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魔法少女タイラントシルフ  作者: ペンギンフレーム
最終章 立ち塞がるもの全て、蹴散らせ
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episode5-2 王族級① 竜&磁力&海賊

 大阪・通天閣


 現実の町並みを完全に模倣して作り上げられた欺瞞世界の通天閣は、激しい戦闘があったことを示す様に半ばで叩き折られ、周辺の町並みは巨大な怪物に踏み潰されたかのように更地へと変貌していた。

 そんな荒廃した偽りの町の一角で、消滅していくディストを見張っている三人の少女たちが居た。


「楽勝だったな」


 豊満な胸部を強調するような派手で絢爛な衣装を身に纏い、その上から大きなコートを羽織り、三角形の海賊帽子を被った如何にもステレオタイプな海賊船長という風体の魔法少女キャプテントレジャーが、右手に持つ刀身の反り返ったカトラスを肩に乗せ、フリントロック式のピストルを持った左腕を面倒そうにだらりと垂らしながら、言葉とは裏腹につまらなそうに呟くと、


「先輩が真面目に戦ってくれればもう少し楽だったと思いますけど……」


 太股を見せつけるように側面に菱形の大きな穴が空いた袴をはき、背中側がパックリと割れて鱗に覆われた肌と翼を大胆に露出した巫女装束の魔法少女、ドラゴンコールが文句を言いたげな視線を向けながら疲れた様子でキャプテントレジャーに言葉を返す。


「つーかなんか滅茶苦茶通知来てるけど、これバグかな?」


 ぴっちりとしたボディスーツをベースにし、その上から機械的な装甲が貼りつけられるように胸部や胴体、手足などを覆い、太ももなど一部露出のある部分は存在するが、ドラゴンコールのような破廉恥さはそれほど感じられない、むしろゴテゴテとした重厚感を感じさせる衣装の魔法少女、エクスマグナがディストを見張りながらチラチラマギホンに視線を向けて二人に話しかけた。


 魔女のノルマとして召集された三人はつい先ほどまで公爵級ディストと戦っていたため、全国各地でディストが大量発生していることを知らなかった。異常なまでに通知が鳴っていたことには気づいていたが、戦闘中でそれを確認する余裕もなかった。


「こっちもだ」

「私のマギホンもです」


 公爵級ディストが完全に消失したところでキャプテントレジャーとドラゴンコールもそれぞれ自分のマギホンを確認すると、エクスマグナだけではなく二人のマギホンにも大量の通知が来ていた。


「とりあえず魔法局に聞いてみましょうか?」

「……いや、待て」


 自分たちが戦っている間に何かとんでもないことが起きているのだと理解したドラゴンコールが現状確認のため、討伐の報告も兼ねて魔法局へと連絡することを提案するがキャプテントレジャーが神妙な表情で二人を制し口元に人差し指をあてるジェスチャーで静かにするよう指示する。


 自分たち以外に一切の生物が存在しないはずの欺瞞世界で、聞こえるはずのない物音。


「何か来るぞ!!」

風竜転身トランス・ストームドラゴン! 猛る火の竜よ、我が詩に応えその暴威を示せ!」

磁力装甲マグネティック・ジャンクアーマー!」


 キャプテントレジャーの警告を受け、ドラゴンコールが風竜の力を身に宿すのと同時に実体を持った火の竜を召喚し、エクスマグナは周辺から引き寄せた様々な金属で身体を覆うことで更に分厚い鎧を着こんだ状態となり、それぞれが周囲への警戒を最大限に引き上げる。


「向こうだ!」


 折れた通天閣の先、キャプテントレジャーの指さす方向から、何か得体の知れない怪物が昆虫のような薄い羽根を背に広げ、ブブブブと生理的な嫌悪感を感じさせる羽音を響かせながら凄まじい速度でキャプテントレジャーたちに向かって突っ込んできた。


「食らえ! マグナパンチイイィィィ!?」


 その怪物が王族級ディストと名付けられた新たなディストであることを三人はまだ知らないが、外見と行動からディストであろうことは即座に見抜いた。


 王族級ディストを迎え撃つように、3m越えの鉄屑装甲に搭乗したエクスマグナが機械拳のパンチを繰り出すが、完全に打ち負けて装甲の右腕部分が木っ端みじんに砕き散らされ、さらにディストの勢いを殺すことが出来ず間抜けな声をあげながら後方にあった飲食店の壁を突き破って吹き飛ばされていく。立て続けに聞こえてくる複数の建造物が崩壊する轟音が、砲弾代わりとでも言わんばかりに吹っ飛ばされたエクスマグナがどれほど強力な一撃を受けたのか伝えているようだった。


 エクスマグナの磁力装甲は攻撃力こそ控えめではあるが、強力な磁力によって固められた鉄屑の鎧は非常に堅牢で魔女の中でも上位の防御力を誇る。その磁力装甲が、たったの一撃で破られた。しかもただ破壊されただけではなく、勢いを受け止めることすら出来ずに。

 その衝撃的な事実に一瞬呆気に取られてしまったドラゴンコールに向けて、不気味な王族級ディストの細長い腕が勢いよく伸ばされた。


「ぼさっとすんな!」


 ディストの攻撃がドラゴンコールに届くよりも、キャプテントレジャーのピストルが火を吹く方が早かった。腹に響くような重低音と共に魔力の弾丸が撃ちだされ、直撃を受けたディストが怯んだようによろめきながら後ずさる。


「何なんだテメェは、気持ち悪いなオイ」

「うぇ~、私虫嫌いなんですけど……」


 ようやくディストの姿をまともに観察できた二人が嫌そうに表情を歪めながらそれぞれ感想を口にする。

 大きさはキャプテントレジャーと大して変わらない170cmほどで、直立二足歩行。それだけを聞けば人型だと思うかもしれないが、そのディストの肉体は異常なまでに細かった。最も近いイメージはナナフシだろうか。流石に実際のナナフシのように枝のように細いとまでは言わないが、それでもとても人間とは呼べない細長い胴体と6本の手足。背には半透明な薄い羽根を持ち、そして何よりも気味が悪いのはその顔。ベースは昆虫なのだろうが、粘土を捏ねて虫と人間の顔を融合させたような、目、口、鼻、耳などのパーツ構成は人間に近いがその形状は昆虫のそれであるという点が生理的な嫌悪感をこれでもかと刺激する。普段のディストのように黒い靄に覆われて輪郭がぼやけているようなことはなく、真っ黒ではあるが昆虫的な光沢をもった一つの生物のように見えるのも嫌悪感に一役買っている。


 通常、ディストは何らかの生物を模した形を取り、その生物の能力を獲得していることが一般的だったが、最近になって複数の生物を無理矢理合体させたキメラのような新型ディストが発生するようになっていた。つまり今キャプテントレジャーたちの目の前にいるディストはその延長、人と昆虫を混ぜ合わせた複合ディストだということだ。


「コ、ワイ、コワ、イ、コワイ、コワイ、コワイィィィィッッ!!」

「先輩、こいつ言葉を!?」

「嫌な感じだ。一気に行くぞ!」


 触角の生えた頭をかきむしる様な仕草をしながら痙攣し始めた虫人型ディストが、耳を覆いたくなるような不快な金切声で、途切れ途切れにでありながらも、確かに怖いと言った。これまでの戦いでディストには知能がある個体が存在することも確認されているが、それでも言葉を喋ったディストは居なかった。もしそれが、人の言葉を真似てただ同じ音を繰り返しているだけなのであれば大した問題ではない。だが、その言葉の意味を理解したうえで、自らの意思のもと言葉を発しているのだとしたら、このディストは今までとは比べ物にならないほど高度な、それこそ人に匹敵する知能を有していると言うことになる。


 知能、それは人間という脆弱な種がこの星の覇権を握る鍵となった最強の武器。


海賊船トレジャーシップ!」


 キャプテントレジャーの扱う多彩な魔法の基本となる、全長50mを越える巨大なガレオン船が空中に出現しディストを圧し潰すように地面に落下した。使用した本人はもちろん、ドラゴンコールもその魔法の性質は知っているため巻き込まれないように大きく後退している。


「コ、コ、ワイ、オマエ、タチニ、モ、コワイ、シテヤル」

風火竜の息吹フレイムストーム!!」


 船底から甲板までを突き破って空中に跳び出したディストが明らかに意味のある言葉を発した。だがその言葉に従ってディストが動き出すよりも早く、行動を先読みしていたドラゴンコールがブレスの魔法を発動し凄まじい炎の奔流を叩きつけた。自身に宿した風竜のブレスと召喚した火竜のブレスを融合させた極めて強力な魔法であり、かつてタイラントシルフの環境魔法を正面から打ち破ったものだと言えばその威力の強大さもわかりやすいだろう。


「コワイ! コワイィィ!!」

「砲門開け! 撃てぇ!!」


 火だるまとなって地に叩き落されたディストがのたうち回りながら悲鳴をあげる。キャプテントレジャーはそんなディストの切羽詰まった様子に油断することなく召喚した海賊船の舷側に配備された砲門を開き、次々と砲撃をしかけていく。


風火竜の息吹フレイムストーム!!」


 砲撃による爆発で土煙があがり、轟音によってディストの悲鳴がかき消されているため、王族級虫人型ディストにどれほどのダメージが通っているのか、すでに倒せているのかは確認できないが、ドラゴンコールは駄目押しとばかりに土煙の中へ再度ブレスを吐いた。


「やったか?」

「それフラグですよ」


 ブレスを吐き続けるドラゴンコールを尻目にキャプテントレジャーがぼそりと呟くと、磁力装甲を修復していつの間にか戻って来ていたエクスマグナが軽口を叩いた。装甲は破られたが本体に大きなダメージはなかったらしくピンピンしている。


「そういうのはフィクションだけの話だっつうの。ほれ」


 息切れでドラゴンコールの魔法が終わると、燃え盛る炎の中にバラバラになった虫人型ディストの身体が散らばっていた。それはまるで叩き落された昆虫の身体が砕け散るような有様だった。


「何だったんですかねこれ。大きさは良くて騎士級ですけど、攻撃は公爵級レベルでしたよね?」

「喋ったのも気味悪いしな。新型の高位ディストかもしれねえな」

「ですね。巨大、超再生、高耐久! の通り一辺倒じゃなくったんですかね~。その割にゃ失敗作な気もしますけど」


 事実、最近のディストは今までよりも耐久力が低く、その代わりに知能が高かったり特殊な能力を有している事例が増えつつあった。例えばプレスが一撃で倒した紙耐久の獣人型男爵級ディストであったり、シャドウが苦戦させられた高い知能を持った人馬型のディストであったりだ。それらはこの最終決戦に向けた試行錯誤、つまり実験だったのだろう。そしてその実験の成果と、新型として新たに与えられた能力の集大成が今、王族級ロイヤルクラスディストとして現れた。


 戦いは、まだ終わっていない。


「コワ、イィィィ」

「コ、コ、コ、」

「コワイ……、コワイ……」

「コ、ワ、イ、シテ、ヤルゥゥゥ!!」


 バラバラになった手足や胴体、羽、果ては触角まで、それぞれが再生を開始し、ゾンビのような緩慢な動きでゆらりと立ち上がる。その総数は、一目で見ただけでも十を超えている。

 一撃で磁力装甲を粉砕するほどの破壊力と、魔女の攻撃にある程度までは耐えられる生命力、そして驚異的なスピードを併せ持ったディストが、群れを成しておもむろに動き始めた。

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[一言] そっちのがコワいぃぃぃっ!!
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