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第28話 購入資格

「領主様は大変忙しいお方だ。予約も無しに面会させるわけにはいかない」

「…………」


善は急げとばかりに城へと急いだ剛士一行は、正門の守衛にそう言われて黙って帰るしかなかった。当然と言えば当然だろう。日本で言えば市長とか県知事クラスの人間の下へ突然訪ねて行って、いきなり会わせろと言ったところで断られるのが関の山だ。結局その日は面会の予約を出しただけで終わった。


「そう言えば最初に面会しようとした時も結構時間がかかったよな。うっかりしてたぜ」

「勿体ぶる必要なんかないだろ? どうせ領主なんて椅子の上でふんぞり返ってるだけの暇人に決まってるんだから」

「いくら何でも言い過ぎでしょ……」

「他の人はあんたみたいに暇じゃないのよ」


同意してくれるとばかり思ったら反対に罵倒され、剛士は憮然とした表情を浮かべた。そして三日が経ち、あまりにも返事が遅い事に焦れた剛士達が別の手を考え始めた頃、ようやく領主からの知らせが届く。領主の使いから一通の手紙を受け取った剛士は早速中身を確認し、思わず眉をひそめる。


「今日来いだってよ。人の都合とか全然考えてないよな」

「まあそうボヤくなって。やる事だけやってサッサと帰れば良いさ」


最近のファングとナディアは剛士を宥める役に回る事が多い。気分屋の剛士は調子に乗らせておけば大体スムーズに仕事が回ると彼等は学習しているのだ。リーフの場合は剛士以上に気分屋なため、何か問題が起こった時には、なるべく二人を接近させないようにファング達は配慮している。年齢的には剛士達より下なのに、二人はまるで仲の悪い子供達に気を配る両親のようだった。


今回はロードの時と違い全員徒歩での移動となる。貴人に会うため正装した一行が庶民で溢れる大通りを歩いているため、道行く人々が奇異の目で見つめてくる。やがて城まで辿り着いた剛士達は兵士の案内で城内へと通され、謁見の間まで案内された。


「呼び出しがかかるまでしばらく待て」


そう言って案内の兵士は持ち場に戻っていく。謁見の間の入り口近くにある待合室には、剛士達と同じく領主に面会するための人々が長椅子に腰掛けて思い思いに過ごしていた。身なりからして商人や歴戦の冒険者と言った見かけだが、全員に共通しているのが退屈そうな表情だ。かなり長時間待たされているに違いない。


「……とりあえず、座って待つか」


仲間達は頷き空いているスペースに腰掛ける。ただ奴隷市の事を聞くだけなら剛士一人で来ても問題なかったかも知れない。しかし彼だけでは非常時に逃げる事が不可能なので、共同経営者を名乗る護衛役のファング達三人も着いてきていた。


「次! 日ノ本商会代表、剛士!」

「ふぁっ!? は、はい!」


大きな声で呼ばれ、退屈のあまりうつらうつらしていた剛士は驚いて飛び起きる。慌てて口元を汚していた涎を袖で拭い、彼はまるでロボットのようにギクシャクと謁見の間に足を踏み入れた。


謁見の間と言う言葉で大多数の人が想像する光景というのは、両端に文官や騎士達が整列し、正面の玉座に王が座る光景だろう。しかし現実はそんなに華美ではなく、少し広めの部屋の中央に腰掛けた領主と、その後ろに控える護衛の騎士二人だけという地味な光景だ。ここに初めて来た時はその質素さに唖然とした剛士達だったが、今更そんな事で驚く事も無く、黙ったまま前に進んで領主の前で頭を垂れた。


「領主様。本日はお目通りいただきまして、まことにありがとうございます」

「久しいな剛士。そして共の者達よ。して、今日は何の要件だ?」


ここの領主はロードのように勿体ぶった行動を嫌う人物だ。無駄にぐだぐだと挨拶をしようものならたちまち機嫌を損ねてしまう。扱いに困る性格ではあったが、用事だけ済ませて帰れるために、剛士はこの人物が嫌いではなかった。


「本日は領主様にお願いがあって参りました」

「願いとな? 申してみよ」

「はい、実は――」


促され、剛士は自分達の現状を説明していく。新しいビジネスを始めるために人手が足りない事。奴隷市の情報がないので、知っている事があれば教えて欲しい事などだ。流石に、いくら剛士でも馬鹿正直にスパイになり得る人物を確保したいのですとは言っておらず、そこは金を持ち逃げされる危険を避けるためと誤魔化しておいたが。


「ふーむ……奴隷か……」


領主は顎に手をやり、少し考え込む様子を見せる。


「剛士。貴様は知らんだろうが、基本的に奴隷を売買できるのは私のように領地を持つ貴族か、国の許可を受けた者に限られるだ。それ以外の者はたとえ奴隷市に足を踏み入れたところでつまみ出されてしまうぞ」

「え……」


予想外の返答に剛士は固まってしまう。しかし彼は気を取り直し、領主に食らいつく。


「そ、その許可というのはどうやったらいただけるのでしょうか? 何か条件があるとか?」

「奴隷を取り引きできる許可状か……。あれはある程度の規模を誇る大商会の代表か、類い希な武勲を上げた冒険者でしか貰えん。つまり、お前では無理だ」

「「…………」」


アッサリと望みを絶たれ、呆然とする剛士一行。しかし領主はニヤリと笑うと、ろくでもない提案を口にする。


「ただし、私が仲介すれば話は別だ。お前達が望むなら奴隷商を紹介し、望みの奴隷を手に入れてやっても良い。その代わり……」


悪代官のような口ぶりでここまで言われれば、察しの悪い剛士でも相手が何を望んでいるのかはわかる。つまり領主は――


(山吹色のお菓子が欲しいって事か。領主ともなれば俺以上に儲けてるはずなのに、せこい真似しやがって……!)


そう思いつつも表情には出さず、剛士も負けじと笑顔を見せる。


「承知しております。奴隷一人につき金貨一枚を手数料として領主様にお支払いいたしましょう」

「二枚だ。この条件をのまない場合、この話はなかった事にしてもらおう」


突き出された二本の指に一瞬グッと息を詰めつつも、剛士は何とか言葉を続ける。


「……わかりました。では奴隷一人につき金貨二枚をお支払いさせていただきます」

「うむ。では後日奴隷商をそなたの屋敷へ向かわせよう。今日は下がるが良い」

「はい。では失礼いたします」


頭を下げ、謁見の間から退室した剛士達は足早に城を後にした。彼等の表情は煮え湯を飲まされたかのように険しい。それもそのはず、奴隷一人につき金貨二枚など法外な要求もいいところだ。これで笑っていられるはずがない。


「あの糞野郎! あそこまで金に汚い奴だと思わなかったぞ!」

「直接身に危険が及ぶ事はなかったが、これは予想外の痛い出費になりそうだな」


ただでさえ領主に借金をしている身なのだ。このままの調子でいくと、完済するまでいつまでかかるか解ったものではない。


「でも、他に方法がないんじゃ仕方ないよ。気持ちを切り替えていこう」

「ナディアの言うとおりよ。剛士、あんたの取り柄は金を稼ぐ事だけなんだから、さっさと稼いであんな男見返してやりなさい」

「お、おう……わかったよ……」


男性陣と違って女性陣はアッサリとしたものだ。主に家でゴロゴロしているだけのリーフと、あまり外に出ず炊事を担当しているナディアに言われて釈然としないものを感じつつも、剛士はとりあえず頷いておいた。

 

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