episode閑-1
大変長らくお待たせいたしました。
最終章、のちょっと前に閑章開始です。
閑章が終わりましたら最終章開始となります。
最終章の本編終了まで書き終わっておりますので毎日更新です。
人知を超越するほどの優れた術師である亜神。そんな亜神によって作られた魔法少女システムを円滑に管理運営するべく作り出された存在、それが僕たち妖精ラン!
僕の名前はジャック! 生まれたてホヤホヤの低位スカウト妖精兼ナビゲート妖精ラン! 成人前の女の子たちの中から才能がある子を見つけ出して魔法少女に勧誘するのと、勧誘に成功して新しい魔法少女が誕生したらしばらく面倒を見てあげるのが僕の仕事ラン!
低位っていうのは妖精の格を表してるラン! 最初は低位から始まって、十分な経験を積んで相応の実績を出して、最高位妖精の審査をクリアすることで中位、高位と上がっていくラン! 格が上がると出来ることが増えるし購入できる魔法道具の幅も広がるから、より魔法少女のスカウトやサポートがしやすくなるラン! 妖精たちの間では総称して権限が増えるって言われてるラン!
僕はまだ生まれたばっかりで何の経験も実績もないから昇格には時間がかかると思うけど、いつか絶対に高位妖精にまで上り詰めて、この世界を守れるような、魔女に至れるほど才能のある子を魔法少女にするのが目標ラン! 世界を守るためなら何だってしてやるラン!
そんな僕の記念すべき最初の配属は瀬理町と呼ばれる西の方にある片田舎ラン。辞令を受けて早速来てみたけど人口はそれほど多くないし、データによればディストの発生率も低いラン。ぺーぺーの新人だからしょうがないかもしれないけど、これじゃあ実績を出すのにも苦労しそうラン。
人口が多ければ多い程、才能がある子を見つけられる可能性が高くなるのは当然ラン。それにディストの発生数が少ないと魔法少女も経験を積みにくくて中々成長しないラン。
お金目当ての魔法少女をあえてたくさん勧誘して縄張り争いさせるラン? そしたら多少才能に劣る子でもフェーズ2まではいけるかもしれないラン。もしくは適当に何人か魔法少女にして、その子たちで時間を稼いでる間にじっくり才能ある子を探すラン?
っと、いけないいけないラン。先のことにばかり気を取られて現状の把握がまだだったラン。えーっと、本局からのデータによると瀬理町の魔法少女は今のところ一人だけ、長い時間をかけてフェーズ2に辿り着いた車両の魔法少女ラン。近々成人を迎えて引退予定で新たな魔法少女の勧誘が急務である、ラン。
万が一のことを考えると魔法少女が一人って言うのは不安だけど、フェーズ2なら少しは安心ラン。この子が引退するまでの間に出来るだけ才能のある子を見つけるラン。引退の具体的な日付は……、8月25日ラン? 今日は、8月26日……。
えぇ~~~~~!? 昨日ラン!? 昨日でもう引退してるラン!? 前任の妖精は何してるラン!? なんで新しい魔法少女を勧誘してないラン!? 今どこで何してるラン!? 戦闘に巻き込まれて破損!? 魔法少女を庇った!? 何してるラン!? 引退間近の魔法少女なんて庇ってどうするラン!? せめて新しい魔法少女を誕生させてからにするべきラン!? なんでその程度のことがわからないラン!? 無能にもほどがあるラン!!
……落ち着くラン、予想外の事態で少し混乱しちゃったラン。居ないものは居ない、今更あれこれ言ってもしょうがないラン。とりあえずディストが発生するまでに早急に魔法少女を勧誘しないといけないラン。贅沢は言ってられないラン。なるべくフェーズ2までは確実に行けそうな子が良かったけど、努力すればまあいけそうかなってくらいの子でも一先ず良しとするラン。
――ディスト発生を検知。瀬理町D地区。等級、無爵。
――繰り返す。ディスト発生を検知。瀬理町D地区。等級、無爵。
本局からの警報が直接頭の中に聞こえてくるラン。
最悪のタイミングラン。現状瀬理町には魔法少女が居ないラン。魔法局もそれはわかってるはずだから近隣の魔法少女にも通知は行ってると思うけど、無爵級は報酬が安いから金目当ての魔法少女は多分来てくれないラン。それに距離が離れると転移にも時間がかかるラン。来てくれたとしてもディストが現実に侵攻するまで間に合うかわからないラン。
あーもう最悪ラン! 今すぐ新しい魔法少女が必要ラン!! この辺りで一番才能がありそうな子を魔法少女にするラン!
簡易ソナーを使って周辺1kmの範囲で才能がある子を探すラン。妖精としての格が上がればもっと広範囲のソナーを使えるけど、低位だとこんなもんラン。それにこのソナーは結構ざっくりしたことしかわからないラン。実際どれほどの才能かは妖精の目に搭載されているセンサーで直接視ないと判断できないラン。
今が8月、つまり夏休みなことが幸いしたラン。魔法少女になるための資格を持った、大人に成りきる前の不安定で清らかな少女が複数ヒットしたラン。その中で最も反応が大きかった子の家を外から観察するラン。
二階建ての一軒家で、どうやら子供部屋が二階にあるみたいラン。しかも熱源感知の反応を見るに今は一人で部屋にいるラン。ラッキーラン。認識阻害で勧誘対象以外には見えないようになってるけど、それでも親と一緒に居るところを勧誘するのは難しいラン。
子供部屋の窓に張り付いて、簡易的な念動魔法で鍵を開けるラン。まるで泥棒になった気分ラン。中位妖精になれば物体透過の権限を得られるからこんな面倒なことしなくても壁をすり抜けてどこにでも侵入出来るらしいラン。コストの問題があるのはわかるけど、そういう便利な権限は低位妖精にも欲しいところラン。
「ひっ!? カ、カボチャのおばけ……!?」
「初めましてラン! 僕はカボチャの妖精、ジャックっていうラン!」
ひとりでに窓が開いたことを不審に感じたようで、部屋の中で何やら絵を描いていた小さな女の子が窓を見上げて僕に気が付いて、小さな悲鳴をあげながら飛びのいたラン。そんなに怖い見た目はしてないと思うけど、お化けに見えるラン? とりあえずここで逃げられるわけにはいかないから友好的に自己紹介から始めるラン。
「ようせい……? おばけじゃないの……?」
「お化けじゃないラン! 僕はちっとも怖くないラン! マジカルジュエルガールズにも妖精が居るラン! それみたいなものラン!」
「え……? マジュガのようせいさんなの……?」
「そんな感じラン!」
マジカルジュエルガールズっていうのは日曜朝に放映されてる女児向けアニメラン。年齢の低い子を勧誘する時はこういう魔法少女アニメを引き合いに出すと釣りやすいって資料に載ってたラン。外見から推察するなら、多分目の前の子は小学校低学年くらいラン? 実際どれほど効果があるのかは半信半疑だったけど、目の前の子から怯えた様子がなくなったところを見るに効果は絶大だったみたいラン。こうなれば話は早いラン。
「僕は君を魔法少女にするために来たんだラン!! 今、この町に危機が迫ってるラン!! 魔法少女になってこの町を守って欲しいラン!!」
それっぽいアニメと似たような言葉で呼びかければ、夢見がちな子供は自分を主人公に重ねて深く考えもせず頷くラン。僕自身にはまだ経験がないけど、長年蓄積されてきたデータがそういう答えを出してるラン。
「まもるって……、なにから……? むりだよ、私、そんなの……」
どうやら夢見がちで怖いもの知らずな子ではなかったみたいラン。むしろそれとは対照的、臆病で自分に自信がないタイプの子ラン。こういうタイプの子はあんまり魔法少女には向いてないけど、今はそんな些細なことを気にしてる場合じゃないラン!
「出来るラン! 君は魔法少女になる資格がある、選ばれた特別な子なんだラン! 恐がる必要はないラン! 魔法の力が君を強くしてくれるラン!! それに僕が君をサポートするラン! もう一度言うラン、僕と一緒にこの町を守って欲しいラン!」
「いっしょに……?」
「そうラン! 僕と君と、二人でこの町を守るラン!」
「じゃ、じゃあ……、私が魔法少女になったら、町を守れたら……、友達になってくれる……?」
「当たり前ラン! 君、名前はなんて言うラン?」
「高波、美鈴」
「じゃあ、美鈴! 僕と君はもう友達ラン!!」
友達、それがこの子にとってどれほど意味のあることなのかは知らないけど、友達だって言うだけで魔法少女になってくれるなら安いものラン。
「……! わ、わかった……、私、やる。魔法少女に、なるよ。友達の頼みだもん……」
ちょろいラン。思ってたより魔法少女の勧誘なんて楽勝ラン。
「ありがとうラン! もうあまり時間がないから細かい説明は一旦省略するラン! 君にはこれから魔法の力を手に入れるために書庫に行って貰うラン! そこで選んだ本が、君に魔法の力を使うための鍵を与えてくれるラン!」
「え、え……? どういう――」
「説明してる時間はないラン! 転移座標:魔法界・魔法書庫」
混乱している様子の美鈴の言葉を無視して強引に書庫へ転移させるラン。魔法少女になるっていう同意が取れた以上はこっちのもんラン。
こうしている間もディストは欺瞞世界から現実へ侵攻するための綻びを探しているはずラン。
無爵級なんて新人でもまず負けることはないディストラン。だから美鈴にも言った通り細かい説明は全部後回しで良いラン。どうせ現場に出て直接対峙すれば恐怖や混乱も抑制されるんだから問題ないラン。とにかく今は美鈴を魔法少女にして欺瞞世界に送り込むことが最優先ラン。
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