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第33話 桟橋作り

「本当に何も無いな……」

「草しか生えてないぞ」

「緑が多いのは良いんだけど、不便すぎるわね」

「これを開拓するの……?」


剛士達は今、新しく自分達のものになった島の浜辺に立っていた。寂れた港町で暇を持て余していた猟師の一人に声をかけ、対岸にあるこの島へと送って貰ったのだ。不漁が続き景気の悪い猟師は、当初妙な組み合わせの剛士達を怪しんでいたが、金貨を一枚押し付けられると態度を豹変させた。


「ここには何も無いぜ。昔はそこそこ栄えてたみたいだけどな」


地元民の彼が言うとおり一面雑木林で、港は勿論桟橋の一つも見当たらない。おまけに船が停泊する施設もないため、漁船から陸地に渡るために腰まで水につかりながら移動しなければならなかったのだ。


「まずは港の整備からだな。最初は小型の船が停泊できる程度の施設を作って、それから徐々に物資を運び入れながら港を整備していくしか無い。みんな、頼んだぞ」


剛士の言葉に仲間達が力強く頷く。その表情からは不満の一つも感じられず、全員がやる気に満ちていた。板をいくつか貼り合わせて作った即席のイカダを利用し、漁船から道具をピストン輸送する。全て下ろし終えた後、積み荷が空になった漁船は港へと引き返し、明日の朝再びこの島を訪れる予定だ。


「じゃあまた明日な! 今日はありがとよ!」


遠ざかっていく漁船を見送り、剛士達は各自分担する作業に取りかかった。今回の目的は桟橋を作る事だ。木はその辺で調達し、港街から持ってきたロープや釘などでしっかりした物を作っていくのだ。


「じゃあ始めるか」

「おう。頼むぞフラガ」

「わかってるよ。……まったく、まさか斧代わりに使われるなんて想像もしてなかったぜ」


ブツブツと文句を言いながらも、徐々に剛士の肉体を操り始めたフラガ。それを横目で見ながらファングは自分の斧を振りかぶり、近くの木々へ打ち込み始めた。剛士とフラガ、そしてファングが担当するのは木々の伐採だ。ファングの持つ斧はともかく、フラガは素晴らしい切れ味を誇る剣なので、木を切り倒すぐらいは朝飯前だ。しかも金貨を食べさせ続ける事でいくらでも切れ味が増していくので、切り倒した木を薄い板に切り裂く事まで可能だった。


「さてと……私達は私達で仕事しないとねリーフ」

「そうね。でも休憩は多めにしてよ。ずっと魔法を使ってると疲れるんだから」

「わかってるってば」


ナディアとリーフの仕事は加工された木々で桟橋の組み立てを担当していく。予め素人でも組み立てられるよう簡易的な設計図や、後で組み合わせるため部品毎の設置方法などは専門家にレクチャーを受けていた。


普通、力仕事を女性だけに任せるのは向いていないのだが、その不利を覆すのが魔法だ。冒険者に多くいる攻撃魔法に長けた魔法使いなら、今回の作業にはあまり役に立たないだろうが、彼女の精霊魔法はありとあらゆる精霊の力を借りる特殊な魔法だ。大規模な攻撃にこそ向かないが、こう言った細かい作業に有効な魔法だった。


「海水が勝手に盛り上がったり堅くなったり、本当に便利な魔法だね~」

「……感心してないで、早く作業を進めてちょうだい……!」

「はいはい。すぐに終わらせるよ」


しきりに感心するナディアと対照的に、リーフは眉間に皺を寄せながら精神を集中させている。体力こそ消耗しないものの、その分精神力は四人の中で一番消耗するリーフだった。


§ § §


「よーし、じゃあそろそろ昼飯にしようか」


剛士の一言で、待ってましたとばかりにファングとナディアが昼食の準備を始める。リーフは立ち上がるのも億劫なのか、大の字になって動こうともしない。珍しく働き過ぎて疲れ切っているのだろう。その間にも三人はテキパキと調理を進めていく。材料は全て船で持ち込んだ物だ。仕事をこなしながら狩りをするのは無理があるためだ。


やがて、香ばしい匂いにムクリと体を起こしたリーフが幽鬼のような足取りで席に着くと、少し遅めの昼食が始まった。調理と言っても火に網をかけて具材を焼くだけのバーベキューだ。少しの塩胡椒でそれぞれの味が楽しめるため、巷では簡単ながらも人気の高いメニューだったりする。肉汁が滴る熱々の牛肉にかぶりつきながら、剛士は桟橋に目をやる。


「大分出来上がってきたな」

「一つは完成。あと二つ組み上げれば一応計画通りだね。この調子なら夜までには出来るはずだよ」

「部品は組み上がってるからな。後はくっつけるだけだ。リーフはその間寝てて良いぜ」

「……悪いけどそうさせてもらうわ。魔法の使いすぎで眠くて仕方ないのよ……」


半分寝ぼけているのか、リーフは食材にフォークを突き立てた状態でしばらく固まってる始末だ。流石にそんな彼女を更にこき使おうとするほど剛士達も鬼ではない。誰が何と言おうと、今日一番働いていたのはリーフなのだから。


「さて、それじゃ再開する――」

「おい! 誰かいるぞ!」


全員が腹を満たし、再び作業を始めようとしたその時、ファングが鋭い警告の声を上げた。瞬間的にナディアはその場を飛び退いて腰の短剣を抜き放ち、剛士は慌ててフラガを構える。棒立ちになっていたリーフに飛びついたファングは木材の陰に隠れて剣を抜いた。


「五人ってところだな」


フラガは相手の人数を把握したようだった。ガサガサと揺れる草むらの奥から、少しずつ何者かが近寄ってくる。緊張に身を固くしながら、それらが現れるのを待つ剛士達だった。

 

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