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魔法少女タイラントシルフ  作者: ペンギンフレーム
三章 乾坤根刮ぎ、焼き穿て
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episode3-4 ウィッチカップ⑬

 スタジアムの会場に設置された巨大なスクリーンに投影された映像の中で、猛烈な吹雪に見舞われたタイラントシルフが環境魔法での応戦を始めた。


「シルフちゃん頑張れーっ!!」

「やれー!! やっちまえー!!」

「ちょっと二人とも声が大きいっ。もうっ!」


 試合も佳境に差し掛かったところで派手な打ち合いが始まり、それにあてられたように観客たちのボルテージもあがっていく。釣られてエレファントが今までにないくらい声を張り上げて声援を送ると、負けてたまるかと言いたげにプレスが両手でメガホンを作って大声を上げた。

 そんな二人の様子にブレイドは恥ずかしそうに身を縮こまらせて注意するが、大声を上げているのはなにも二人だけではない。周囲の観客にも黄色い声をあげたり軽いヤジを飛ばしている妖精はたくさんおり、特別に目立っているわけではない。


 ロボットのコックピットに搭乗でもするようにシルフが風の巨人の中に入り込み、それに対してパーマフロストが大規模魔法を発動する。


「シルちゃんロボ! トルネードミキサーだ!!」

「何馬鹿なこと言ってるのよ……」

「? シルフちゃんはロボットじゃないよ?」

「真に受けなくて良いから」


 ブレイドもまるでロボットに乗り込んだみたいだなという風には感じていたので、プレスが言っていることの意味が理解できないわけではなかったが、ロボットもののフィクションに縁のないエレファントはいきなりシルフをロボットと言い出したことの意味がわからず疑問符を浮かべていた。


『出ました! パーマフロスト選手の十八番!! ガトリングマキシマムドリルアイシクルだー! 対するタイラントシルフ選手もセクストルネードミキサーで対抗しています!! 凄まじい迫力! これが自然系統の頂点に立つ魔法少女同士の戦い!! 次々と大技が繰り出されどちらも一歩も引きません!』


『タイラントシルフ選手はパーマフロスト選手の凍結魔法を警戒してか巨人の魔法を鎧のように応用していますね。これまでパーマフロスト選手は大型の外敵に対して概念凍結エクストラフリーズを使った記録はないので、中々良い着眼だと思います』


「概念凍結って、たしかエクステンドさんが手も足も出ずにやられたっていう……」

「避ける暇もないみたいな話だったけど、使ってこないってことはシルちゃんの対策は正解ってことだよね~」

「シルフちゃんは賢いからね! それくらいシルフちゃんにかかればお見通しだよ!」

「なんであなたが偉そうにしてるのよ」


 ふんすふんすと鼻息荒く胸を張るエレファントに突っ込みを入れつつ、ブレイドはシルフの抜け目なさに内心で感心していた。咲良町の一件で共闘した時の情報から思いついた対策なのだろうと気が付いたのだ。


『お~っとタイラントシルフ選手! 風の巨人で直接殴りに行きましたがなんとパーマフロスト選手も氷の巨人を繰り出しました!! 巨人対決です! 壮絶な殴り合いが始まっています!!』


『大規模魔法の撃ち合いだけでは埒が明かないと判断したのでしょう。ですが残念ながらパーマフロスト選手も同系統の魔法を持っていたみたいですね。パーマフロスト選手は使える魔法の種類が多いことで有名ですが、まだまだ披露していない魔法を隠し持っているかもしれません』


「あわわっ、駄目だよシルフちゃん! そんな、女の子が殴り合いなんて……!」

「女の子の顔を遠慮なく殴り飛ばせるエレちゃんがそれ言う?」

「ちょっ!? なんで知ってるのよ!?」

「え? シャドウパイセンの話だけど、なんでそんな焦ってんの?」

「あ、あー、そうよね。うん、わかってるわよ」


 先日の一件でエレファントに顔を殴り飛ばされて説教された時の話だと勘違いしたブレイドが顔を赤くして焦り出したが、すぐに勘違いだったことを理解して誤魔化した。

 別に殴られたこと自体が恥ずかしいわけではなく、喚き散らしてみっともない姿を晒したのが恥ずかしいのだ。シルフやプレスたちも訓練中で誰も見ていなかったはずなので、自身の醜態を知っているのはエレファントだけのはずであり、エレファントならまあ良いかという思いがあるから気にしないでいられている。


『まるでびっくり箱みたいな魔法少女ですね! 次はどんな魔法が飛び出すのか胸がドキドキです! おや? しかしぃ? 氷の巨人から飛び降りたパーマフロスト選手! 追撃を仕掛ける気配がありません! 巨人の殴り合いと大規模魔法の応酬を笑顔で見守っています!!』


『あれだけ規模の大きな魔法だと、二つ制御するだけで手一杯という可能性はありますね。タイラントシルフ選手も巨人と竜巻の魔法しか使っていませんから』


『ここで映像が切り替わりました! どうやらエクステンドトラベラー選手とラビットフット選手が遭遇戦を開始したようです!! エクステンドトラベラー選手、リベンジなるか~!?』


『最初の戦いではエクステンドトラベラーは負傷した状態でしたが、万全の状態ではどこまで食らいつけるでしょうか』


「え~!? ここで切り替えなんて殺生だよ~!」

「でも、私はエクステンドさんのリベンジマッチも気になるわ」

「やられたまんまのパイセンじゃないからね~。面白いことしてくれそうじゃん」


 シルフの戦闘行動一つ一つに一喜一憂していたエレファントがこの世の終わりのような表情で肩を落とす。もちろんエクステンドのことも応援しているが、今はシルフの戦いの行方が気になって仕方がないようだった。


『エクステンドトラベラー選手、左腕を巨大化させて強引に振りぬいたぁ! 広範囲に渡って樹木ごとラビットフット選手を叩き潰す算段かぁ!? しかしラビットフット選手、これを大ジャンプで回避ぃ! エクステンドトラベラー選手は巨大化の代償に左腕を失うこととなりましたが、作戦は失敗かぁ!?』


『それはどうでしょう。肉体拡張のリスクが高いのはエクステンドトラベラー選手も理解しているはずです。戦い始めてすぐに一か八かに賭けるとは考えにくいので、何か別の目的があったのではないでしょうか』


『それは一体どのような!?』


『パッと思いつくところでは、地形を変えることでしょう。最初の一戦でエクステンドトラベラー選手はまんまとラビットフット選手の高速立体軌道ピンボールにやられる形となりましたから、平地に引きずり落とそうとしたのではないでしょうか』


『エクステンドトラベラー選手、上空にジャンプしたラビットフット選手に向けて手槍の切っ先を向けています! そして~! 伸びた! 伸びています! 空中のラビットフット選手を串刺しにしようと鋭い切っ先が迫っています』


『なるほど、地形を変えるだけではなく逃げ道を塞ぐと言う目的も兼ねた一石三鳥の攻撃だったわけですか。ですがもしもこれで決まるとエクステンドトラベラー選手が考えているのであれば、少し不勉強ですね』


『ラビットフット選手! 万事休すかと思われましたが、何と空を蹴りつけて凄まじい勢いで地上へキックをぶち込みました! エクステンドトラベラー選手はギリギリ回避に成功! そのまま超至近距離での魔力砲撃を叩きつけたようです!! コメントさん、ラビットフット選手は一体何をしたのでしょうか!?』


『どうこうも、そういう魔法ですよ。ラビットフット選手は月を蹴る魔法を使えるんです。外敵と戦う時にその魔法を使うような機会が少ないのであまり知られていませんが、古参のファンは知っていると思いますよ』


『コメントさんがラビットフット選手の古参ファンであるという意外な事実は置いておきます! ラビットフット選手がいくらジャンプ力が凄いと言っても、月までは届かないですよね!? それなのに月を蹴ったとはどういうことでしょうか!?』


『月を直接蹴るのではなく、空に映る月を蹴るんです。空じゃなくても、水面や鏡でも良いみたいですけど、つまり虚像の月を足場に出来るんですよ』


『なんということでしょうか~!? ラビットフット選手、そのようなとんでもない魔法をこのギリギリまで隠していたとは!』


『それほど利便性の高い魔法ではないので、隠していたというより使う機会がなかったというだけだと思いますよ。虚像の月を蹴れると言っても基本的には頭上にあるわけですし、今回のように上から下へ向かうか、あるいは水面を飛び越える時くらいしか使い道はないでしょうから。まあ、だからこそこうしてエクステンドトラベラー選手の裏をかけたわけですが』


『なるほどですね! そろそろラビットフット選手の一撃とエクステンドトラベラー選手の砲撃で立ち上った砂ぼこりが晴れるころかと思いますが、――ここで映像が再度切り替わりました! なんと!? 少し目を離している隙にタイラントシルフ選手が風の巨人ごと氷漬けにされてしまっています! いったい何が起きたと言うんでしょうか!?』


「また良いところで切り替わるわね」

「あ~!? シルフちゃんがっ!?」

「見事に氷漬けにされちゃってるねぇ……」


 エクステンドとラビットフットの攻防を固唾を呑んで見守っていたブレイドは、知らず知らずのうちに肩に入れていた力を抜いて息を吐いた。

 それとは逆に上の空な様子でエクステンドさん頑張れーと応援していたエレファントは画面が切り替わった瞬間に氷に閉じ込められたシルフを見て悲痛な叫びをあげた。そんなエレファントを窘めつつプレスはありゃりゃと肩を竦めていた。


『驚きましたね。私はてっきり、概念凍結エクストラフリーズはこの規模の相手には使えないのだと思っていましたが……。恐らくタイラントシルフ選手も同じ考えだったのだと思いますが、どうやらパーマフロスト選手は本気ではなかったということのようですね』


「そんな魔法ずるだよー!」

「でも、だったらどうしてディストの討伐には使わないのか不思議ね」

「舐めプしてんじゃない? 氷の魔女って見るからにクソガキって感じだし」

「会ったこともないのに失礼なこと言うもんじゃないわよ」


 さきほどのレッドボール戦でぺしゃんこにされてしまったの比べればいくらかショックは少なかったのか、放心状態になったり目を覆うようなことはなかったが、それでもずるいずるいと子供のように駄々をこねるエレファント。

 もはや今のエレファントに何を言っても仕方あるまいと諦めの境地に達したブレイドは、プレスに疑問を投げかけ、そのあんまりの物言いを注意する。


『強い! 強すぎます! 同じ自然系統の魔女がまるで赤子同然だー! パーマフロスト選手、余裕の勝利で次のクリスタルを確保しに――』


『いえ、待って下さい。まだ戦いは終わっていないようですよ』


『な、なんと!? 走り出そうとしたパーマフロスト選手を背後から何かが撃ち抜きました! タイラントシルフ選手です!! タイラントシルフ選手、閉じ込められていた氷を打ち破って専用武器を構えています! 風はまだ止んでいなかったー!!』


「シルフちゃん! すごい、すごいよシルフちゃん! 勝っちゃった!」


 その鮮やかな逆転勝利を目の当たりにして、エレファントはシルフちゃん凄いbotと化した。


『これは、そういうことですか。どうやら風の巨人で自分を守るという作戦は全くの無意味ではなかったようですね。確かに表面は凍らされていたようですが、内側にまではその氷が及んでいなかった。パーマフロスト選手はそうと気づかずに戦いは終わったと勘違いして隙を晒してしまったのでしょう』


『最後まで諦めないタイラントシルフ選手の執念がつかみ取った勝利ということですね! タイラントシルフ選手、なにやら一瞬キョロキョロと辺りを見回してからクリスタルに手を添えました! 他の魔女を警戒しているようです!』


「エクステンドさんが一方的にやられた魔法を打ち破るなんて、大したものだわ」

「確かシルちゃんの序列が十四位で、氷の魔女が五位だっけ? すっげー大物食いじゃん」


 ブレイドとプレスはパーマフロストの強さを正確には知らないが、それでも良く知っている先輩であるエクステンドを歯牙にもかけないほど強いこと、魔法少女たちの頂点に君臨する魔女の中でもトップファイブに数えられる強さであることから、シルフの掴み取った勝利がどれほど価値のあるものかをよく理解出来た。


『南中層のクリスタルを確保したウィグスクローソ選手がすぐそこまで迫っているので、当然の反応でしょう。位置的にクリスタルを染めるのは間に合うでしょうが、ぶつかりますね』


『激戦の末に打ち破った強敵パーマフロスト選手に続き、次はウィグスクローソ選手が相手とは目が離せませんね! 再び映像が切り替わり、エクステンドトラベラー選手! エクステンドトラベラー選手が北内層のクリスタルを確保しています! リベンジマッチを制したのは不屈の挑戦者、エクステンドトラベラー選手だったようです!』


『戦いが同時に発生してしまったのは残念でしたね。ラビットフット選手との因縁の戦いがどのような決着を迎えたのか気になるところですが、それは後日発売される予定の様々な角度から今回の試合を記録した映像で確認することにしましょう。それぞれの戦闘をまとめたお買い得BOXや一人の選手に密着した推し専用映像など各種ラインナップを用意しているようです』


『自然な宣伝です! コメントさん、ダイレクトマーケティングがお上手です! それはそれとしてイエローチームはこの終盤にまさかの二枚落ちとなってしまいました!  残されたレッドボール選手は落とされる可能性は低いと思われますが、厳しい戦いを強いられます!』


「エクステンドさんの方はもう終わっちゃったのね……。映像、買おうかしら」

「あたしも見たい! みんなでお金出し合って買お! ね!」

「嫌よ、手元に置いておきたいもの」

「えー! エレちゃんはー?」

「私も自分の分が欲しいから自分で買うよ」

「うぅ、薄情者……。いいもんいいもん! 自分で買うもん!」


 解説妖精は残念がっているが、同時に戦闘が起こったことでリアルタイムでは見れなかったカードが発生したのは販促的には追い風だったらしい。

 ブレイドは戦闘が全て収録されたお買い得BOXの購入を検討しており、エレファントはシルフ密着映像の購入を決定していた。


『北中層クリスタルを確保して現在は北内層に向かっているようですが、エクステンドトラベラー選手は南東に向かって動き出したのでぶつかることはなそうですね』


『エクスマグナ選手はひっそりと南西が外層のクリスタルを奪取しています! 近辺に他の魔法少女はウィグスクローソ選手だけなので、このまま試合終了までレッドチームの陣地を奪っていくつもりでしょうか!』


『残り時間後五分で、各チームの小クリスタルの数はタイラントシルフ選手が確保中の物も含めてブルーチーム4、レッドチーム9、イエローチーム7です。イエローチームの二人は復活出来たとしても他チームのクリスタルまで奪いに行くのは間に合わないでしょうから、干渉できるのは実質レッドボール選手のみです。そのレッドボール選手もこの位置からだと奪えるのはレッドチームのクリスタルくらいでしょう。ライブさんの言う通りエクスマグナ選手を止められる魔女は付近にいませんので、レッドチームは残りの5分でクリスタルをかなり奪われることになると思われます。現在のリードを保ちきれるとはまだまだ言い切れません。後はウィグスクローソ選手とタイラントシルフ選手の戦いがどうなるかで試合の行方は決まると言えるでしょうね。ここでタイラントシルフ選手が負ければウィグスクローソ選手はブルーチームのクリスタルを奪い、エクステンドトラベラー選手がイエローチームのクリスタルを奪うことで勝利がほぼ確定します。逆にタイラントシルフ選手が勝利すれば、レッドチームで状況に干渉できるのはエクステンドトラベラー選手だけとなるのでブルーチームが他2チームに比べて圧倒的に有利です。イエローチームの勝ちの目は、なるべくレッドチームとブルーチームがお互いのクリスタルを奪い合ってその隙にレッドボール選手がレッドチームのクリスタルを奪う、といったところでしょうか』


『頭がこんがらがって来ました……』


『つまり、どのチームにもまだチャンスはあるということですよ』


『なるほど! それは非常にわかりやすいですね! ん!? ちょっと待って下さいコメントさん!! ドッペルゲンガー選手が上がって来てますよ!!』

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― 新着の感想 ―
[一言] お買い得ボックス…一体お幾らなんだ…
[一言] お買い得BOX・・・えっ、じゃああの放送事故も収録されてしまうのか クローソさん、魅了中のこと覚えてなくてBD見て真実を知ったりとか・・・
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