episode2-閑 宿題 ☆
縄張り争いが終わった後です
咲良町を取り戻し過激派もパーマフロストさんの手によって壊滅させられたことで、今回の事件は一つの区切りがつきました。でも、エレファントさんたちには片付けなければならない問題がもう一つ残ってました。それは夏休みの友こと宿題です。
「ごめんねシルフちゃん、付き合わせちゃって」
「いえ、やることもありませんので」
夏休みの大半を修行に使っていたエレファントさんたちの宿題はほとんど手をつけられてないみたいで、このままでは間に合わないということでお互いに教え合いながら処理することになりました。いわゆる勉強会とでも言うのでしょうか。
エレファントさん、ブレイドさん、プレスさんの三人は学年は一緒ですけど通ってる学校が違うので、宿題の内容も全く一緒というわけではありません。なので答えを写すというようなことは出来ません。だから教え合いなんですね。まあ、そもそもブレイドさんが居る時点で仮に同じ問題だったとしても丸写しなんて認めなかったでしょうけど。
勉強会を開くにあたって場所はどうするかという話になり、魔法界は突発的に集まるのには向いてますし、落ち着いて勉強するならファミレスや図書館よりも個人的なスペースの方が良いということもあって、少し前に私に与えられたタワーマンションの一室で開催することとなりました。
とはいえ、みなさんは現実でも付き合いがあるわけですし、魔法界が集まりやすいとは言っても同じ町内の魔法少女である以上現実で集まることもそう難しくはないはずです。だから多分、今回こうして私の部屋に集まってるのは、私も勉強会の参加者として最初からカウントされていたからなんじゃないかと思います。
エレファントさんは私が学校なんて行ってないことは知ってるので、宿題なんてないことも勿論知ってるはずです。でもブレイドさんとプレスさんはそんなこと知りませんので、私だけハブにならないように気を遣ってくれたんだと思います。
どこで開催するかの相談を受けた時点でその誤解を正しても良かったですけど、折角気を遣ってくれたわけですし、それに私もエレファントさんたちのお役に立ちたいので、気づいていない振りをして部屋を提供することにしました。私はもう宿題終わったとか言って誤魔化せば良いでしょう。
「シャドウさんにも来てほしかったけれど……」
「しゃーないしゃーない。言ってたことも一理あるしね~」
シャドウさんは学校に通ってないタイプの魔法少女で、それはエレファントさんたちも知っていますけど、勉強会兼親睦会のようなものを考えていたんだと思います。私と同様に宿題なんて抱えてないシャドウさんは本来参加する必要はないんですけど、それでもエレファントさんたちはシャドウさんを誘ってました。
ただ、シャドウさんはどうも一人がお好きなようで、みなさんが勉強してる間はあたしが町を守っときます、なんて言って結局断られてしまいました。ディストの討伐も私たちと連携せずに一人で動いてますし、団体行動が苦手なんでしょうか。
「シャドウさんのことも気になるけど、まずはこれを終わらせよ!」
「真っ白じゃーん……」
「エレファント……、あなた本気で何も手を付けてないの……?」
気を取り直す様にエレファントさんがカバンの中から宿題を取り出して机の上にドンと置きました。エレファントさんの学校でどの程度の宿題が出されているのかはわかりませんけど、パッと見た感じ出された宿題全部なんじゃないかと思えるくらいの量があります。ぺらぺらとページをまくって軽く中身を見ているプレスさんが珍しく圧倒されたように呟きました。そんなプレスさんの様子を見て、ブレイドさんが戦慄したように緊張感のある声で問いかけました。
「うん!」
「大変でしたからね。仕方ありませんよ」
プレスさんとブレイドさんは、忙しかったとは言っても流石に少しは進めていると予想してたみたいですけど、エレファントさんは曇りない笑顔で元気に一切何にもやってないことを宣言しました。でもそういうこともありますよね。今年は色々ありましたからね。
「えっと……、シルフさんは大丈夫なの?」
「私はもう終わってます。やるべきことは終わらせておかないと落ち着かないんです」
エレファントさんの宣言をフォローする私を見て、ブレイドさんが躊躇いがちに聞いてきましたけど、考えておいた通りに答えました。宿題なんてないので嘘になってしまいますけど、やることを終わらせないと落ち着かないというのは本当です。みなさんと同じくらいの頃も後半まで宿題が残ってることなんてありませんでした。むしろ後回しにしてしまう人はだらしないと思ってたくらいですけど、少しだけしょうがないのかなと思うようにもなりました。何か事情がある場合だってありますよね。だってエレファントさんでもまだ何にも出来てないんですから。
「それなら良かったわ。プレスは?」
「あたしはほとんど終わってるよー。読書感想文と数学のテキストくらいかなぁ」
私の答えに対して若干ホッとしたような様子のブレイドさんが今度はプレスさんに尋ね、意外な答えが返ってきました。ただ、エレファントさんとブレイドさんはとくに驚いた様子はありません。
「ああ、シルフさんは知らなかったわね。プレスはこう見えて勉強出来る方なのよ。確か、一回見たものは忘れないのよね」
「こう見えてって結構失礼じゃね? まあいーけどさー」
露骨に驚きを表に出したつもりはないですけど、気づかれてしまったみたいです。ブレイドさんの説明にプレスさんがわざとらしく頬を膨らませて怒ったアピールをしてますが、みなさんスルーしてます。定番のやり取りみたいですね。
「私は大体半分くらいよ。とりあえず各自進めて、わからないことがあったら聞く。プレスは自分のが終わったらエレファントの補佐、って感じね。シルフさんは、見ててもつまらないわよね……」
「じゃあ私の宿題手伝って欲しいな!」
「何言ってるの! 小学生に自分の宿題やらせるつもりなんて正気!?」
「ち、違うよ! 代わりにやってもらうんじゃなくて横で見て間違ってたら教えて欲しいなって思って」
「どっちにせよ凄いこと言ってんよエレちゃん。シルちゃんは賢いっぽいけど流石に中学校の内容はわからないっしょ?」
「ふふーん! シルフちゃんはとっても頭良いんだもん! ね、シルフちゃん?」
「え!? いや、あの……」
いきなりの無茶ぶりに思わず動揺して言葉に詰まります。
とても頭が良いというのは言い過ぎですけど、流石に中学校の内容くらいなら普通にわかります。
手伝ってと言われた時は素直にお手伝いするつもりでしたけど、でもブレイドさんたちの言う通り、考えてみるとこの外見年齢で中学校の内容がわかるって結構おかしいですよね?
うーん、本当ならわかるわけないですって答えるべきだと思いますけど……。
「シルフちゃん……」
縋る様なエレファントさんの視線を受けて無理とは言えません。
「楽勝です。実は私は天才なんです」
「無理しなくて良いのよシルフさん。エレファントには後でお仕置きしておくから」
「そーそー」
「シルフちゃんが良いって言ってるんだから良いの! ほら始めるよ!」
「シルフさん、飽きたら言ってちょうだいね。場所は借りてしまってるけど、遊びに行ってもいいし、無理に私たちに付き合う必要はないから」
「ほら始める! 始めるの!」
エレファントさんの開始宣言をスルーしつつ、ブレイドさんは私に優しく語り掛けます。本当の小学生だったら中学校の問題なんてわからないでしょうし、途中で飽きて手持無沙汰にはなるでしょうから、その気遣いは間違ってないと思います。
一緒に活動するようになってわかりましたけど、ブレイドさんも良い人なんですよね。一見して真面目で融通が利かないように見えますけど、思いやりはちゃんとある人です。何があったのかは知らないですけど、あんなに荒れてたのにドライアドさんとも仲直り出来たみたいですし、出来た人ですよね。
勉強会が始まってからはみなさん無駄話をすることもなく、静かな部屋にページをめくる音とシャーペンで文字を書く音が規則的に響きます。
暗記科目のテキストはわからないところがあっても教科書を見れば大体答えが載ってるので、私から教えるようなことはありません。それにエレファントさんも全然覚えていないということはなくて、小一時間もしない内に社会と理科のテキストは終わってしまいました。
続けて数学の問題集に取り組み始めましたが、ここで躓くことになりました。数学は計算式は教科書に載ってますけど明確な答えは書いてないですからね。ちゃんと式の仕組みを覚えて応用できないと、いつまで経っても終わりません。
「上の式と下の式のxが同じ数字になってますよね? なのでこの式は数字を変えなくてもそのまま引き算をすればyの数字を出すことが出来て、yを左側に、数字を右側に集めてみて下さい。移動させるときは符号を変えて下さいね」
「えっと……、3y-yが2yで、8-2が6で……、6を右側に移して符号を変えて……、y=-3、かな?」
「さすがですエレファントさん。覚えが早いです。そうしたらyにー3を代入するとxも出せますね」
「えーっと、3かける-3で-9で、-9+8が-1になって……、これを右に移して、x=1!」
「そうですね。一応もう一つの式でも確認しておきましょう」
「はい! 先生!」
中学の問題なんてもう15年近くも前の話ですから、どこまで覚えてるか不安な部分はありましたけどやってみると何とかなるものですね。連立方程式なんていつぶりに使ったんでしょう。
確認の終わったエレファントさんに丸をつけて、次の問題はまず自力で解くように伝えます。数字が違うだけで内容は一緒です。問題ないでしょう。
一息ついてふと顔を上げると、驚愕の表情で私を見つめるブレイドさんとプレスさんと目があいました。
「驚いたわね……。本当に理解してるのね」
「じゃなきゃな教えるのは無理だよね~。どこで習ったのかにゃ~? あ、もしかして中学受験とか狙ってる感じ?」
「そんなところです。親が厳しくて」
こうなるのは目に見えてたので教えながら考えてた言い訳を口にしました。本当の私の親は私に見向きなんてしませんでしたけど、設定上は勉強に厳しいお受験ママみたいな感じにしておきます。
「そう……、大変なのね。もしも辛いことがあったら相談してね。力になるわ」
「あたしもあたしも! 一緒に家出しよーよ! あたし慣れてるからさ!」
「あ、ありがとうございます」
プレスさんの非常識な発言にブレイドさんがまた突っかかってますけど、とりあえずお礼を言っておきます。お二人とも良い人です……、騙してるかたちになってしまうのが申し訳ないです。
「ほらね! だから言ったじゃん! シルフちゃんは頭良いんだよって!」
「何であなたが自慢気なのよ。小学生に教えて貰ってる情けなさは変わらないわよ?」
「うっ」
「シルちゃん? 胸を押さえてどったの?」
「い、いえ、なんでもないです」
年下に助けられてるという情けなさで言えば私も人のことは言えませんから、ブレイドさんのお言葉が胸に刺さります。
何でもない会話の中でダメージを受けたりしつつ勉強会を続け、プレスさんの宿題は終わりブレイドさんの分が粗方片付いたころ、気が付けばお昼時が近づいてきていました。
「シルフちゃん、お昼は何が良い? 今日は私たちが作るよ! キッチン借りるね!」
「え? みなさんは何が良いんですか?」
「みんなじゃなくてシルフちゃんに聞いてるの! 今日はお世話になったし、」
「場所も提供してもらったし、恩返しよ。気にせず何でも言ってちょうだい」
「あ、あたしも出来る範囲で手伝うよ。でもあんまり難しいのは勘弁ね」
そ、そんな急に言われてもパッとは思いつかないですよ……。誰かに料理をリクエストしたことなんてないですし……。
あ、でも子供のころ、よく見ていたテレビ番組の食卓ではよくカレーが出てきました。あの頃はなんで私のお母さんは作ってくれないのかわかりませんでしたけど、少しだけ憧れてたんですよね。家族や、友人を呼んで一緒に食べるカレーライス。ちょっと、子供っぽいですかね。でも今の私の外見は子供なんですし、ちょっとくらい、良いですよね。
「か、カレーが食べたいです……」
「っ、カレーだね! すぐに材料買ってくるよ!」
少しだけ恥ずかしくて徐々に声が小さくなってしまいましたけど、エレファントさんは私のリクエストを馬鹿にしたりしないですぐに部屋を出て行ってしまいました。そ、そんなに急がなくても良いと思いますけど……。
「ちょっと! エレファントだけじゃ心配だから私も行くわ。プレスは調理器具の確認をお願い。足りないものがあったら連絡して。待ちなさいエレファント!」
「りょーかーい。あはは、慌ただしいね~。シルちゃんも手伝ってー」
「あ、はい。わかりました」
私の部屋とは言っても普段はろくに使ってないので何が常備されてるのかは私も知りません。ブレイドさんの言葉に従ってプレスさんと一緒に調理器具の確認をしてみたところ、包丁やお鍋、お玉や菜箸など、一通りのものは揃ってました。
ただ、お皿やスプーン、コップが人数分なかったので一緒に買ってきて欲しい旨をプレスさんから連絡してもらいました。これ、完全に今後の溜まり場になるコースですね。
「シルちゃんはさぁ、魔法局から魔法のことって何か詳しく聞いてたりする?」
「え、いえ、とくには聞いてないですけど」
「そっかぁ。魔法って何なんだろうね~、不思議だよね」
やることも終わって手持無沙汰になってた私に、プレスさんがいきなりそんなことを言ってきました。確かに不思議と言われれば不思議、というか不思議の塊ですけど、魔法が何なのかなんて深く考えたことはありませんでした。ディストと戦うための力、なんじゃないんですか?
「魔女になったらちょっとは教えて貰えるのかと思ったけど、そうでもないんだね」
「私の方から聞いてないからかもしれないですけど……。プレスさんはそんなに魔法について気になるんですか?」
「そりゃ気になるっしょ! 魔法界、妖精、魔法少女、魔法、何をとっても意味不明過ぎて逆に笑えるよ。み~んなそういうもんだと思って受け入れてるけどさぁ、創作物が一般に浸透した弊害だよねぇ。魔法少女、なんて細かく説明しなくてもその名前だけで受け入れられてる感じするしぃ?」
「……疑問を抱かせないためにあえて魔法少女という名称を使ってる、って言いたいんですか?」
「う~ん、シルちゃん察しいいね。ほんとに小学生? さっきのお勉強と言い、今時のお子様は頭良すぎ~」
「人並外れているという自負はあります」
「ま、天才なんて意外とその辺に居るもんだよね。それより魔法少女だよ。魔法少女って言われたらさ、色々イメージはあるだろうけど、その中の一つには怪物と戦うようなものもあるわけじゃん? まさにあたしたちみたいなさ」
「それは、そうですね」
本当に小学生かと聞かれた瞬間はドキリとしましたけど、気が付いてるわけじゃなくて冗談だったみたいですね。プレスさんのお話の本題は、あくまでも魔法少女についてです。
確かに魔法少女というのは、魔法の力で悪人だったり怪物だったりをやっつけるイメージがあります。そういう土台がある中で、君には魔法少女の素質がある、魔法の力でこの世界を狙うディストと戦ってくれと言われれば、先入観に従って大した疑問も抱かないでしょう。
改めて考えてみると、魔法少女という名称もそうですけど、衣装や口上にも実利以上の意味があるのかもしれません。魔法少女の衣装は見た目以上に頑丈で防具としての役割がありますけど、防具であると考えるなら何もあんな個性的な見た目である必要はないはずです。でもあの華やかで個性的なデザインがあるからこそ、魔法少女らしさを高めているとも言えます。
口上にしても同じことです。変身や魔法使用には口述が必要になりますけど、それっと本当に必要なものなんでしょうか。変身ヒーロー的ならしさの追求によって生まれたものであるという可能性はありませんか?
考えれば考えるほど、私たち魔法少女は、イメージの中にある魔法少女らしさに近すぎるような気がしてきます。
「な~んて、全部憶測なんだけどね。そんな陰謀めいた理由とかがあったら、面白いよね~」
「面白いって……、割と真剣に考えちゃったじゃないですか」
「めんごめんご。シルちゃんは真面目だな~。なんでもかんでも真に受けない方が良いよー。話半分面白半分が丁度良いってわけ」
「はぁ……」
ブレイドさんが真面目で良い人だっていうのはわかるんですけど、プレスさんのことは良く分からないんですよね……。性根は良い人なんでしょうけど、掴み所がないというか……。
そんな感じで20分ほどプレスさんの冗談なのか本気なのかよくわからないお話に付き合っていると、玄関のドアが開く音がして、ただいまー! という元気な声が聞こえてきました。
「おかえりなさい、エレファントさん、ブレイドさん」
「お待たせー! すぐに作っちゃうからシルフちゃんはテレビでも見て待っててね!」
「いえ、私も手伝いますよ」
「さっきも言ったでしょう? これはお返しだからシルフさんはゆっくりしてて。その方が私たちも嬉しいから。プレス、あなた料理は出来るの?」
「家庭科の授業では包丁に触らせて貰えなかったね。ご飯炊くぐらいなら出来るよ」
「……。仕方ないわね、ご飯炊いたらシルフさんと一緒にテレビでも見てなさい。カレーは私とエレファントで作るわ」
「はーい」
ゆっくりしててと言われてからは口を挟むも暇もなく役割分担が決まっていき、エレファントさんとブレイドさんはテキパキと動き始めました。普段から料理の経験がある人の動きですね。対してプレスさんは手順を思い返しながら一つずつ確実に進めてます。私も昔は自炊してたので簡単な料理くらいなら出来ますけど、ここはお言葉に甘えてゆっくりさせてもらいましょう。キッチンも無限に人が入れるわけではありませんし、邪魔になりそうですから。
ソファーに腰掛けてお昼のバラエティをボーっと見ていると、十分ほど経った頃にプレスさんが隣に来ました。それから更に時間が経過して、野菜やお肉の焼けるいい匂いが漂ってきます。時間もすでにお昼を回っていて、お腹が空いてきました。それからまた少し時間が経つと、今度はカレーの芳ばしい香りが鼻腔をくすぐります。完成が近いみたいです。
それからエレファントさん、ブレイドさん、プレスさんが数分置きに交代でキッチンとリビングを行き来し始めました。お玉でかき混ぜて煮込むだけの作業なのでプレスさんも召集されたみたいです。
「シルフちゃん! できたよー!」
「はい!」
エレファントさんの楽しそうな声につられて私もつい上機嫌に返事をしてしまいました。これはあくまでもエレファントさんのテンションに合わせただけで、カレーが楽しみで仕方ないとか完成を今か今かと待ちわびていたとかそういうんじゃありませんからね。勘違いしないでくださいね。
「カレーとはいえやっぱり家庭によって作り方は違うのね」
「ねー。ブレイドがインスタントコーヒー入れようとした時は焦ったよ」
「エレファントと話して今回は隠し味なしのカレーにしてみたわ。次は是非私の家庭の味も食べてね」
「はい、楽しみにしてます」
エレファントさんとブレイドさんが配膳しながら楽しそうに笑ってます。お二人とも料理経験者というか料理が好きなのかもしれません。
ナチュラルに次回があることになってますけど、悪い気はしません。むしろ次は私も手伝わせて欲しいです。何もしないで一人で待ってるというのはどうにも居心地が悪いですから。
「次の話も良いけど冷める前に食べよ! いただきま~す」
「それもそうね。いただきます」
「ほら、シルフちゃんも座って! いただきます!」
「失礼します。いただきます」
プレスさんのいただきますを合図に三者三様でそれに続いて、食事を始めます。私も目の前に置かれたつやつやと輝く白米にドロリとしたルーを絡ませてゆっくりと口に運びます。身体が小さくなったことで当然口も小さくなっており一度に詰め込める量は大分減りましたけど、その分よく味を噛み締めるように丁寧に味わいます。
「うん、美味しい! さすがはエレちゃんとブレイドだね」
「隠し味なしのシンプルなカレーも美味しいわね」
「上手にできたみたいで良かったよ。シルフちゃんもおいし――シルフちゃん!?」
「え?」
本当に美味しくて、その感想を言うのすら忘れて無言で味わっていたのですけど、エレファントさんが、いえ、エレファントさんだけじゃなくみなさんが驚いた様子で私を見てました。なんでしょう?
「凄く美味しいですよ?」
「え、あ、うん、ありがと……。って、そうじゃなくて! シルフちゃん、涙が」
「だ、大丈夫? 辛かった?」
「そんなに辛くはないっしょ。どったの?」
エレファントさんにそう言われて初めて、今私が涙を流していることに気がつきました。でも、全然自覚がありませんでした。別に辛くもないですし大丈夫です。本当に美味しくて、言葉にならなくて……。
「あれ? おかしいです。とっても美味しいですよ。辛くもないです。なんで、こんな……」
ただ単に、少し感激していただけなんです。こうやって食卓で、親しい人と楽しく食事することに。何が食べたいかって聞かれて、それを作ってもらえるだなんて、そんなのまるで家族みたいだなって、何となくそう思ってしまっただけで、別にそれで昔のことを思い出して悲しいと思ったり、つらいと思ったわけじゃないんです。むしろ、凄く嬉しかったんです。なのに、なんで涙が出てくるんでしょう。




