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魔法少女タイラントシルフ  作者: ペンギンフレーム
三章 乾坤根刮ぎ、焼き穿て
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episode3-4 ウィッチカップ⑨ 【風VS重力】

 最初にドラゴンコールさんを倒してからは他のチームの魔法少女と会敵することもなく順調に小クリスタルを確保することができ、ブルーチームは現状大クリスタルが1つと小クリスタルを8つ、合計で13ポイントを保有してます。これはポイント総数の35の1/3を上回る数字であり、後は逃げ回りながら他チームの小クリスタルを奪って回るだけでも十分に勝算があると思ったんですけど、司令塔であるドッペルゲンガーさんはそう考えなかったみたいです。


『シルフちゃん、多分イエローチームの拠点付近には今誰もいないわ。北東外層のクリスタルを確保したらイエローチームの大クリスタルの様子を見てみて。誰もいないようならそのまま奪取よ』

『誰かいた場合は逃げるってことですか?』

『あなたの判断で勝てそうな相手なら挑んでも良いけど、レッドボールちゃんが居たらすぐに引き返しなさい。視界に入ってすぐなら、あなたの速さなら振り切れるはずよ』

『わかりました』


 周囲の警戒をしながら次の小クリスタルの位置を確認して魔法で飛行し続けるというのは案外集中を要する行為で、マップ上の小クリスタルの色の変わり方から他チームの動きを予想するなんて芸当は私には出来ません。なのでその判断については拠点防衛で暇をしているドッペルゲンガーさんに一任してます。


 大クリスタルは確保するのに1分とかなりの時間が必要ですし、1つで5ポイント分なので他のチームもしっかり守ってると思いますから、それを取りに行くというのは結構リスクが大きいです。敵が居たら引き返すにしても、時間は無駄になってしまいます。でも、ドッペルゲンガーさんの言う通り誰も居なくて労せず奪い取ることが出来ればかなりの優位を得られることも確かです。


 ハイリスクハイリターン、私だったら絶対にしない考え方ですけど、ドッペルゲンガーさんだって勝利を目指している気持ちは同じはずですから、その判断を信じましょう。


『私はどーします?』

『エクスマグナちゃんは作戦通りよ。次は南西中層の小クリスタルを確保して』

『ちぇ~、私もそろそろ見せ場が欲しいんだけどな~』

『真面目にやってください!』


 ふざけた態度のエクスマグナさんを怒鳴りつけて一方的に通信を切ります。

 一応小クリスタルの確保はちゃんとやってるみたいなので別に良いですけど、こっちは絶対負けられないんです。気を抜いて他チームに足をすくわれるなんてことがあったらたまったものではありません。

 その後も私が北東外層のクリスタルを確保してる時に唐突に歌いだしたりとやる気がみられないので都度釘を刺していたんですけど、ドラゴンコールさんを見つけたって言ったっきり通信が途絶えて、少し時間が経つとマップ上からエクスマグナさんとドラゴンコールさんのアイコンが消えました。負けたか、相打ちになったということです。


削り散らす竜巻トルネードミキサー!」


 エクスマグナさんが落ちてから少ししてイエローチームの拠点に到着した私は、物陰から誰も居ないことを入念に確認したうえでクリスタルを覆う分厚い氷を削り取りました。

 エクスマグナさんが落ちたのは痛いですし肝が冷えましたけど、ここで私が大クリスタルを確保出来ればブルーチームにはまだ余裕があるので冷静さを保ててます。そう考えると消極的な策ではなくドッペルゲンガーさんの積極策は正解だったのでしょう。読み通り大クリスタルを守ってる魔女もいませんでしたし。


『イエローチームの大クリスタルの確保を始めます』

『誰もいなかったのね? エクスマグナちゃんは落ちちゃったみたいだから無理しちゃ駄目よ』

『ドッペルゲンガーの言う通り誰もいませんでした』


 クリスタルの確保中は魔法が使えなくなりますけど、通信やマップを見ることは出来るのでドッペルゲンガーさんと情報共有しながらマップを確認します。

 一応、周囲の確認はしてるつもりでした。誰かが近づいてきたらわかるように、マップを見ながらも耳は澄ませてましたし、通信中はマップを見ないようにして周囲を目視して、必ず目か耳のどちらかは索敵に当ててました。


 でも、その登場の仕方は完全に意識していませんでした。

 あともう少しというところで突然目の前が輝き出して、かつて魔法界で一度遭遇した黒づくめの少女が目と鼻の先に現れたのです。


削り散らす竜巻トルネードミキサー!!」

シミになっちゃえレッドステイン


 その輝きが転移光だと気づいた時点で、未練はありましたけど大クリスタルから手を離して、この距離では逃げきれないと思って攻撃魔法を詠唱し、同時にその少女も仏頂面になりながら私とほぼ同時に詠唱を終えました。





『これが! これが対人最強と呼ばれる所以です!! どんな魔法をもねじ伏せ叩き潰し、最後に立つのはただ一人!! レッドボール選手! 復活と同時にタイラントシルフ選手を魔法ごと撃破しました! 一切の抵抗を許さない圧倒的な勝利です! エクステンドトラベラー選手にはまさかの反撃を受ける形となりましたが! やはり強い! 強すぎます!』


『エクステンドトラベラー選手の活躍で私も少し感覚が麻痺していたかもしれません。やはりレッドボール選手は魔法少女同士の戦いでは理不尽に感じるほどの強さですね。彼女が魔女になる前に対抗戦を荒らしに荒らしていた頃を思い出しましたよ。タイラントシルフ選手はあと一歩というところで大クリスタルの確保を逃してしまいました。もしも間に合っていればイエローチームの復活地点はランダムになるのでかなり状況も違ったと思いますが、残念でしたね』


『試合開始から一貫して優勢を保っていたブルーチームですが! ここにきて立て続けに二人が落とされてしまいました!! こうなるとドッペルゲンガー選手も流石に動かざるを得ないと思いますが、どうでしょうか!?』


『確保していた小クリスタルの数も多いので復活には時間がかかるでしょうし、このままでは一方的にクリスタルを奪われてしまいますから、まず間違いなく動きますね。彼女が積極的に動くとなるとレッドボール選手一強という状況でもなくなりますから、波乱が巻き起こるかもしれません』


『ここまでの試合展開も波乱の連続だったとは思いますが、さらに面白くなりそうだということですね! ん? おや? ドッペルゲンガー選手、動きません!!』


『エクスマグナ選手とタイラントシルフ選手が落ちたことは同じチームならマップを見ればすぐにわかるはずです。つまりドッペルゲンガー選手は気づいていないのではなく、わかった上で動く気がない……? 不可解ですね。何か作戦があるのかもしれませんが、ここは拠点を空けてでも前に出るのが最善だと思いますが……』


『そうこうしている内にパーマフロスト選手が南東内層の青いクリスタルを黄色に染め上げました! レッドボール選手も北東外層の青いクリスタルを目指しています! どんどんブルーチームのクリスタルが奪われています!』


『タイラントシルフ選手との遭遇の間、数秒とはいえブルーチームのマップにはレッドボール選手のアイコンが表示されていたはずです。ですからドッペルゲンガー選手はレッドボール選手が復活したこと、それから南東内層のクリスタルを奪われたことを認識しているのです。ブルーチームが現在確保している小クリスタルは南から東にかけての中層~外層なので、このまま何もしなければほとんど食い荒らされる形になりますが、それでも動く気配はありませんね』


『一体どのような作戦なのか非常に気になるところですね! レッドチームのドラゴンコール選手は無事西外層の小クリスタルを確保し次は南西外層のクリスタルを目指しているようです! さらにウィグスクローソ選手とエクステンドトラベラー選手は行動を共にしたまま北中層のクリスタルを確保し、ここに来て南北で二手に分かれるようです!』


『これは面白くなってきました。イエローチームがブルーチームのクリスタルを奪ってレッドチームがイエローチームのクリスタルを奪うような状況になっています。さきほどまでレッドチームは劣勢でしたが、ここに来て巻き返して来ましたね』


『ラビットフット選手も復活し東側のクリスタルを目指して動き出したようです! うむむ、どうやら各選手の動き的に少しの間別チームと遭遇することはなさそうです! レッドチームは西に一人、北寄りに二人、イエローチームは南寄りの中央に一人、北東に二人、ブルーチームは南に一人なので、純粋なクリスタルの取り合いになりそうです!』


『通常の対抗戦であればむしろ序盤はそれが一般的ですよ。こうもぽんぽんあちこちで戦いが起こるというのはよほど好戦的で自信家の魔法少女が揃った時でもないと中々ありません。折角のウィッチカップなので魔女の皆さんもあえて戦闘を回避していないのかもしれませんね』




 控室で目を覚ましたことでレッドボールさんに負けたことを理解した私は、絶望に圧し潰されそうになる心を奮い立たせてマップを確認し、次々と塗り替えられていく青色のクリスタルを見て思わず眩暈がしました。


「どうしてドッペルゲンガーさんは動かないんですか!?」

「そんなの私に言われたってわかんないよ。あの人のことだから何か考えはあるんだろうけどさ」


 大クリスタルを守るというのが重要なのはわかりますけど、そんなことを言っていたら小クリスタルが全て奪われてしまいます。私よりも一足先に控室に来ていたエクスマグナさんに怒鳴りつけるようにドッペルゲンガーさんの行動の真意を聞いても、返ってくるのはどうでも良さそうな返事だけでした。


「私は! 絶対に負けられないんです!!」

「そんなこと私に言われても困るんだけど……。まあ、復活したら最善は尽くすよ」


 ああ、もう!

 大体何なんですかあの魔法! あんなの反則じゃないですか! こっちの魔法ごと圧し潰すって、そんなの私じゃどうやっても勝てないじゃないですか! 強いとは聞いてましたけどあんなのずるです!


「落ち着きなよ、タイラントシルフ。そんなんじゃ勝てるものも勝てないよ」

「わかってますよ!」

「マップをよく見てみなよ。タイラントシルフが目を覚ますまでにイエローチームがうちのクリスタルを3つ奪ってるけど、逆にレッドチームがイエローチームのクリスタルを2つ奪ってる。私たちのチームのクリスタルが減ってるのは事実だけど、どこか一つのチームが圧勝してるわけじゃないじゃん? だったらまだ勝ちの目はあるよ」


 エクスマグナさんの指摘を聞いてもう一度よくマップを見てみます。

 私が落ちる直前に見たマップと比べると、南東中層、東中層、北東外層のクリスタルが青から黄色に変わっていて、北北西外層、北内層のクリスタルが黄色から赤に、南西外層のクリスタルが無色から赤になってます。

 数で言うとレッドチームの小クリスタルが9つで、イエローチームが7つ、ブルーチームが4つです。


 確かに、ちょっとだけレッドチームがリードしてるようにも見えますけど、まだ絶望的と言うには早いかもしれません。


「復活の待ち時間がマップに出てるでしょ? 私らが復活する時点で残り時間は約10分。急げばまあ、1人当たり2つか3つは小クリスタルを確保できると思うし、余裕余裕」

「誰とも遭遇しなければというのと、東から南にかけて外層のクリスタルを取られなければという条件つきになると思いますけど」

「そうだね。でも、ちょっとは冷静になれたっしょ?」

「……はい」


 最初の一戦以外はずっと作戦通りに、自分のチームが優位を保ったまま試合を続けられていたので、その優位を崩されたことで、敗北が現実味を帯びて近づいて来たことで、私は知らず知らずのうちに視野が狭まってしまっていたようです。

 エクスマグナさんの言う通り、そんなんじゃ勝てるものも勝てません。冷静になって、状況を見極めて、そして必ず勝つんです。絶対に勝って、やり直すんです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 未だに一度も落ちず、魔力も使ってない温存策かな。 人数多くても魔力残量が少ないなら戦って潰せば良い作戦が使えるし(。。
[一言] わりと最強だったシルフは苦戦することはあってもここまで一方的に負けたのは始めてですね とんでもない才能があってもまだ未熟か
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