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魔法少女タイラントシルフ  作者: ペンギンフレーム
最終章 立ち塞がるもの全て、蹴散らせ
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episode5-2 王族級⑬ 拡張

 雄叫びをあげたエクステンドと、自身の力を確認するように両手をグーパーと動かしていたディストがぶつかり合う直前、どこか気だるげな声の詠唱が聞こえたのと同時に地面がサラサラの砂へと変化していく。ものの十秒もかからない内に辺り一帯は砂漠のようになり、エクステンドが魔法で開けた円柱状の穴は砂が流れ落ちてすり鉢状の穴に変わる。


砂地獄ボトムレスヘル


 さらに続けて砂に変化した足場が穴の中央に向けて流れ落ちるように動き始める。すり鉢状の形と合わせて巨大な蟻地獄のような有様であり、倒れ伏したサムライピーチとナックルは勿論、エクステンドとディストもその流砂に足を取られて少しずつ身体が砂の中に埋まり始めた。


「この魔法は……!」

「やーやー、良い叫びだったね~。お陰ですぐに見つけられたよ」


 緊張感のない気の抜けた声と共に穴の底に降り立ったのは、ベリーダンスの踊り子衣装を露出控えめの魔法少女風にアレンジした、燃えるような美しい赤髪の少女。


「グリッドさん!?」


 それはエクステンドも良く知る、かつて咲良町で活動していた魔法少女の一人、砂の魔法少女グリッドだった。

 砂漠の環境魔法が発動された時点でエクステンドはこれが誰の仕業なのかすぐにわかったが、しかし同時にまさかという疑問もあった。なにせ彼女は数か月前、高校卒業と同時に、充分に稼いだという理由で魔法少女を引退しているのだ。年齢的にはもう少し続けられるはずだったが、宝物庫への鍵も返却したと聞いていたし、変身した状態のグリッドと再びまみえる日が来るなど考えてもいなかった。


「話はあとあと。エクステンドの周りは止めといたから自力で出てよ。私はピーチとナックル回収するから」


 言われて初めて、エクステンドは先ほどまで自分を呑み込もうとしていた砂の足場が動きを止めていることに気が付いた。ギリギリ手は届かない程度の位置にいる猫人型ディストは今も砂に埋もれないように激しく暴れているが、もがけばもがくほど徐々に身体が砂に呑み込まれつつある。どうやら何を呑み込んで何を呑み込まないか局所的に操作しているらしかった。


「うわ、手酷くやられてるね。前言撤回、エクステンドも手伝って。よいしょっ、と。ほら、一回上に戻るよ」

「は、はい」


 グリッドは二人を抱えていくつもりだったようだが、思いのほか傷が深いことに気が付いてサムライピーチを激しく動かさないようお姫様抱っこし、ナックルはエクステンドに抱えさせた。エクステンドは右腕に怪我をしているが、少しの間人一人を抱えるくらいなら我慢できなくもなく、無事四人は砂地獄の外へ一旦退避することに成功した。


「にしても、エクステンドが居てこんなに手酷くやられるなんて、王族級ロイヤルクラスってのは随分とやばいみたいだね。あんた魔女になったんでしょ? うわ、なんか凄いシャカシャカ動いてるよ。虫みたいで気持ちわる」


 サムライピーチを優しく地面に横たえさせたグリッドは穴の淵に立ち、砂地獄の中でもがき苦しんでいるディストを見て嫌そうに顔を顰める。


「王族級の情報はもう出回ってるんですか? というか、どうやって魔法少女に?」

「ジャックだよジャック。咲良町の妖精、知ってるでしょ? あいつが急に私のとこに来て、力を貸してくれってさ。ま、私もちょっとお金必要だったし、利害の一致ってことでさくっともっかい宝物庫の鍵を貰ったわけ。王族級の情報は妖精には共有されてるっぽいね」

「ジャックが? 咲良町の妖精は代変わりしたはずですが……」

「そうなの? その辺は私も知らないけど……。でさ、話戻すけどあのディスト? 実際どうなの?」


 グリッドの目から見て、王族級ディストは見た目こそ人に近く不気味ではあるが、今のところ大きな脅威には感じられなかった。なにせ大きさはそれほどでもないし、砂地獄の魔法から全く抜け出せる気配もなく、感覚的には低位のディストを相手にしているのと変わらないのだ。


「驚異的な速さ、はグリッドさんの魔法とは相性が良さそうだ。ですが奴は時間を止める妙な力を使います。なぜその力を使って抜け出さないのかは私も疑問ですが……」

「時間停止とかやば。漫画じゃん。てかよく気づいたね。止められてたらわかんなくない?」

「魔法少女のことは停止出来ないみたいです。穴に落として動きを封じ、落下中にピーチとナックルの無量魔法フィールドマジックで削り切る作戦だったんですが、途中で二人の魔法がぴたりと止められました。まるで時間が止まったように」


 サムライピーチとナックルが意識を失ったことで二人の無量魔法で呼び出された大量の刀と黄金の拳は消えてしまったが、停止させられた直後はそれらが空中に固定されたように浮かんでいた。あれを見れば時間を止められたのだと言うことはすぐにわかる。


「ん? エクステンドたちもあのディストも、時間が止まったままで普通に動いてたってこと?」

「そうです。少なくとも時間を止められてる間に攻撃される、みたいなことはなかったと思います。ただ、時間を止めていなくてもヤツの速さは脅威です。私たち三人で時間を拡張しながら同時攻撃を仕掛けましたが、何をされたのかもわからないまま返り討ちにされました」

「いつの間にかみんな成長してるね~」


 グリッドが引退してから経過した時間はほんの数か月だが、その短い間にエクステンドは魔女となり、サムライピーチとナックルもかつては使えなかった領域魔法フィールドマジックを習得している。グリッドの弟子であるエレファントは勿論、ドライアドの弟子だったブレイドや、直接面識はないがプレスという新しい魔法少女も第二の門を開いているという話であり、グリッドは唐突に場違いな感動を覚えていた。

 一方でエクステンドも、久しぶりのグリッド節を身近に感じて僅かながら懐かしさを感じていた。グリッドの突拍子もない適当な感じは今に始まったことではなく、昔から真剣みの感じられない魔法少女だった。エクステンドはそういうところも嫌いではないが、ドライアドには随分と毛嫌いされていたものだ。


「んでもまあ、エクステンドの言う通りなら確かに私との相性は最高かな? 時間を止めてる間でも触れてるものは止まらない。じゃなきゃ身動き一つ取れないはずだしね。だったら私の砂地獄だって止まらない。時間を止めても無駄だし、どんなに速く動けても、動くほどに沈んでいくだけ。足は殺せたね」

「なるほど、脱出しないのではなく出来ないと……。遠距離から削りますか?」

「それこそ止められちゃうでしょ。んー、ピーチがやられるんじゃ接近戦も危ないか。じゃあ、ちょうど砂の中にいるわけだし削り殺しちゃおうか。砂塵暴サンドミキサー


 穴の中央に向けて流れ落ちていた砂が動きを変えて、猫人型ディストを中心に渦を巻くように動き出す。その回転は見る間に速度を増していき、猫人型ディストを砂の中に閉じ込めながら荒々しい粒子の研磨によってやすりで削るかのようにその身体を破壊していく。

 激しい砂塵の嵐は最早砂地獄に収まることはなく、大量の砂を伴った竜巻と化しミキサーのようにディストを粉々に粉砕して、再生したそばからまた粉砕を繰り返し、行動する隙を一切与えないまま再生力を削り取って行く。


「結構追い詰めてたみたいだね。再生が遅い」


 こうなってしまっては最早時間を止めたところで、素早く動けたところで何も出来はしない。大した事でもないようにあっさりと王族級ディストを封殺して見せたグリッドの姿に、エクステンドは相変わらずの強さだと内心で感服していた。

 かつてエレファントも言っていたが、すでに魔女に至っていても不思議じゃない強さだ。というより、明かしていないだけで本当は第三の門も開けるのだろうとエクステンドは予想している。相性が良かったとはいえ、それだけで倒せるほど王族級ディストは甘くない。

 最後の最後、エクステンドも何か新しい感覚を掴みかけていたため、あのまま大人しく負けるつもりは毛頭なかったが、その場合サムライピーチとナックルが無事で済んだかはわからない。グリッドの助けがなければこうも一方的かつ迅速に王族級ディストを倒すことは出来なかっただろう。


「助かりました、グリッドさん」

「ふふん、まあね。私にかかればこのくらい余裕だよ。ディストの消滅を確認したら二人を病院に連れてってあげないとね」


 エクステンドの素直な賞賛に、グリッドは得意げに胸を張って年上とは思えない仕草で笑うのだった。

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やっぱり投資で溶かしてる…
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