拘束と決別と再会と
「これはどういう事だっ!!」
叫んだフラクトの声音は怒りに満ちている。
「何で!? ねぇ、何よこれ!?」
同じ様に叫んだアカリの声は悲鳴に近かった。
「お姉ちゃん、何で……?」
信じられないと青ざめた顔でマースは呟いた。
「……」
ユトだけが沈黙を保っていた。
「浄化、お疲れ様です聖女様」
そう言って四人の前に立ったのはシルティーナだった。
「あんたっ!! これあんたの仕業ね!? どういう事よ!? あんた達の依頼は私の護衛でしょう!? こんな事やって許されると思ってるの!?」
「そうだぞ!! お前等何を企んでいる!?」
両手を後ろで縛られ、ついでとばかりに足も縛られたアカリとフラクトとユト。マースだけが子供という事を考慮され、両手のみ拘束されている。
シルティーナを睨みつけながら怒鳴るアカリとフラクトに当の本人は笑顔で言葉を返す。
「いやだなぁ、お二方。私達が請け負ったのはあくまで浄化が終わるまでのあなたの護衛ですよ。それがつい今しがた終わったのです」
「何よ、それ……だからってこんな事やっていいと思ってるの!?」
「思っているからやっているのですよ」
「お前等に来た“依頼”とはこういう事か!?」
「いいえ、違いますよ。そもそも“依頼”など来て無かったのですよ。あの時受け取った手紙に書いてあったのは、“計画”に沿ってギルドの皆が動き出したって事だけだったんです。“依頼”が来たって言って請けた方が何かと楽かと思っただけですよ」
「なっ!?」
怒り心頭のアカリとフラクトを適当にあしらうシルティーナ。
事は、とても素早く行われた。
浄化を終えたその直後に響いたシルティーナの指の音。
その音に一同がシルティーナを振り返ったその時、不可視の結界で姿を隠し待機していた双翼の剣の者達が一斉に姿を現したのだ。
そしてアカリ達は抵抗する間もなく今の状態へとなったのである。
そんな彼等の後ろで双翼の剣のメンバーと共に居たテドラとシルティーナを呼ぶ声が響いた。
「テドラ!!」
「兄上!!」
テドラの元へ駆け寄って来たのは彼の実兄であるジルド・バルラトナである。
「シルティーナ様!!」
「あら、皆こっちに来てたのね!」
そしてシルティーナの元へ集まったのは、ジルドと共にマンリーニャまで来ていたバルラトナ公爵家の私兵隊の者達であった。
「久しぶりね。元気にしていた?」
「はい。皆息災です」
シルティーナの問いに私兵隊の者達を代表してその隊長が答える。
「そう、良かったわ。旅に出る前に屋敷の方でお世話になったのだけれど、あなた達には会えなくてちょっとがっかりしてたのよ」
「申し訳ありません。今回の件の準備で皆出払っておりまして……」
「謝らなくていいわ。寧ろ私達の“計画”の為に動いて貰ったんだもの、お礼を言いたいくらいよ。ありがとうね」
「そんな! 勿体ないお言葉です!!」
「ふふ。あなた達は変わらないわね」
自分の言葉に泣き出す者まで現れ、シルティーナはそんな彼等の様子に懐かしそうに目を細めた。
「シルティーナ様、ジルド様とテドラ様はもう下げてしまってもよろしいのですか?」
「そうね。まぁ、元々彼等にこれから先の出番はないから下がって貰っていいわ。あなた達もついていて貰ってもいい?」
「はい」
そう言ったシルティーナが自分達の隣で再会を喜ぶ兄弟に目を向ける。
その視線の先には、無事を確かめる様にテドラを抱きしめたジルドが安堵の息をついていた。
「無事だったか。良かった」
「兄上こそ、よくご無事で」
「ああ。……お前が捕らわれずにここに居ると言う事は、選んだのだな」
「はい……」
「そうか」
テドラの答えに何か言いたそうにシルティーナに視線を向けたジルドに私兵隊の者が話しかける。
「ジルド様、積もる話もあるでしょうから一先ずテドラ様と共に野営地へと戻られたらいかがでしょうか? シルティーナ様にも許しを得ましたので」
「……そうだな。行くぞテドラ」
「あ、はい」
ジルドに続いてその場を後にしようとしたテドラにフラクトが怒鳴った。
「テドラ!! 何故お前はそこに居るのだ!? 俺を助けろ!!」
そんなフラクトに一瞬泣きそうな顔を見せたテドラは、大きく息を吸い込み、震える声で謝罪を述べた。
「……申し訳ありません、フラクト王子。もう僕は貴方と同じ場所には立てないのです……」
「なに? どういう事だ!?」
くってかかるフラクトに深々と頭を下げたテドラがジルドに連れられて去っていく。
それを忌々しそうに見送ったフラクトが再び目の前のシルティーナを睨みつける。
「お前等!! この国の王子である俺にこんな事をやってただで済むと思っているのか!?」
「あー、その事何だがな、」
それまで少し離れた場所でレインと何やら話していたアルハルトが数枚の紙を手に近寄って来た。
「この国、今どうなってるか知ってるか?」
「どうなってるか?」
「隣国のルラン王国から攻め込まれ、第二の港町ラカヤン制圧された。リディーラン王国の国王は早々に逃亡を図って目下捜索中だ」
アルハルトの言葉にフラクトが目に見えて動揺する。
「そ、そんなでたらめを信じると思うのか!? ここまでの道中でもそんな話一度も耳にしたことなど……まさか、」
途中まで捲し立てる様に喋っていたフラクトが不意に何かに気づき言葉を詰まらせた。
そんな彼の様子にアルハルトは楽しそうに笑い彼が気付いたであろう可能性を肯定する。
「おー、大分頭を使える様になったんじゃね? そのまさかさ。フィミナンからこっち、なるべく人目につかない様な道を選び進んでいたのは、ルラン王国との戦の事をあんた等の耳に入れない様にする為でもあったのさ」
「だが、それだけで一切の情報が入って来なくなる訳が……」
「俺達にとって有り難かったのが、この国の王様は戦の事を国民達に一切報せないと決めてくれた事さ。それだけであんた等の耳に戦の事が入る機会はほぼ無くなった」
「なぜ……?」
「さあねぇ? 自分で直接聞いてみたらいいんじゃないか?」
「え?」
「まぁ、もう少し待っとけよ。そうしたら全てが片付く」
そう言ったアルハルトが持っていた数枚の紙を無造作に投げ放った。
まるで意志を持っているかの様に散らばった計六枚の紙達には映像魔法用の魔法陣と似たような幾何学な紋様が描かれている。
それらが地面近くの上空で留まり次の瞬間にはそれぞれの紙にどこかの風景が浮かび上がる。
「これは何だ?」
「映像魔法の応用版みたいなモンだよ。人物ではなくその場所の映像を映し出してる」
「マジック、ビジョン?」
「まぁ見とけって」
意味が分からないと首を傾げるフラクトに苦笑で返してアルハルトが映し出されている映像へと目を向けた。




