第34話 現地住民
「待ってくれ! こっちに敵意はない!」
「「…………?」」
固唾を飲んで剛士達が凝視する先――雑木林の中から姿を現したのは、みすぼらしい格好をした男女計五人だった。年齢は三十代から五十代と言ったところか。身につけている服は継ぎ接ぎだらけか、穴が空いているような物ばかり。手には武器らしき得物も持っていない。降伏を意味するように手を上げながら出てきた彼等全員に共通しているのは格好だけでなく、その不安そうな表情も同じだった。
「あ、あんた達はひょっとして王様から遣わされた人達なのか? 俺達を捕まえに来たんじゃないのか?」
リーダー格らしい男の言葉に剛士達は顔を見合わせる。どうやらこの男、剛士達の事を自分達を捕らえに来た役人か何かと思い込んでいるようだ。どうしたものかと頭を掻く剛士に残りの三人が視線で語る。お前が代表なんだから何とかしろと。仲間と不審者達の間で板挟みになった剛士は一瞬面倒くさそうに顔を歪め、一つ咳払いをすると手に持っていたフラガを下ろし、彼等に近寄った。
「あー……誤解のないように言っておくが、俺達は別にお前達を捕まえに来た訳じゃない」
剛士の言葉にホッと胸をなで下ろす一同。しかしその表情は次の瞬間凍り付く事になる。
「しかし今日からここは俺の領地になった。つまり、お前達は不法に住み込んでいる罪人と言う事になる」
一瞬で顔色が青く変わる不審者達。剛士はそんな彼等を脅すでもなく、邪悪と言っても良い人の良さそうな笑顔を浮かべる。
「だが、お前達の事情も承知している。大人しく俺の領民になると言うなら、特例としてその罪を免除し、この島に住む事を赦してやろうじゃないか」
途端に顔を見合わせてザワザワと騒ぎ始めた。緊張しながら成り行きを見守っていたファング達は、何とか上手く行きそうな状況を見て内心胸をなで下ろす。実はこの島を訪れる前、港街で昼食をとっている最中、この島に住む不法移民者に対する方針を協議していたのだ。
§ § §
「力尽くでってのは下策だな。無傷で勝てるならともかく、味方に被害が出る可能性がある」
「しかし剛士よ。じゃあ話し合いでって言っても、連中が応じる保証なんかないぞ」
「そうだよ。税金を納めるのが嫌で逃げた連中なんでしょ?」
食後のお茶をすすりながら、ファングとナディアは剛士の案に否定的だった。この人の命が軽い世界で罪を犯す者達など例外なくろくでなしと言う彼等の常識からすれば、当然だった。
「そこは考えてある。本来なら捕らえて犯罪奴隷行きの連中に、恩情をかけた形をとるんだ」
「どう言う事?」
疑問符を浮かべるリーフをフォークで指さしながら剛士は続ける。
「簡単だ。不法に住み着き、税を納めず逃亡したお前らは、本来なら厳しい処罰が待っている。しかし俺に協力するならその罪を免除し、新しい領地の住民として迎え入れようではないか――ってな感じで脅せば協力するだろ」
「断られたらどうするのよ?」
「そうなりゃ今度は兵隊を集めて排除するだけだ。もっとも、出来るだけ避けたい事態だけどな」
§ § §
剛士達がそんな協議をしていた事を不法移民者達が知るはずもなく、彼等は焦った顔でどうするか決めかねているようだ。ここで剛士の提案を断って戻れば人数差を活かして逆に剛士達を排除できるかも知れない。しかし仮にも領主を名乗る男やその仲間を害すれば、確実に討伐隊を派遣されてどのみち皆殺しにされてしまう。そんな結果が簡単に想像出来るだけに、彼等は追い詰められていた。
いつまでも続くと思われた彼等の話し合いだったが、やがてどうするか決まったのだろう。リーダー格の男が一人前に出て剛士達に向けて膝を折る。すると後ろに控えていた男女も同じように膝を折った。
「領主様、我々が従えば本当に罪を免じていただけるのですか?」
「も、もちろんだ! 誓ってお前達を罰する事はしない! お前達も辛い思いをしてここまで逃げてきたんだろう? 俺も常々そんなお前達を哀れに思っていてな。しかし俺がこの地の領主になったからにはもう安心だ! もう食うに困るような状況にはさせないからな!」
「おお……なんと慈悲深い……」
「神のようなお人だ……」
「ありがたやありがたや……」
罪を問うどころか、犯罪者である自分達の境遇を哀れんでくれる。貴族とは自分達から搾取し、威張り散らすだけの存在だと思っていた彼等にとって、剛士の言葉はその常識を打ち壊すほどの衝撃だったに違いない。感動して涙を流す者や拝み始める者が続出し、まるで新興宗教のセミナーのような、異様な雰囲気になった。
(よく言うよ……最悪力尽くで排除するって言ってたのに)
(いつも通りの剛士だねぇ)
(あの男はまたすぐに調子に乗って……。学習しないわね本当に)
予想以上に感謝されて戸惑いながらも段々と調子に乗る剛士――そんな彼等をリーフ達三人は冷めた目で眺めていた。




