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第16話

 アイラやミア、教皇ペトロなどの星級ステラの魔女は3階のVIPルームにいるらしいので俺たちは3階にやって来た。中央ホールや晩餐会会場と比べて非常に静かで、廊下に出ている魔女や護衛は全くいない。いるのは数人の警備員だけ。

 誰がどこの部屋にいるのかはわからないし警備員もそれを知らないので、手当り次第ドアを開けてVIPを探すしかない。



「ここにはいないよ」



「この部屋にも誰もいません」



 と、一夏と凛。



「ただでさえVIPの数が少ない上に、アイラとペトロは控え室を隔絶している可能性もある。当たりを引く確率は低いね」



 母さんも言いながらドアを開けている。

 空間隔絶ってのはアイラが得意とする魔術の1つで、空間を隔絶してその領域を心象世界に置き換える準禁忌級魔術。その空間内のルールはすべてアイラが決定できるので、隔絶空間内でアイラに勝てる者はほとんどいない。そして空間隔絶を扱える魔術師がアイラしかいないってのがアイラを最強たらしめている原因だ。そう、アイラの最強の力さえあればアリスを襲った愚か者なんて大したことないんだ。

 


「あ、いたよ」



 一夏が開けたドアの先にようやくVIPの姿があった。が、アイラやペトロ、ミアではなくまったくの見知らぬ人物だった。たくさんの勲章を胸に輝かせた軍服姿の女の子で、さらさらの長い金髪はとても綺麗で紅色の瞳は宝石のように美しい。紅い眼と尖った耳からして吸血鬼であることは間違いない。



「法院最高幹部で序列10位のバラライカ・トレビア・アルテミシオンだ。私が話をつけよう」



 そう言って母さんはバラライカのそばへ寄り、色々と話をしている。しばらくしてバラライカは立ち上がり、母さんと共にこちらへ向かってくる。

 が、次の瞬間、



 ――バタン



 突然母さんがうつ伏せで倒れた。



「母さん!?」



「ママ!」



 俺、一夏、凛は突然の出来事に思考が追いつかない。

 どうして母さんはいきなり倒れたんだ? おそらく原因はバラライカ。バラライカは俺たちに協力してくれるんじゃなかったのか?



「母さんに何をした! バラライカ!」



「ふふふ」



 バラライカは口角を三日月のように釣り上げて笑う。するとみるみるうちにバラライカの顔が別人のものへと変わっていく。金色の長髪は黒髪の2つのお団子に、真祖じみた紅眼は日本人のような茶色に、服装も軍服からチャイナドレスに変化した。



「わたしバラライカじゃないヨ。黒桜姫ヘイヨウチェンネ」



 バラライカはバラライカではなかった。バラライカは変装していた黒桜姫だった。



「母さんに何をしたかと聞いている」



「邪魔者は殺すネ」



 俺は無言で刀を抜く。



「テメェはノエルとグルなのか?」



「そうアルヨ」



「わかった。ならば殺してやる。テメェは俺の邪魔者だからな」



「お兄さん面白いネ。このわたしを殺す? 受けて立つヨ」



 コイツらは俺の大切な人を2人も傷つけた。VIPを探すのはもうやめだ。俺が殺る。



「隆臣さん落ち着いてください! お母様は無事です! 意識を取り戻すのにしばらくかかりますが」



 魔法を使って母さんを回収し同一の魔法で治療を行いながら凛は叫ぶ。



「ありがとう凛。だが俺は冷静だ」



 言いながら俺は背後から迫る桜姫に刀を振る。



「よくわかったネお兄さん。すごいヨ」



 冷静でなければ俺は殺されていただろう。爺さん目白により鍛えられた第六感覚は俺の背後に一瞬で回り込んだ桜姫の殺気を感じ取った。だから桜姫の攻撃を避けつつ頬に傷をつけることができたのだ。



「けどもう終わりアル」



 桜姫が言い終わるよりも早く、



「う……」



 意識が……どんどん遠のいて行く。

 そうか。桜姫は触れずに母さんを倒した。つまり俺も同様に……、



「はぁはぁはぁ」



 意識が戻った。凛がいなかったら危なかったぞ。



「なるほどネ。君が噂の“時の代行者”からシュヴァルツのロザリオを譲り受けた少女アルか。顔がすっごく似てるネ」



「わたしはリンカさんの子孫なんですから、当然です」



「とっても厄介なところも似てるアル。腹立たしいっ!」



 桜姫はそう言って凛の方に駆ける。



「凛!」



 あの魔法は凛にしか扱えない。凛がやられたら終わる。

 俺は懐からP420を取り出しセフティを解除しながら桜姫に向ける。だが俺が引き金を引くよりも早く、一夏は複製した大量の刀を桜姫に放っていた。

 桜姫の第六感覚は相当鋭いらしい。器用に刀を避けたり蹴り落としたり、飛んできた刀の柄を掴んでそれを使って他の刀を払い落としたりで被弾はゼロだ。

 しかし、



 ――ズシャア!



 凛の魔術によりまばたきの間に刀は桜姫を取り囲んでおり、流石の桜姫も対処しきれず体中を刀に突き刺される。しかし痛みに苦しんだり悶える様子はなく、不気味に口角を釣り上げて、



「わたしは黒家の歴代で最も優れた殺し屋ネ。痛みなんて幼い頃にとっくに忘れさせられたアル」



 痛みを忘れた? 無痛症ってことか? だがどんな最強の魔術師でも凛の魔術の前では無力同然だ。リンカから譲り受けた魔術で、使いようによっては世界さえも支配できてしまう文字通り禁忌の魔術。それこそは「時を操る」魔術である。

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