グリズリーと魔王
魔王城の玉座の間。
魔王は、静かに紅茶を飲んでいた。
「ふぅ~、今日も平和だな~」
そこに――
ドォォォン!!
天井が爆発した。
(平和は……? ワシの優雅なティータイムは……?)
魔王はカップを置いた。
気を取り直し、侵入者に尋ねる。
「貴様が勇者か……」
「ガウ!」
現れたのは、巨大なクマ──グリズリーだった。
鎧を着て、剣を背負い、マントまで羽織っている。
「……勇者?」
「ガウガウ!」
「いや、通訳いないと会話できない感じ……? え、どうする? 魔王、どうする……どうする、魔王!?」
魔王は考えた……。
しかし、何も思いつかないから、昨日観たアニメの続きを想像していた。
その瞬間、グリズリーは胸を叩いて誇らしげに言う。
「ワテは勇者グリズリー!」
「勇者の一人称“ワテ”なの嫌なんだけど……。ていうか、しゃべれるなら、最初からしゃべって!!」
「魔王、貴様を倒しに来た! そして壺を割るのが趣味だ!」
「ワケわからん宣言するな!」
魔王はため息をついた。
「というか、なんでクマが勇者なんだよ」
「職業適性診断の結果だ!」
「クマもそういうのやるの!? 人材不足なの……?」
「適職:勇者、僧侶、ハチミツ大好き」
「最後だけ職業じゃないんだけど……」
グリズリーは、剣を抜いた。
ズルズルズル……
床を引きずっている。
「重すぎだろ、その剣!」
「伝説の聖剣だ! ワテのための剣だ!」
「そのわりに扱えてないんだけど!」
グリズリーは、剣を構えた。
「いくぞ、魔王!」
「来るな、落ち着け」
「必殺──技」
「話を聞け!」
次の瞬間――
グリズリーは、なぜか回転し始めた。
「なんで回るんだよ!?」
「クマは回るものだ!」
「回らねぇよ!」
魔王は考えた……。
(クマが回る……? え、もしかして、“クマ”じゃなくて“コマ”……?)
しかし、魔王が気づいたときには、回転はどんどん加速していた。
「待て! 床削れてる! 城が削れてる!」
「大丈夫だ!」
「何が!?」
「ワテが主役だから!」
「うん、ワケわからん!」
ドォォォン!!
回転の勢いで、グリズリーは壁に激突した。
城の壁が崩れ落ちる。
煙の中から、ボロボロになったグリズリーが出てきた。
「や、やるな……さすがは魔王……。だが、勝負はこれからだ!」
「ワシ、何もしてないんだけど!! もう、諦めたら……」
魔王が言った。
「なぜだ!? ワテが、勇者だ! 諦めることなど決してしない」
「お前、魔王より恐いんだけど……違う意味で」
「ワテは……ワテは、諦めない……。魔王、絶対に貴様を倒してみせる! “プー”の名に懸けて!」
「プ……プーって……まさか……あの……」
魔王は焦っていた……。
もし、あのクマのことだったら、色々な問題があるかもしれない……。
「ああ……“プータロー”の“プー”だ!!」
「なんだ、良かった……」
沈黙。
「いや、別に良くない……。ていうか、あんた、勇者だよね……。プーじゃ……」
魔王がそう言いかけると……グリズリーは暗い顔をした。
はっとする魔王。
「そ、そうか……。勇者は職業ではない……。つまり、お前は無職……」
グサッ
グリズリーは、瀕死のダメージを負った。
(ど、どうしよう……どうしよ平八郎……。励ました方が良いかな……?)
「勇者って、世界を救う存在だよな?」
魔王が優しい声で語りかける。
「そ……そうだ……」
「じゃあ、良いじゃないか……無職だって……。世界を救う存在なんて、最高にカッコいいじゃん!」
魔王はそう言って、親指を立てた。
「ま、魔王……!」
魔王の言葉に目を潤ませるグリズリー。
「泣くんじゃねえ! 大丈夫だ、世界を救う勇者はお前だ!!」
魔王は叫んだ。
「魔王~!」
「グリズリー~!」
そう言いながら、駆け寄る二人。
(あ、隙だらけ……)
グリズリーは、魔王に向けて聖剣を振るった。
こうして――
勇者グリズリーの手によって、世界は救われたのだった。
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