第282話 リムジン
■隆臣
飛行機はヒースロー空港に到着した。
ヒースロー空港はイギリスで最も大きな空港で、めちゃくちゃたくさんの人がいる。夏休み期間なので平常時よりも更に多いんだろう。
入国審査を済ませてキャリーケースを引きながら指定されたゲートから外に出ると、たくさんのタクシーやバスを待つ人々がズラっと並んでいた。
でも俺たちが乗るべき車はすぐにわかった。黒塗りのリムジンの前に魔女隊の制服を着たエーリンが立って俺たちを待っていてくれたからだ。
「みなさんこんにちはー! ようこそイギリスへ! 今から私の家に向かいますので、こちらにお乗り下さーい! あ、荷物はセバスに渡して」
エーリンは無邪気に手を振って言った。やっぱり魔女隊は元気だなぁ。そしてちっこくてかわいい。
運転席から出てきたセバスさんにキャリーケースを渡してトランクに積んでもらい、俺たちはリムジンに乗り込む。
革張りのソファにガラステーブル。カーペットはふかふかで高そうな感じだ。
「リムジンは初めて? 緊張しなくていいよ。ストラトフォードまで時間かかるし、リラックスしなよ」
そう言ってエーリンはワインボトルを取り出してコルクを外し、俺たちの前に置かれているワイングラスに注いでくれちゃっている。透き通った金色の液体がグラスの3分の1まで注がれる。
するとセバスさんが遠い運転席から、
「安心してください。ただのシャルドネのジュースです」
と教えてくれた。てっきり本物のワインかと思ったぜ。
「ぶどうジュースは嫌い?」
「いえ、わたしは好きです」
「わたしもよ」
「俺もだ」
「俺も」
「私もだよ」
凛、ジョーカー、レオ、俺、エースが順々に答えてグラスを持った。エーリンも自分のグラスに注ぎ終わるとぶどうジュースを脇においてグラスを持つ。
「乾杯」
エーリンが言うと俺たちはグラスをぐっと近づけた。
乾杯の際にグラスを打ち合わせて音を鳴らすのはマナー違反だと飛行機内でジョーカーから教わった。俺とエースはジョーカーからテーブルマナー講座を受けてあらかたのテーブルマナーは頭に叩き込んでいる。でもまさかこんなすぐに役立つとは思ってなかった。
ぶどうジュースを一口。あ、うまい。甘すぎずほどよい酸味がいい感じだ。
少ししてみんなが落ち着き始めた頃、
「エーリン、今回はほんとうにありがとう。わたしのせいでしばらく迷惑かけちゃうけど、よろしくだわ」
と、ジョーカーが珍しく頭を下げた。
「当たり前だよ。だってわたしたちは同じシュヴァルツの血族――遠い親戚なんだもの。助け合わなくっちゃ」
エーリンは元気よく答えた。最初エーリンが凛やジョーカーの遠い親戚だと聞いてかなり驚いた。でもよく見ると少し似ているような気がする。特に目の部分とか。
ヨーロッパではシュヴァルツの血族は穢れた血を引くものとして嫌われている。かつてのユダヤのように迫害を受けているわけではないが、シュヴァルツの血族に対しての当たりは強いと聞く。
もしジョーカーが禁忌の魔女本人だとバレれば大変なことになるのは免れないだろうな。
さて、しばらくしてリムジンはロンドンの街中に突入した。あの有名なビッグベンやタワーブリッジ、ウィンザー城が見える! すげー!
さらにしばらく経つと田舎風景が広がり、そして突然アホみたいに巨大な屋敷が姿を現した。ストラトフォード邸だ。
「そろそろ到着するよ。わたしのお家に」
To be continued!⇒
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