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第39話 足がかり

ある程度の大麻を揃えるのは終わった。後は実際に貴族や富裕層に配っていき、リピーターを作らねばならない。しかし困った事に、剛士には彼等と知己になる手段が無かったのだ。


「街の大店や貴族の屋敷を訪ねて押し売りしてもつまみ出されるのがオチだろうし……」

「その程度なら良いけど、最悪牢屋にぶち込まれる可能性があるな」


見ず知らずの人間が訪ねてきて、いきなりこれを吸ってくれと得体の知れない物を差し出したら、普通の人はどう言う反応をするだろうか? 十中八九、衛兵を呼ばれるか逃げられるかのどっちかだ。どうしたものかと四人で頭を捻っている時、何かを思いついたようにナディアが声を上げた。


「あの人に頼んでみたらどう? ほら、私達に島を売った商人よ!」

「……ああ! なるほどね」


ナディアが言ったのは日ノ本商会と共に運送屋を立ち上げている最中の商会――そこの会頭の事だった。確かに彼ならこのデールの国王とも繋がりがあるし、当然その下に位置する貴族達と顔見知りになっていてもおかしくない。貴族達との窓口役としてこれ以上ない人選だ。


「なら早速繋がりをとらないとな」


嬉々として準備する剛士だったが、そんな彼に冷水を浴びせるような冷たい声が背後からかかる。


「ねえ。それ、タダでやってくれると思う?」


誰かと思えばリーフだ。彼女の指摘に浮かれかけていた剛士の動きが固まる。確かに彼女の指摘は正しい。商人が――それもこれから急激に伸びていく事が予想される商会の会頭ともなる商人が、ただの善意だけでわざわざ動いてくれるとはとても思えないのだ。


「……金を要求されるかな?」

「それならまだマシよ。他の商人や貴族に会わせろなんて言ったら、確実に理由を聞かれるわよ。そうするとどうなるかなんて、考えるまでもないでしょ?」


したたかな商人だ。秘密にしようとしたところで、こちらが目的を明らかにしない限り剛士の望みを叶える事は無いはずだ。


「大麻の事を知られたら……」

「自分も一枚噛ませろって言うでしょうね」


鋭い眼光そのままに、貼り付いた笑みを浮かべる会頭の顔を思い出した剛士は歯がみする。せっかく自分達だけで大金を儲けられるチャンスが来たのに、また美味しいところを持って行かれるのかと絶望しかけたその時、滅多に話す事の無いフラガが刀身を震わせながら声を上げた。


「それなら、まずはそいつだけを大麻の虜にしてしまえば良いんじゃないのか?」

「……なるほど。それならいけそうか……な?」


富裕層に大麻を蔓延させるのが目的なら、窓口にする人間を薬漬けにした方が手っ取り早いし安心だ。何しろ現状大麻を栽培、加工しているのは剛士達だけなのだから、彼等が欲しがった場合は強気に出る事も可能なのだ。薬を融通する代わりに新しい顧客を紹介しろと言えば良い。


「よし、そうと決まれば早速会頭に会う機会を設けないとな。まずはあの胡散臭いオッサンをヤク中にしてやるぜ」


と、胡散臭いオッサンは笑みを浮かべた。


§ § §


「お久しぶり……と言うほどでもないですか。剛士さん、お元気そうで何よりです」

「そちらもお元気そうで。運送屋の準備は順調に進んでいるようですね」

「おかげさまで。ところで今日はどう言ったご用件で? ただ顔を見せに来たわけじゃないんでしょう?」

「ええ、もちろん。実は面白い品が手に入りまして……」


忙しい仕事の合間を縫って久しぶりに会う会頭は、剛士のその言葉に鋭く反応して見せた。にこやかな笑顔のまま、目だけが獲物を狙う猛禽類のように鈍く光る。自分の嫌いな目を向けられた剛士は一瞬怯んだものの、気合いを入れ直してその目を正面から見返す。


「面白い品……ですか?」

「はい。今までにない趣向品ですよ。……これです」


そう言って、小さな木箱を会頭の方にソッと差し出す。木箱は細やかな細工が施されており、一目で高級品とわかる作りだ。しかも木箱自体からも、ほんのりと良い香りが漂ってくる。細工に香木、これだけでも結構な出費だが、高級感を持たせるためなので、必要経費と割り切るしかない。


差し出された木箱を受け取った会頭は、その蓋をゆっくりと開いていく。すると中からは綺麗な形に切りそろえられた大麻の束が姿を現した。


「……これは?」

「大麻と言います。これを口にくわえて先端に火をつけ、その煙を吸い込む事で極上の快楽を得る事が出来るんですよ」

「…………」


今まで見た事も聞いた事もないような趣向品――大麻の一つを手に取った会頭は、物珍しそうにいろいろな角度から眺めたかと思ったら、その匂いを嗅いだりと忙しい。その反応に手応えを感じながら、剛士は話を続ける。


「一度それを使うと三時間は前後不覚になるのですが、お時間よろしいでしょうか?」

「夕食の後なら空いてますが……前後不覚って、そんなのを使って大丈夫なんですか?」

「大丈夫です。既に私自身が何度も試していますし、私の部下も常習的に使用していますから、体に害がないのは証明済みですよ」


これは嘘だ。剛士が使ったのは先日の一回だけだし、リーフ達三人は剛士のラリった姿を見てから大麻に興味を示す事は無くなっている。多少の罪悪感がないではないが、まずは目の前に居る会頭を大麻の虜にしなければその先もない。嘘も方便、商人同士なのだから、騙された方が悪いと割り切っていた。


「剛士さんが自ら試したとあれば安心ですね。食事の後に私も試してみましょう。剛士さんも同席されますよね?」

「……ええ、もちろんです。ご相伴に与りますよ」


危ないものなら一人だけ逃げる事は赦さないとばかりに、会頭は強引に食事を誘ってきた。対する剛士もそれぐらいは予想している。信用を得て会頭に大麻を使わせるには、彼の目の前で自分が使う必要があったのだ。


「いやはや、今から食後が楽しみですよ」

「きっと気に入っていただけると思いますよ」


笑顔で牽制し合う胡散臭い二人のオッサン。彼等の静かな戦いの火蓋は、たった今切られたのだった。


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