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第114話 『適塾の5人と賀来親子4人、そして前原功山』(1849/7/6) 

 嘉永二年五月十七日(1849/7/6) <次郎左衛門>


 今日は定例(?)会議だ。議題はいろいろあるんだが……。


 適塾から帰ってきた5人は、信之介の面接を受けて各部署に配属されていた。部署といっても明確に決まっているわけでもなく、総括を信之介が行って、開発している物によって振り分けられた。


 前原功山さんは、手先が器用だから予定通り久重さんと一緒にやってもらう。賀来親子の長男はさすがに跡取りって事で、宇佐郡佐田村に残ったようだ。


 残りの三人は五教館、五教館大学で学びながら研究プロジェクトの手伝いをしてもらう。


 適塾留学のメンツは知識量的には在藩のみんなより劣るけど、当然無能じゃない。家老の息子、稲田又左衛門は信之介に引っこ抜かれた。何が気に入ったんだろうか? 


 ともかく、廉之助と隼人、そして東馬(又左衛門、父親とかぶるので東馬)の争いだ。


 その他の四人は浅田千代治、松田洋三郎、長井兵庫、土屋善右衛門。


 信之介いわく、ソルベイ法? に必要なアンモニア(俺からしたらオシッコとしか思い浮かばない)は、石炭乾溜ガスをガス灯に使えるように浄化する際に除去されるらしい。


 アンモニアを生成するハーバーなんとか法ってのもあるらしいけど、20世紀に入ってからのなんだか難しい技術のようだ。あー面倒臭い頭が痛い。


 現状では塩化アンモニウムからアンモニアを作るしかないんだけど、どうやら塩化アンモニウム⇔アンモニアで、鶏が先か卵が先かの状態、という説明を受けた。


 トライアングルというか化学反応の連鎖というか、頭がこんがらがりそうな事なんだが、アンモニアを自然廃棄物から収集するか、石炭乾留ガスから分離するか、もしくは塩化アンモニウムをこの近くだと雲仙で収集するか。


 そのどれでやるかを選ばなきゃいけないらしい。





 ああ、ようわからん! 頼むぞ信之介、そして適塾の若者よ!(?)





 もう一つ、これは金の匂いがプンプンするから早期に実現して欲しいんだけどな。魚油の生成とけん化っていうらしいけど、石けんをつくる。

 

 ソルベイ法は時間がかかりそうだけど、こっちは俺の記憶にもあった。


 ざっくり言うと熱した油に酸性白土を混ぜてろ過すると、不純物が取り除かれて精油になるようだ。これに、確か水素をどうにかすると固まって石けんやロウソクになるらしい。


 あとなんか副産物もできるらしいな。あれ? 水素関係なく石けんできるって言ってなかったか? 信之介。勘違い?


「は? 何言ってんだ。俺がそんなこと言うはずがない。もし言ったとすれば十年前、まだこちらとあちらの区別がつかなかった時の事だろう」


 ああ、そう。まあいいや。


「お里~」


「はーい?」


「あのさあ、前に、かなり昔に言ってたモンモリなんとかって覚えてる?」


「モンモリロナイト、モンモリロン石ね」


 お里はふふふ、と笑いながら言う。


「次郎ちゃん、言ってから放置なんだもん。波佐見は鉄鉱石もそうだけど、いろんなのが出てるからね。モンモリロン石もその一つ。何度も言おうと思ったけど、次郎ちゃん忙しそうだったから」


「ごめんごめん。で、ある?」


「放置状態で山積み」


「オッケーオッケー! よし、これで第一段階はクリア。信之介、水素なんとかは?」


 俺は信之介に、現状で水素をどうにかして油を固められるか聞いてみた。


「なんだよ、水素なんとかって。全部言わねえとわかんねえだろ?」


「いや、あの水素をその油とどうにかして、固められる? 石けんとかロウソクに」


 信之介は腕を組んで考え込んだ。え? 何? 難しいの?


「うーん。原理的にできないことはないだろうけどさ。今の蒸気機関と製鉄技術で高圧容器がつくれれば……の話なんだよね。ギリ何とか作れるかどうか。やってみないとわからない」


「ん? どういう事?」


 毎回思うけど、出来る? 出来ない? なにがあればできる? この三つだけ聞いた方が良さそうだ。毎回思うんだけどね。わかんないけど、聞いてしまうんだ。悲しいけど。


「油、油脂が硬化するための条件がいくつかあって、それが高圧条件で添加を行うという事なんだ。普通の気圧、今のこれね。1気圧。これでもできなくはないんだけど、不安定で品質にバラツキがあるし、時間もかかる」


 げえ、まじかあ。


「でも、時間はかかるけど、研究の方向性としては間違ってない。高圧機器や容器は必ずいるようになるからね」


 うん。すぐには金にならないってことね。


「あ-、次郎があからさまに残念な顔。よーするにすぐに金にならないから残念なんだろうけど、お前のそのヒラメキ? あっちの世界の知識の酸性白土だけど、あれだけでも金になると思うぞ」


「え?」


「魚油は臭くて煙がでるから嫌われてきたけど、モンモリロン石を混ぜて熱してろ過すれば、不純物が吸着されて純度の高い油になる。匂いも軽くなるし煙もでないから、菜種油と同じか、ちょい安で売れるぞ」


「まじで?」


「まじで」


 やった! これで石けんやロウソクは作れないけど、金になる!


「お前、わかりやすいなあ」


 あはははは! とみんなで笑った。


「あ、それで言うとたくさん魚油がいるよね?」


 お里が突然言う。


「まあ、作る油の分だけいるよね」


「魚は結構な数が領内で獲られてるんだよね。イワシ網に(たい)網、マグロ網にきびな網、地(びき)網とかいろいろ。それで食べるんじゃなくて商品作物化されてるんだ」


「例えば?」


 俺の記憶(現代)じゃ漁師は漁師、農家は農家で分かれていたけど、お里の話じゃほとんどが半農半漁らしい。そういえば太田和村もそうだったな。山間部は別として。


「面高村や七ツ釜浦、黒崎や三重、式見じゃ干鰯(ほしか)つくっているし、神浦の(かつお)節や福田村はカマボコを作って売ってる。これでお金を得ているから、それよりも儲からないと、やってもらうのは厳しいかもよ」


「イワシは油絞ってから、それから干鰯にしてるからいいよね。いくらになってるんだろう?」


「干鰯は10貫で銀24匁。運上銀が476匁9分8厘だから、198貫は生産されているね。干鰯の生産に必要なイワシの量と、生産過程でできる油の量を計算すると、油の売価が銀2千895匁になるよ」


「お! いいねえ」


 俺は思わず声を上げた。漁獲量を上げるために洋式の漁船が要るかな?

 

 それから思い出した。油の運上銀がないってこと。60以上の運上銀があるのに、油がない。商品作物として菜種油を作ってないのか?


 いや、作ってはいたはずだ。だけどどれも小規模で、運上銀を課すほどでもないのだろうか? 今から菜種を増やす? まあ選択肢のひとつだな。


「次郎ちゃん。お茶の、製茶機、よろしくね。輸入でも開発でもどっちでもいいけど~」


「う、うん。ああ、そう言えば」


 俺は速攻で話題を変える。製茶機が大事なのは分かっているけど、ああこれも、これも輸入かあ……。





「御家老様! 申し上げます。儀右衛門様が鉱山用の蒸気機関の試作品を製造されたようです!」


 よし! 実用化された! 儀右衛門さん、さすがっ!





 次回 第115話 (仮)『蒸気機関鉱山導入と海軍帆船川棚型で京都へ』










 -大村藩情報・開発経過-


 ■次郎

  ・海軍伝習所、陸軍調練所設立へ。

 

 ■精(れん)

  ・電信機の距離延長研究。(コイル・継電器・絶縁体)……宇田川興斎、ブルーク・佐久間象山。

  ・電力、発電、蓄電、アーク灯……水力発電。……信之介・廉之助・隼人・東馬・村田蔵六・佐久間象山。

  ・既存砲の更なる安定化とペクサン砲の開発。……高島秋帆・賀来惟熊・村田蔵六・佐久間象山。

  ・造船所(ハルデス他)建設地の造成。……ハルデス他職人と学生・村田蔵六・佐久間象山。

  ・蒸気機関の性能向上と艦艇用(軍艦・漁船・輸送船)の研究。……ハルデスと久重と功山。

  ・製茶機の研究開発と製造……ハルデスと久重と功山。

  ・写真機の研究開発。……俊之丞とブルーク。

 

  ・ゴムの性質改善、品質向上研究と生成したゴムによるゴーグルの製作。……ブルークと適塾の四人。

  ・ソルベイ法におけるアンモニアの取得方法について研究。石炭乾留の際の石炭ガスより取得。……ブルークと適塾の四人。

  ・魚油の硬化、けん化の研究。……ブルークと適塾の四人。

   

 ■五教館大学(賀来惟準(これのり)・三綱。惟舒(これのぶ))は五教館で学びながら手伝い。

  ・石油精製方法、焼き玉エンジンの研究開発。

  ・缶詰製造法の機械化。(オランダ人技術者とともに)

 

 ■医学方(一之進、宗謙、敬作、俊之助、イネ)

  ・下水道の設計と工事を行い、公衆衛生を向上させる。……橋本勘五郎。

  ・新薬の研究開発、臨床。

 

 ■産物方(お里、賀来惟熊)

  ・領内の鉱山の状況調査と鉱物の選別保管。

  ・石炭、油田の調査。

  ・松代藩に人を派遣し、採掘の準備に入る。(越後は価格交渉、相良油田はさらに調査)

  ・茶の増産と仕入れ先の全国的な確保。茶畑における改善はお里が既に実践済み。製茶工場と、全体的な機械化が課題。

  ・桑畑の増加と生糸の生産。

  ・魚油の精製、販売。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鉱山開発最大の難関は、地下水の排水方法ですからね 蒸気機関で排水できれば更に開発が進む
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