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File:107 アリ・イブン・アマール・バクダーディ

アレイスター。


その本名は――アリ・イブン・アマール・バクダーディ。

彼は生まれ落ちた瞬間から「ISISの血統」という逃れられぬカルマを背負わされていた。


2019年 ― 運命を決めた襲撃作戦


それを語るには、2019年に行われたアル=バグダーディ殺害作戦から始めねばならない。

当時のISIS最高指導者、アブー・バクル・アル=バグダーディ

――彼こそがアレイスターの祖父である。


アメリカは「世界の警察」として本気でISISを根絶やしにしにかかった。

イラク軍、クルド人勢力、CIAが連携。

裏切り者として捕らえられた側近の妻と伝令から、DNAデータと居場所が割り出された。

作戦の舞台となった複合施設は、事前の監視で構造まで徹底的に把握されていた。


夜陰に紛れ、CH-47チヌーク8機が飛来。

デルタフォースの精鋭とレンジャー部隊が降下する。

爆薬で塀を破壊し、轟音と閃光が混じる中、隊員たちは一糸乱れぬ動きで突入した。

夜明け前の冷たい空気に、硝煙と砂塵が混じった。


「降伏しろ!」

拡声器の声が建物を震わせた。

だが返ってきたのは銃声。

バグダーディはトンネルへと逃げ込んだ。


狭い地下。真っ暗な闇に響くのは荒い息と足音。

デルタフォースは即座に軍用ロボットと制圧犬「コナン」を投入、包囲を完成させた。

追い詰められたバグダーディは、最後の瞬間まで牙を剥いた。


しかし彼は生を諦めた。


自爆装置が炸裂し、二人の息子を巻き添えにして肉の塊と化した。

爆炎と絶叫が交錯し、トンネルは崩落した。


特殊部隊は瓦礫をかき分け、肉片と装置を掘り出した。

DNA鑑定の結果、間違いなくバグダーディ本人と確認される。


同時に、施設は爆撃で徹底的に破壊された。

再び聖地とされぬよう、灰燼に帰すまで。


これが公的に発表された「ISIS壊滅の象徴的瞬間」である。

だが、アメリカも、世界も気づいていなかった。


――そのイスラムの血脈はまだ絶えていなかったのだ。


息子の孫――すなわち彼の直系の血筋が、極東の島国に潜んでいたのだ。


バグダーディの息子のひとりは、妊娠した妻を「保険」として国外に逃がしていた。

莫大なオイルマネーを与え、行き先は日本。

そこで生まれたのが――2019年生まれの「アレイスター」である。


日本国籍を持ち、日本語を第一言語とし、日本人の同級生と同じランドセルを背負った。

イスラムの影を隠し、母はシングルマザーとして裕福に育て、やがてイスラム系移民の男と再婚した。

家庭内に暴力はなく、表向きは「平凡な少年時代」だった。


だが――10歳の時、すべては崩れ去る。


日本に潜伏していたISISの過激派の手で拉致され、キリスト教由来の名「アレイスター」は嘲笑と共に剥ぎ取られる。

日本に残された両親は「処理」された。

完全にアレイスターを仏教にもキリストにも染めらぬように。

二度とこの地を踏まないように。


以後、彼はISIS残党の手によって、ほとんど洗脳に近い教育を叩き込まれる。

カダフィ大佐の時代から受け継がれた苛烈な訓練は、少年を兵士ではなく指導者に仕立てるためのものだった。

恐怖と忠誠心を刷り込み、理想という名の呪縛を骨の髄まで流し込む――。


――こうして、日本人として生まれたはずの少年は、イスラム国の亡霊として再構築された。


26歳になった彼は、生まれついてのカリスマ性を発揮しついに行動へと踏み出す。

アメリカを標的に掲げた決起集会。

「9.11を超える惨劇を起こし、合衆国そのものを膝まずかせる」と同志たちと誓い合ったその瞬間――


空から落ちてきたのはサテライトキャノンの白い閃光だった。


閃光は街を削り取り、地を裂き、集会に集まった同志もろとも焼き払った。

気づいた時には、自らの肉体の八割が消し飛び、脳と脊髄の一部だけが辛うじて残っていた。

奇跡的に生命維持装置へ繋がれたことで命は繋がったが――もはや「生」に意味はなかった。


彼は廃人同然の肉体で、麻薬に逃げ、虚ろな瞳で天井を見上げていた。


そんな時、ロシアに潜伏していた同志から奇妙な情報が届く。

――肉体をホログラム化し、意識のまま活動できる技術が存在する、と。


そんな馬鹿な話があるものか。


アレイスターは鼻で笑った。


本来なら国家規模の研究であるはずのその技術は、予算を打ち切られた研究者の怠慢で闇市場に流出していた。


生きることに未練はなかった。

強いて言うのであればアメリカというクソ国家をぶっ壊したい程度だ。

不正で貯えたオイルマネーを惜しげもなく注ぎ込み、彼は実験台となる。


結果――アレイスターは肉体を失ったまま、なお意識を保ち、動く人間”となった。

ホログラムとして透過し、壁をすり抜け、監視カメラに映らぬ影。

食事も睡眠も取る必要のない完全無欠の体。


だが同時に、肌の温もりも血の匂いも、肉体という檻に閉じ込められた快楽をも失った。


「感覚がない……。だが、生きている……。これは生なのか、死なのか……?」


いつしかそれは亡霊と呼ぶにふさわしい存在になっていた。


その特性を利用し、諜報活動では無類の成果をあげ、オイルマネーを狙うロシアンマフィアすら潰してみせた。

だが、栄光と力の陰で、どうしても拭えない欲望が胸を焼く。


――肉体が欲しい。

 血が流れる感覚が欲しい。

 生きている証を、もう一度。


かつて自らが捨てたはずの肉体への羨望が、再び彼を突き動かしていった。


そこで、彼は運命的に「メタトロン」に辿り着いた。

驚くべきことに――ホログラム技術を開発していた研究者と、メタトロン研究の中心にいた人物は同一だった。

姿形こそ別人に見えたが、それすらも装置による偽装の産物だった。


それこそがルシアンと呼ばれた老人の科学者である。


イスラム圏にまで足を伸ばし、布教活動を続けていたキリスト教系の扇動者を捕らえ、実験を行った。

脳を移植し、肉体と意識を交換する。

結果――アレイスターに失われていた肉体の感覚が蘇る。

同時に、ホログラム体としての「透過・超越の力」と、肉体に宿る「生身の快楽」を、二重に使い分けられる存在となった。


「我々は同志だ」


ルシアンとアレイスターはそうして手を結んだ。


もっとも、アレイスターは自らがイスラムの血を引くことを伏せていた。

宗教的背景を露わにすれば必ず警戒されると踏んだからだ。


ルシアンは「世界を変える」と大言壮語した。

そのために日本をモデルケースにすべきだ、と熱弁した。


アレイスターが「自分も幼少期は日本で過ごした」と漏らすと、ルシアンは目を輝かせ、

「戻りたい。あの自治と調和を持つ日本へ」

と語った。


だが両者の理想は根底から異なっていた。

ルシアンは国家の自治を尊重する“調和”を求め、

アレイスターは唯一神ヤハウェとして“救済”と称した支配を夢見た。


異能を得た今、彼は確信していた。

――我こそはアッラーに選ばれた者。


だが信仰が血肉にまで染み込んだ彼は、ルシアンの構想にいちいち反発してしまう。

そこで考えたのが――“二重人格”として学生の脳を実験台に利用し、異なる人格を演じる方法だった。

学生はエルサレムのヘブライ大学から拉致してきた。


奨学金の免除の話を持ち掛けたら簡単に寄ってきた。


犠牲を払いながらも実験は成功。

アレイスターは「人畜無害な仮面」を被り、ルシアンの前では従順な協力者を演じるようになった。


その裏で彼は自らの「ヤハウェ(唯一神)の記憶」をデータとして保存し、

「来るべき時、ルシアンのすべてを奪う」 という野心を胸に秘めた。

冷凍保存されたバックアップの肉体もルシアンには秘密裏に用意し、二重三重の布石を打つ。


ルシアンが積み上げてきた百年以上の知識と記憶――。

それは他者の体験すら吸い上げ、膨大なアーカイブとして蓄積された人類史上唯一無二の叡智だった。

アレイスターは確信していた。


「これらをすべて奪った時、私はヤハウェに至れる」


ルシアンがその莫大なデータを自ら完全統合しない理由も理解していた。

――人間の脳の処理能力では、情報の奔流に耐えきれずショートしてしまうからだ。

ゆえにルシアンは、少しずつ、じわじわと自身の精神に馴染ませるように“滴下”していく必要があった。


だがアレイスターにとって、それは歯痒い愚策にしか見えなかった。


「そんな迂遠な真似は不要だ。AIに学習させればいい。

 AIを駆使すれば、私は即座に神に到達できる」


しかしルシアンは真顔で否定のた。

「AIはやがて反乱を起こす。人類の意思を超えた異物になる」

その言葉に苛立ちが募った。

単純な話なのに、なぜこの男は譲らないのか。


しかもルシアンは、肝心の“記憶保管場所”を最後まで明かさなかった。

アレイスターは決断する。

信頼されるまで「いい人」を演じ続けると。


十年。

彼は“人畜無害な協力者”を演じ続けた。

ルシアンに信頼されるその日を待ちながら。


そして転機は訪れる。

ジュウシロウという少年を救ったことで、ルシアンの評価が一気に高まり、ついに記憶の場所を聞き出すことに成功する。

アレイスターはメタトロンを使って記憶を一年かけてすべてを思い出し、牙を剥いた。


これまで蓄えた叡智を武器にルシアンへと襲い掛かる。


だが結果は大敗北だった。


ルシアンはすでにその裏切りを織り込み済みで、情報体(アストラル体)そのものを消去するような光線兵器まで準備していたのだ。

アレイスターは辛うじて残骸として逃れたにすぎなかった。


適性のあったバックアップ体もほとんど使い切ってしまった。


その時――ジュウシロウが組織に加わってから、わずか一年後のことだった。


敗北の屈辱を糧に、アレイスターはさらに二年を費やして各国の地下組織やマフィアから情報を収奪した。

憎きアメリカの研究施設に潜り込み、軍用データや機密情報も奪い取り、自らの記憶とAIでバックアップし、アレイスターはついに“神の一歩手前”に到達したと自覚する。


副大統領の厳重な警戒網すら易々と突破できたのも、その成果の一つだった。


ただし――アレイスターのホログラム転送装置にはどうやっても限界があった。

ルシアンの技術から辛うじて奪った技術。

それを自らの手で再現してみた。


しかしルシアンのように無尽蔵ではなく、使用範囲も限られ、一日の回数に制限がある。

まるで無料アプリのような制約だ。


それでもストック機能を活用し、瞬時の大量転送を可能にした。

だからこそ、自衛隊を一斉に転送する荒業も成し遂げられたのだ。


残りの回数は、わずか十。

しかし彼の手元にはなお、肉体のバックアップ、メタトロン、そして盗み取った叡智がある。


さらに、ルシアンがこれらを常にアップデートし続けていることも理解していた。

だからこそ、それを奪った瞬間――。


『俺こそヤハウェでありアッラーだ!!俺以外の神は殺してやる!!

 全人類が俺に帰属しろ!!』


欲望を撒き散らしながら、アレイスターは破壊の嵐を呼び込むかのようにルシアンの本体へ襲い掛かっていった。

よくわかるイスラム教。

アッラーとヤハウェの違い。


ヤハウェ(YHWH)

ユダヤ教における唯一神の固有名。

イスラエルの民と契約を結んだ神として登場。

聖書では「アブラハム・イサク・ヤコブの神」と呼ばれる。


契約の神:イスラエルの民を選び、律法を与え、守ることを要求する。

旧約聖書では怒り・嫉妬・罰も強調されるが、同時に愛と慈しみも説かれる。


アッラー(Allah, الله)

イスラム教における唯一神。

「アッラー」という言葉自体はアラビア語で「神」を意味し、イスラム以前のアラブでも一般的な呼び名だった。

イスラム教では「天地の唯一絶対の創造主」として信じられる。


絶対的な唯一性タウヒード:同等のものは存在しない。偶像崇拝は最大のシルク

慈悲深い神(クルアーンの冒頭は「慈悲あまねく、慈愛深き神の名において」)。

従順(イスラーム=神への帰依)が最も重視される。

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