表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女タイラントシルフ  作者: ペンギンフレーム
最終章 立ち塞がるもの全て、蹴散らせ
192/216

episode5-6 最終決戦②

 荒れ狂う暴風を一点に圧縮することに集中していた俺は、すぐそこにまで黒雲の腕が迫っていることに気づかず、勢いよく掴み掛かられて握りつぶされた。一瞬ではあるがトルネードミキサーの制御が緩んで押し切られ、歪みの王が生み出した竜巻によって地面ごと粉々に打ち砕かれる。まさか自分が竜巻で削られるなんて思ってもみなかった。


「環境武装を使わせないつもりですか!」


 肉体は風を集めることですぐに再構築できるためダメージはないが、問題は魔法の制御にあった。ただでさえ神格魔法は扱いが難しい魔法だというのに、それに加えて環境魔法を一点に収束させようとするのは凄まじい集中力を要求される。

 ダメージを受けないとは言っても、肉体を散らされるのは非常に気が散るし身体を再構築するのにも意識を割かれるため、歪みの王を無視して強引に環境武装を使うのは難しい。空を飛んで逃げ回ることは出来るが、そもそも落ち着いて集中できる状態でも環境武装を使えるかわからないのに、触手を躱しながら使うなんて絶対無理だ。だが先に触手に対処するとしても、歪みの王の限界はいつ訪れる? 再生限界に到達しない限り触手はいくらでも生えてくるはずだ。星を覆うほどの巨体なんて、普通にやって削り切れるわけがない。だから環境武装で一気に削り切る必要があるんだ。


 ジレンマだな……


 1.歪みの王・天蓋を倒すためには圧倒的な力が必要であり、環境武装の発動は必須。

 2.環境武装には高い集中力が求められ、襲い来る触手をどうにかしなければ発動出来ない。

 3.触手を止めるためには歪みの王・天蓋の再生力を削り切る必要があるが、それはつまり1に戻るということだ。


 フレイムフレームさんも俺と同じような状況らしく複数の触手に襲われて、焼き払いながらも本体とのビームの打ち合いでは押し切れず、他の三人も触手の対処に追われて気が付けば随分と距離が離れており、すぐにこっちのヘルプに入れる状況じゃない。それに環境武装は性質上他の魔法少女に抱えて逃げて貰うようなことも出来ない。あれは自分が自然と一体化して不死身だから出来る荒業であって、例えラウンドナイトさんの魔法で守られていたとしても他の魔法少女では耐えられないだろう。


 クロノキーパーさんがもう一度時を止める魔法を使ってくれれば環境武装を使うための時間を稼げると思うが、クロノキーパーさん自身がそれに気づいていないということはないだろう。時間停止魔法はあまり長くもたないと言っていたし、さっきフレイムフレームさんの環境武装を使った時も歪みの王にぶつける直前にほんの一瞬しか停止させていなかったのは、これ以上使えない理由があるからだと思う。


喰らい殺す黒龍トルネードミキサー九頭ヒュドラ!」


 身体の再生を終えて九又のトルネードミキサーを操り触手を削り散らすが、次々へと天蓋から伸びてきて全く数は減っていない。これじゃあいたちごっこで、ガス欠するのはこっちが先だ。


 状況を打開するためには歪みの王・天蓋の手数に対処する必要が、こちらにも数が必要だ。

 せめて、せめてあと少し、歪みの王に対抗できる力を持った魔法少女が居れば……、……!

 いや、待てよ? 王族級と戦っている魔女たちのことは戦況がわからないから何とも言えないが、少なくとも一人は加勢出来るはずの魔女がいるはずだ。

 だけど、手が空いていたとしても、タイミングを伺っているのだとしても、今のこの状況、炎と風の環境魔法によって逆巻く火柱がそこらじゅうで暴れまわっているこの状況じゃ、加勢したくても出来ないんじゃないのか?

 自分は不死身だしクロノキーパーさんたちは魔法で守られてるから気づかなかったが、今この戦場は魔女ですら燃やし尽くされかねないほどの炎の嵐で埋め尽くされてるんじゃないのか?


「フレイムフレームさん!! このままじゃ環境武装は無理です!! 一度相殺に集中して環境魔法は引っ込めてください!! そうすれば、仲間がきっと来てくれます!!」


 返事をしている余裕もないのか言葉は返って来なかったが、地面を覆う炎があっと言う間に消えていきその代わりというようにフレイムフレームさんが放出しているビームの規模が増した。環境魔法に割いていた魔力をあちらに回したのだろう。

 俺もフレイムフレームさんに続いて嵐の環境魔法を解除し、触手を蹴散らすためのトルネードミキサーの制御に集中する。


 炎の嵐がなくなったことで動きやすくなったせいか、先ほどよりも空から伸びる黒雲の触手の量はさらに増えた。当たり前の話だが環境魔法は歪みの王への抑止力にもなっていたのだ。万が一読みが外れたらまずい。俺やフレイムフレームさんはともかく、クロノキーパーさんたちへの負担が大きくなる。


 だけど


乱砲鮫のトリガーハッピーバースデイ産声・ミサイルシャーク


 俺の願いに応えるように、突如として海の中から巨大な鮫の群れが出現し、縦横無尽に空を泳ぎながらそれぞれ触手に食らいつき、食いちぎった。

 どこにも魔法少女の姿は見えないが、それで良い。彼女は超遠距離型の魔法少女。目には見えなくても確かな実力で俺たちを支援してくれる。


「やっぱり待ってくれてたんですね、ブルシャークさん!」

『当たり前。気づくのが遅い。待ちくたびれた』


 大規模な環境魔法を使うにあたってブルシャークさんには巻き込まないよう避難して貰っていたわけだが、やっぱりいつでも再参戦出来るようにこの戦いを見守ってくれていたみたいだ。

 それにしても随分と迅速な支援だった。環境魔法が消えたのを見て転移してきたにしては早すぎる気がする。それに……


「どうして海の中から鮫が?」

『海中に避難してたから。ここなら竜巻も届かない』


 最初からブルシャークさんは欺瞞世界の外に避難したんじゃなくて、海の中に避難して環境魔法をやり過ごしていたのか。確かに海水も多少は巻き上げられるだろうが深く潜っていれば巻き込まれないだろうし、支援を再開する時に転移を挟まなくて良いから必要なタイミングで素早く行動できる。俺は知らなかったが、恐らくブルシャークさんは水中で継続して活動が可能になるような魔法を持っているんだろう。鮫の魔女ならではの発想だ。


『それと、私だけじゃない』

「え?」

『おらぁ!! さっきはよくもやってくれたなこのクソがぁ!!』


 続々と海の中から現れる鮫の背に乗って、黄金のオーラを身に纏った魔法少女が姿を現し、途中からは自力で空を飛んで黒い触手を殴りつけ、蹴り飛ばして霧散させていく。


「シメラクレスさん!? 無事だったんですか!?」

『流石のあたしも死んだかと思ったけどな。気づいたら再生してたわ』

「……なんか軽くないですか? というか不死身なんですか?」

『不死身っぷりはお前も人のこと言えないだろうが!!』


 何度も身体を分割されたり握り潰されてるのに普通に再生してるからシメラクレスさんの言いたいこともわかるが、こっちは神格魔法を使ったうえでの不死性なのであって、そうじゃないシメラクレスさんが木っ端微塵にされても再生するというのは大分話が違うような気がするが……。


「とにかく生きてて良かったです」

『お前もな。つーか知らねえ魔法少女が居るが、誰だあいつら?』

「始まりの魔法少女です。魔法を使って過去から飛んできたらしいです」

『んだよそりゃあ、マジで魔法ってのは何でもありだな。だけどまぁ、見覚えないのに魔女級につえーってのもそれなら納得だわ。とくにあの騎士みたいなやつ、おもしれー魔法の使い方だ』


 俺としては環境武装なんていうとんでもない魔法の応用をするフレイムフレームさんの方が面白い使い方してるような気がするが、系統の違いによって感じ方は異なるのかもしれない。


『んで、あのバカでけぇディストを倒す算段はついてんのか?』

「高位ディストを倒すセオリーはいつも同じですよ。削り切ります」

『……普通にやり合って削り切れるとは思えねぇけど』

「環境魔法の応用、極限まで圧縮した力で一気にぶち抜くんです」


 空を覆う歪みの王・天蓋に魔法を叩き込んだのは一先ず拡大を阻止し欺瞞世界を破壊させないようにするためだが、その過程で環境魔法の範囲を縮める中で理解した。環境武装と呼ぶには程遠い範囲の縮小でも普段の環境魔法とは比べ物にならないほどの力を感じたのだ。きっと環境武装は俺が想像しているよりも遥かに強大な、それこそ今の歪みの王。天蓋に匹敵する、星を砕くほどの力を秘めている。その力を100%引き出してぶつけることが出来れば、きっと歪みの王を倒せるはずだ。


「隙を見て私はもう一度環境魔法を使います。その前にお二人はラウンドナイトさんから防御魔法をかけて貰ってください。その後は私を襲おうとする触手を撃退してくれますか?」


 純粋な魔法の出力だけを比べると、俺の方がフレイムフレームさんよりも上だ。それは恐らく俺の怒りや憎しみに反応して増大する黒い力が原因なのだと思う。そしてクロノキーパーさんは理由はともかく俺の方が火力を出せることを未来を視て知っていたのだろう。だから俺に力を貸してほしいと言った。きっと歪みの王・天蓋を倒すためには、俺の環境武装が必要なんだ。


『結局またお前頼みかよ、情けねぇ』

『異論ない。だけど見落としがある』

「見落としですか?」

『魔女はシルフが思ってるほど、弱くない』

「急に何の話ですか? 別に私は魔女が弱いなんて――」


 思ってない、そう言おうとした俺の言葉を遮るように、幾何学的な魔法陣がいくつも組み合わさった立体的な魔法陣が眩い光を伴って七つ出現した。


 これは、転移魔方陣の光。


 確かに俺は魔女を見くびっていたらしい。

 王族級との戦いが終わってるかわからないなんて、馬鹿な考えだった。

 彼女たちもまた、ブルシャークさんのように待ってくれていたのだろう。


 魔法陣の放つ輝きが続々と収まっていき、光の中から最強の魔法少女たちが姿を現した。


「間に合ったみたいだね、風の魔女殿」


 煌めく黄金の大剣を携えた、旅人のような装いの魔法少女。

 序列第十二位、拡張の魔女、エクステンドトラベラー。


「折角ディストの親玉と遊べるってのに、待ちくたびれたぜ」


 右手に反り返った剣を、左手に古めかしい銃を持ったステレオタイプの海賊のような風体の魔法少女。

 序列第十一位、海賊の魔女、キャプテントレジャー


「なに見てんのよ? こんなのどうってことないわよ!!」


 右腕が包帯でグルグル巻きにされた、どうみても重傷であるにも関わらず強がって平気そうな顔をしている兎耳にメイド服風の魔法少女。

 序列第十位、兎の魔女、ラビットフット


「妖精ちゃんたち絶対撮影失敗しないでね! あとヤバめなところはうまいことやってね!!」


 いつだかのように鬱陶しいほどのテンションで目を輝かせている、メタリックでゴテゴテとした機械仕掛けの衣装の魔法少女。

 序列第九位、磁力の魔女、エクスマグナ


「これが最後の戦い。絶対に勝とうね、みんな……!」


 どこか気弱そうなか細い声ながらも決意を感じられる表情の巫女服に竜鱗の魔法少女。

 序列第八位、竜の魔女、ドラゴンコール


「やっと、やっと会えた! あのクソ地球儀、適当なこと言いやがってぇ……!!」


 始まりの魔法少女たちを目にした途端感極まったような声を上げたかと思えば、アースへの怨嗟を垂れ流す、雪のように白いはずの衣装が黒く染まった魔法少女。

 序列第六位、氷の魔女、パーマフロスト


「よく気が付いてくれました、シルフさん。ここからは」


 序列第四位、糸の魔女、ウィグスクローソ


「総力戦です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ヒーローモノの醍醐味だな!
[良い点] 夢の全員集合はやはり熱い!
[一言] さらにブチ上げていくぅ~ッ!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ