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魔法少女タイラントシルフ  作者: ペンギンフレーム
四章 眠れ、命尽きるまで
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episode4-閑 魔術師①

時系列は暴走よりも少し前です

 通勤ラッシュが終わり、随分と客も少なくなってきた平日朝の小さな駅の改札で、長い黒髪に制服姿の女子高生らしき人物がキョロキョロと誰かを探す様にあたりを見回していた。

 普通の学校であればとっくにHRも終わって一限目が始まっている時間ではあるが、高校生ともなれば普段から遅刻気味のだらしない者も少なくはなく、特別にその少女を見咎めるような者はいない。

 この駅の近辺の学校事情に詳しい者の中には、少女の制服がこの辺りでは見かけないものであることに気が付き若干の疑問を覚えた者もいるが、少女にとっては幸い、わざわざ声をかけるほどの物好きはいなかった。


「どうもー、ウィッチカップぶりっすね」

『お久しぶりです、熱尾さん』


 若干ダボッとしたパーカーにホットパンツを履いた明るい髪の少女、魔法少女プレスこと熱尾遊里が親し気に女子高生へ声をかけると、話しかけられた女子高生は手に持っていた小さなメモ帳に手慣れた様子でさらさらと何事かを書き込んで熱尾に見せた。


「普段は筆談なんすね。そういや機械音声で会話してる人って現実じゃあんま見ないっすね」

『目立ちますから。奇異の視線というのは、悪気がなくてもあまり気分の良いものではないですよ』

「そりゃそーだ。んじゃあたしらも目立つ前に移動しましょうか。つか、何で制服なんすか?」


 その制服姿の女子高生は、以前にプレスがウィッチカップの裏でコンタクトを取っていた魔法少女ディスカースの正体、本名を蜂谷はちや調しらべという少女だった。

 二人は先日の邂逅の際に、お互い一度変身を解除して正体を見せ合い、後日こうして現実で会い直す約束をしていたのだ。これはプレスの提案によるもので、プレスが魔術師であることを妖精たちに知られない為、魔法界が管理する欺瞞世界ではなく現実の方が都合が良かった。


『今日は校外学習でねずみさんたちの王国に行く予定なんです。これならば変に目立たないでしょう?』

「そりゃあなるべく怪しまれないようにとは言いましたけど、良いんすか?」


 現実でディスカースと落ち合うにあたり、当初はプレスがディスカースの担当する町まで遠征をするつもりだった。魔女のお茶会ウィッチパーティーのナンバー2であり、まともな魔法少女ではないレイジィレイジを除けば実質的な最高戦力とも呼べるディスカースは、常時とは言わないまでも、その動向をある程度妖精に把握されている可能性が高い。そんな中で、唐突に自身の住む町を離れて咲良町にまで赴くと言うのは妖精の目に留まるのではないかと危惧したのだ。

 ただ、そんなプレスに対してディスカースが直近でちょうど咲良町の近辺に行く用事があり、悪目立ちしないものだという話だったため、その用事まで深堀はせずに咲良町で落ち合うこととしていた。たしかに、学校行事で咲良町の近くまで来るというのであれば、その動向を怪しまれず、細部はプレスの偽装によって完璧に誤魔化すことが出来るだろう。バレるどころか怪しまれすらしないであろう素晴らしい判断だが、それはそれとして折角の旅行とも言えるようなイベントをこのような形で潰してしまって良いのかとプレスは問いかけた。


『こんな私でも気にかけてくれる友人はいるので、午前中は体調不良で休んでいたということにします。なので、話は手短にお願いします』

「あいあい。元々あんまり長引かせるつもりはなかったんすけど、3時間弱かぁ……」


 どうやらディスカースも丸一日プレスに付き合うつもりというわけではないらしい。元より、そもそも今日はちょっとした事実確認と簡単な打ち合わせが主な目的であり、本番はまだ先の話であるためプレスもそれほど長話をするつもりはない。とはいえ、内容が内容だけにその辺の喫茶店で軽くお話というわけにもいかないようで、雑談をしながら駅から10分ほど歩いてディスカースが案内されたのは中々に大きな一軒家だった。


『ここは?』

「あたしの家ですよ。今は親も居ないんで遠慮しないでください」

『わかりました。確かに、内緒話をするには家の中というのは妥当ですね』

「それもそうですけど、あとはまあ、直接話さないとニュアンスの食い違いがあっても面倒なんで……」

『どういうことですか?』

「すぐにわかりますよ」


 プレスが鍵をあけて案内した家の中は、ディスカースの目から見て特段おかしなところは見当たらない、一見どこにでもある一軒家のように見えた。

 だが、何もない廊下の壁に向かってプレスが手をかざすと、段々と白い壁が歪んで消えていき、地下へと続く階段が現れた。


『これは』

「言ったでしょ、あたしは魔術師だって。うちは魔術師の家系ってやつでして、地下室の一つや二つは当たり前なんすよ」

『そういうものなのですか?』

「そういうもんなんです」


 魔術師の常識とやらをディスカースが知る由もないが、プレスがそう言うのならばそうなんだろうと納得して、階段を下りるプレスの後に続いてディスカースも地下へ踏み出した。

 プレスの言葉に大きな間違いはなく、先祖代々から続く大きな魔術師の家系ともなれば伝統的なお屋敷をかまえているところもあるが、科学技術の発展と普及によって世の日陰に追い込まれた多くの術師の家系は、一般人に扮して日常の裏で魔術の研鑽や研究に励んでおり、こうして地下室やら隠し部屋などを抱えている家も珍しくない。


「さ、どうぞ座ってくださいな。ここなら妖精どもにバレる心配もありません。うちの地下は特にしっかり『偽装』してるんでね。まあ別に、あたしの偽装ならよっぽどのことがなければ欺瞞世界でもバレやしないんですけど、念には念を入れときたいじゃないですか。あたしにしては結構我慢強く頑張って来たのに、ちょっとした油断で全部水の泡、なんてのは流石に勘弁ですからねぇ。おっと、一人でぺらぺら喋っちゃってすいません。蜂谷さんも、思う存分話していいですよ」


 機械的な明かりに照らされた、地下の割に薄暗くもない階段を下りた先には通路が続いており、その通路はいくつかの部屋に繋がっているようだった。プレスはそんな通路の最奥から繋がる部屋にディスカースを招き入れて、中央に置かれた簡素な椅子に腰かけるよう促しつつ、堰を切ったように話し出した。


 部屋の床と壁には何やら大きな魔法陣らしきものが描かれており、四隅に置かれた棚の上には獣の頭蓋骨や毛皮、何らかの鉱石など、インテリアと呼ぶには趣味の悪いオブジェがいくつも並べられている。

 促されるまま机を挟んでプレスの対面の椅子に腰掛けたディスカースは、メモ帳に文字を書こうとして、その手をプレスに軽く掴まれる。


「話していいですよ」

「どういうつもりですか。……! 呪いが、発動していない?」

「直接話したいって言ったでしょ。ここは支配の呪いに対する相殺の結界が何重にも張られた部屋です。ここでだけなら、絶対支配の呪いは無効化されます。魔術ってのは時間と手間さえかければ結構色々出来るんすよ。ま、これは父に頼んで作ってもらった結界ですけどね」

「なるほど……、嘘ではないことはわかっていましたが本当にあなたは魔法少女とは異なる存在なのですね。こんなにも長く自分の声で話をするのは随分久しぶり、なのでしょうね」


 そっと自らの喉元に手を当てて、感慨にふけるようにディスカースは瞳を閉じた。

 プレスの調べた限りでは、少なくともディスカースが魔女として名を轟かせ始めた5年前の時点で絶対支配の呪いは発動していた。戦闘中の詠唱は肉声で行っているようであり、また他に人が居なければ呪いの影響も少ないことは予想出来るため、呪いにかかってから一度も声を出したことがないとまでは言わないが、それほど長い間誰かとこうして自身の声を交えて話す機会がなかったのだろう。


「すみません、手短にと言っておいて私が無為に時間を消費するわけにはいきませんね。早速ですが、一つ聞かせていただけますか?」

「どうぞどうぞ、あたしに答えられることなら何でも答えますよ」

「熱尾さんはなぜそれほど妖精を、魔法界を警戒しているのですか? 助けたいお友達のお話というのは、妖精に聞かれてはマズイのですか? 言ってはなんですが、彼らは私よりも多彩な技術を有しています。もちろん私に出来ることがあるのならお力になるのはやぶさかではありませんが、彼らにも協力を求めた方がより確実ではないのですか?」

「まぁ、そこはやっぱり説明いりますよね。大多数の魔法少女にとっちゃ連中は友好的で話の分かるマスコットにしか見えないですしね」


 魔術師としての視点を持つプレスにとって妖精や魔法界というのは怪しさを通り越して完全に黒、世界全体のことを考えれば正義であっても魔法少女個人にとっては悪にしか映らないのだが、その真意を、なぜ魔法少女などというものが存在するのかを知らなければ、子供向けのアニメーションに登場する都合の良いお助けマスコットか何かにしか見えないのもわからなくはない。

 実際、ディスカースはそれほど妖精の干渉を強く受けている魔法少女ではないため、自身の大切なものを自らの手で守るための力を与えてくれ、成りたての時には様々なことを教えてくれた善良な存在であると感じているのだ。魔法界と呼ばれる魔法少女が様々な恩恵を受けられる世界を運営していることも、良い印象に拍車をかける。魔法少女の中には妖精から手厚いサポートを受けたり、あるいは友人同士のように仲良くしている者もおり、はなから疑ってかかる者の方が少数派なのだ。


「んー、簡潔に言うなら連中の一部、恐らく上層部が亜神直轄の選民思想、術師至上主義者だから、ってことになりますが、それだけ言われてもって感じですよね。んじゃまずは、魔法少女の成り立ちから話しましょうか。順を追っていかないと、理解できるものも理解できない」


 結局そうなるであろうことを予想していたプレスは、あらかじめ素人さんにもわかる魔法少女と魔術師の違いを整理してきていたのだが、しかし午前中には話を終わらせなければならないということもあり、ところどころ端折っても大丈夫な部分を頭の中で取捨選択しながら説明を始めた。

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[気になる点] 大多数の魔法少女にとっちゃ連中は友好的で話の分かるマスコットにしか見えない > 嘘だぁ!? 読者的にはそんな妖精は見たことないよ!?
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