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結局、王の提案を受け入れて山道に向かうことになった。
ぼくは安全で速度が出せそうな海沿いルートを勧めたいところだったけど、クラファ殿下の決断となればそれに従う。
近いから山道を選んだのなら反論やアドバイスの方法もあったが、姫様が挙げた理由は討伐対象の方だったからだ。
「サシャ殿から聞いた“叛徒の活動が活発化した時期”と、“ケウニアがきな臭くなった時期”が重なっている。そいつらはヒューミニアの紐付きではないのか?」
「かもな。あるいは、エルロティアの、だ。“敵の敵”と繋がるのは良くある話だし、クラファが気にする必要はないぞ。どのみち叛徒集団は死に体だ。もう百も残っちゃいねえ」
王の運転するハンヴィーを前に出し、ぼくのBTRが後に続く。基本的に叛徒討伐は武器に慣れるため銃兵部隊が担当することになる。ぼくらも同行するが、攻撃に関してはサポートだ。
山間の傾斜路を進むうち、いくつか交差していた枝道が合わさって大きめの路になる。山を切り開いて作った隙間を抜けながら、次第に勾配がきつくなってゆくのを感じていた。
主に、BTRが。
「マークス、大丈夫か?」
「は、はい平気ですよ」
姫様は後部で唸りまくるエンジンに心配そうな顔をするけど、正直ぼくの方があまり大丈夫じゃない。
なにせこの車、マニュアルだから。十何トンのマニュアル車で坂道発進は勘弁してもらいたい。
山道を抜けるといっぺん平坦な地形に変わり、周囲にくたびれた感じの集落が見え始める。かなり規模の大きい鉱山町といった態だが、遺棄されて長いのか生活感がなく雰囲気が荒んでいる。
わずかに見下ろしになった場所に二台の装甲車両を停車させ、伴走してきたカワサキを遮蔽の陰に入れて相手の出方を見る。
集落を眺めて姫様が鼻で笑った。
「ひとの気配はする。生意気にも魔力探知に阻害を掛けてきているな」
「叛徒が? ただの盗賊じゃないですね」
「紐付きというクラファの読みは当たりだな!」
自らハンヴィーの銃座に上がったアルフレド王が嬉しそうに声を掛けてきた。運転席には、不服そうな顔のサシャさんが交代に座っていた。
「南西百メートル、建物の陰に盗賊団」
BTRの屋根で双眼鏡を覗いていたモラグさんが、車内の部下たちに告げた。
「銃兵部隊、目標、南西の敵。あれは囮だな。情報を聞き出す。可能な限り足を狙え」
「「「了解!」」」
「陛下、南東二百メートルに魔導師、対処願います」
「任せとけ。“にーよんまる”の試射を兼ねて殲滅してやる」
ここまで丸見えの位置に目立つ乗り物を集め、王自ら顔を出しては、罠とわかっていても釣り上げられない叛徒などいない。
アルフレド王が、満足げに笑い声を上げる。
「南西に魔力反応、攻撃魔法来るぞ!」




