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第325話 『激闘! 鹿児島湾海戦! -序章-』

 文久四年四月三日(1864/5/8)


 蟄居(ちっきょ)処分状


 文久四年三月二十七日、赤塚源六、大山彦助、松方正義の三名は、主命に背き独断専行にて大島沖に()いて英国艦隊と交戦せり。


 これは重罪である。

 

 ()れども今般の英国との戦況に鑑み、また三名の武功並びに忠誠心に免じて死一等を減じ、終戦後より蟄居を命じ渡す。


 蟄居期間は終戦後改めて申し渡す。その間は一切の外出を禁じ面会も許可しない。また半知(給料半分)とする。


 この処分は英国との戦争終結後に改めて執行されるが、それまでは、三名は戦いに尽力せよ。


 もし戦功を挙げれば、罪を軽減もしくは赦免することもあり得る。


 よってこの処分状を(もっ)て、三名に命じる。


 大隅守(花押)


 文久四年四月三日





 罪が減じられたのは烈火の如く怒り狂った久光に対して、忠義が必死に嘆願したからに他ならない。即時切腹させよとの久光の命令であったが、今は戦時である。


 貴重な戦力を失えば亡国の憂き目を見ることになる。


 それだけは絶対に避けなければならない。戦が終われば多少父上の怒りも収まるだろう。そう忠義は考えたのだ。





「申し上げます! 大村家中、太田和次郎左衛門様、お越しにございます」


「おお! 通すが良い!」





「大隅守さま、ならびに権少将さまにおかれましては……」


「よいよい、楽にするがよい」


 次郎は2人に対して正式な挨拶をしようとするが、その服装は当時としては異形であった。


 まず、洋装である。


 幕府海軍を彷彿(ほうふつ)とさせるような真っ黒なベストをズボンの中に入れてベルトで締め、上着にもベストにも大村()(いかり)をあしらった金ボタンがつけられている。


 軍刀は差したままだ。


 戦時中でもあり、事前に戦闘服での登城を電信にて知らせていた。


 2人ともその服装に驚いた様子だったが、優先順位でいえばそんなことはどうでもいい。


「次郎よ、知ってのとおり家中の恥ではあるが、わが家中の軍艦が英吉利の艦隊を攻撃した。幸い撃沈は免れたものの、白鳳(はくほう)丸は修理に時を要するゆえ、戦には加われん」


 久光が申し訳なさそうな、それでもこれ以上恥(軍規違反)をさらしたくないような、複雑な面持ちで発言した。


「過ぎたことをいっても仕方ありませぬ。それがし、その者らと話したいのですが、能いましょうや」


「うむ……それは居宅にて控えておれと命じておるゆえ、会って話を聞くことはできようぞ。然れど今は仮とはいえ蟄居の身ゆえ……」


「ではそのようにお願いいたします」


 次郎の熱意に久光は忠義の方を向き、確認したかのように了解した。


「今は少しでも情報が欲しいのです。戦とは結局のところ、だまし合いにございます。それで……敵の旗艦に傷を負わせたというのは真にございますか?」


「うむ、そう申しておった」


「……」





 ■赤塚邸


「では、その一発だけなのだな?」


「はい、見事に命中し、私も含め皆が喝采して大喜びしました」


「どこから撃った?」


「いや、どこからと……それは甲板上の主砲から……」


「然様なことを聞いておるのではない! いかほどの距離から撃ったのだ、と聞いておる!」


 突然聞かれて赤塚は驚いたのだろうが、聞いている次郎にしてみればトンチンカンな回答である。


「あ! それは……おおよそ3,500から4,000ほどかと。射程に入ってすぐに撃ちましたゆえ」


「敵の旗艦で間違いないか?」


「はい、もっとも大きな艦にございましたゆえ、あれが旗艦であったと……」


「命中弾は一発のみか? 天佑(てんゆう)丸と永平丸は?」


 矢継ぎ早の次郎の質問に対して困惑する赤塚であったが、一緒にいた大山と松方にも確認する。


「永平丸は離れて他の艦を攻撃していたのですが、数発は当てたようにございます。天佑丸も当てたようですが、わが艦ほどの成果ではなかったようにございます」


「では、遠距離からの砲撃で命中したのは一発のみで、あとはもっと近づいてからの砲撃戦か?」


「然に候」


「敵の数は?」


「七隻にございます」


「あい分かった」


 次郎はその後も詳細に情報を聞き取り、今後の戦術立案に取りかかった。





 ■2日後 屋久島


「と! 当直長! ごらんください!」


「なんだ? 騒々しい」


 屋久島には電信が敷設される前から見張りのための番所が設置され、航行する船舶を監視していた。


「な、なんじゃ……まさか」





 -発 屋久島信号所 宛 鹿児島城


 敵艦見ゆ 数七 北上中-





「敵艦隊が北上中!」


 鹿児島城内が騒然となった。





 -発 少将(久光) 宛 次郎蔵人(次郎)


 北上する敵艦七隻を屋久島南沖にて確認せり。かねてからの策どおり湾内にて迎え撃たん。-





 大村艦隊は次郎の指揮下、枕崎にて待機している。





 ■ユーライアラス艦上


「司令官、キング司令官を待たなくても良かったのですか?」


「背に腹はかえられぬ。このまま待っていても状況は変わらんし、大村艦隊がくればわが軍は劣勢にもなりかねん。まったく、あやつは軍法会議ものだぞ」


 ユーライアラスの艦長であるジョンスリングに愚痴ともとれる発言をしたキューパーであったが、実際のところ命令違反は軍法会議である。しかし、明確な軍令ではなく、原則としていたのが災いとなったようだ。





「艦橋-見張り、敵艦見ゆ、数3!」


「来たか! 全艦隊戦闘用意! この前の借りを返してやれ!」


 キューパーの命令一下全艦が戦闘態勢となり、そのまま薩摩艦隊へ向かっていく。


「敵艦砲撃! 砲撃です!」


 見張りの示す方角には天佑丸・永平丸・安行丸の3隻の薩摩海軍艦艇があったが、薩摩海軍の砲撃はまったく届かない。ユーライアラスと天佑丸との距離は3,500メートルを切っていたにもかかわらず、砲弾はむなしく海上に落ちていたのだ。


 薩摩艦隊の砲撃の飛距離はわずか1,000メートル程度である。


「副官、どう見るね?」


「は、恐らくはまぐれ当たりかと」


「ふむ……艦長はどうだ?」


「……そうですね。前回の海戦ではあちらが先に仕掛けた奇襲ですので、敵に有利だったのかと。にもかかわらず命中弾が1発だけです。副官の言うとおり、まぐれの可能性が高いかと」


「うむ」


 キューパーは少し考えた後、命令を下した。


「撃ち方始め!」


 キューパー艦隊は全艦一斉に砲撃を開始するとともに、距離を詰めた。





「敵艦、逃走します!」


「追撃せよ! このまま湾内に入って鹿児島を攻撃するのだ!」





 次回予告 第326話 『激闘! 鹿児島湾海戦! -台場と艦隊-』

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― 新着の感想 ―
砲があっても練度が無かったか 船の数もお互い余裕なくて読み合いなのに、この国家の将来掛かった闘いの最中に感情論で暴走されると堪ったもんじゃないよね 時間と予算と苦労費やしてきちんと勝ち目を用意したのに…
釣り野伏せ いつの時代も有効……難しいけど
薩摩のお家芸か 初見だと確実に引っ掛かる
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