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魔法少女タイラントシルフ  作者: ペンギンフレーム
最終章 立ち塞がるもの全て、蹴散らせ
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episode5-3 歪みの王③ 風・剛力・鮫

 神格魔法、それは神の名を冠する魔法少女の最終奥義。宝物庫の最後の門を開くことで発動できるそれは、歴代でも炎の魔女フレイムフレーム、氷の魔女パーマフロスト、雷の魔女モナークスプライトの三名しか使用者が確認されていないほど、群を抜いて扱いが難しく、それ故に絶大な性能を誇るらしい。これまでの傾向から神格魔法に至ることが出来るのは自然系統の魔法少女のみであるとされていて、つまり自然系統である俺なら使える可能性はあるということ。


 確かに俺はウィッチカップでの戦いにおいて、第三の門の更に先、おそらく最後の門を開いたのだとは思う。だけど結局あの時の戦いがどうやって決着したのかまでは覚えてなくて、とても神格魔法とやらを使いこなせたとは言えない。結局あれから一度も使えてないし、さっき歪みの王を相手に窮地に陥った時にも使えなかった。


「これ以上相談してる時間はなさそうだ。死ぬ気で発動しな。じゃなきゃあんたもあたしも、ついでにシャークもお終いだ」

『お終いは困る』

「~~っわかりましたよ!! やってやりますよ!!」


 シメラクレスさんが顎で指した方向を見てみれば、吹き飛ばされていった歪みの王が悠然と歩きながらこちらに近づいてきていた。内側から食い破られた傷も、シメラクレスさんにぶち抜かれた胸も全て元に戻っている。やはり人の形を模し、人語を解する知性を持っていてもディストはディスト。再生能力は当たり前に有しているらしい。

 

 出来るかどうかはわからないが、やらなければ勝ち目がないのも事実。俺の最大魔法が効かなかったことを考えれば、アースの勝算というのも恐らく神格魔法のことだったのだろう。最も偉い妖精が言うのだから、俺にはもうその魔法を扱うだけの資格が、実力があるはず。実際、自由自在にとはいかなくても一度は発動出来たんだ。もう一度使えない道理はない。


「でも、攻撃はともかく防御はどうするんです? さっきの妙な力を使われると身動きが取れなくなりますけど……」

『厄介』

「今から五分間、あたしがあいつを食い止める。魔法を使うだけなら重力を増加させられても問題ないだろ?」


 あの妙な攻撃は重力を増加させられてたのか。だとしたら歪みの王の力は重力を操作するとか? 十連極点が消されたのは強い重力で無理矢理潰されたとか? そういう感じじゃなかったような気もするが……。


「シャーク、この五分はあたしの援護はしなくて良い。攻撃に集中しな」

『……死ななくても無力化する方法はある』

「お前どっち目線で話してんだよ。ったく心配すんな、あたしもとっておきを使う。どうせこれで終わりなら、これ以上切り札隠し持っててもしょうがないしね。今から五分間、あたしは不死じゃなくて無敵だ」


 ……何が違うんだ?


『わかった、信じる。シルフ、一つ試したい』

「はい? なんですか?」

『竜巻の魔法をもう一度使って』

「それは構いませんけど……」

「うし、んじゃ行くぞ!! 身体強化ストロング第六段階シックス!!」


 シメラクレスさんが気合を入れて魔法を発動すると、黄金のオーラが虹色の光、プリズムへと変化する。カラフルで煌びやかな虹の光は、歪みの王に向かって駆け出したシメラクレスさんに追従するような美しい残像として俺の瞳に焼き付いた。とてつもなく速い。魔法少女として身体能力が向上されている俺でも完全には追いきれないほどに。


削り散らす竜巻・六連セクストルネードミキサー!!」


 通信機能を使って会話に参加していたブルシャークさんの要望に従って一先ずトルネードミキサーを使用する。このまま歪みの王にぶつけるだけではさっきと変わらないと思うが、これから神格魔法の発動に集中しようとしてる俺にわざわざ頼むということは何かしら考えがあるのだろう。


 ……というか目まぐるしく状況が変化するせいでスルーしてしまっていたが、なんでマギホンも使ってないのに通信出来てるんだ? 歪みの王から妙な攻撃を食らう前は、シメラクレスさんの声も聞こえたよな? ウィッチカップの時の応用か? あの時はウィッチカップ用のアバターに通信機能を持たせていたはすだが……、まあ良いか。意思の疎通が出来るならそれに越したことはない。


『あはは!! 効かねえ効かねえ!! あたしは無敵だぁ!!』


 や、野蛮……。だけど不死と無敵の違いはわかった。シメラクレスさんの第五段階身体強化は、極めて強力な再生力によって実質的な不死に近い魔法だったが、第六段階はそもそも攻撃を受け付けていない。さっきまでシメラクレスさんの腕を叩き折り、身体を貫通していたはずの歪みの王の攻撃が、今は全く効いていない。言葉の通り無敵なんだ。確かにあれなら壁としての役割は十分だ。しかし強力だからこそ、タイムリミットが存在するということなのだろう。


弾丸鮫バレッドシャーク


 あっという間に距離を詰め殴り合いを始めたシメラクレスさんを追いかけるように歪みの王へ迫る六つ又の竜巻に向けて、超遠距離からの弾丸がそれぞれ一発ずつ撃ち込まれる。


 なんだ? 何をする気だ?


「ちょっと、ブルシャークさん!?」

『大丈夫、鮫と竜巻は相性が良い。映画で見た』


 まさか、冗談だろ!?


産声をあげろハッピーバースデイ


 先ほど歪みの王を相手に使用した弾丸が鮫となって内部から食い破る魔法をブルシャークさんが発動すると、竜巻の中に撃ち込まれた弾丸が鮫へと変化する。通常であれば、竜巻に巻き込まれてズタズタに切り裂かれミンチになるはずだが、なんと魔法の巨大鮫は竜巻の中心部、台風の目にすっぽりと収まって、鋭い牙を剥き出しにしながら、まるで掘削機やワニのデスロールかのようにグルグルと高速回転を始めた。いや、自分で回転し始めたのではなく、竜巻の回転によって強制的に回らされてるんだ。


『……疑似合作魔法:ローリングシャークネ――』

「試したいってこれを!? バカなんですか!?」


 今更魔法を打ち切るのも魔力の無駄だし、トルネードミキサーの威力が減衰しているわけでもないからとりあえずぶつけはするが、まさかこんなことを考えていたとは……。口数が少なくて何を考えているかわからない魔女だったが、思っていたよりも随分と天然だったらしい。……そういえば前にお茶会であった時も独特な感性をしてたな。もっと早く気付くべきだった。シメラクレスさんが稼いでくれてる貴重な時間を無駄にしてしまった。


『おい!! 効いてるぞ!! 何やったんだお前ら!?』


 !? 不意打ちでもなんでもない、思いっきり見え見えの攻撃だぞ!? それが効いた!?


 距離をとっているため歪みの王の声は聞こえないが、シメラクレスさんの言葉に耳を疑って目を凝らすと、確かに回転する鮫が歪みの王の身体を削り取り防御に回した両手を欠損させているのか見えた。


『……これも意識の外。不意打ちだけじゃない。大事なのは、予想を超える一撃。……バカじゃない』

「あ、う、ごめんなさい、私が間違ってました」

『いいよ』


 まさかそこまで考えた上での提案だったとは思わなかった。見た目や発想の滑稽さに騙された。ブルシャークさんは思ったよりも切れ者なのかもしれない。


 ……いや、でも何の説明もなしにあんなことされたら誰だって正気を疑うだろ!!

 結果的にはブルシャークさんが正しかったし、口汚く罵ってしまったのはよくなかったから謝ったのは本心だけど、それはそれとして微妙に納得いかない。


『シルフ!! 勝ちの目は増えた!! 予想を超えたド派手な一撃をかましてやれ!!』

『邪魔はさせない。支援を開始する』


 納得はいかないが、不意打ちだけが有効なわけじゃないとわかったのは大きい。シメラクレスさんの言う通り勝ち筋が増えた。つまり歪みの王の力でも対応できないほど、予想を上回るほどの強力で絶大な攻撃ならあいつを倒せるってことだ。


「神格魔法――」


 思い出せ、あの時俺はどうして最後の門を開くことが出来た? そもそもどうやって最後の門に触れたことを認識した? 最後の門は宝物庫の中にあるはずだが、俺は別に宝物庫へ移動なんてしていなかった。いや、そもそもこの強化フォームに至るための第三の門だって、実際にこの目で確かめたことがあるわけじゃない。ジャックに言われるがまま、いつの間にか開いていたんだ。そう、つまり宝物庫の扉というのは直接的に接触するものじゃない。……そういえばパーマフロストにやられそうになった時、俺の身体はその場にいたままで、意識だけがどこか違う場所に、最後の門の前にいたような気がする。だとすれば、鍵を握るのは心のありよう? 集中しろ、あの時、そうだ、あの時はいきなり視界が、なら


「あ」


 かつて一度だけ使ったはずの感覚を想起し、精神を研ぎ澄ましながら瞳を閉じると、目の前に真っ白で大きな門が現れた。見えていないはずなのに、見える。瞳を閉じているはずなのに、瞳に映っている。これが、最後の門。


 その門にそっと手を触れることで、思い出す。あの時俺は確かに最後の門の前に立ち、今と同じように触れたが、結局完全に開け放つことは出来なかったんだ。門に触れることでそのキーワードはわかったから、中途半端にほんの少しだけ開いた状態で強引に神格魔法を使おうとした。そうしなければならないほどに追い詰められていた。


 だけど今は、それだけじゃ駄目だ。この力を完全に制御して、そのうえで全ての力を引き出さなければ歪みの王は倒せない。前と同じように暴走してしまったら終わりだ。歪みの王は俺に構わずシメラクレスさんたちを倒して現実に侵攻するだろう。


「開け」


 大きな門に両手をついて渾身の力で押し込むが、開くのはほんのわずか。まるでまだその資格がないとでも言うように、一定の段階まで開いたところで開きかけの門は止まってしまい、どれだけ力を込めても魔法を使うのに集中しても、それ以上は開かない。


「開けっ」


 時間はどれだけ経った? この門の前に立ってから時間の感覚がわからなくなった。まだ1分も経っていないのかもしれないし、もうすぐに5分を過ぎてしまうのかもしれない。俺がここに居るということが、シメラクレスさんたちが足止めを続けてくれていることの証拠でもあるからまだ時間切れにはなってないと思うが、次の瞬間には歪みの王に殺されてしまうかもしれない。


 あとどれほどの猶予があるのかが気になって、目の前に歪みの王がいないかが怖くて、瞼を開きそうになる自分を必死に抑えて門を押し続ける。一度瞼を上げてしまえば、またこの門の前に来られるかはわからない。


「開けぇぇぇ!!」


 ほんの少し、ほんの少しではあるが、ついさっきまで、これ以上は1mmたりとも動きそうになかったはずの門が、少しずつ開きだした。


 行ける!! このままもっと早く!!


『そのペースじゃ間に合わねぇな』

「っ!? アース!?」


 反射的に目を開きそうになったがギュッと固く目を閉じて、聞こえて来た声の主、アースの言葉に答える。


『残り時間は約1分。まあ、どっちにせよ今のペースじゃ5分あっても足りねえがな』

「だったらどうすれば良いんですか!? 勝算は私だと言ったあなたなら、この門の開け方もわかるんじゃないんですか!?」


 この門の前に立ってから歪みの王との戦いの音が聞こえなくなった。だから単純に通信してきているわけではないはずで、この精神世界みたいな特異な場所にどうやって声を届けているのか不思議だが、今はそんなことを聞いている余裕はない。


 今の状況でわざわざ話しかけてきたということは、何か方法を知ってるはずだ。


『そう都合よく開けられる方法なんてあったら他の魔女にだって開かせてるっつーの。だがまぁ、お前に限っては予想通り、この門を開ける裏技を俺は知ってるぜ』

「だったら早く!!」

『全部俺の仕業だ』


 ……は? 全部って、なんだ? あの黒い力を引き出させようとしたことじゃないのか?


『まだわからないのか? 俺が黒幕だ。お前が魔法少女に選ばれたのも、いや、それよりずっと前から、お前は俺の思い通りに動いてくれた』


 待て、ちょっと待て。

 どういう、意味だ?

 魔法少女に選ばれるよりもずっと前からって、それじゃあまるで、


『つまりこういうことさ。久しぶりですね、良一くん』


「――アァァァァスゥゥゥ!! おまえがっ!! おまえがぁぁぁぁぁ!!」


『良いぞ!! 怒れ、憎め!! その怒りが!! その憎しみが!! お前に力を与えてくれる!!  さあ!! 最後の門を開け水上良一!! そしてその力で歪みの王を討ち倒せ!!』


「ふざけるなあああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


 先ほどまで亀の歩みにも満たないほどゆっくりと開きかけていた最後の門が、いつの間にか、完全に開け放たれていた。


 それはまるで、俺の激情に反応したかのように。

 そして、俺を迎え入れるかのように。


 全部、全部このためだったんだ。

 俺の思考に干渉したのも、俺を魔法少女にさせたのも、そしてそれよりずっと前から、全てが今、俺の激情を引き出すため。


 アースの声はもう聞こえてこない。

 最後の門を開いたから、これ以上話すことはないとでも言うのか。


 ああ、良いだろう。

 だったらお望みどおり、この力で歪みの王を倒し、そして、


 お前を殺す


風神シナツヒメノカミ

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― 新着の感想 ―
アース貴様…女装趣味があったなんて……
[良い点] デデン! [一言] 思春期を殺した少年の翼
[一言] シナツヒメノカミ 風の神で男女一対の存在なんてまさにシルフちゃんそのものですね
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