第14話
その後俺たちは母さん&一夏と合流して中央ホールにやってきた。晩餐会開始10分前なのですでにたくさんの魔女と護衛で溢れている。
未だ一夏は母さんにべったり。そんだけ母さんと触れ合いたかったんだよな。うれしそうに笑ってるよ。本当にどうして一夏だけが腹の中で死んでしまったんだ? 神のみぞ知るってやつなのか? そんなのかわいそすぎるだろ。
「ところで母さん、父さんは?」
「あの人なら今アメリカにいるよ」
「アメリカ? なんで?」
「さあ? 大学で月の研究でもしてるんじゃない?」
「母さんも知らないのかよ! てか父さんは研究なんてタマじゃないだろ」
相変わらずいい加減な父と母だ。夫婦なんだから自分が今どこで何をしているかくらい把握しとけよ。あと息子である俺にもちゃんと教えてくれ!
「あら、あなたがあの人のタマの何を知ってるの?」
「なんか卑猥に聞こえるんだが……」
そんなことを話しながらホールを歩いていると、
――ドン!
お腹に鈍痛が走る。何事かと思ったが誰かが俺に追突してきたらしい。下を向くとそこにはさっき控え室にいたローブを目深に被った少女がいた。ローブの色や柄、背の小ささがまったく同じだから間違いない。
「わりぃ。よそ見してた」
「助けて!」
ぶつかった衝撃でフードが脱げ、少女の顔をようやく見ることができた。そして同時に驚愕する。
「アリス!? どうしてこんなところに!」
「助けて隆臣……っ!」
それは少女の正体がアリスだったからだ。これには一夏と母さんも驚いた様子。ただしいつものアリスとは少し様子が違う。濡羽色のポニーテールが燃え盛る炎のような赤色に変わっており体温もかなり高く、俺の腕に垂れてきたアリスの涙は異常に熱かった。第八感覚で朱雀、鳳凰、フェニックスを降臨させてその小さな体に宿している状態らしい。
「何があった!」
どうしてここにアリスがいるのかすらわからないが、アリスが助けを求めているのなら俺は全力でアリスの力になってやる!
「やだ! 死にたくないよ!」
第八感を発動したアリスがこんなに追い込まれるなんて、一体何が……。
「母さん、アリスを頼……」
――ズシャンッ!
刀を抜こうとした瞬間、俺たちに血を被った。
「息子の幼なじみをいじめるんじゃないよ。ノエル」
母さんは人差し指と中指を立てて腕を斜め上に上げている。指先から少し先を見るとタイトなスーツ姿を着た血だらけの男の子が宙に浮いていた。桃色のショートカットと桃色の瞳は目を奪われてしまうほど美しく、目鼻立ちは非常によく整っている。
そんな少年――ノエルのお腹には風穴が開いており、そこから流れ出す大量の血がカーペットを赤く濡らしている。だがノエルは牙のような犬歯をチラつかせながらニヤリと笑い、
「邪魔だよ審判の魔女。ボクは炎の代行者――灼炎の魔女を殺さないといけないんだ」
「今日は楽しいパーティーよ。あなたを殺しちゃったら楽しい雰囲気が台無しじゃない」
審判の魔女……母さんのことか。そして炎の代行者だか灼炎の魔女ってのがおそらくアリスのことだろう。
「キミは契約していないから巻き込みたくなかったけど、邪魔をするなら仕方ない……よね」
ノエルは言いながら自らの手でお腹を引き裂き、母さんの手から伸びているであろう不可視の何かから脱出。次の瞬間にはお腹の風穴はみるみるうちに埋まっていく。この異常なまでの自然治癒力と鋭い牙のような犬歯、間違いない。吸血鬼だ。
凛の護衛としてアリスの幼なじみとして刀を抜こうと柄に手を伸ばそうとするが……体の動きが鈍い。いや、動かない! これは……ノエルの異能か!
動けないのはどうやら俺だけではないようで、凛やアリス、チャールズやオーラとその護衛たちも謎の力により指一本すら動かせない状況だ。
俺たちの周りにはこの状況に困惑して別の意味で動けないの者や、血を流す戦いを面白そうに見ていて動こうとしない者ばかりで助けに来てくれる気配はない。おそらくただのケンカだと思われているんだろう。
「こそこそなんかやってるみたいだけど、私に魔眼の類は効かないわよ」
「そんな!」
「無論、あんたの石化の霊眼もね」
ノエルは悔しそうな顔をして、
「しょうがない。他を当たるか」
文字通りこの場から姿を消した。まるで透明化したように。その瞬間、俺たちには体の自由が戻ってきた。




