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魔法少女タイラントシルフ  作者: ペンギンフレーム
三章 乾坤根刮ぎ、焼き穿て
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episode3-4 ウィッチカップ⑧ 【竜VS磁力】

「暇ヒマひ~ま~、暇だよーっと」

『黙ってクリスタルの確保に専念してください!』

『私たち以外は随分忙しないみたいだけれど……』


 試合開始からもう間もなく15分が経過することとなるが、その間他のチームの魔女と一度も遭遇せずひたすら移動とクリスタルの確保だけを行っているエクスマグナは、何とはなしに自作の即興ソングを通信で披露しながら南西中層のクリスタルに向かって移動していた。

 何やらこの試合に特別な思い入れがあるらしいタイラントシルフとは違い、エクスマグナは楽しそうだからという理由だけでウィッチカップに参加している。先日タイラントシルフと取引をして真面目にやると言った手前、ドッペルゲンガーの立てた作戦通りに行動しているが、どうにも刺激が足りずに欲求不満気味だった。しかも他のチームは楽しそうにドンパチしているらしいともなれば猶更だ。


 ブルーチームは最初の一戦以来一度も他のチームの魔法少女と遭遇していないため、具体的な状況はわかっていないが、他のチームがクリスタルを確保する場所や時間を見れば何となく予想できることもある。例えばレッドチームが全滅かそれに近しい状況になっていたことや、現在はイエローチームが最低でも一人は復活待ちであろうことなど。

 それらの情報は一番手の空いているドッペルゲンガーが精査し随時メンバーに共有することで作戦を細かく更新しており、タイラントシルフは現在イエローチームの大クリスタルを確保しに向かっているのだが、エクスマグナに与えられた作戦は最初から一貫して南西~南東にかけてのクリスタル確保と防衛だった。


 いい加減飽き飽きしながらも足を動かし目的の小クリスタルが視界の先に入ったところで、エクスマグナは素早く木の陰に隠れ小声で通信を開始した。


「ドラゴンコール発見しましたよー。やっちゃう?」

『勝てるんですか?』

『待って、もしかするとイエローチームの誰かが近くまで来てるかもしれないわ。一旦下がって様子を――』

「ごめん見つかったわ。磁力制御スピンルーラー


 エクスマグナは一方的にそれだけ告げて通信を切り、魔法を発動しながら横っ飛びでその場を離れる。

 通信には乗らない程度の小声だったが、エクスマグナの耳には物騒な詠唱が確かに届いていた。

 直後、轟音と共に砂嵐を横向きにしたような土砂の砲撃が木々をなぎ倒し地面をえぐり取った。


「やっほー。リーダーから引けって言われてるんだけど見逃してくれる?」

「顔に早く遊ぼうって書いてあるよ、マグナちゃん。息吹セディメント

「うへへ、ばれてらぁ。磁場直線マグネティックロード


 飛行能力の有無とは関係なく、基本的な身体能力に勝るドラゴンコールと鬼ごっこをしてもエクスマグナに勝ち目はない。だから一応、リーダーの指示に従う気はあったんだというポーズの為に口にした言葉だったが、魔法少女としての同期であり魔女としても同期であるドラゴンコールにはエクスマグナの本心はお見通しだったようで、しょうがないなぁというような苦笑と共にいつの間にか召喚されていた地竜の口から凶悪な砂嵐の魔法が放たれた。

 しかしその土砂のブレスを阻む様に、周囲の巨木が大地に深く張られた根っこごと浮き上がってエクスマグナの前に次々と並んでいき、二つは盛大にぶつかり合って砂ぼこりと木片をまき散らした。

 吐き出された砂嵐が減衰してその勢いを完全に弱める頃には、周囲一帯の木々は全て砂嵐によって木片へと変えられ、ボコボコに盛り上がった大地だけがそこに雄大な樹木が存在したことを示していた。


「小っちゃくても意外と馬鹿には出来ないかもよ。磁場団子マグネティック・ジャンクボール

息吹セディメント息吹ファイヤー


 実体を持った地竜の口から先ほどと同じように砂嵐が放たれ、一拍遅れてドラゴンコールの口元に真っ赤な魔法陣が現れて炎が放たれた。二つのブレスは途中で混ざり合い土砂を伴った炎の竜巻となり、ドラゴンコールへ向けて殺到していた棘のような無数の木片が片端から燃やし潰されていく。


「やっぱ真正面からの撃ち合いじゃ勝てないか。引き合えジョイント


 ドラゴンコールが木片を燃やしている隙に少し距離を取って身を潜めたエクスマグナは右手の親指と人差し指を開いて大口を開けている地竜の上あごと下あごに照準を合わせ、詠唱と共に勢いよく指をくっつけた。するとあたかもその指に連動したかのように地竜の口が閉ざされ、砂嵐がその体内を蹂躙しゆっくりと崩れ落ちた。


 魔法少女に対して直接的に作用する魔法はプロテクトに阻まれて通らない。それはエクスマグナの磁力であっても同じことであり、例えば専用武器のような元々磁力に反応する物であれば取り上げることも出来るが、それを理解しているドラゴンコールは専用武器を使わずに戦っている。

 しかし、それはあくまでも魔法少女自身に限った話であり、魔法少女の作り出した物にまではそのプロテクトは存在しない。


「あんまり時間かけすぎても怒られそうだし、そろそろ本気出しますか。磁力巨人マグナジャイアント


 見栄えの良い派手な戦闘を行ってMVPの獲得を狙っていたエクスマグナだが、ぐだぐだ続けても却って冗長になるだけだろうと考え最も盛り上がるであろうジョーカーを切った。

 単純明快に磁力で寄せ集めたものを人型にして操るだけの魔法だが、質量というものはただそこにあるだけで、そして激しく動くだけで莫大なエネルギーを持っている。大きさとは力だ。単純であるからこそ、単純に強い。そして大きければ大きいほど、派手で見応えがある。


「おーおー、絶景絶景」


 先ほどの磁場直線とは比べ物にならない範囲から集められた木々が、そして大地が巨人を形づくり、エクスマグナはその肩の上に乗って悠々と景色を眺めている。


 本来磁力で引き寄せられる物には限りがある。例えば車やパソコン、家電製品などの金属が含まれているものがそれにあたり、今回ウィッチカップのフィールドとして選ばれた森林地帯のような場所はそうした磁力に引き寄せられる物が非常に少なく、一見して相性が悪いように思えるかもしれない。だが、その程度で戦えないようでは魔女とは言えない。魔女とは魔法少女を超越した一歩先にある存在だ。先ほど実際にやってみせたように、本来磁力に引き寄せられることのない樹木や土砂でさえも、エクスマグナの手にかかれば磁力の支配下に置くことができる。


「くらえー! マグナパーンチ!」


 乱立していた木々が引っこ抜かれたことで、ドラゴンコールの周囲にはすでに身を隠す物がない。振り下ろされた巨人の拳をドラゴンコールは翼を広げて空へ飛び上がることで回避するが、エクスマグナも当然そう来るであろうことは呼んでいる。


磁界気流マグネティックストーム


 磁力によって大気を滅茶苦茶にかき混ぜることで疑似的な嵐を巻き起こすこの魔法はドラゴンコールにとって天敵とも言えるものだった。せめて風竜か火竜のサポートがあれば、タイラントシルフと戦った時のように空を飛ぶことも出来るが、自身の力だけでは嵐に巻かれて地に落とされてしまう。現にドラゴンコールはほんの数秒のみ飛行することで何とか巨人の拳を回避したが、すぐに墜落してしまった。

 タイラントシルフからの報告で、エクスマグナは火竜と風竜が実体化出来ない状態にあるのを知っていた。だから序列的には格上にあたるドラゴンコールを相手にここまで余裕を持って対応できている。ふざけているように見えて、最初から全ては計算づくだったのだ。


 だが、人というのは間違えるものだ。

 全てが思い通りに行くなんてことはそうあるものじゃない。

 魔女は魔法少女にとって一つの到達点だが、そこで成長が打ち止めになるわけではない。


「とどめだ! マグナファイナルー!」


 調子に乗ったエクスマグナの掛け声と共に、嵐の上から叩き潰す様にどこにも逃げ場を残さず繰り出されたその一撃は、何かに受け止められた。

 真っ赤な鱗に、ギラリと光るトカゲのような瞳。そして何よりもその巨体。エクスマグナの磁力巨人に迫るほど大きな、赤いドラゴン。樹木によって作り出された巨人の一撃は、大きな赤鱗のドラゴンによって受け止められたのだ。


 エクスマグナは知らなかった。ドラゴンコールがこんな魔法を隠し持っていたことを。

 恐らく公的な場面や映像に残る場面では一度も使ったことがない、もしかすると最近になって使えるようになった魔法なのかもしれないと考察しながら、それ以上に興味を引かれていたのは――


「ドラゴンコール……!」


 目の前にいるこの巨大な赤燐の竜が、ドラゴンコール自身だと言うことだ。

 召喚によって呼び出されたのではない。エクスマグナは自分の目で確かに見た。巨人の拳に叩き潰される直前、光を纏ったドラゴンコールの身体が膨れ上がるのを。ドラゴンコールが逃げも隠れもしていないことを。


「――かっこ良い!」


 受け止められた樹木の腕を肘先からもぎ取られ、逃げる間もなく吐き出された熱線のような炎の息吹に身を焼かれながら、エクスマグナの瞳は純粋な少年のように輝いていた。





『ドラゴンコール選手! この土壇場で切り札を切って来たのか~!? まさかの逆転勝利です! エクスマグナ選手が下克上を決めるかのように思われましたが、最後に笑う者はドラゴンコール選手でした!!』


『外敵を相手に戦っている魔法少女の皆さんはご存知かと思いますが、大きいと言うのはそれだけで恐ろしい力を秘めています。エクスマグナ選手の磁力巨人、そしてドラゴンコール選手の巨大な竜に転じる魔法、ともに切り札の名に恥じない魔法だったと思います』


『いやー、ここまで大規模な戦いになると見ているこちらの方もワクワクしてきますね! ですがこんな魔法があるならなぜもっと早く使わなかったのでしょうか!? とくにドラゴンコール選手はこれまでにも使えそうな場面はあったと思いますが!?』


『単純に考えるのであれば、タイラントシルフ選手相手には出し惜しみした、ラビットフット選手には使わなくても勝てると判断した、という可能性があると思います。ただ、何か使いたくない理由や使えない理由があった可能性もあるので一概には何とも言えませんね。案外、このウィッチカップの中で新たに目覚めた魔法なのかもしれませんよ』


『おお! それは何とも熱い展開ですね! ライバルのエクスマグナ選手に追い詰められて新しい魔法に覚醒するなんて、まるで漫画やアニメのようじゃないですか!』


『あくまで可能性の話ですよ。それより私としてはエクスマグナ選手の方が気になりましたね。タイラントシルフ選手からある程度事前に情報共有はされていたのでしょうが、それにしても最初から磁力巨人を使っても良かったと思いますよ。序列的には格上に当たる相手ですから、出し惜しみ出来るような状況でもないはずですから』


『なるほど! エクスマグナ選手には何か作戦があったのかもしれませんね! しかし残念ながら今回はドラゴンコール選手の執念の前に散ることとなってしまいました! 南西中層のクリスタルを赤く染めたドラゴンコール選手は西外層のクリスタルへ向かっているようですが、これはやはり南西内層のパーマフロスト選手を避けた形でしょうか!?』


『おそらくそうでしょうね。レッドチームが逆転するためには、ドラゴンコール選手が南側のクリスタルを確保していくことも重要です。それをあえて引き返すということはそれだけパーマフロスト選手を警戒しているのでしょう。ウィッチカップ中は限定開放の魔女たちも開放を使用していますが、それでも完全開放の魔女と比べるとやはり実力差はありますから』


『一方でその警戒されているパーマフロスト選手はドラゴンコール選手を追うのではなく南東内層のクリスタルを確保しに向かっているようです!』


『イエローチームにとっては現状レッドチームよりもブルーチームの方が優先して対応すべき相手なのでしょうね。確保している小クリスタルの数はそれほど変わりませんが、イエローチームは二人復活待ちですから、ブルーチームのクリスタルを積極的に奪いに行かないと差を広げられるだけですからね』


『相変わらずドッペルゲンガー選手に動きはないので、現在自由に動ける人員が一人だけというのはブルーチームもイエローチームも同じのように感じますが!?』


『ドッペルゲンガー選手が今も拠点にいることは私たちにはわかりますがパーマフロスト選手にはわかりませんから。それに、それを知っていたとしてもいつドッペルゲンガー選手が動きだすかわからない以上、どちらにせよブルーチームの対応が優先されることに変わりはないのですよ』


『そういうことでしたか!! えー、ウィグスクローソ選手とエクステンドトラベラー選手は行動を共にしながら北西中層のクリスタルを確保しています! どうやらエクステンドトラベラー選手の魔法でスピードを上げながら移動しているようですね!』


『ある程度イエローチームの確保している陣地の中心まで食い込んでから二手に分かれるつもりなのかもしれませんね。さすがに二人がかりで一人を倒すと言っていられる状況でもありませんし、何よりウィグスクローソ選手を二人がかりの中に入れるのは非効率でしょうから』


『おおっと!? なんということでしょう! 驚くべきことにタイラントシルフ選手! イエローチームの大クリスタルに手を添えています!! 氷の破片がそこら中に散らばっているので、まだ魔力を注ぎ始めたばかりでしょうか!? これはこの試合初の大クリスタル奪取なるか!?』


『クリスタルが塗り替わる動きを注視していればイエローチームが二人落ちている可能性が高いことはわかりますので、急遽作戦を変更したのでしょうね。大クリスタルを取ることが出来ればアドバンテージはかなり大きくなりますから。ですが、レッドボール選手がエクステンドトラベラー選手に道連れにされてからかなりの時間が経過しています。そろそろ復活するころだと思いますが果たして間に合うでしょうか』

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