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第55話 腹の探り合い

「よろしいのですかフラン様? あのような者達を信用して」


去って行く剛士達の背を窓から眺めているフランに背後から声がかかった。彼女は一つ息を吐くと、苦笑気味に振り返る。


「全面的に信用していない事は貴女にもわかるでしょう? 私が必要なのは彼等が扱う大麻だけ。それさえ手に入るのなら、多少の事には目をつむります」

「その為に御用商人の立場をお与えになるのは、いささかやり過ぎかと思うのですが……」


長年フランに仕えてきた老女――セルビーは、心配と疑問が混ざった複雑な視線をフランに向ける。今までフランは様々な商会と取り引きしてきたが、特定の商会を贔屓にするような事はなかった。それが初めて顔を合わせる、素性も知らない商会を御用商人として認めたのだ。懇意にしてきた商会から反発が出るのは簡単に予想ができる。


「確かに彼等は信用出来ず、何を考えているのかわからない面があります。しかし、彼等の積み上げた実績に注目すれば、取り込んでおいて損はないと思える力があるのですよ」


剛士達と会談を行う前に、フランは日ノ本商会について徹底的に調べさせていた。ソファに身を預けたフランは、お茶を口にしながら改めてその資料を手にし、ページをパラパラと捲っていく。


「出自も明らかでない謎の男が、一年にも満たない期間でこれだけの事業を成功させているのです。宝くじ、ネズミレース、競馬、大麻。そして今度はこの手押しポンプ。根回しなどを一切しないで領主から追われる事もあったようですが、それも次第に学習するでしょうし……。この発想力は常人から出てくるものではありません。彼はきっと、近いうちに大成する人物です。間違いありません」


若くして辣腕を振るう流石のフランでも、チートマニュアルの存在まで嗅ぎつける事は不可能だった。彼女は剛士の生み出したものが全て彼の頭の中から出てきていると勘違いしてしまったのだ。


「彼と彼の商会を味方につければ、必ず私が王になる力となります。まぁ、見ていなさいセルビー。これかからこの国は変わっていくのだから」


ふふふと艶やかに笑うフランに対して、セルビーは静かに頭を下げただけだった。


§ § §


日ノ本商会はフランと契約した事で、今まで取り引きしていた貴族や富裕層から突然取り引きできなくなった大麻の事で問い合わせが殺到してきたが、取り締まりの回避をするためと言う建前でそれらの追求を何とか誤魔化す事が出来た。なぜなら彼等は日ノ本商会以上に宮中の情報に詳しいからだ。


フランの治める領地はロシェルと言う。そして彼女の城がある街の名は領都ロシェルだ。そのロシェルと取り引きを始めた事で、剛士の島には劇的な変化が起きていた。まず、主な取り引き相手が対岸の港街からロシェルに変更され、人と物の行き来が今まで以上に増えている。流石に港湾施設や製鉄所など、途中で変更できない部分の工事関係者達はそのまま残留しているが、食料や生活物資はロシェルとの取り引きに変更された。


移住希望者が増加して対岸の港街だけでは賄いきれないと言う理由もあるが、専属となった日ノ本商会とフランの間なら、他に頼むより安価で取り引きが出来るからだ。その上、今まで苦労していた木材の伐採や運び出しや農地の開拓に関しても、ロシェルから専門家を雇い入れる事でスムーズに進むようになっている。


そして日ノ本商会にとって一番利益が大きいのは、奴隷を購入する時に手数料を取られる必要がなくなったと言う事だ。今までイヴを通して支払いをする時には奴隷一人に金貨二枚を支払う必要があったのだが、フランの紹介として取り引きを行う事になったために、それも無くなった。


資金に余裕が出来れば購入できる奴隷の数も増え、安心して任せられる仕事も増える。そうなれば当然剛士達にも自由時間が出来るというわけだ。


「農地も順調に広がってるし、移住者の住居の数も職人を融通してもらったおかげで予想以上に早く増えている。水深の深い港やポルトの造船所も完成してキャラック船の建造に取りかかった。これもあのお姫様のおかげだな」

「その代わり大麻は全てフラン様に納めているけどね。まぁ、複数に売りさばく手間が省けたと考えれば楽になったんだけど」


剛士の言葉にナディアが同意する。人が爆発的に増えた事で、今まで出来なかった事がアッサリと出来るようになっている。正にフラン様々だが、手放しで喜んでもいられないのだ。


「フランが大麻を手にした事で宮中の勢力図は大きく変わっていくだろう。なんでこんなボロボロの国を欲しがるのかはわからないけどな」

「政変が起きて内戦にでもなれば、こっちにどんな影響が出るかわからんな」

「フランが優勢ならともかく、不利になった時彼女と懇意にしている私達の立場も悪くなるわね」


剛士の理想としては、このままフランと取り引きをしつつ力を蓄え、彼女達がつぶし合って共倒れしてくれる事だ。そうなればチートマニュアルで得た知識を使って新しい武器を普及させ、戦力の無くなった国内を武力で平定する事も不可能でなくなる。


(フランはフランで俺達を美味く利用するつもりだろうけど、そうはいくか。あいつを利用するのは俺の方だ!)


利用されているのは覚悟の上と、剛士は決意を新たに動き出す。


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