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第18話

「少し遅かった。浄化しよう」



「ふふふ。すごいネ、吸血鬼の力。これでわたしは不死身で不老不死アルヨ!」



 冷静につぶやく教皇ペトロに対して桜姫ヨウチェンは明らかに興奮していた。何枚もの壁をぶち破るペトラのビームを食らって吹き飛ばされたはずの上半身は完全に修復されており、桜姫は手を握ったり開いたりして感覚を確かめている。

 桜姫は吸血鬼化したのだ。俺たちと戦闘している最中に。



「含血種ごときが調子に乗るな」



 アイラは憎悪のこもった目で桜姫を睨みながら右手をかざす。アイラの腕の周りには赤、青、薄緑、黄土色、紫、薄黄色、青白色、水色の光の玉が浮いている。

 法院魔女隊最高責任者であり、序列第6位の星級ステラの魔女のアイラ・ハンプトン=ローズには隔絶の魔女の他に全属性使いフルエレメントという二つ名もある。1つの属性を極めると優秀といわれる魔術業界においてアイラは無属性以外のすべての属性を使いこなすことができる。そしてあの7つの光の玉は属性のエネルギーを凝縮させたものなのだ。

 アイラは7つの属性のエネルギー弾を桜姫に放った。炎、水、風、土、闇、光、雷、氷が桜姫を襲う。



「あ、あが……」



 ――ドサッ



 桜姫の生首が床に落ちた。首から下はアイラの攻撃により消し飛ばされたようだ。首の断面からは水蒸気が発生しており、必死に体を修復しようとしている。が、



「しゅ、修復が……間に合わないッ!?」



「教皇は太陽、皇帝は月なり」



 ペトロの司教杖の先端に小さな太陽が出現。ペトロは司教杖を握ったままゆっくり桜姫に近づき生首の前でしゃがみこむ。桜姫への攻撃なのだろうが、暑すぎてこっちまでヤバい。気温50度くらいはあるんじゃないかマジで。



「アイラの敵はわたくしの敵。ヘイ家のあなたがこのような下賎な力に手を染めるとは思いませんでしたが、わたくしは教皇としてあなたをこの世から排除しなければなりせん」



 口調が変わった。威風堂々としたペトロからは小さな体ながらも教皇としての風格があった。



「おのれ太陽の代行者ッ! 貴様は! 貴様はあの方が! 必ず……ッ!」



 次第に桜姫の首の断面から出る水蒸気の量が減っていき、顔がどんどん干からびて老人のようになってしまった。桜姫は泡を吹いて白目を向いている。このままあの太陽の近くにいれば吸血鬼である桜姫は死ぬ。

 吸血鬼の不死身・不老不死性や人間離れした身体能力、圧倒的再生能力は体内由来の魔力粒子により分泌されたテロメラーゼがテロメアの短縮を抑えることに寄与しているらしい。テロメラーゼは紫外線に弱く、吸血鬼は太陽光を浴びることで固有の身体能力や再生能力を失う。



「おっとと。死なせはしないぜ」



 突如、男の素っ頓狂な声が聞こえてきた。空間にはぽっかりと人1人が通れそうな真っ黒い穴が空いており、そこからスウェット姿の無精髭の男が出てくる。そして拾った桜姫の生首を続いて穴から出てきた少女に渡す。



「魔剣の蔵……なぜそっち側に立っている」



 アイラは声を低くして尋ねた。

 魔剣の蔵は序列7位の法院の最高幹部。そんな男がサバトを荒らす桜姫をかばってペトロとアイラの前に立つのはたしかに不自然だ。



「なんでって、そりゃあおもしろそうだからでしょ」



 やはりこの緊迫した状況にはそぐわない気だるそうな声で魔剣の蔵は答える。



「はっ、実にお前らしいな。ならば文句は言うまい。が、魔女隊最高責任者としてサバトに水を差したお前の仲間たちの責任だけは取ってもらおう」



 アイラは魔剣の蔵を見上げ、魔剣の蔵はアイラを見下ろし、お互いに仁王立ちで睨み合った。

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