File:078 強制装備調達
総合評価400pt突破ありがとう!!
「……おいおい。これほどの“大盛況”は初めてだな」
乾いた笑みを浮かべながら、オスカーは言った。
しかし彼の身動きは封じられている。
店内を囲んだのは、20体のPC(Perfect Cascade)──無表情な少年たちが銃を一斉に突きつけていた。
「で……支払いは?
うちは現金だけだぞ」
『無駄な抵抗をしなければ、命の保証はする』
群れの中の一体が応じた。
声色は異なるが、言葉の主はルシアン。
それは機械に伝達された、彼の“意志”そのものだった。
「……なるほど。じゃあ、客じゃねぇな。
なら、奪えばいい」
そう呟いたオスカーの目からは、早くも興味が失われていた。
PCの一体が歩み寄り、オスカーの背後の神経外骨格スーツへと手を伸ばす。
着脱用インターフェースに触れ、起動を試みる──
『……起動できない?』
それに加えて無理に開錠しようとすると中身が破壊される仕組みになっていることを看破した。
銃口が再びオスカーの額に押し付けられる。
「……客でもない奴に、渡す情報も装備もない。
撃つなら撃て」
オスカーは一歩も引かず、冷静に言い放った。
その態度は、技術屋としての“矜持”に他ならなかった。
自分の技術に敬意を持つ人間であれば、どんな悪党だろうと売る。
その最低ラインが金だ。
「前崎の奴は、遥かにマシだったぞ。
全財産を差し出した。
それに誠意もあった。
お前らとは、器が違う」
挑発めいたその言葉には、かすかに前崎への敬意も滲んでいた。
こいつが前崎とここに一度来ていたのは監視カメラで気づいていた。
だから殺される前にせめて煽ってやった。
だがー
『……いいだろう。持ってこさせる。
お望み通り現金でな』
十分後。
入口からPCたちが続々と戻ってくる。
彼らが運び込んだのは、黒いスポーツバッグ──およそ5個。
一体がジッパーを開けると、札束が隙間なく詰まっていた。
『ざっと十億。足りるか?』
現金の魔力。
人を殺し、国を動かし、正義さえ捻じ曲げる悪魔のツール。
その匂いに、オスカーの理性もわずかに揺らいだ。
「……十分だ。好きなだけ持っていけ」
『ふん』
短く吐き捨てるように返しながら、PCたちは装備の受け渡しを始めた。
オスカーは次々とロックを解除し、最終セーフティを外していく。
機体の電源は複雑に隠蔽されており、起動には特定の手順と本人認証が必要だ。
ルシアンが神経外骨格に触れてスキャンする。
すると目を見開いた。
『……オーダーメイドか?』
「当然だ。じゃなきゃ作る意味がねえ」
あくまで淡々としたオスカーの口調には、自負が滲む。
だが──ふと表情が引き締まった。
「……一つだけ、聞かせてもらおう。
お前ら、何をしでかす気だ?」
PCの一体──ルシアンの声が応じる。
『国家の主権を奪う。それだけだ』
その一言に、オスカーは吹き出した。
乾いた、心の底からの笑いだった。
『……私の言葉の、どこがそんなに可笑しい?』
銃口が再び、無言で上がる。
ルシアンの静かな怒りが伝わってくる。
「お、おい……待て、誤解するな。悪かった。
笑ったのは、お前じゃない。
……客層にだ」
『客層?』
「うちの客ってのは前崎しかり、あいつも
“総理暗殺”だって抜かしてたし、他にも似たような奴ばっかりさ。
国家転覆、世界改革、革命……なんでもありだった。
そんな奴らに囲まれてたからさ──お前が特別ってわけじゃねえ。
俺の客はイカれたやつしかいねぇ!」
ガハハハとオスカーは笑った。
『……そうか』
PCたちは静かに装備の確認を始めた。
神経外骨格の隅々にまで目を走らせ、可動部、感覚フィードバック、連動率をチェックする。
──圧倒的だった。
既製品とは比べ物にならない滑らかさと応答速度。
まるで「意志」が装甲に宿っているようだった。
馬鹿にするわけではないが、エルマーのものとは比べ物にならない。
『……少々、手間はかかったが…。恩に着る』
主導機がそう言い残すと、PCたちは整然と店を後にした。
誰一人、金の山に目もくれずに。
カウンターに一人取り残されたオスカーは、呆気にとられた表情のまま硬直していた。
「……前崎といい、嵐のような奴だな。
だが、こんなあっさり帰るとは…」
死を覚悟したが何とか助かった。
「それにしても恩に着るとはどういう意味だ?」
あいつは金を払ったのだ。
それもオスカーが示した金額をはるかに超えて。
「まぁいい、金は貰ったんだ」
床に無造作に放置された黒いバッグ──
ジッパーの隙間から顔を覗かせる、札束の山。
オスカーは卑しい笑顔のまま駆け寄り、金を手早く数え始めた。
そして10億はありそうだと見込んだあとにスポーツバックを引きずるように運ぶ。
「……このレベルの現金ってのは、案外重てぇな。
腰にくる……!」
驚き、安堵、そして金への欲望。
だが不意に時計を見る。
ちょうど2時59分だ。
先ほどの出来事を振り払うつもりでオスカーはリモコンを操作して店内スピーカーのラジオをつけた。
お気に入りのクラシック調テーマ曲が……流れない。
代わりに聞こえたのは、冷徹なアナウンスだった。
『──臨時ニュースをお伝えします。
本日15時頃、日本帝愛銀行秋葉原支店が何者かに襲撃され、およそ10億円が強奪されました。
関係者によれば、容疑者は“同一の顔をした複数の人物”であったとのこと──』
「……あ?」
一瞬、何かの冗談かと思った。
だが背筋を凍らせる悪寒が、オスカーの理性を急速に冷やしていく。
(まさか……まさか、アレが“支払い”の原資か……?)
全身から冷や汗が噴き出す。
オスカーはすぐさまバッグから持ち運べる最小限の金だけを取り出し、工具と機密データのストレージをバッグに詰め込んだ。
「あのクソガキ!……畜生が……!」
残りの現金には、一瞬の迷いもなく火を放つ。
炎が舞い上がると同時に、オスカーは自らの工房に引火装置を仕掛けた。
そして、その場を──捨てた。
オスカーの工房が本日をもって閉店した。
■ 自衛隊・東関東駐屯地
静寂を裂くように、空が“割れた”。
その裂け目から、PCが降ってくる。
まるで神の使いだ。
だが、与えるのは福音ではなく略奪である。
神経外骨格部隊も、装甲車両も、電子通信すら──全てが封じられた。
局地EMPを始め、一切の応戦を許さぬ、初動無効化攻撃。
PCたちは無言のまま進入し、装備庫から最新兵装、兵器、車両を次々と奪取していく。
完全な不意打ち。
最精鋭の部隊ですら、武装解除された瞬間にはただの人間。
兵士たちは逃げることしかできなかった。
■ 日本最大手・神経外骨格メーカー
その企業も、例外ではなかった。
同時期15時に
本社地下試験施設にPCが侵入。
試作機、設計データ、システムコード、すべてが数分で持ち去られた。
警備ロボットも作動せず、警報も鳴らず、ただ“気づいたときには終わっていた”。
すべてはもぬけの殻だった。
襲撃開始から、二日と四時間後。
各拠点を精密に制圧し、装備は完璧に最適化された。
その中でもオスカーの装備が群を抜いていた。
今はそのコピーをエルマーに命じて作成しているが時間がかかる。
だがそれでもいい。
情報、兵装、人材──
あらゆる“武器”が揃った。
その時、PCの主機が呟く。
その声は、誰にも聞かせるものではない。
だが確かに、意志を持って放たれた。
『──勝負をつけよう。アレイスター』
鬼滅の刃面白かったです。
漫画ではそこまで感動などしなかったシーンなのですが、中々込み上げてくるものがありました。
あんな風なものを小説で書けたら幸せだろうな…と妄想していました( ´∀` )




