうやらそれぞれ当初の作戦を優先して行動するようですね。ブルーチームは堅実に拠点寄りの南東、おそらくここを確保したら次は南西に向かうのでしょう。対してイエローチームはとにかく先へ先へ陣地を拡大させていく方針ですね』
『イエローチームはすでに四つの小クリスタルを確保しています! ラビットフット選手が移動と戦闘をしている間に残る二人が着々とクリスタルを染めていたようです! レッドボール選手は北東にある拠点から北西にあるレッドチームの拠点を真っ直ぐ目指しています! パーマフロスト選手は拠点に近い外層、中層のクリスタルを一つずつ確保しています!』
『レッドボール選手が敗北する可能性があるとすれば、ドッペルゲンガー選手くらいでしょうからレッドチームの拠点を狙うのは当たり前ですね。ブルーチームの拠点をドッペルゲンガー選手が守っていることまでは知らないでしょうが、その可能性は当然理解しているはずですから』
『確実に取れる大クリスタルを狙って来たということですね! 一方でブルーチームの獲得している小クリスタルは現在3つ! タイラントシルフ選手が戦闘に巻き込まれている間にエクスマグナ選手が南東側の内層にあるクリスタルを確保していたようです!』
『レッドチームのコンビを撃破するためにイエローチーム寄り、つまり東側に逃げていたせいで方角が被ってしまっていますね。南東側は抑えられるでしょうが、南西側まで戻るのは少し時間のロスになります。ドッペルゲンガー選手は相変わらず待ちの姿勢のようなので、現状イエローチームが一歩リードと言ったところですね』
『メンバーが二人落とされてしまったレッドチームはウィグスクローソ選手が中層まで上がって来ています!』
『元々ウィグスクローソ選手もどんどん上がって行くイエローチームに似た作戦だったのか、あるいは本来ブルーチームのように外層~中層を防衛する予定だったところを作戦変更して自身が攻めることにしたのか、過程はわかりませんが現在の状況で二人の復活を悠長に待っている余裕がないのは確かです。やはりこのまま上がって行くようですね』
『おや? おやおやおや!? このまま進むとウィグスクローソ選手とラビットフット選手の進行方向が重なることになりそうです! 初戦は見事な快勝を遂げたラビットフット選手でしたがその勢いに乗ったまま二つ目の白星獲得となるか!?』
『先ほどの戦いはエクステンドトラベラー選手が負傷していたことや地形がラビットフット選手に有利だったことも勝因の一つだったと思われますが、入り組んだ地形が得意なのはウィグスクローソ選手も同様です。加えて明確に格上の相手となるので、もしも勝利することが出来れば白星どころか大金星と言えるでしょうが、厳しい一戦となりそうですね』
『熱い戦いを終えてなおまだまだ目が離せませんね!』




