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魔法少女タイラントシルフ  作者: ペンギンフレーム
三章 乾坤根刮ぎ、焼き穿て
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episode3-3 妹⑦

 出来れば速攻でディストを討伐して帰りたかったが、チームとして活動している以上俺の我儘で勝手なことをするわけにはいかない。

 発生したディストの強さが今のブレイドさんたちにとっては少し格上に位置する伯爵級アールクラスであったこともあり、俺が補助をしながら何とか二人で倒すという戦い方をしたため結構時間がかかってしまった。


「すみません、お待たせしました」


 前回と同様にお手洗いへ行っていたという態で部屋に戻り、こちらに背を向けて座っている双葉へ声をかける。魔法少女に関することは認識阻害がはたらき一般人では疑問を抱くことも出来ない為、別にそんな言い訳をしなくても良いことはわかってるが、目の前で消えたり出たりを繰り返すと言うのはバレないとわかってても少しだけ肝が冷える。だから尤もらしい状況を演じているのだ。


 転移前に双葉に指示しておいた任務はそう難しいものじゃないし、ボタン操作の音も聞こえないから多分もう終わってるんだろう。気を取り直して、しょうがないから双葉のゲームを手伝ってやるとしよう。


「遅かったね、良ちゃん」

「……? 少し体調が優れなかったもので」

「そっか、心配しちゃったよ」


 なんだ……? 今のやり取りは何かがおかしい。遅かった……?

 トイレから戻ってきたというのはそれっぽい嘘に過ぎない。実際には双葉の視点では俺がトイレに籠っていたかなんてわからないはず。認識阻害を受けて、居ないと思ったらトイレに行ってたんだな、くらいにしか思われないはずで、そのうえ心配してた?

 実際に俺が長時間トイレに籠ってたと認識してるなら心配してたというのもわかるが、それにしては何か……、強いていうのなら雰囲気が違う。何か含みがある。


 バレたのか? いや、そんなはずはない。もしも俺が魔法少女であることに気づけるとしたら、それは双葉も魔法少女である場合だけのはず。だがそれならそもそも転移する前、いやそれよりも、前に双葉が家に来た時に気づいていなければおかしい。


「もしかしたらもう、良ちゃんは戻って来ないんじゃないかと思ったから」

「っ!?」

「良ちゃん、ううん、タイラントシルフちゃん。今回のディストは強かった?」

「な、なんで……!?」


 動揺で思わず目を見開き、震えた声で疑問を返す。


 ありえない。ありえるはずがない。認識阻害は魔法少女の生命線。この情報社会であれだけ派手に活動してる魔法少女が無事でいられるのは、大衆の悪意に晒されないでいられるのは、認識阻害があってこそ。だからそれが突破されるなんてあってはならない。正体を知られるなんて、絶対にあってはならないことだ。


 双葉は俺のことをタイラントシルフと言った。そして、今回のディストは強かったかとも。

 魔法少女の活動は動画や公式HPでも公開されていて、社会にも魔法少女という摩訶不思議な存在が実在することは浸透しているが、その正体やどんな敵と戦っているのかについては知られていない。

 もし仮に、俺が目の前からいきなり居なくなったこととかで違和感を覚えたのだとしても、それでカマかけで魔法少女だと言おうとしても、俺がタイラントシルフであるということまでは、そして俺たちの敵がディストであるということまではわからないはずなんだ。


 それを知っていると言うことは、認識阻害を突破したということであり、そして認識阻害が正常に働いているのなら、そんなことが出来る存在はたった一つのみ。


「魔法少女、なんですか……?」


 だけどそれはありえないはずだ。

 だって、双葉はもう20歳で、魔法少女はその年齢で強制的に引退、つまりは変身できなくなる。そして引退した魔法少女は、それまでの活動の記憶はなくならないが、以降は認識阻害の影響下におかれ、ディスト発生の通知や魔法少女そのものを認識できないはずなんだ。


「元、だけどね。そんなに青い顔しないでよ良ちゃん。別にそれを知って何かしようなんて思ってるわけじゃないから」

「どうやってですか……!? 引退してるなら、わからないはずです! どうやって私のことを!?」


 いや、それよりもそのことを知ってどうするのかということの方が問題だ。

 まさか、俺があまりにも靡かないから今度は飴ではなく鞭で、脅迫して情報を引き出そうとしてるのか!?


「元魔法少女はね、やり方次第で認識阻害を突破できるんだよ。ちょっとだけズルしちゃったけどね。ほら、だから落ち着いてって。そんなに睨まないでよ。逆に言えばただの人はどうやっても認識阻害の影響から逃げられないんだから、仮に、仮にだよ? 本当にやる気なんてこれっっっぽっちもないけど、仮に私が良ちゃんは魔法少女だーなんて言い触らしたって、誰も信じてくれないよ。私は良ちゃんに危害を加えるつもりなんてないから」

「……」


 正体を知られたことに取り乱して悪い方へ考えてしまったが、言われてみれば双葉の言葉は尤もだ。元魔法少女なら認識阻害を突破する方法があるなんてことは知らなかったが、一般人が認識阻害を突破できないのはこれまでの実績からも明らか。あの魔法少女の正体は実は誰々、なんて話題を集めそうなネタがゴシップやネット記事にすらならないのは、認識阻害によって悪意から守られているからに他ならない。たとえ双葉が何か決定的な証拠を見せて情報を拡散させようとしても、ほぼ全ての人間が見向きもせず、興味を持ってもすぐにどうでもよくなってしまうはずだ。認識阻害とはそういうものだ。


 この認識阻害がある限り、俺がタイラントシルフであることを突き止めたからと言って双葉にできることなんてほとんどないんだ。たとえば双葉がタイラントシルフという魔法少女に凄まじい恨みを持っているとかなら、変身前の俺を狙うこともありえるかも知れないが、俺と双葉の誕生日は同日で、俺が魔法少女になったのは三十路の誕生日を迎えた翌々日。つまり、俺が魔法少女になったのは双葉が引退した後のはずで、接点が存在しない以上、タイラントシルフという魔法少女に対して何か特別な感情を抱いている可能性は0に近い。


 警戒心を剥き出しにしていつでも変身出来るように身構えていたが、ひとまず双葉に俺を害する目的がないことを理解して対面の座布団に腰を落とす。


「……やり方次第でって、どういうことですか?」


 ただ、それはそれとして聞き逃せない言葉があったので双葉のことを半眼で軽く睨みながら問いかける。

 双葉は先ほど、ちょっとだけズルをしたと言った。そのズルとは一体何なのか。

 魔法少女は俺が物心つく前から社会に根差している存在で、今の時点の現役だけでも一万人を超えている。引退した魔法少女も含めるとなると、少なくとも2倍は軽く超える計算になる。普通に生活していて簡単に出会う機会のある数ではないと思うが、しかし絶対に鉢合わせることがないとも言い切れない数だ。

 双葉の言うやり方というのが簡単に出来るものだった場合、最悪見ず知らずの魔法少女に正体が露呈する恐れがある。だからそれを注意するためにも、ズルとは何かということを確認する必要があった。


「あ~、それは、まあ、何というか……」


 双葉はばつが悪そうに頭をかいて視線を逸らした。何かやましいことがあるのだろう。何だ、何をやらかしやがった。


「良いから早く言ってください」

「え~っと、怒らない?」

「怒りませんから、早く」

「絶対怒るやつじゃん……」

「このまま言わない気ならもっと怒りますよ?」

「もっと怒るってやっぱり怒るの前提だもん……。あの、ね……? 私じゃなくてね? 私の友達がね? 勝手にやったことなんだけどね……?」


 双葉は悪いことをした子供のようにびくびくとしながら、友達とやらに責任転嫁しながら話し始める。

 そのおどおどとした姿は昔、双葉がうんと小さい頃、俺が大事にしていたコミックを、ひっくり返したジュース塗れにして泣きながら謝って来たのを想起させた。


「このお家に忍び込んで、良ちゃんが変身するところをマギホンで録画して私に見せてくれたの。それと、良ちゃんがタイラントシルフだーって教えてくれて、それで認識阻害を抜けた、って感じなんだけど……」

「……そのお友達とやらは魔法少女なんですか? どれくらいの頻度で忍び込んでたんですか?」

「今はまだ魔法少女だよ。もうすぐ引退だけど。忍び込んだのは今日だけだって言ってたよ。私が来るまでは待ってたって、そのくらいの常識はあるって」

「不法侵入の時点で常識も何もないと思いますけど……。でも、悪気はなかったんでしょう?」

「! うん! 元々は私が、良ちゃんは魔法少女かもしれないって相談したから確認してくれたみたいなんだ。私は認識阻害で忘れちゃうから、だから私のためにやってくれたの」

「なら、良くはないですけど今回だけは許してあげます。もう二度と勝手に入って来たりしないように言っておいて下さい」

「ありがとう良ちゃん!」

「動画は消しておいてくださいよ」

「もう消したから大丈夫」


 俺の知らないうちに忍び込んでいたというのには正直鳥肌が立ったが、不思議と怒りはわいてこなかった。むしろ、元魔法少女でもそれだけ確たる証拠がなければ認識阻害を突破できないのだということに安心すらしている。

 何でだろうな。俺はそんなに心の広い方じゃないし、良い奴でもない。勝手に家の中に入り込まれてたなんて、もっと喚き散らしてもおかしくないような気はするのに。


「それで、双葉さんはそんな非合法なことをしてまでどうして私が魔法少女だってことを突き止めたかったんですか? 先達として何かアドバイスでもくれるんですか?」

「アドバイスかぁ……、うん、そうだね。本当ならこれは言わないつもりだったけど、先輩魔法少女としてのアドバイスなら一つだけあるよ」


 その言葉から双葉の目的が違うところにあることはわかったが、助言があると言うのなら聞いてやろう。

 双葉が引退した後の話だから知らないかもしれないが、こう見えても俺は第三の門を開いた魔女と呼ばれる最高戦力だ。双葉がどの程度の力を持った魔法少女だったのかは知らないが、上から目線で的外れなことを言ってくるようなら逆にマウントを取ってやる。


「魔法少女なんて止めた方が良いよ」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] あっさり許しちゃうのって、感情制御?
[一言] まー、命かけてやるもんじゃないよな
[気になる点] 不法侵入の魔法少女の正体を聞くぐらいはして欲しかったかもしれないw 対等な条件として
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