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File:093 人外の戦い

明日で100話目!結構書いたようであっと言う間でした。

これからも応援よろしくお願いします。

自衛隊が採った作戦は極めてシンプルだった。

SG内部に簡易拠点を設置し、三方向から同時に侵攻する。


その一つが坂上率いる近接殲滅班による室内突貫ルート。

トラップの存在は当然想定済み

——だが“無視して突っ切る”ことが最初から戦術に組み込まれていた。


SGはそもそも「攻め込まれないこと」を前提に設計されたネバーランド(子供だけの世界)だ。

外部から侵入することなど不可能。

――そんな常識に甘えた構造だからこそ、逆に刺さる作戦だった。


幸い、アレイスターが事前に送ってきた視覚情報のおかげで内部マップの85%は掌握済み。

空調ダクト、電力ライン、PCの推定移動ルート。

あらゆる情報がインストール済みだ。


今さら対応しようとしても遅い。


優先的に潰すべき“急所”は全て、端末内臓のAIがリアルタイムでナビゲートしてくれる。


坂上率いるショットガン部隊は、その「突っ切る」だけのために組まれた重火器特化チーム。

最短距離を一直線に貫き、焼き払い、撃ち抜き、ただ前に進む。


結果として、アダルトレジスタンスの対応戦力の大半を“そこ”に縛りつけることに成功していた。


そして同時進行で、もう一つのルートが動いていた。


屋外ルート——そこを率いるのは、一ノ瀬。そしてアレイスター。


だがその進軍は、敷地中央で完全に止められた。


『レスター。』


白い霧の中から静かに現れたルシアン。

その瞳には、滲み出るほどの怒気。


ここは彼が創った世界《SG》。

エネルギーは無尽蔵。

転移も、遮断も、本来であれば彼の掌の上。


——それなのに。


『また僕の邪魔をするのか。

 国と組んでまで、どうしてそこまでして“僕”の邪魔をする。』


『“私が支配した方が効率が良い”.。それだけの話だ。

 都合のいい解釈をしているが——先に裏切ったのはお前だ。

 ……あの日、お前は私をここから“捨てた”。』


『害獣に成り代わったペットを“自然に返した”だけだ。

 会話の通じないやつに、もう語る言葉はない。』


刹那。ルシアンの足元から鋭い駆動音。

地面が盛り上がり、黒鉄の装甲が展開する。


それは“装備”ではない。

――搭乗式・対アレイスター兵器。


右腕は剣兼砲身。左腕は盾兼キャノン。

神経外骨格:拡張装甲《Λcellionアセリオン》。


『対・君用の兵器は、ちゃんと用意してある。

 ここを特定して来たことだけは褒めてやるよ。

 ——でも“外部接続”を自ら切った時点で、勝ち目はない。』


『……外部接続? ふん。』


ルシアンが砲身を向けた瞬間、

「サイドに回れ! 」と一ノ瀬の号令。


その2秒後に、雷鳴のような砲撃が通路を焼き抜いた。

炎柱が立ち上がり、床が溶ける。


しかし——その中心にいるはずのアレイスターは微笑を浮かべて立っていた。

無傷。ルシアンの目が驚愕に拓かれる。


『あり得ない…!!』


『その“あり得ない”だよ。』


赤いサングラスが外される。

そこにあったのは、無機質な“機械の眼”。


情報体(アストラル体)で来ると思ったか?

 本体じゃなきゃ、お前のデータを“取り込めない”からね。』


銀白の錫杖がいつの間にか手に握られていた。


『似合うだろ? 魔法使いみたいでさ。』


コートの裾が揺れ、赤いビームが一閃。


咄嗟に盾で防いだルシアンだったが——


その直後、アレイスターの背後の霧が“砲台”に変わった。


八門。

全方向。

個人兵器の域を超えた超火砲群。


『紹介しよう。

 情報体と物理体を同時の消滅させる——《デリミネーター》。

 君の往復芸は、もう通用しない。』


次の瞬間。


空が降ってきた。


無数のレールガン光弾が、流星群のようにSG上空を覆い尽くす。


「伏せろ!!」


人外同士の戦いに一ノ瀬たちができることは地べたに這いつくばり、自身の無事を祈ることだけだった。


ルシアン自身も遮蔽壁(フォースフィールド)を展開しながらレールガンを防ぎきる。


天地を割る轟音。

閃光。

白熱する弾幕。


(完全に——砲撃戦だ!)


一瞬の空白すら許されない。


『どうした!ファインマンの生まれ変わりと言われた天才が!

 その程度か!!』


『黙れ!!』


ルシアンが空間跳躍。だが砲弾が追跡しながら食らいついてくる。


(転移追跡弾……っ! そんなもの、僕ですら実用化できなかった!)


爆煙。酸化した鉄の匂い。

その煙を切り裂くようにルシアンが踏み込み——


(認めよう。遠距離は不利。なら——)


簡易転移で“零距離”まで詰め、一閃。

SGの地形を完全に把握し、距離感を正確に認識できるルシアンだからこそできる芸当だ。


剣撃と砲撃。


砲身ごと叩き込む一撃はアレイスターの胸を捉えるが——

赤いコートが衝撃を吸収し、かすり傷一つ付かない。


『くすぐったいよ、ルシアン。』


逆に放たれた錫杖の一撃は、衝撃そのものを返すカウンター。

床が砕け、視界が傾く。


ルシアンは咆哮と共に反重力砲を零距離で撃ち返す。


ドンッ!!


両者が吹き飛び、塔壁に突き刺さる。


ーー僅か十秒。

二人は、互いに“殺せる技”を惜しみなくぶつけ合った。


『やっぱり——君と殺し合える時間は、最高に楽しいよ。』


『笑っていられるのも今のうちだ。今度は“首”を落とす。』


再び砲台が動く。“第二波”だ。


ルシアンは呼吸を一つだけ整えた。


(次の一撃で——終わらせる。

 時間を掛けてられない)


そして、光と雷鳴が再び交差した。


『なんだ。やる気はあるみたいだね。

 なら――もう少し、本気を出してやる。』


アレイスターが独り言のように呟いた瞬間、背後の空間に淡い歪みが生じた。


魔法陣ではない。

空間そのものが“演算処理領域”として再構築されていく。


シュウウウウ…


幾重にも重なった位相展開ユニットが空中に浮かび上がり、

重力波と虚数波動の“干渉パターン”を高速で重ねていく。


『位相展開……!この場所を消し飛ばすつもりか!?』


『君が邪魔するんだ。 仕方ないだろう?』


ルシアンが即座に察し、Λcellionの左腕を前へ。

次の瞬間——


ズドドドドドッ!!!


青白い線状の衝撃波が雨あられのように降り注ぎ、Λcellionの装甲を斜めにえぐり飛ばしていく。

ただのビームではない。

物理空間そのものを短時間だけ“ぶっこ抜いて”送ってくる次元侵食弾だ。


『っ、ぐ……!!』


ルシアンは咄嗟に遮蔽壁を展開し、

さらに前面砲塔を【防御モード】へシフト。

装甲が瞬時に再構成され、侵食弾の軌道をそらしていく。


(……躱せばSGが崩壊する!それをわかってやっているな!?

 クッソ!ふざけやがって!)


SG全体が白く軋み、床がゆっくりと歪みはじめる。


アレイスターは構わず二射目、三射目を撃ち込む。


“SG”という世界はまだ砲火を受け止めている。

だが、確実にヒビ割れが広がりつつあった。


『貴様ァァァッ!! これ以上汚い手で触れるな!!』


ルシアンが自分の世界を“庇うように”前へ出て、

Λcellionの砲塔すべてを一点へ収束させた。


『近接再展開。……蒸発しろッ!!』


全砲台を展開する。


反重力砲×4門、誘導プラズマ砲×2門、加えて主砲。

全火力がアレイスターへと集中する。


同時刻。


アレイスターの背後では 新たな位相演算による赤い閃光が放たれた。


『“融合崩壊”……開始。』


次の瞬間、アレイスターの掌を中心に“SG空間の一点”がごっそりと抜け落ちた。

空間ごと、虚無に転送する重力断層。

それは簡単にいうと核融合の停止である。


ルシアンの砲撃軌道が乱され、主砲が狙った場所とは別方向へ逸れる。


(これは?軌道を……消された!?)


アレイスターはわずかに嘴角を上げた。


『まったく。重力が別に発生しているんだよ?

 そんな直接的な攻撃が当たるわけないじゃないか。』


『……ッッ!!』


Λcellionは怒声と共に再び踏み込み、

SGの地面を削りながら剣砲身を突き立てる。

アレイスターは紙一重ですり抜け、逆に肘打ちを胸に叩き込む。


ガンッッ!


白い装甲と赤い袖がぶつかり合い、火花が散った。


後方では、一ノ瀬たちが振り向きもせずに奔走している。

振り向いた瞬間、あの二人の狂気に精神を持っていかれると直感していた。


(――あれはもう、“人”の域じゃない。)


眼前、SGの空間が剥がれ落ちていく。


融合崩壊は核反応を停止する動きである。

その逆、核反応を暴走させる“メルトダウン”が、アレイスターの掌で意図的に発動された。


指向性を持った核の爆発。

世界が崩壊していく。


その只中で、

“世界を壊したい男”と“世界を守りながら殺したい男”が

構うことなく人類の既知を超えた凶器を振り回し合っていた。

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