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魔法少女タイラントシルフ  作者: ペンギンフレーム
閑章 とある妖精のその後
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episode閑-7

「ん……あれ、私……」

「目が覚めたラン? ディストを倒した後に意識を失ったラン。ここは魔法界にある病院ラン」


 魔法少女レッドフードの力を借りて大急ぎで魔法少女専用の病院まで駆け込んで美鈴の治療をして貰ったラン。幸いにも入院が必要になるほど重症ではなくて、魔法による治療で全快した美鈴の目が覚めるまでの間ベッドを使わせて貰ってたラン。


「魔法界って、たしか魔法少女と妖精の暮らす世界だったっけ……?」

「フィッシャーブルーは来るの初めてだったラン。観光はまた今度にするラン。体調不良で学校早退したってことにしてるから今日は早めに帰った方が良いラン。美鈴が倒れてからもう2時間くらい経ってるラン」

「そういえば私、学校抜け出したんだもんね。あの後、大丈夫だった? ディストはちゃんとやっつけられてた?」

「大丈夫ラン。君の頑張りのお陰で今日も瀬理町は平和ラン」

「そっか、良かったぁ……」


 ……あれだけ怖い思いをしたはずなのに、思ってたよりも冷静ラン。目が覚めたらもっと取り乱すかと思ってたラン。一歩間違えればやられていたのはディストじゃなく美鈴の方で、そんなこと美鈴もわかってると思ったけど、気づいてないラン?

 魔法少女を続けてディストと戦うことの危険性を実感して、すぐにでも辞めたいって言いだすと予想してたけど、反応が想定と違うラン。


「おや、目覚めたんだね。初めまして、フィッシャーブルーちゃん。私はレッドフード。お隣の文目町の魔法少女だよ。よろしくね」

「は、はじめまして……」

「フィッシャーブルーをここまで運ぶのに協力してくれたラン。お礼言っとくラン」

「あ、そ、そうなんだ。たすけてくれたんですね、ありがとうございます」

「いやいや、助けたなんて言うほど大したことはしてないよ。間に合わなかったし。むしろ君の方こそ適正外のディストを相手によく頑張った。偉いね」

「あ、あぅ……」


 飲み物を持って病室に入って来たレッドフードが簡単に自己紹介をしてから、小さい子を褒めるように美鈴の頭を撫でたラン。友達が出来たとは言っても根が人見知りな美鈴は、恥ずかしそうに顔を赤くして言葉にならない声をあげてるラン。


 魔法少女レッドフード、瀬理町の隣にある文目町を守る二人の魔法少女の内の一人ラン。フェーズ1だけど経験豊富で、男爵級バロンクラスまでならソロでもほぼ確実に勝てる強さラン。変身前は16歳の高校生で、美鈴とはかなり歳が離れてるから子供扱いするのも当然と言えば当然ラン。


「それにしても、瀬理町の魔法少女が世代交代してたなんて知らなかったよ。妖精まで変わってるみたいだし、こっちまで情報が来なかったのも無理はないけど」

「す、すみません、ごあいさつもしないで……」

「ああいや、そういうことではなくて、君は先代の魔法少女が引退してから魔法少女になったのかな?」

「た、たぶん、そうです。前の人、会ったことないです……」

「だと思ったよ。妖精が救援を出してたとは言え、単騎で適正外のディスト相手に突っ張るなんて普通の魔法少女はやらないからね。これは君の失態だよ、妖精くん」

「わかってるラン。見積もりが甘かったのは僕の落ち度ラン」


 敗北を味合わせるっていう目的があったからあえて適正外のディストと一人で戦わせたけれど、死なせない腹積もりだったのがあそこまでギリギリの結果になったのはやっぱり僕の落ち度ラン。今まで遭遇したことがなかったとは言え、新型ディストの脅威を甘く見てたラン。


「よその町にあまり首を突っ込むとゴールドのやつに噛みつかれそうだけど……、このままほったらかしにも出来ないか。フィッシャーブルーちゃん、君さえ良ければ少しばかり私が稽古をつけてあげるよ。一人だと特訓相手にも困るだろう?」

「ちょっと待つラン! 何勝手に話進めてるラン! フィッシャーブルーの面倒は僕が見るから余計なことしなくて良いラン!」


 手伝わせた僕が言うのもなんだけど、なんで美鈴の目が覚めるまでレッドフードが待ってたのか疑問だったラン。単に町が隣同士なだけの大して関りもない魔法少女で、たまたま居合わせただけなんだから運び終わったらさっさと帰るのが普通ラン。でも今理由がわかったラン。レッドフードはお節介なんだラン。新人の魔法少女が一人で町を守ってるのを見過ごせないってことラン。

 まったく、余計なお世話ラン。確かに戦力的な不安はあるし、今後も美鈴が魔法少女を続けるなら特訓して強くなれるのは有難いけど、美鈴はもう魔法少女は辞めるラン。特訓なんて必要ないラン。


「妖精は魔法少女のサポートをするのであって、魔法少女の意思決定に介入はしない。そういう原則のはずだけど? 決めるのはフィッシャーブルーちゃんだよね」

「フィッシャーブルーは人の善意を断れないタイプラン! 善意の押し売りは迷惑ラン!」

「人聞きが悪くない? っていうか、流石にちょっとカチンと来ちゃうかな。本人が言うならともかく、妖精くんにそこまで言われる筋合いはないと思うけど」

「あ、あの! けんか、しないで……」


 珍しい美鈴の大声とその後に続いた蚊の鳴くようなか細い声に気勢をそがれて、険悪になりつつあった空気が若干気まずい感じに変わったラン。


「ジャックくん、私のことを心配してくれるのはすごく嬉しい」

「別に心配なんてしてないラン。僕には僕のやり方があるラン。それを土足で踏み荒らされるのが嫌なだけラン」

「もうっ、またそんなこと言って。でもね、私このままじゃダメだって思ったんだ。ディストと戦うのはすっごく怖いし、痛いのは嫌だけど、でも、私がこのままじゃみんなを守れないでしょ? 私にしか出来ないんでしょ?」

「そんなことないラン。魔法少女になれる子なんて他にもいるラン。自惚れるなラン」

「だとしても、ジャックくんは私にお願いしたでしょ? 私とあなたの、二人でこの町を守ろうって」


 それは、あの時は緊急事態だったから、他の子を探してる余裕なんてなかったから


「守るよ。それがジャック君の、友達のお願いだもん」


 僕が君の友達だから、僕がお願いしたから、だから怖いのを我慢して戦うラン? 痛いのを我慢して戦うラン?

 心にもない、薄っぺらな僕の言葉を信じて、そのために命を懸けるラン?


「レッドフードさん、迷惑じゃなければ私に戦い方を教えてほしいです」

「お安い御用さ。……にしても随分こじらせてる妖精だな」


 友達だから


 友達って何ラン?


 それは世界を守るよりも大切なことラン?


 自分を守るよりも大切なことラン?

 

 わからない、わからないけど、友達なら他にもいるラン


「魔法少女になったのは友達が欲しかったからだったはずラン! でも美鈴には他にも沢山友達が出来たラン! もう魔法少女に拘る必要なんてないラン! 魔法少女を続けて、これからも死と隣合わせに生きていく必要なんてないラン!! 君はもう、僕がいなくたって一人じゃないラン!!」

「新しい友達が出来たから今までの友達はもういらないなんて、そんなの違うよ。ジャックくんは私にとって大切な友達だもん」

「――っ君はいつもそうラン! 合理的じゃないラン! 正常じゃないラン! 君といると僕までおかしくなるラン! もう付き合ってられないラン! 特訓でも稽古でも好きにしたら良いラン!!」


 僕らしくもない、考えがまとまらなくて、何を言えば美鈴を言い包められるのかわからなくて、気が付けばそんな捨て台詞を吐いて逃げ出してたラン。

 きっと思い通りにいかなかったから苛々してたんだラン。怖がって魔法少女を辞めると思ってたのに、美鈴がわけのわからないことを言って僕の思い通りに動かないから。そうラン、だから美鈴はもういらないんだラン。僕の計画通りに動かない魔法少女はいらない、だから辞めさせる、何も間違ってないラン。


 間違ってないはずラン。

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