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魔法少女タイラントシルフ  作者: ペンギンフレーム
三章 乾坤根刮ぎ、焼き穿て
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episode3-1 初参加⑤

 過激派の処遇云々というのは単純に話の入り口だっただけで、シメラクレスさんの本題は魔法少女が不足している地域にどう対処するかということでした。ディスカースさんの協力もあって、机上の空論だった基金の立ち上げという代案が現実味を帯びたことで、シメラクレスさんからはそれ以上の意見もなく、ひとまず悪魔の預かりという形で議論は収束しました。

 その後は他の魔女からも特に話はなく、会議は終了、ここからは純粋なお茶会という空気感になったところで私はひっそりと退室しようと思っていたのですが、席を立とうとしたところでとある一人の魔女に両肩を抑えられて強制的に再度着席させられました。


「何のつもりですか?」

「じゃあ、約束通り少しだけお話しよっか」


 私の肩に手を置いて椅子の背もたれに身体を乗り出しているのはエクスマグナさんでした。

 別に忘れていたわけではなく、あわよくばなかったことにして帰れないかなと思ってただけです。残念ながら逃げられなかったですけど。


「タイラントシルフはさ、魔法少女ウォーズっていうソシャゲ知ってる? スマホで出来るしなんならマギホンでも出来るんだけど」

「名前くらいは、まあ」


 ジャックにこんな身体にされる前日まではよく遊んでいたので実際には名前くらいは知ってるというわけではないですけど、一度アンインストールしてからはやってないですし、やってたとか答えたら色々と質問されそうで面倒です。


「そっかそっか、なら話は早いね。あれって実は魔法局のフロント企業が運営してるんだけどさ、企画の立ち上げは何を隠そうこの私なんだよね~。凄くない? プロデューサー的な?」

「そうなんですか」


 確かに凄いとは思いますけど、それが私と何の関係があるんでしょう。

 というかフロント企業って、魔法局はヤクザか何かですか。……やられたことを考えるとそういえばヤクザみたいなものですね。


「反応薄いなぁ。ちなみに何でも良いからソシャゲってやったことある? ガチャとかレアリティとかって知ってる?」

「それくらいは」

「魔法少女ウォーズって実在する魔法少女をキャラとして実装してるじゃん? で、最高レアリティのSSRは基本的に魔女なんだよね。次の実装はエクステンドトラベラーで、その次にタイラントシルフが実装される予定なんだけど――」

「!? なんですかそれ!? 聞いてませんよ!? やめてください!」

「魔法局からの許可は取ってるから権利関係は問題ないんだなこれが。歴代の魔女は一部の例外を除いて全員実装してるけど本人から許可出てるのなんてほんの数人だけだしね~」


 ありえない、と言い切れないのが魔法局のクソみたいなところです。

 人の承諾も取らないで勝手に物事を進めるのは連中の十八番みたいなものですからね。

 何かこう、肖像権とか著作権とか、そういう何かしらの引っかかりそうなものですけど、魔法少女って現実では実在する御伽噺みたいな存在ですから、元締めの魔法局が認めてるのなら何を言っても無駄なんです。


 自分がゲームのキャラクターとして実装されるなんて、何だか言葉にし辛いですけどゾワゾワするというか、妙な気恥ずかしさがあります。

 あまり注目されるのは得意じゃないですし出来ればやめて欲しいですけど、エクスマグナさんのこの様子じゃそうもいかなそうです。


「っ~、わざわざそんなことを伝えるために話しかけたんですか!」

「本題はここからだよ。実装するのは確定事項なんだけど、問題はボイスなんだよね。同じレアリティでもボイスがあるのとないのとじゃやっぱり反響が違うから。ほら、某アイドルソシャゲだってボイスの選挙だ何だって大盛り上がりじゃん? そういうわけだから、タイラントシルフには是非声当てをして欲しいんだよね」

「絶対嫌です」


 タイラントシルフっていうキャラクターがゲームに実装されるのは、私が反対しても覆せないのなら百歩譲って許してあげましょう。恥ずかしいとは思いますけど、見ないようにしていればその内忘れると思いますし。

 でも、声をあてるなんてそんなこと出来るわけありません! そんなに深く関わったら見ないようにすればいいなんて言ってられなくなります。絶対ふとした時に思い出して恥ずかしさでじたばたしたくなるに決まってます!


「そう言わずにさ、報酬だって出るよ? なんと5万ポイント、日本円で500万円なり。ソシャゲのアフレコでこんなに貰ってるのはプロの声優さんでも中々いないんじゃないかな? 詳しくは知らないけどさ」

「別に、お金には困ってません」

「その歳じゃまだお金の大切さはわからないかもしれないけど、稼げるときに稼いでおいて損はないと思うよお姉さん」


 誰がお姉さんですか誰が。

 学生の内から魔法少女でお金を稼いでるエクスマグナさんより、社会に出たことのある私の方がお金の大切さはわかってると思います。

 指示された通りに喋るだけで500万円も貰えるならお得かもしれませんけど、私はお仕事向けの声を出す練習なんてしたことないですし、そんな簡単に終わると思えません。最初からプロの声優さんみたいに声当てなんて出来ないでしょうし、実際には練習とかも含めて沢山時間を取られるかもしれません。世の中そんなに甘い話はないんです。


 もしもまだ魔法薬と交換するためのポイントが貯まっていなければ一考の余地はありましたけど、老化の薬は手に入れましたし、性転換の薬も対抗戦に勝ちさえすれば手に入ります。生活のためにお金が必要なのは当然ですけど、これから研修が5回もあることを考えればしばらくお金には困りません。


「大きなお世話です。とにかく私は声当てなんてやりません」

「そっか~エクステンドトラベラーはやるって言ってくれたんだけどなー」

「……だからなんです?」

「いや、二人って隣町で仲良いんでしょ? お友達もやるって言ってるし、もうちょっと考えてもくれても良いんじゃないかなって」

「友達じゃありません。勘違いしないでください」

「そうなの?」


 どうして私とエクステンドさんが友達なんて認識になってるんですか。

 この前の騒動の時は確かに助けてもらいましたけど、あれはエレファントさんたちとエクステンドさんたちがお友達だったからであって、私には関係ありません。もしかして他の魔女にもそんな風に思われてるんでしょうか? 訂正しておいた方が……、いえ、変にムキになっても照れてるだけだと思われるかもしれません。聞かれたら真実を答える、それくらいでちょうどいいでしょう。


「どうしても嫌かぁ。ま、それならしょうがないよね」

「……あっさりと引き下がるんですね」

「んー? ディスカースとかキャプテントレジャーにも断られてるし、そういうこともあるからね。無理強いはしないよ」

「そうですか」

「あれれ? もしかして本当はやりたかった? もっと強引に誘って欲しかった?」

「そんなんじゃありません」


 ただ、魔女の中にも多少は常識を弁えてる人も居るんだなと思っただけです。それを口に出したらまた絡まれそうなので言いませんけど。


「お話が終わったなら手をどけてくれませんか?」

「実はもう一つ話があるんだよね」

「……もうすぐ10分は経過しますが」

「延長戦突入~」


 ちょっとでも常識がある人だと思った私が馬鹿でした。やっぱり魔女は我が道を行く自分勝手な人ばかりです。


「今度のはタイラントシルフにも利のある話だから怒んないでよ。最近さ、地元の魔法少女の子と仲が良いの宣伝してるじゃん? あれって縄張りにちょっかいかけられないようにするためでしょ?」

「だったらなんですか?」

「魔法界で遊んだり、その写真をSNSにアップしたりするのも良いけどさ、どうせなら色んなアプローチをした方が効果はあると思うんだよね。でさ、私魔法少女の動画サイトで結構有名なんだよね~」

「魔女なんですから有名なのは当たり前ですよね」

「ぶっぶー、不正解。まあ魔女になってから登録者増えたのも確かだけど、魔女になる前から結構有名だったよ。だからさ、今度コラボしようよ! 話題の新人敬語クーロリ魔女っ子! 属性相性抜群で絶対話題になるからさ!」


 いつものように反射的に嫌ですと即答しそうになって、咄嗟にブレーキをかけました。


 魔法少女の動画サイトというのは、あの世界的に有名なU-tubeの魔法少女版で、戦闘シーンを録画した動画を投稿したり、雑談動画とか魔法道具のレビューとか、魔法の魅せ技などなど、魔法少女によって様々な動画を投稿してます。

 その再生数によってポイント収入があったり、生放送なんかでは視聴者が購入したポイントを応援という形で魔法少女に送ったりと、うまくやれば大きな収入に繋がるのでディスト討伐を副業にこっちの活動をメインにしている魔法少女もいるらしいです。


 エクスマグナさんは魔女ですから流石にディスト討伐が副業ということはないと思いますけど、動画投稿とかゲームのプロデューサーとか、随分色々な方向に手を出してるみたいですね。


 もちろん私はそんなことをするつもりは微塵もありませんけど、仲良しチームだということをアピールすることを考えると、有名な魔法少女に協力して貰うというのは一つの手段として有効だとは思います。それが私自身も動画に出るという形なのは正直嫌ですけど、エクスマグナさんもメリットがなければ宣伝なんてしてくれないでしょう。

 エレファントさんの安全と私の精神的な苦痛を天秤にかけて、どちらに傾くかなんて考えるまでもありません。


「それって、私とエクスマグナさんの二人で動画にするんですか? 私の仲間も一緒で良いんですか?」

「おお、前向きなお返事だ! そうだなぁ、私的には出来れば魔女コラボってことでタイラントシルフと二人の方が良いけど……、そうするとそっちの宣伝は難しくなっちゃうよね。動画の中でイチャイチャしてもらうのが一番だろうし……」

「い、イチャイチャって!?」

「百合営業だよ百合営業。仲良しこよしをアピールするにはそれが一番でしょ? カップリングは決まってるの?」

「わ、私たちはそんなんじゃありません!!」

「だから営業だってば。やり過ぎなくらいの方が視聴者には伝わりやすいの」


 え、演技だからって、エレファントさんとイチャイチャするなんてそんなの駄目です! 私たちはお友達なんです! それにエレファントさんだって私とそんなことしたくないはずです。だって私、中身はいい歳した男ですし……。


「そうだなぁ、でも咲良町自体もそれなりに注目されてるし、あの噂の咲良町魔法少女チームとコラボ!? っていうのもありかな、うん」

「……そうですか」

「え、なんで急にテンション下がってんの? 今更やっぱり嫌ですとか言わないでよ?」

「言いませんけど、正式に決める前に一回仲間に話します。私が良くても仲間が反対するならこの話はなしです」

「りょーかいりょーかい。期待して待ってるよ。さてと、次はハロフィン衣装のボイス交渉を……。おーい、ラビットフット! ちょっと良い話があるんだけどさぁ!」


 動画出演に関する交渉がそれなりに好感触で終わって満足したのか、エクスマグナさんはようやく私の肩から手をはなして今度はラビットフットさんの方に声をかけに行きました。

 仲間に話を通してからとは言いましたけど、多分反対はされないでしょう。エレファントさんは頼まれれば断らないと思いますし、プレスさんなんかはむしろ面白そうだって乗り気になりそうです。ブレイドさんはもしかしたら少し難色を示すかもしれませんけど、目的を伝えれば納得してくれるでしょう。


「さっきの基金の話だけど――」

「ひとまず強制徴収はなしに――」


 会議が終わってから、チラチラと私の方に視線を送って来ていた悪魔ですが、今はさきほどのお話でシメラクレスさんに捕まってるみたいです。ちょうどいいのでこの隙に私はお暇することにしました。

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