026. 別れ
[夜明けです。起きてください]
朝か。今日もやることが盛り沢山だ。頑張っていこう。
ベックとトールは、まだぐーすか寝ていたので起こしてやろう。
「ベック、トール。朝風呂に入ろうぜ。お前たちは暫くは風呂に入れないだろう?」
「うーん…… そうだ! タダで風呂に入れるなんてこれから一生無いんだった!」
三人で風呂に入って、ゆっくりと堪能した。朝から長風呂しすぎたかもしれない。
風呂から戻ると丁度朝食で、まだ朝早いからか俺たち三人とクレリアたちだけだった。
「アランは、今日は何をする予定?」 とクレリア。
「予定は色々あるな。報奨金の受け取りに、プリンのレシピ、宿も決めなきゃいけないな。あとは調味料の調達もだ。時間があったら冒険者ギルドにパーティーの登録もしてこようと思う」
「では私もそれに付き合おう」
「別にいいよ。あまりクレリアに関係ないだろ? 俺とベック、トールはこの後、褒賞金を受け取りに行ってくるよ」
「私にも関係あることだから付き合う」
「そうか? ゆっくりしていればいいのに。あ、そうだ、この金をクレリアに返そうと思っていたのをすっかり忘れてたよ」
俺はクレリアの馬車から持ってきた金、五万五百五十ギニーをポケットから出して渡そうとした。
「それはアランがそのまま持っていていい」
「いや、俺の金じゃないし何か欲しいものができた時に無いと困るだろ?」
「だから、アランがそのまま持っていていいと言っているのに」
「じゃあ、エルナ。これ預かってもらっていいか? クレリア個人の金だ。何か二人に必要な物ができたら使ってくれ」
「… わかりました。お預かりします」
そこにヨーナスさんが来たので、料理のレクチャーの予定を聞いてみると、料理人の予定を空けているのでいつでもいいとの事だった。
褒賞金を受け取った後に取り掛かりたいと伝えると、守備隊の詰め所まで馬車を出してくれるとのことで遠慮なくお願いした。
守備隊の詰め所に着き、用件を伝えると見たことのある守備隊の隊長が出てきた。
「ああ、あんたたちか。褒賞金の準備はできてるぜ。しかもあんたたちには朗報だ。盗賊の首領に賞金が懸かっていたんだよ。金貨三枚だ。金額を確認してここにサインしてくれ」
内容を確認すると盗賊十五人で褒賞金が一人五千ギニーで、褒賞金の合計七万五千ギニー。褒賞金とは別に懸賞金が三万ギニーで合計十万五千ギニーとのことだった。文句があるはずもなくサインする。
ついでに俺とクレリアの木札を返して保証金の銀貨も返してもらい詰所を後にした。
あの髭面のオヤジがこんないい金になるとはなぁ。盗賊を狩って暮らしていくのも良いかもしれないな。
「予想外にいい金になったな。全部で十万五千ギニーだ。四人で割って一人、二万六千二百五十ギニーだな」
「「二万六千二百五十ギニー!」」
ベックとトールは大騒ぎだ。詰所で貰った金は金貨と大銀貨だけだったので、俺の金で数えてみると丁度あったので二人に渡す。
「二人とも落とさないようにしろよ。大金だからな」
「「わかりました!」」
「クレリアの分け前はどうする?渡しておこうか?」
「私の分はアランが持っていていい」
「わかった。必要になったら言ってくれ」
ベックとトールは、買い物があるというので途中で下ろし、タルスさんの屋敷に戻った。
ヨーナスさんに紙と書くものを借りて、プリンのレシピを書いていく。所々、分からない文字があったのでクレリアやエルナに聞きながら書き上げることができた。
料理人を呼んでもらって作り方を教えたいと伝えると昨日プリンを作った厨房に通された。
料理人がレシピ通りに作っていくのを監督する。所々、コツや作業の理由などを伝えていくとさすがに腕のいい料理人らしく直ぐに理解してくれた。
これであれば俺がいなくても全然問題ないだろう。依頼達成だ。
部屋に戻るとベックとトールが買い物から戻っていた。荷物を積み込み、これから出発するというので、馬車への積み込みを手伝う。
「そういえば、この盗賊から巻き上げた武器ってどうしましょう」 とベック。
馬車には剣や槍、弓などが積みっぱなしだった。そういえば忘れてたな。
「それはベックとトールにやるよ。いいよな? クレリア」
「勿論、構わない」
「ええっ!だってこれ、売れば結構な金額になると思いますよ」
「別にいいさ。初めてベックに会った時、お前ボロボロの槍持ってたじゃないか。村への土産にしたらどうだ?」
「わかりました、そうします。アランさん、師匠、本当にありがとうございます」
「気にすんなよ。それくらい」
馬車に積んだ荷物はかなりの量になった。いつもの帰りの荷物の倍以上の量だという。
冒険者ギルドで護衛たちと合流して出発するというので、見送りにいくことにした。
冒険者ギルドに着くとギルドの前に中々強そうな五人の男たちが待っていた。
「この人たちが護衛してもらう『鉄の斧』の皆さんです」
なるほど、これがパーティー名というやつか。なんか恥ずかしくなってしまうのは俺だけだろうか? 俺だけのようだ。
冒険者たちはみんな斧をメインの武器にしていた。
「そうか、ベックとトールは俺の友達なんだ。村までの護衛、よろしく頼む」
リーダーらしい男に言ってみた。
「任せておけ! タラス村までなら何回も行っている。無事送り届けてやるよ」
「あの… アランさん、師匠、これ俺たちからの感謝の気持ちです。全然たいした物じゃないけど受け取ってください」
ベックとトールがなにか渡してきた。
俺には革の鞘に入ったナイフ三本。これはきっと投擲用のナイフだろう。中々カッコイイ作りだ。
クレリアには何か白い材質の櫛だ。不思議とキラキラと光っていて良さそうな物に見える。
「いいのか? … お前たちの気持ちって言うならありがたく受け取っておく。別に感謝する必要なんてないけどな」
「私もありがたく受け取ろう。こんな嬉しい贈り物を貰ったのは初めてだ」
「アランさんと師匠は村の恩人です。黒斑を退治してくれて、その肉までくれて、護衛してくれて、盗賊から守ってくれて、褒賞金まで分けてくれて、いい商売までできるようになりました。この恩は一生忘れません」
「大げさなヤツだな。ほとんど成り行きじゃないか。お前たちだって頑張ったさ」
「俺たちなんて全然です。でも剣の稽古を続けて少しでもアランさんと師匠に近づけるように頑張ります」
「そうか、いつかまた会うことがあったらまた稽古を付けてやろう」 とクレリア。
「アランさん、師匠、近くまで来ることがあったら絶対、村に寄ってくださいね。約束ですよ」
「わかった。約束だ。じゃあな、またいつか会おう」
「ベック、トール、さらばだ」
ベックとトールは出発し、俺たちは見えなくなるまで見送り続けた。
「せっかく冒険者ギルドまで来たんだから、パーティーの登録ってやつをやってしまおう。あれ? エルナは冒険者の登録はしているよな?」
「していますよ。Cランクです」
「そうか、じゃあ俺とクレリアと同じだから丁度いいな」
「ええっ!? リア様がCランク!?」
「そうだな、昨日登録したばかりだけどCランクって言われたよ」
「それよりもアラン、パーティー名は何にするんだ」
「そうだな。あまり変な名前じゃなきゃなんでもいいよ。クレリアたちで決めてくれ」
「確かに変なものには出来ないな。エルナ、これは慎重に決める必要があるぞ」
それからクレリアとエルナはギルドの隅で長々と考えこんでいた。もう十分以上は経っただろう。
「ああ! シャイニング・スターはどうでしょうか?」 とエルナ。
「なるほどそうか、シャイニング・スターか… 悪くない」
どこらへんが「なるほど」なのか分からなかったので聞いてみるとエルナが小声で教えてくれた。
クレリアの姓、スターヴァインというのは輝く星という意味を持つらしい。少し恥ずかしい気もするが候補に上がった他のものより、ましな気がする。
「いいんじゃないか? シャイニング・スター」
「では、これで決まりだ」
受付には、昨日担当した職員がいたのでパーティーの登録を頼む。他にシャイニング・スターというパーティーは存在していないので登録は可能だった。ちなみに料金は掛からないらしい。
「では、アランさん、リアさん、エルナさんでパーティー『シャイニング・スター』の登録をします。リーダーはどなたですか?」
「リアでいいだろ? シャイニング・スターだし」
「私もリア様がなるべきだと思います」
「アランがなるべきだ。リーダーは一番強い者がなるものだぞ。それに私はあまり目立ちたくない」
そう言われると確かにそうだ。エルナも諦めたようだ。
「じゃあ、アランでお願いします。 それとあの指名依頼の件、受けることにしたんですけど何か手続きが必要なんですか?」
「えーと… この依頼書を渡しますので、ここに完了のサインを貰ってくれば依頼完了です」
「了解です。ありがとうございました」
ギルドをあとにして歩いて屋敷まで戻る。
「そういえばエルナのその革鎧ってあんまり良さそうには見えないけど、元の鎧はどうしたんだ?」
「近衛騎士の鎧はとても目立つので、セシリオ王国で売って活動資金に変えてしまいました。申し訳ありません、リア様。国から支給された鎧を手放してしまいました」
「鎧などどうでもよい。そうか、全然気が付かなかった。もっと良い鎧を手に入れよう。いいか? アラン」
「俺もそう思っていたところだよ。ちょうどザルクの店だ」
店に入り、ザルクに声を掛ける。
「よう、ザルク。また来たぜ」
「鎧はまだできてないぞ。またなんか買ってくれるのか?」
「ああ、このエルナのやつな。 そういえばエルナ、革鎧と金属鎧はどちらがいいんだ?」
「それは、やはり使い慣れた金属鎧のほうが… でも、わざわざ購入しなくてもこの革鎧でも大丈夫です」
「まぁそう言うな、パーティーメンバーの装備は全体の安全にも関わってくるからな。遠慮しなくていいよ」
「その通りだ。遠慮なんかする必要はない」とクレリア。
「ザルク、金属鎧でお勧めのはあるか?」
「そうだな。色々あるが、サイズが合うので一番のお勧めはこれだな」
金属鎧コーナーの奥のほうにある鎧を指差す。
「これは最近発見された新しい合金で作られているんだ。鉄よりも耐久性があって軽い。勿論、ミスリルよりは全然落ちるがな」
試しに展示されていた鎧全体を持ち上げてみる。その横にある鉄の鎧と比べてみると確かに軽かった。
エルナも試している。
「今まで使っていた鎧よりも軽いです」 とエルナ。
「これ、幾らだ?」
値札には五万五千ギニーとある。俺が買った鎧よりも高い。
「これも二割引きにおまけして四万四千ギニーだな。 正直、サイズが少し小さくて売れ残っていて困っていたんだよ。その分のおまけだ」
「エルナ、これでいいか?」
「これならば言うことはありません」 とエルナ。
「よし、これを買おう。 ちなみにこれって冒険者仕様だよな?」
「見れば分かるだろ? 冒険者仕様だよ」
全然分からないから聞いているんだよ。袋から金貨四枚と大銀貨四枚を取り出して支払った。
「調整はいつできる?」
「本当は三日は欲しいところだが、お得意様だからな。他の鎧ができるのと同じ二日後に仕上げよう」
「助かるよ、頼む」
エルナの体の寸法を測ってから、店を後にした。
「アラン、先程の金は私の金で払う」
「いいんだよ。これはパーティーの問題だからな。パーティーの金で払うのが当然だ。 エルナはもう俺の仲間だ。水くさいことは言わないでくれ」
「… わかった」
「そういえば、盗賊から分捕った宝石の付いたナイフがあったろう? あれ、使い道も無いし売ろうかと思ってるんだけど、どう思う」
幾らくらいになるのか分からないが、金に換えられるものは換えておきたい。
「売ってかまわない」
「よし、じゃあタルスさんに頼んでみよう」
屋敷に着くと丁度タルスさんとヨーナスさんが話をしていた。
「ああ、アランさん。レシピの件、ありがとうございました。料理人が凄く分かりやすかったと言っていましたよ」
「いえ、お金を頂くのですから当然のことですよ。 それよりもタルスさんに買っていただきたいものがあるんですが、見てもらえないですか?」
袋から宝石の付いたナイフを取り出す。
「ああ、盗賊の戦利品ですね。分かりました。拝見しましょう」
商談室で見てもらうことになった。
タルスさんは凸レンズのようなもので、熱心に品を見ている。タルスさんが終わると今度はヨーナスさんだ。
「なかなか素晴らしい品です。これほどの物はなかなかありませんが、宝石が少し小さいのが惜しいところですね」
ヨーナスも見終わったようだ。タルスさんと手話のようなもので意思疎通している。価格の確認だろう。
「アランさん、この品を八万ギニーであれば買い取りさせていただきたく思います」 とタルスさん。
おお! 予想以上の金額だ。
「ありがとうございます。それでお願いします」
直ぐにヨーナスさんが金貨八枚を差し出してきた。
「それとアランさん、レシピ買い取りの件、金額のほうですが五千ギニーでいかがですか?」
プリンのレシピで五千ギニーとは破格だ。
「勿論それで結構です。こちらもありがとうございます」
よし、これで用事が片付いてきたな。あとは宿と調味料だ。
「タルスさん、この街で良さそうな宿を知りませんか?」
まさか系列店とか無いよな。
「風呂付きの宿でよろしいんですよね? それであれば『豊穣』という宿が良いでしょう。一泊二食付きで銀貨五枚の割には他の高級な宿に比べて食事も風呂もいいしサービスもいいと評判です」
系列店は無いようだ。なんかホッとした。二食付いているのは嬉しいな。
「ありがとうございます。そこに行ってみます。 あと、個人的な買い物で調味料などを買いたいのですが、お店はどこにいけばいいですか?」
「ウィリーに案内させましょう。店の者にはもう伝えてあるので問題ないと思いますよ。もう宿に向かいますか?」
「そうですね。あまり長居しても御迷惑ですから、宿に向かおうと思います」
「そうですか、寂しくなりますね。ではアランさん、私を盗賊から助けていただいた御礼の件ですが」
「いえ、その御礼は不要です。タルスさんを助けたのは当然のことですし、我々もタルスさんには助けていただいています。ここはお互い様ということで収めていただけないでしょうか?」
「… 分かりました。そう言われては仕方ありません。それではせめて今、着ている服だけでも受け取ってください」
そういえば、借りている服を着たままだった。
「分かりました。遠慮なく頂いておきます」
荷物の準備をして出発しようとすると、タルスさん家族、従業員が勢揃いしていた。
「それではお世話になりました。皆さんの温かいおもてなしに、とても癒やされました。また顔を出しにくるのでその時はお願いします」
「いつでも来てお茶でも飲んでいってください。歓迎しますよ」 とタルスさん。
「甘味を思いついたらまた教えてくださいね」 と奥さん。
「アランさん。では明日の朝九時に冒険者ギルドの前でお待ちしております」 とヨーナスさん。
「分かりました。それでは、また」
俺たちはウィリーと一緒に屋敷をあとにした。
通貨の価値ですが、下記ぐらいの価値と考えて貰えると嬉しいです。
銅貨 百円
大銅貨 千円
銀貨 一万円
大銀貨 十万円
金貨 百万円
大金貨 一千万円
白金貨 一億円




