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第24話 『白帆注進心得』(1837/9/14)

 天保八年八月十五日(1837/9/14) 玖島(くしま)城 <次郎左衛門>


「は、白帆注進の際における心得にございます」


 俺は居住まいを正し、殿に進言をした。


「いかなる物か?」


「はい」


 俺はそう言って箇条書きにした提案一覧を読みながら紹介した。内容は次の通りだ。


 ・長崎から異国船来航の報せを受けた時は、海陸同様の対応をするように。

 

 ・来航中は在番役人を増やし、泊まり番で寝ずの当直を立て、迅速に対応できるようにする。

 

 ・異国船が来航した場合は、関係各所に即座に連絡をすること。

 

 ・石火矢(大砲)を配備して迅速に体制を整える事。

 

 ・軍艦、商船の種類が分かったならば、相応の対処をすること。

 

 ・国許にて白帆注進の報を聞いたならば、すぐに対応できるように組頭の家に集合すること。

 

 ・異変の場合は、すべての軍備が整わなくても、まずは一騎駆けにて現場に駆けつける事。


 要するに、即応できるように対応しておくように、という内容だ。軍備に関しては警備の佐賀藩と福岡藩がいるが、大砲や鉄砲の準備はしておく事が大事だ。


 台場の建設など、頼まれてもいない事は金もかかるしやる必要はないが、最低限できることはやる。


 フェートン号事件の時のように後手後手にまわっちゃいけない。あの事件で何人も切腹しているからね。


 しかし現状では、石火矢としか言えないのが情けない。石火矢って……仏狼機(ふらんき)砲やん! 幕末の日本の大砲なんて、戦国時代とあまり変わってない。


 徳川家康がカルバリン砲で大阪城を狙ったらしいけど、そこから250年、ほとんど進歩していないようだ。


 いや、ちょっとは進歩してるのか?


「なるほど。お主の言を容れ、我が藩でも定詰ならびに注進の際の取り決めと備えをいたすとしよう」


「ははっ」


 今後大村藩がどういう風になるかわからないけど、大砲ひとつとっても、撃ちはしないけど撃ったら当たるよ、という抑止力は必要だよね。


 作れる技術を高めないといけない。 


 次の殿様、純(ひろ) 様の代に、藩は長崎警備を懇願されて1年だけ仕方なくやるけどね。この歴史はどうなるのか?





 ■帰路


 さて、考えないかん事いっぱいあるけど、優先順位を決めてやんなくちゃいけない。時間は有限だから、できないものはできないと見切りをつけなくちゃいけない。


 軍備に関しては、金に物をいわせて順次買っていけば何とかなるだろうか。税収ではなくても、石けん販売で年間5万両から10万両の収入があれば、銃火器は購入できる。


 現在、1837年。まだヨーロッパでも元込め式のスナイドル銃は開発されていない。


 確か設計が1860年でイギリス陸軍採用が1866年だからまだまだ先だ。


 前装式のミニエー銃でさえ、1849年だからな。


 スナイドル銃は慶応二年(1867)に@36両で、慶応四年(1869)には@26両だ。


 5万両あれば1,400挺が買えるけど、弾丸もかわなくちゃいけないから、潤沢じゃないよな。


 ちなみにミニエー銃は慶応元年(1865)に@18両。これで5万両なら2,800挺。うーん、やっぱり輸送費や諸々コスト考えたら、作った方が安上がりなのか?


 いや、ちょっと待て待て……。


 買うっていっても、開国してからだよな? 


 オランダからか、イギリスやフランスからかもしれない。じゃあ、蒸気船もそうだしアームストロング砲も、買えばって話になるけど、そうなると佐賀藩は関係なくなる。


 全部輸入で済ませるなら意味がないんだよ!


 ペリー来航までに蒸気船を作って横付けするって目標があるんだから、のんびりもしてられないな。一応、スナイドル銃とアームストロング砲と蒸気船と蒸気機関車と……。


 そのあたり一式でペリー来航まで、という目標にしようか。期日ありきで作って、無理なら下方修正していけばいいか。


 ゲベール銃はすでにある。


 高島先生が天保二年(1832)にオランダから輸入しているからな。次は、これも発明されているが、ライフリングつきのヤーゲル銃。


 別名狩猟用銃でライフリングをして命中精度が上がったが、丸い弾なので装填に時間がかかる。散兵向きだ。


 後期には椎実形になったようだが、それでも普及はあまりしなかった。


 やっぱり最初に開発すべきはミニエー銃だろうか?


 それともすっ飛ばしてスナイドル銃だろうか? 技術的な事を信之介に聞いてみよう。





「何ば当たり前の事ば言いよっとや?」

(何当たり前の事いってんだ?)


 まさに何を言っているんだ? と言わんばかりの顔で、そう、その顔で、言われた。


「ん? ん? 何が?」


「いいか? よく聞けよ。前に俺は神様じゃねえって話はしたよな? いくら知識があっても、それを有効に活用できる技術がなけりゃ意味がない」


 信之介はため息まじりに続けた。


 う、ん。言わんとしてることはわかる。


「例えば……そうだな、わかりやすい例で言うとスマホ。無線の技術、概念すらないのにスマホがつくれるか? そもそもそんな事が可能だと考えるか?」


「いや、考えないだろうな」


「だろう? 無線の前に電話だよ。有線の。その前に電信があって、その前に電気がある。電気の概念はあるとして、発電や蓄電を考えなくちゃいけない」


「うん、まあそうだな」


「その、なんだ、ゲベール銃? いつ開発されたんだ?」


「え? 確か17世紀初頭だったと思う」


「じゃあそのスナイドル銃のライフリングというやつは? ミニエー銃でもいいや」


「ライフリングは、古くからあったけど、なぜそうなるのかっていう理論が説明されたのは1742年だったと思う」


「だろう? じゃあミニエー銃のその弾の形状は?」


「それは、1849年に実用化された」


「フリントロックの銃が開発されて、なんで250年もかかったんだ?」


「……」


「何か物を作るなら、基礎科学とでも言うのかな、基礎技術と呼んでもいいかもしれない。それがない事には作れないんだよ。いろんな技術が重なり合って1つのものができあがるんだ」


「……」


 言わんとしてることは、わかる。いや、でも、そんな説教みたいに言わんでも……。


「でも、原理が分かっていれば、その期間を短縮はできる。そのためにも遠回りのようでも、今の、なんだ? ゲベール銃が作れるかどうかを確かめないといけない。まずはそれからだ」


「わかった」





 次回 第25話 『ゲベール銃』(1837/10/01)

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