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魔法少女タイラントシルフ  作者: ペンギンフレーム
三章 乾坤根刮ぎ、焼き穿て
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episode3-4 ウィッチカップ⑥ 【重力VS拡張】

 ラビットフットがウィグスクローソに襲われている頃、レッドチームの拠点ではエクステンドとドラゴンコールがほぼ同じタイミングで復活していた。


「クローソさんと通信繋がりません。どうします、エクステンドさん?」

「そっちも気になるけれど、一先ずこの私たちの拠点を取りに来てる魔女を撃退しなければならないね」


 対抗戦で死んでしまった場合、獲得している陣地の広さによって変動する待ち時間が経過するまで復活できないが、復活するまでの間本人は控室で待機することとなり、その間チームメイトとの通信は出来ないもののマップを確認することは可能だ。

 エクステンドは撃破されてからすぐにマップを確認していたので、小クリスタルの色の変わり方からイエローチームの誰かが一直線にレッドチームへ向かってきていることに気づいていた。そしてそれは、先ほどまで内層で戦っていたラビットフットではないであろうことも。


「そ、それってまずくないですか? フロストさんでもレッドボールちゃんでも私たちじゃ勝てませんよ?」

「……確かに勝つのは難しいね。しょうがない、ここはこの私が引き受けるから竜の魔女殿は小クリスタルの確保に回ってくれ」

「大丈夫なんですか? どうせ勝てないなら二人で小クリスタルを回収するっていうのもありだと思います」

「いや、今の状況を考えると大クリスタルは奪われたくないよ。勝つのは難しいけど、何とかして見せよう。良いから早く行くんだ。魔女が来る」

「……わかりました。何か策があるんですね。後は任せます!」


 ドラゴンコールはエクステンドの言葉を信じて大きく翼を開き空へと飛び立った。

 そうして露出度の高い巫女装束の後姿が見えなくなってから少し経ったころ、楽しそうな鼻歌と共にその少女は現れた。


「あれれ? 拡張のお姉ちゃんだぁ! 氷ちゃんの予想だと糸の人がいるって言ってたけど……。まあいっか♪」

「重力の魔女殿か」


 真っ黒なローブに身を包んだいかにも中二病な少女、レッドボール。

 実を言うとエクステンドはこの少女に対して自分でもよくわからない親近感を持っており、一度少し踏み込んだ話をしてみたいと思っていたのだが、残念ながらそのお喋りの会場はここではない。


 対人最強と呼ばれる重力魔法。魔法少女に直接的な魔法は効果がないが、彼女の魔法は魔法少女を攻撃しているのではなく重力を増加させるという性質のものであり、星の理に縛られている以上その影響を受けるのは魔法少女であっても例外ではない。


 つまり彼女の魔法は回避できない。

 回避が出来ないにも拘わらず、一度受ければ確実に死に至る。

 必中にして必殺、ゆえに対人最強。


「やるしかない、な!」

「あはは! 空中だったら効かないとか思っちゃった? そんなわけないじゃ~ん! シミになっちゃえレッドステイン♪」


 魔法少女の肉体は脆い。しかしそれはあくまでもディストと比べた場合の話であり、通常の人間と比べれば頑強さは勿論のこと運動性能においても大きく上回っている。エクステンドはその魔法少女特有の優れた身体能力によって空高く跳んだ。飛行能力を持たず、また空間の拡張もしていない以上それはすぐにでも落下が始まるジャンプに過ぎない。レッドボールの言う通りそれで魔法の効力から逃れられるわけでもない。いや、そもそも逃れようとすらしていないのだ。エクステンドのそれは回避行動ではなかった。逃げるための一手ではなかった。そのレッドボールの油断を誘う一手は紛れもなく攻撃だった。


拡張:対象『肉体』エクス・ボディ

「は?」


 強化された重力にさらされ、エクステンドの身体に強烈な負荷がかかる。しかしそれと同時にその身体どんどん大きくなっていき、あっという間に全長50メートルを超えるほどの巨人となった。巨人が、まるでベッドの上にダイブでもするように、全身を大の字に広げて落ちていく。

 突如形作られた人型の影に呑み込まれたレッドボールは何が起きているのか理解が追いつかなかった。何かの対処をする暇もなく、響き渡る轟音と共にエクステンドの肉体に圧し潰され、そしてエクステンド自身も重力魔法によって巨大な人型のシミとなり、眩い七色の光と夥しいほどのファンシーなエフェクトを残して消えて行った。





『な、な、な、なんということでしょうか~~~!? レッドチームのエクステンドトラベラー選手が! あのレッドボール選手を倒してしまいました!! 対人最強と名高いレッドボール選手をです!! まさか自分を大きくしてレッドボール選手を下敷きにしてしまうとは何て大胆な作戦でしょうか!』


『倒したというよりは相打ちですが、どちらにせよ大したものです。肉体の拡張とはまた無茶なことをしますね。あれはアバターだからこそ使えた魔法だと思われます。実際に自分の肉体を拡張した場合、恐らくですがレッドボール選手の魔法がなくても自重で潰れて死んでしまうと思われます。死んだとしても復活できるこの対抗戦でなければ使えない魔法ですよ』


『なんと! ではエクステンド選手はレッドボール選手対策で事前にこのような魔法の使い方を考えていたということでしょうか!?』


『どうでしょうかね。こんな無茶が出来るならラビットフット選手と戦った時に使っても良かったと思います。復活までの待ち時間で思いついた可能性もあるんじゃないでしょうか』


『なるほどぉ! やられてもただでは済まさない、それがエクステンドトラベラー選手なんですね! いやぁしかしこうなると状況が変わってくるのではないでしょうか!』


『そうですね。イエローチームは少なくともレッドボール選手を絶対に負けない駒として運用するつもりだったと思いますから、作戦の根底が覆る可能性がありますね。とは言っても、今の奇策は初見だから通ったという部分もあると思いますので、次も同じ結果になるとは限りませんよ。レッドボール選手は何も相手をシミにする魔法しか使えないわけではないので、事前に来るとわかっていればいくらでも対処のしようはあるでしょう。さきほどのウィグスクローソ選手とラビットフット選手の戦いと言い、実際にその時が来てみなければ結果はわからないものです』


『そうです! そういえばエクステンドトラベラー選手の魔法があまりにも衝撃的で一瞬忘れてしまいましたが! ウィグスクローソ選手対ラビットフット選手の戦いはどうなってしまったのでしょうか!? ラビットフット選手が何かの魔法を使ったかと思ったらウィグスクローソ選手が少しずつ近づいて行き、そこで唐突に映像が切り替わってしまったようですが!』


『ちょうど映像がラビットフット選手に戻ったみたいですね。これは……、ウィグスクローソ選手は控室に送られているようなのでどうやら勝利したということみたいですが……』


『ラビットフット選手、次のクリスタルへ向けて走っております! 何やら少し顔色が良くありませんが、一体あの状況からどうやって勝利を収めたのでしょうかぁ!?』


『ラビットフット選手の魔法の中であそこから逆転できるとすれば魅了魔法が通った可能性が一番高いですね。実際、ウィグスクローソ選手は奇妙な動きをしていたので何か状態異常系の魔法をかけられたのは間違いないと思われます』


『しかしですよコメントさん! 魔法少女には直接作用するタイプの魔法は効かないはずではないでしょうか!?』


『通常であればそうです。ですが、例えば魔法少女がそれを心から望んでいる場合などはプロテクトをすり抜けることがあります。今回のケースで言うと例えば、ウィグスクローソ選手はとても兎が好き、とかでしょうか?』


『なんと!? あのクールビューティなウィグスクローソ選手にそのようなギャップが!?』


『いえ、あくまで一例ですよ。ただそうした何らかの要因があったのは確かだと思います。いずれにせよこれはとんでもないことですよ。レッドボール選手と相打ちまで持ち込んだエクステンドトラベラー選手も凄いですが、ラビットフット選手は大したダメージもなく勝っている、つまり完封しているということですから。紛れもない大金星です』


『誰がこのような状況を予測できたでしょうか!? 番狂わせに次ぐ番狂わせです! さすがは魔法少女たちの頂点に君臨する少女たち! 序列下位と言っても一筋縄ではいきません!!』


『もしもラビットフット選手の魅了が確実にウィグスクローソ選手に通るとすると、かなり行動を制限されることになりますね。ラビットフット選手は気づかなかったのかもしれませんが、魅了の魔法は種類によっては相手を完全に支配することが可能なものもあります。もしかすると、ウィグスクローソ選手がイエローチームに奪われるという展開もあるかもしれません』


『通常の対抗戦でもまずお目にかかれない光景ですがそうなると戦況は一気に傾きそうですね! おっと! レッドチームとイエローチームがそんな面白い戦いをしている一方でどうやらブルーチームは悠々と小クリスタルの確保を続けているようです! エクスマグナ選手は南東外層のクリスタルを確保した後南中層へと向かい無事一つ確保しています! タイラントシルフ選手はその機動力を活かし、ドラゴンコール選手を撃破したのち南東中層の小クリスタルを確保、その後さらに東中層の小クリスタルも確保し、現在は東外層へ向かっているようです! ドッペルゲンガー選手は未だに動きません!』


『ブルーチームは最初の一戦を切り抜けてからは順調に作戦通り行動出来ている印象を受けますね。現状のクリスタルの数を数えると、レッドチームが2つ、ブルーチームが6つ、イエローチームが6つとなっています。ドッペルゲンガー選手がブレることなく大クリスタルに構えて防衛していることは頼もしいでしょうが、その分クリスタルの確保ペースが落ちている印象を受けますね』


『イエローチームはレッドチームと同様戦ってばかりな気がしていましたが思っていたよりクリスタルを確保できていますね! パーマフロスト選手は北東中層のクリスタルを確保した後北中層のクリスタルを確保したようです!』


『イエローチームは戦ってばかりとは言っても今のところ三戦二勝ですから、戦いが始まる前に確保できなくても勝った後にキッチリ確保しているのが響いてますね』


『もう間もなく試合開始から10分が経過しますがレッドチーム大ピンチです! ここから逆転なるでしょうか!?』


『クリスタルの数に大きな開きがあるということは復活までの時間にも大きな開きがあると言うことです。エクステンドトラベラー選手とレッドボール選手は相打ちでしたが、時間的損失は間違いなくイエローチームの方が大きくなりますから、まだまだわかりません』

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 妖精たちに、あんなことやこんなことを平気でやってる妖精たちに放送倫理なんて上等なもんがあったのか!?
[一言] そっか糸の人、魅了かかるってことは愛されたい愛したい願望強いのか ちょっと不憫に思えてきた
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