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元令嬢様の華麗なる戦闘記  作者: 夢猫


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刃を向ける者達

「ふぁぁぁ~~~」


 噛み殺される事すらなく地下牢に響いた大きな欠伸に鋭い眼光が飛んでくる。


「何呑気に欠伸なんぞしている! お前等は俺達を守るのが仕事だろうが!! なのに何故抵抗もせずに大人しく捕まっている!?」


 そう叫ぶように言ったフラクトにアルハルトは気だるげに目を向けた。


「嫌だな王子様。俺達が請け負った依頼は"聖女様"を護衛しろというもの。あんた等は対象外だ。そもそも、勢いよく突っ込んで行って呆気なく返り討ちにあうような人にどうこう言われる筋合いはない。あんな、素人に毛が生えた程度の奴等にすら負けるとか、どれだけ弱いんだって話だよ」


「何だとっ!?」


 憤るフラクトをアルハルトはニヤリと笑って見やる。


「なんだ、やるかお坊ちゃん?」


「なめやがって!!」


 振りかぶられた拳は空をきる。勢い余って前へつんのめったフラクトにおまけとばかりに足払いしたアルハルト。


「このっ!!」


 何とかバランスを保ったフラクトが再び振り上げた拳。しかし今度はそれを振り下ろす前にクロイツにより止められた。


「遊ぶのも大概にせよ、アルハルト」


「暇なんだから仕方ないだろ」


「ならば丁度いい暇潰しが来たぞ。我も大人しくしているのに飽きてきたところだ。シルティの気配も近くまで来ている事だし、そろそろ暴れ時だろう」


 そうクロイツが言ったと同時に牢屋前になだれ込む様に入って来た数人の男達。


「暴れ時ねぇ。こいつ等、シルティのおこぼれだろ?」


「そうだろうな。おおかた我等をシルティへ対しての人質に使おうとやって来たのだろう。大人しく人質になってやってもいいが、そろそろ反撃に出ないと後でシルティに散々文句を言われるだろうな」


「あー、どっちにしろ面倒だが、シルティ怒らすと後が大変だしな……」


 しょうがない、とグッと伸びをしたアルハルトが牢の格子へと近寄る。


「やぁ、誘拐犯の人達。俺達に何か用があるみたいだけど、ちょーっとそこから離れてた方がいいかもよ」


「な、なんだよあの女!! お前達の仲間なのか!? なぁ!?」


「あ、あんな……何の戸惑いもなく人を……」


「おーぃ、人の話を聞いてくれ。そこ、離れとかないと危ないぞ……と、あー、もう遅ぇや」


「え?」


 スッとアルハルトが横に避けた瞬間、黒い炎の球が数個男達へ向かって飛んでいった。

 男達との間にある鉄格子など一瞬にして溶かし、容赦なく男達に襲いかかった黒炎は男達に触れた瞬間瞬く間に燃え上がる。


「アァ"ァ"ァァ!!!」


「あつ、熱い!! 消してくれ!!!!」


「ギィャァァァ!!」


 阿鼻叫喚。黒炎に焼かれのたうち回る男達を牢から出てきたアルハルトとクロイツが無表情で見下ろした。


「だから言ったんだ。離れてた方がいいって」


「ふん。騒がしい」


 パチン、と指が鳴らされた直後、男達を焼いていた黒炎が消え失せる。

 人の肉の焼ける何とも言い難い臭いが充満するその空間で、アルハルトとクロイツ、そしてミリアーネは慣れた様子で奪われていた荷物を探し出し身に付けていた。


「ひ、いや、ぁぁ……」


「グッ……ぅぇ、」


「……ッ、」


 恐怖に身を竦め震えながら泣くアカリ。

 蒼白な顔で嘔吐するフラクト。

 フラクトと同じく蒼白な顔で眉をしかめるテドラ。


 それぞれの反応を見せる三人の様子など気にも止めず、再び牢の中に入って行ったアルハルトがアカリの腕をとった。


「キャァァァ!! いゃぁぁぁ!!」


 半狂乱状態で暴れるアカリを容赦なく引き摺りながら牢を出たアルハルトがこの段になって漸く未だ痛みに悶える男達へと関心を向ける。


「なぁ、俺達の馬車は何処だ?」


「ぁ、あぁ"……痛い……いた、い」


「いや、だから馬車は?」


「や、やめ、やめてくれ! もう、もうっ!!」


「……おい、クロ。やりすぎだ。話くらいまともに出来る様にしといてくれ」


「これでも十分に手加減したのだがな……他にも人は居る。そちらに聞けばいいだろう」


「そうだな。んじゃ、先ずはシルティ達と合流するか。聖女様落とすなよクロ」


「分かっている。お主はしっかり着いて来くるのだぞ、ミリアーネ」


「あ、は、はい」


 クロイツの言葉に慌てて木箱の裏に身を隠したミリアーネ。そんな彼女の様子に肩を竦めて苦笑したアルハルトが先陣をきって歩き出した。

 その後ろに未だ半狂乱状態のアカリを引き摺ったクロイツが続き、最後に手近にあった盾で身を隠しながらミリアーネが続いた。

 因みに置いていかれたフラクトとテドラは、先に正気に戻ったテドラがフラクトに肩を貸しながら四人の後を追うのだった。


「よぅ、シルティ。手間かけさせたな……ぅわ!!」


 牢を出て10分弱。向こう側からティルティンクルと共にやって来たシルティーナに向かって手をあげたアルハルトに水の球が飛んで来た。

 アルハルトの顔に当たって弾けたソレにより彼は水浸しだ。


「……シルティ、何すんだよ」


「目は覚めた? アル。何でこんな事になったのか説明してくれるわよね?」


「説明ってもなぁ。ティルから聞いただろ? 拐われたんだよ、山賊さん方に」


「な、ん、で、拐われたのかを聞いてるのよ、私。"依頼"をしっかり遂行してよね、まったく」


「"依頼内容"に危害が及ぶ様ならしっかり働くさ。今回は……まぁ、うん。面倒臭かったんだよ!」


「……」


 ザッパァン!と今度は頭上から降ってきた大量の水により再び水浸しになったアルハルト。

 そんな彼をシルティーナはスッキリした顔で見ていた。


「さて、まぁ、何はともあれ無事に合流できた事だし、後は馬車を取り戻してさっさっとお暇しましょうか」


「シルティ、馬車が何処にあるのか知ってるのか?」


「邸の裏手に停めてあるそうよ。食料とか他の荷物がどこまで無事かは分からないけど、馬はまだ繋がれたままだってティルが教えてくれたわ」


「邸の裏手か……取り合えず上に出るか」


 アルハルトの言葉に揃って一階へと上がったシルティーナ達の目の前にそれぞれ手に武器を持った人達が待ち構えていた。

 武器を手にしている人達の殆どが女子供である。中には包丁や鋏などといった"武器"として使うにはあまりにお粗末な物を持っている人もいる状況にアルハルトが呆れた顔で息を吐いた。


「おいおい、次は女子供の相手をしろってか?」


「せめてもと逃がすならいざ知らず、自分達が敵わなかった者に対して同じように刃を向けさせるとは……愚かにも程があります」


「うるせぇ!! お前等が殺した奴等はなぁ、俺達の仲間で、こいつ等の夫で父親だったんだ!!」


「そうさ! あんた達よくも私の旦那を!! 許さない!!」


「父ちゃんの仇をとるんだ!!!!」


「「「おぉーー!!!!」」」


 憎しみのこもった目でシルティーナ達を睨み、怒りのこもった拳を振り上げる。

 男も女も子供も、ただ目の前にいる憎い憎い"敵"を倒す為だけにそこに居た。


「私達とて別に好きで人を殺めている訳じゃないんですけどね……」


「まぁ、けど、敵対心全開で向かって来る奴に対して無抵抗で殺されてやるほど人生捨てちゃいねぇしな」


「残念ながら、男であれ女であれ子供であれ、刃を持って襲って来るのなら容赦はしません」


 自分の得物を抜いたシルティーナ達にその場に緊張が広がる。

 暫くの沈黙の後、緊張の限界に達した山賊達が動こうとしたその直前、双方に待ったの声がかけられた。


「ま、待って!! 待って下さい!!」


 それは先程まで泣き乱れていたアカリの声。


「冗談でしょ……」


 声を上げると同時に双方の間に立ち塞がったアカリの行動にシルティーナが疲れた様に呟いて額に手をあてた。


「クロイツさーん?」


 アカリの腕を掴んでいた筈のクロイツへと恨みがましい目を向けたシルティーナに当のクロイツは肩を竦めるだけで悪びれない。


「別に間に割っていったからとていきなり斬って捨てられる訳でもなかろう」


「そうだけどさぁ、彼女にああやって自由に動かれると色々面倒なのよ。お願いだから少しは行動を諌めて」


「あやつが死ななければいいのだろう?」


「だからって放って置けば自ら面倒事に首を突っ込む質なのよ。力が無いくせに、自分ならって変な自信だけはある困ったちゃんなんだから、ある程度は行動を制限しないと」


「分かった。次からは善処しよう」


「よろしく…………さて、」


 クロイツとの会話を終えて前へ向き直ればアカリから鋭い視線が飛んでくる。


「聞いてました!?」


「いえ、全く」


 怒り心頭のアカリの様子に説明を求めてアルハルトを見るが、戦闘開始が先送りにされた事を理解した途端に立ったまま寝入り始めた彼にシルティーナの無言の訴えは届かなかった。


「だから、何で簡単に人を殺せるんですか!?」


 投げ掛けられたアカリからの問い。


「何故って…………死にたくないからに決まってるじゃないですか」


 何を馬鹿な事を聞いているのだろうか、目の前の聖女様は。

 向けられた刃に宿る明確な殺意を前にして、何故彼女は"そんな事"を訊ねるのか。

 "大切な者を殺された"。ソレは、自分に刃を向ける理由にはなるだろう。けれど決して自分が大人しく殺される理由にはならない。


「何で話し合おうとしないんですか!?」


「……は?」


 思わず漏れた声は"何言ってんだコイツ"というシルティーナの心の声を如実に表していた。


「人を殺したい人なんて居ない筈です! なら話し合えばいいじゃないですか!! 私達は同じ人間なんですから!!」


「…………」


 さも当然の様に、自分に間違いなどないという様に、自信を持ってそう言ったアカリ。


「話し合うなど、」


 そんな次元はとっくに過ぎ去っていると、シルティーナは小さく呟いた。

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