第17話
「時間を操る」には大きく分けて「時間を止める」「時間を逆行させる」「時間を加速させる」の3つがあり、それぞれ「対象だけの時間を操る」局所効果と「凛以外の世界のすべての時間を操る」全域効果がある。
桜姫の謎の攻撃で意識を失った母さんや意識を失いかけた俺の時間を局所的に戻して攻撃を受ける前の状態に戻すことで実質的な治療を行うことができる。とはいえ時間を操ることができるのは九次元世界までで、十次元以降の存在には干渉できない。すなわちアリスの背中の刺傷は時間を逆行させて元に戻すことはできないのだ。
他にも全域的に時間を止めてその間に刀を桜姫に向かって投げまくることで、時間停止解除後に絶対不可避の刀の嵐を放つことも可能だ。
「時間を操る」魔術――シュヴァルツの大魔術はたしかに無敵で最強だが、使用するにあたって代償が存在する。それは局所効果を1秒間発動するごとに使用者の寿命が1時間減り、全域効果の場合は1秒ごとに二乗の10倍(t²✕10(tは効果を使用した秒数))分間寿命が減るというものだ。
24秒間敵の時間を停止して戦闘に勝ったとしても1日寿命が縮むんだから、どんなに最強でもむやみやたらには使えない。それに同じ24秒間でも全域効果の場合は96時間……すなわち4日寿命が縮んでしまうので、全域効果はできれば使いたくない。
真祖であり無限の寿命を持つリンカであったからこそ「時の魔女」と恐れられるほどこの魔術を使いこなせていたというのに、普通の人間であるはずの凛は惜しげもなく自分の寿命を使って俺たちを救ってくれる。それは本当にありがたいんだがとても申し訳ない気持ちになる。俺は強くなったつもりでいたがまだまだ弱かった。護衛なのに主人に守られてどうするんだ。情けないぞ。
「下がってな隆臣」
「母さん! もう大丈夫なのかよ」
「問題ない。それよりも桜姫に近づくな。ヤツの服には揮発性の神経毒が塗りこまれている。吸い込めば5秒でぶっ倒れるよ」
起き上がった母さんは俺の前に出てそう言った。母さんの周りに突風が吹いている。なるほど、風で防壁をつくることで神経毒を吸い込まないようにしているのか。
「さすが一閃の魔女。なんでもお見通しだネ。その上対策までバッチリ」
言いながら桜姫は突き刺さった刀を1本1本抜いていく。全身から血が噴出しているにもかかわらずその顔は少し楽しそうだ。
――パンッ!
俺は桜姫の足に向かって躊躇なく引き金を引く。弾丸は高速で桜姫の綺麗な太ももを貫き、続いて母さんの空気の槍が桜姫の胸に大きな風穴を開ける。
痛みを感じないとはいえコイツはただの人間だ。心臓も肺も母さんの攻撃でダメになったはず。桜姫はピクリとも動かない。死んだのか?
「そこ、邪魔」
突然ドアが開かれ2人の人物が部屋に入ってくる。司教杖を構える白装束の小さな少女と白いローブに白い魔女帽子の俺と同い年くらいの少女――教皇ペトロとアイラ・ハンプトン=ローズだ。
ペトロの司教杖の先端に白い光の粒が集まり、どんどん巨大化していき直系1メートルくらいの大きさにまでなる。そしてそこから白い光線がビームのように桜姫に放たれる。
跡形もなかった。ついでに壁がいくつも貫かれて窓のない室内からから東京湾が見えるようにもなった。
これが星級教皇ペトロの実力か。すごい出力だ。




