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第104話 『高島秋帆、毅然とした態度で幕閣と相見え、後進に道を託す』(1848/10/22)

 嘉永元年九月二十六日(1848/10/22) 江戸城


 高島秋帆は幕閣からの求めにより江戸に参府し、登城していた。いつの世にも、権力者と言うものは下の者から見ると勝手なものだ。まるで何事もなかったかのように振る舞っている。


「高島秋帆、命により罷り越しましてございます」


 老中首座の阿部正弘を筆頭に数名の老中が並ぶなかで、秋帆は平伏して挨拶をする。


「秋帆よ、よくぞ参った。ささ、面をあげよ」


 正弘に促されて面をあげた秋帆は、以前に会った事のある人達が、江戸に来て見当たらない事に気づいた。


「さて、他でもないのだが秋帆よ。その方には海防掛を任せたいと思うておるのじゃ。これは私の一存ではない。ここにいる方々の総意でもあるのだ」


 柔らかな微笑みをうかべた正弘の表情には切実なものがあったが、最初から秋帆にはやる気がなかった。


 当たり前である。未遂に終わったとは言え、冤罪(えんざい)入牢(にゅうろう)させられる寸前だったのだ。いつまた妬みそねみから罪を被せられるかわかったものではない。


「過分のお言葉、誠にありがたく存じます。さりながら、それがしはすでに隠居の身でもありますし、近ごろは節々も痛くなることがしばしばございます。幸いにして江戸表には江川英龍に下曽根信敦といった優れた門人もおりますゆえ、彼らを任じますれば、それがし以上の功をたてるかと存じます」


 慇懃無礼ではない。本当にそう思っているのだ。自らは大村にて最先端の知識と陸軍調練の実績をもってはいるが、それ以外の日本では、まず第一人者と言っても良い二人である。


 佐久間象山も弟子ではあったが、象山はすでに大村において、さらに高みにのぼっている。


「その方、老中首座である阿部殿が直々にお求めなのだぞ。光栄に思い受けるのが筋ではないか」


 (あき)れたもんだ。秋帆はそう思ったが、もちろん顔には出さない。


 幕府の言うことは何でもハイハイと聞くのが当たり前だと思っているのだ。人の気持ちや事情なと知ったことではない。


 もちろん国家危急の時である事は、秋帆も重々承知してはいる。だからこそ大村で次郎のもと、責務を果たした方が良いと考えたのだ。


 幕府で、てはない。


「まあ、まあ」


 正弘は他の老中をやさしく制する。


「文で知らせたゆえ断るならば文でも良いところを、わざわざ江戸まできたのは、我らに対する礼儀と、その二人に伝えるためであろう?」


「はは」


「ではここで無理やり従わせるのは筋が通らぬというもの。方々、よろしいか。この儀は秋帆が申しておるように、江川と下曽根に任せたいと思うがいかに?」


 その他の幕閣は代案もないため口ごもっていたが、正弘が再度求めると応じた。


「では秋帆よ。二人には命を出すが、その方からも任につくように伝えておくのじゃぞ」


「はは」





 ◼️大村藩 〈次郎左衛門〉


 さて、今ごろは秋帆先生うまくやってるかな? まさか言うこときかないから……なんて事はないよな。


 よし、蒸気機関と造船所、それから反射炉の件もなんとかなりそうだな。安定してきたようだし、製造と試射を繰り返していけば、許容範囲内の使用回数まで使えるように、改善できそうだ。


 あとは、まあやっぱりここに行き着くよね……金。金がかかるなぁ。石けんは安定した利益をだしているから、これ以上は見込めないよね。


 椎茸(しいたけ)はいま二町歩だから増やせないことはないけど、そこは徐々にでも。可能なら今年から来年にかけて倍くらいに、増やそうかな。


 米の二毛作で菜種を作っているけど、米の作付面積が増えないから、これ以上は無理だな。鯨も捨てがたいけど、倍に増やしたばっかりで……ああもう! 可能なやつ全部2倍3倍にするか。まあ真珠は厳しいけどな。


 石炭は売れるだけ売ってるけど、出島が拡張したっていっても蒸気船じゃないから、今のところ需要はそんなに高くない。いや、オランダ経由で上海で売れば儲かるか? 


 生糸やお茶も考えないといけないな。今でも一斤あたり60~70文くらいの利益はあるから、売れるだけ売って販路を確保しておこう。佐賀藩なんかはまだそこまで売ってない。今のうちに九州一円の茶畑全部確保しておこうか。


 そう言えばこの時代、他藩の商品買いまくっても問題ないんだろうか?


 それから鉱山。


 だいたい商人や町人が、領主に年にいくら納めるから、掘らせて売らせてくれっていう鉱業権を取得するだろう? 誰か藩の商人を行かせて交渉すればいいかな? 


 こっちはお里という強い味方がいるから、金銀、いやこの時期はもうあんまり出ていないかな? 石炭石油、酸性白土に、ああ鉄だ鉄! 確かおれの知識でも岩手や福島で鉄鉱石の鉱山がある。


 いやいや、やべえ! 今すぐやらんともうボチボチ鉄に目をつけてくるぞ! 


 そうなったら鉱業権を買って税を納めるどころの話じゃなくなる。ご用商人なんかは金だせって一方的に言われる時代だし、李氏朝鮮ほどじゃないだろうけど、商人を見下す風潮は日本にもある!


 後回しになっていた新潟の油田。買って売ろうとしてたけど、今やる! あとは信州、松代藩の復興支援名目なら一石二鳥だ! それから静岡の相楽油田だっけか。


 とにかく! 即金になるものから開国して金になるものまで、全部だ全部! なにをやるにも不自由な世の中なんだ。先に(つば)つけとかなきゃ始まらない。


 こっちはしがない小(はん)だけど、一介の商人がやるよりましなはずだ! あとは……あああ! 信之助は自分の事でブラック企業なんて言うけど、こっちはこっちで大変なんだぞ!





 次回 第105回 (仮)『生糸、茶葉、真珠! ああ真珠! バカ売れすんじゃね?』

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― 新着の感想 ―
[一言] そうか、九州はお茶の産地でもあったか アヘン戦争の切っ掛けがそもそもお茶の代金を銀で払えなかったからアヘンで支払って、だからね お茶売った代金は、手に入る範囲での技術書や工業製品、中古の大…
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