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魔法少女タイラントシルフ  作者: ペンギンフレーム
最終章 立ち塞がるもの全て、蹴散らせ
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episode5-6 最終決戦①

 眩い光が収まり世界が音を取り戻し始めた時、すでに歪みの王の姿はどこにもなかった。フレイムフレームさんの最大の一撃に耐えきれず消し飛ばされたのだろう。再生を警戒するように始まりの魔法少女たちの間に僅かな静寂が流れるが、ディストを構成する黒い靄が発生する気配は感じられない。


「倒したか?」

「当然だ、正義は必ず勝つ!」

「コウちゃん、そろそろふざけるのやめないと怒られちゃうよ?」

「……」


 強い、強すぎる。これが始まりの魔法少女たち。

 一人一人の力は風神状態の俺に匹敵するか僅かに下回る程度だと思うが、洗練されたチームワークとそれぞれの対応力が合わさって単純な足し算を遥かに超える強さを実現している。

 始まりの魔法少女たちが現れてからというもの、歪みの王はほとんど何も出来ずに一方的に殲滅されたと言っても過言ではない。クロノキーパーさんの未来視の魔法によって対策を立てていたのだとは思うが、それにしても圧倒的過ぎた。


 そう、あまりにも、拍子抜けするほどに一方的で圧倒的で、だからこそ違和感を覚えた。


 始まりの魔法少女たちは確かに強かったが、ただ強いだけでは歪みの王を倒すことは出来なかったはずだ。実際、神格魔法に至った俺でさえ最終的に殺しきることは出来なかった。始まりの魔法少女たちが歪みの王に勝てたのは、彼女たちが強いというのは勿論だが、それ以上に相性が良かったから。それぞれが持つ魔法が歪みの王の能力に対するメタとして機能していたからだ。

 だが、果たしてそれは偶然だったのだろうか? 例え未来視の力で歪みの王の能力をある程度予測出来ていたのだとしても、それに対抗できる魔法が使えなければ対策など出来るはずもない。


 歪んだ理には創世魔法を

 歪んだ時間には減速魔法を

 歪んだ空間には跳躍魔法を

 歪んだ存在には炎の魔法を

 歪んだ心には防御魔法を

 歪んだ魔法には環境武装を


 それぞれの能力に対して、始まりの魔法少女たちがカウンターとなり得る魔法を持っていたのは偶然か?

 いいや、そんなはずはない。そんな都合の良い偶然があるわけない。

 きっと彼女たちは初めから、歪みの王を倒すための魔法少女として見いだされ、そして未来へとやって来た。


 あのアースが、非人道的で道徳や倫理というものを知らないゴミクズであり、数十年も前から人の人生を無茶苦茶にしてこの戦いに備えていたはずのあのアースが、彼女たちのことを計算に入れていないはずがない。

 アースは知っていたはずだ。始まりの魔法少女たちが未来へやってくることも、彼女たちの力によって歪みの王が討たれる可能性が高いことも。


 そのうえで奴は、勝算はお前だと言った。


 だとすれば、戦いはまだ終わっていないんじゃないのか?


『お前たち魔法少女が居る限り、この世界を手にすることは出来ない……』

「ちっ、あたしの環境武装でもぶち抜けなかったってわけか」


 反響するように何重にも重なった耳障りな言葉がどこからか聞こえてくる。歪みの王の姿はどこにもないが、間違いなくそれは歪みの王の声だった。やはりまだ生きていたのか。


『だが力を抑えては魔法少女は倒せないらしい』

「負け惜しみだな。貴様が全力を出そうと勝つのは私たちだ!!」


 力を抑えていた、だと?

 王族級に力を分け与えていただけじゃなく、その力が戻って来てなお全力ではなかったと、そう言いたいのか?


『ならばもういい。私のものにならないのなら、こんな世界は必要ない』

「あなたに必要なくても私たちには必要です。やらせません」


 戦い始めたとき、歪みの王はこの世界を統べる、世界征服が目的だと言っていた。人類を滅ぼし、この世界をディストの世界にすると。

 それが嘘でも冗談でもなく本気だったとしたら、今まで歪みの王はこの世界を壊さないように手加減して人間だけを滅ぼそうとしていたのだとしてもおかしくはない。そして今、それが叶わないのなら世界と無理心中してやると、全力を出そうとしている。


『貴様ら諸共ここで終わらせてやろう!』

「フレイムの魔法で本体ごと焼き尽くせればあるいはと思いましたが……、やはりこうなってしまいましたか」


 つまり、ここからが本当の最終決戦。

 始まりの魔法少女たちはこうなることを予想していた、というより知っていたのだろう。

 だから歪みの王の姿がなくなった時もすぐには警戒を解かなかったし、今この瞬間にも空を覆いつくさんばかりの凄まじい勢いで広がっていく黒い雲を見ても、そこから聞こえてくる歪みの王の声を聴いても動じていない。


『見せてやろう! この私の本当の力を!! 私は世界の歪みそのもの! 公爵や王族などという搾りかすのようなディストとは比べることすら烏滸がましい!! 貴様ら人間などとは存在の格が違うのだ!! 王などという矮小な人間の肩書に収まる器ではない!! 私は、いいや、私こそが神だ!! この世界を歪ませ破壊する神!! ひれ伏せ!! 畏怖しろ!! そしてその命を捧げろ!!』


 歪みの王の叫びと共に空を覆う黒い雲が触手のような形となって俺たちに向かって伸びてくる。あれが歪みの王の本当の姿、区別するために名づけるとするなら、歪みの王・天蓋といったところだろうか。

 とんでもなく分厚い雲らしく真昼間だというのに日の光が完全に遮断されてしまっている。しかも暗雲はどんどん広がっていき町一つどころか先が見えないほどの範囲へ今なお広がり続けている。世界を滅ぼすという言葉が大言壮語でないのなら、歪みの王は自分自身の身体で地球を丸ごと包み込むつもりなのかもしれない。歪みの王の言葉通り、今までのディストとは比べ物にならないほど壮大で強大な力。魔法少女のシステムによって恐怖という感情を抑制されてなお気圧される凄まじい迫力。


 だけど、それでも、


「……本当はこうなる前に止めたかったのですが仕方ありません。シルフさん、あなたの力を貸して下さい。やつを倒しこの世界を守るためには私たちだけでは力が足りません」

「そんなの、言われるまでもありません!!」


 ここで歪みの王を倒す。俺が魔法少女にされたのも、そして今も自らの意思で魔法少女を続けているのも、全ては歪みの王を倒し平和な世界を取り戻すため。ちさきさんが笑って過ごせる世界を守るため。

 歪みの王を止められなければ、現実との出入口など探すまでもなく欺瞞世界を破壊されて、そのまま現実の地球すらも砕かれてしまうだろう。


 そんなことは絶対にさせない!! なんとしても食い止める!!


「本体を削れば広がる速度は落ちるはずです!! この偽りの星を覆い尽くされ欺瞞世界を破壊される前に、歪みの王を削り尽くして倒します!! 時計の針を遅くスロータイム! 時計の針を速くアクセルタイム!」

「おっしゃあっ! 最後の大暴れだ!! 環境魔法フィールドマジック火海ワイルドフレイム』! 焼き尽くす業火バーンダウン!!」

「神殺しのヒーローか、悪くない。群体召喚バグズウォーム蝗害ハンガー!! 相変異フェーズ群生相グレゲアリアス!!」

「守る、絶対、私が!! じゃなきゃみんなを置いて来た意味がないもん!! 無量魔法フィールドマジック天駆騎士団ペガサスナイツ』!!」

「神の力を持ってるのは、あなただけじゃない!! 環境魔法フィールドマジックテンペスト』!! 喰らい殺す黒龍トルネードミキサー九頭極点ヒュドラユニオン!!」


 この場に居る魔法少女全員のスピードが加速し、逆に歪みの王の動きが僅かに鈍る。

 大地を炎が包み込み、迫りくる黒雲の触手へ極太の熱線が次々と撃ち込まれていく。

 どこからか突如飛来した真っ黒な飛蝗の群れが、歪みの王の本体である雲をえぐり取るように齧りながら飛び回る。さらにグラスホッパーさんの衣装の色や髪色が黒く染まり背に出現した大きな羽で自在に空を飛びながら触手を次々蹴り散らす。

 翼を持つ白馬に跨ったラウンドナイトさんは、同様にペガサスに騎乗した騎士と共に隊列を組んで触手に対処しながら空を覆う分厚い雲を切り崩して行く。

 そして俺は、一切手加減なしの環境魔法を範囲を狭めながら発動し、トルネードミキサーと合わせて猛烈な勢いの無数の竜巻を歪みの王にぶつけていく。竜巻はフレイムフレームさんの火海によって生み出された炎を巻き上げ、燃え盛る火の嵐となって歪みの王の身体を燃やし削っていく。


 環境魔法の出力を落とさずに範囲を狭め火力を高める使い方は、フレイムフレームさんが実践して教えてくれた。きっとクロノキーパーさんは最初からこうなる可能性を見越して俺によく見ておけと言ったんだ。この力なら、耐性を作られていたとしてもまだ戦える。

 ただの環境魔法だけではなく得体の知れない黒い力も合わさっているからか、範囲を数kmに絞るだけでも尋常じゃなく精密で繊細な制御を要求されるが今の俺なら出来る。他の魔女に被害が出ないように広範囲を蹂躙することは出来ないが、これなら環境魔法が持つ破壊力を落とすことはなく、むしろ圧縮された力は最大出力のトルネードミキサーすら上回る。

 しかし、もっと時間をかければ数百メートルの範囲まで縮めることも出来そうだが、フレイムフレームさんのように「環境武装」と呼べるほど、環境魔法の力全てを身に纏うレベルにまで圧縮するのは今の俺に出来るかどうか……。あのレベルに達するのに一体どれほどの修練が必要だったのか。きっと血の滲むような努力をしたはずだ。


 そしてそれはきっとフレイムフレームさんだけじゃない。

 跳躍の魔法で空間を超えて攻撃するなんて、時間を止めるなんて、環境魔法の力すら防ぎきる防御なんて、並大抵の魔法少女どころか魔女にだって簡単に出来ることじゃないはずだ。本気で歪みの王を倒すために、この世界を守るために頑張って、戦ってきたんだ。


「ぐぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛っ゛!」


 雲が広がっていくのは一時的に止められたが、その代わりというように俺の操る竜巻やフレイムフレームさんの放つ熱線に対してそれぞれの魔法を真似たような迎撃を始めた。俺の杖から放たれた九頭極点と歪みの王の竜巻モドキが鍔迫り合いをするように押し合って拮抗し、大杖が反動で軋むように震えだす。

 フレイムフレームさんもビームの打ち合いのようになっており、グラスホッパーさんやラウンドナイトさん、クロノキーパーさんは密度と速度の増した触手に追い立てられ回避するのが精いっぱいになってしまっている。


 拮抗している、あるいは僅かに劣勢のようにも見えるが、しかし竜巻は歪められてないし、威力が減衰しているようにも感じられない。もしかしたら、あの黒い雲と化した歪みの王には特殊能力がないのかもしれない。だとすれば、勝機はある!


「負けない、負けられない!!」


 守りたいものがあるのは俺だけじゃない。

 この人たちの努力を無駄になんてさせない。

 ここに居ない魔女や魔法少女たちだって、それぞれの大切な何かのために命をかけている。

 みんなの覚悟を、無駄になんて絶対にさせない。


 もっと、もっと強く!!

 時間をかければなんかじゃ駄目だ!!

 今すぐに、膨大な嵐の力をこの一点に!!

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