episode閑-5
関西弁にわかなので間違ってても大目に見てください。
鷲型ディストを倒した翌日、命がけの戦いが精神的な負荷になっていたのか、それとも昨日のダメージが影響したのかはわからないけど、美鈴が体調を崩して熱を出したラン。美鈴を溺愛してる過保護な両親が病院に連れて行ったけど、結局ただの風邪だったみたいで翌日には大分熱も下がって、三日目には目立った症状はなくなったラン。ただ、美鈴本人はまだあまり調子が良くないって言ってこの日も学校はお休みにすることになったラン。
「仮病ラン? サボりラン?」
「ち、ちがうもん。学校行くって考えたらやだなってなるのはほんとだもん」
ベッドの中でこそこそとお絵かきしてる美鈴に率直な疑問を投げかけたらそんな言葉が返ってきたラン。そういうのをサボりって言うんじゃないラン?
美鈴の両親は小学校低学年の子供を一人で長時間お留守番させるつもりはないみたいで、一昨日はお母さんが、昨日はお父さんが、そして今日はまたお母さんがって感じで交代交代で仕事をお休みして一日美鈴に付き添ってるラン。1、2時間おきくらいに美鈴の部屋まで様子を見に来るラン。だからベッドの中でこそこそしてるラン。昨日までは一日中大人しく寝てたんだし、やっぱりサボりラン。
「学校行きたくないラン?」
「……行きたくない」
短い付き合いだけど、良い子か悪い子かの二極で判断するなら美鈴は間違いなく良い子の部類だってことはわかるラン。大人しい優等生タイプラン。面倒くさいからとかそんな理由でサボる子じゃないラン。
別に、どういう理由で美鈴が学校に行きたくないのかなんて本来なら僕には関係ないけど、このまま不登校になられるとちょっと困るラン。
美鈴は世界を守るための正常な判断が出来ない魔法少女ラン。そんな魔法少女は僕の手駒に必要ないラン。荒事に向いてる性格でもないし、早く次の魔法少女を勧誘して美鈴には引退して貰うラン。
元々、美鈴は新しく仲の良い友達が出来たら魔法少女を辞めるだろうって見込みだったラン。だから次の魔法少女勧誘を優先して美鈴は放置するつもりだったラン。でも、美鈴は合理的な判断で動かないってわかったラン。放っておくと何をしでかすか予想できないラン。次の魔法少女の勧誘は並行して続けるけど、最優先事項は美鈴を引退させることに変更ラン。
リスクを抱えるほどのメリットがあるなら多少強引な手を使って辞めさせても良いけど、美鈴にそこまでするのは収支が釣り合わないラン。禍根や火種を残さず、美鈴には早く学校で仲の良い友達を作って自発的に魔法少女を辞めて貰うラン。
時間がなかったからしょうがないとは言え、やっぱり初日は短絡的に動き過ぎたラン。結局そういう安易な行動は自分の首を絞めることになるラン。反省ラン。
「なんで行きたくないラン?」
「だって、一人ぼっちなんだもん……」
……あれ? 学校が始まってから一週間くらい経ってるけど、友達とは言わないまでも軽く話せるような子も出来てないラン?
「転校生なんだからみんな話しかけてくれるんじゃないラン?」
「そうだけど、でも、あんなにわって話しかけられたら何から答えれば良いのかわかんないよ……。うまく答えられなくて、話しかけてくれる子もすくなくなってきて……」
「休み時間とか何してるラン?」
多感なお年頃の少女たちを勧誘、サポートするためのデータとして、一般的な学生の生態は勉強済みラン。小学校低学年の場合男の子なら外で遊んだり教室の中ではしゃぎ回ったりするみたいだけど、女の子は友達とお話したり一緒にお絵かきしたりするらしいラン。美鈴も絵を描くのは好きなんだからまぜて貰えば良いラン。
「ほん、よんでる」
「そりゃ話しかけられないラン」
小学校低学年が読む本て言ったらほとんど絵本みたいな漫画みたいな児童書ラン。大して仲良くもない転校生が一人で本なんて読んでたら話しかけられないに決まってるラン!
「もっと話しかけられやすいようにするラン。ていうか自分から話しかければ良いラン」
「むりだよぅ……、はずかしいもん……」
臆病だとは思ってたけど、初対面でいきなり友達になってくれるかなんて聞いてきたから意外とコミュニケーション能力はあるのかと思ったら全然そんなことなかったラン! 内向的で自分からは友達作れないタイプラン!
うむむ、これはマズイラン。友達なんてすぐに出来ると思ってたけど、このままだと美鈴がぼっちになっちゃうラン。
「はぁ……、仕方ないラン。明日は僕も一緒に学校行ってあげるラン」
「ほんとっ!! あ、でもペットを連れてくるなって先生に怒られちゃうかも……」
「僕はペットじゃないラン! それに他の人には見えないようにするから大丈夫ラン」
「わぁ……! ありがとうっ、ジャックくん!」
「別に君のためじゃないラン。僕には僕の計画があるラン。勘違いしないで欲しいラン」
喜色満面の笑みを浮かべて嬉しそうに声を弾ませる美鈴に一応釘を刺しておくラン。あんまり肩入れされてまた変な行動を取られても困るし、僕の存在が魔法少女引退の妨げになったら面倒ラン。つかず離れず、丁度良い距離感を保って美鈴の友達づくりをサポートするラン。
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そういうわけで翌日、僕は美鈴にくっついて小学校までやって来たラン。この学校に通ってる子は当然だけど美鈴と同じ地域に家がある子がほとんどだから、魔法少女の適性調査は終わってるラン。それなりに才能のある子も何人か居るからそちらに目を向けたくなるけど、今は我慢ラン。
「おはよー」
「おはよう!」
「お、おはよう……」
別に虐められてるとか無視されてるなんてことはないみたいで、美鈴が教室に入ったら近くに居た子たちが朝の挨拶をしてきて、美鈴も若干声が小さいけど挨拶を返せてるラン。
「おはようさん、みすずちゃん! もう風邪はええんか?」
「あ、ぁ、えと、だいじょぶ、です。プリントありがとう、土屋さん」
「ええてええて! 帰り道の途中なんやし気にせんといて!」
美鈴が自分の席で赤いランドセルから教科書やノートを取り出していると、やたらと声の大きい派手な柄物の服を着た女の子が親し気に声をかけてきたラン。何がそんなに楽しいのか、美鈴に話しかけて来た元気な女の子は大口を開けてケラケラ笑いながら大きな声でハキハキ会話を続けるラン。
彼女の名前は土屋杏ラン。家が美鈴の家と近くて、美鈴が休んでる間学校から配られたプリントを届けてくれてたラン。病気が悪くなったら良くないからって直接美鈴に会いはしなかったけど、プリントを受け取った両親から話を聞いて美鈴も彼女のことは知ってるラン。
リーダーシップがあって、明るく社交的な子ラン。美鈴とは正反対ラン。同年代の女子と比較すると運動能力に優れていて、しかも勉強が出来ないわけでもないラン。あくまで人並みと比べればだから完璧超人ってほど優れた子ではないけど、子供の視点から見える狭い世界の中ではまさにリーダーって感じラン。美鈴の所属するクラスの女子グループをまとめあげる実質的なボスラン。まあ別に漫画やアニメみたいに影で牛耳ってるなんてことはないラン。ボスっていうのはちょっとした比喩ラン。
なんでこんなに詳しいのかっていうと、実はこの学校で最も魔法少女の適性が高い子がこの杏だからラン。今列挙した表面的な情報だけじゃなくて、住所や家族構成、趣味嗜好や人には言えないちょっとした秘密まで徹底的に調査済みラン。
僕の調べた限りでは、実は裏があって腹黒なんてこともなく、家族仲は良好だし友達も多いし、頼られれば嫌な顔一つせずに力を貸してくれる姉御肌な面もあって、妬み嫉みの対象になることもあるけどそれ以上にみんなから好かれてるラン。
まったく神様は残酷ラン。友達の一人も作れずに不登校になりかけた美鈴みたいな可哀想な子がいる一方で、こんなに順風満帆で非の打ちどころのない子がいるラン。
「いやー、にしても美鈴ちゃん身体弱いん? いきなり三日も休むから心配したで」
「あ、ご、ごめんなさい……。たまたま、です」
「ちゃうちゃう、責めてへんて。謝らんといてや、ウチが悪いことしたみたいな気分になるわ。てか、なんで敬語なん? 友達なんやから普通に話してや」
「え、ともだち……?」
「そういやみすずちゃんがこの前読んどった漫画、あれウチも好きなんよ。何巻まで読んだ? ウチ的には12巻のとあるキャラとの共闘が激熱で――」
……これ、僕来る必要あったラン?
杏の勢いにおされて当初はしどろもどろだった美鈴だけど、杏が美鈴でも話しやすい話題を積極的に振ってくれるから段々普通に話せるようになり始めてたラン。途中から杏の他の友達も話に加わり出して、美鈴はあっという間にそのグループに馴染み始めたラン。もちろん、まだしばらくは杏がいないとギクシャクしたり気まずくなることもあるだろうけど、クラスに馴染む切っ掛けとしては十分すぎるラン。
うーん、でもこんなに強引なやり方をするんだったらもっと早くから美鈴と仲良くしてあげてくれても良かった気がするラン。もしかして、美鈴が三日間も休んだ理由を察して一人ぼっちにならないように動いてくれたラン? 美鈴の話を聞く限り徐々に孤立し始めてたっぽいし、僕が調べた杏の人柄から考えるとそれもなくはないような気がするラン。
ああ、そういえば小学校とかだと児童が孤立しないように先生がクラスの人気者に誰々のことも気にかけてあげて、とかって指示したりすることもあるらしいラン。魔法局の蓄積されたデータで見たラン。そういう可能性もあるラン。
まあ、美鈴も悪い子じゃないし切っ掛けさえあれば後は自然に仲良くなれるだろうから、その切っ掛けの経緯なんて何だって良いかもしれないラン。
重要なのは美鈴にちゃんと友達が出来て、魔法少女に対する、ひいては僕に対する執着をなくさせることラン。
あとちょっとの間だけ問題がないか経過を見守って、何かあればサポートして、もう充分だってわかったらお別れラン。
次の魔法少女はやっぱり杏が良いラン? でも杏を巻き込むと折角引退させた美鈴がまた首を突っ込んで来るかもしれないラン。美鈴は友達のためなら身体を張れるみたいだから、今度は杏の為に魔法少女をやるとか言い出しかねないラン。
才能がある子はこの学校だけじゃないし、もうちょっと良く考えてから決めることにするラン。




