第255話 ヤツの弱点を聞き出せ!
■レオ
ここはもうケーブルカーではない。広がるカイロの街並み。藍色の空には三日月と星屑がキラキラと輝き、カラッと乾燥した暑い風が吹いているが、湿度が低いので東京よりは幾分か涼しく感じられる。ここは外界と隔絶された俺にとって最も有利な環境だ。
アスファルトの上でペタンと座って目をまんまるにするイオを抱きかかえ、俺はカイロの街を疾走する。軽いな。
「レオしゃまにお姫さまらっこしていただけるなんて! イオ、うれししゅぎてとろけしゃいますぅ〜」
俺の腕の中でふにゃふにゃするイオ。こいつは本当に魅了の芳香に弱いな。
「教えてくれイオ! 魔剣の蔵の弱点を!」
魔剣の蔵を最もよく知るイオに弱点を聞き出す。これが俺の現状打開策だ。
「しゅきしゅきだいしゅき! イオはレオさまがだいしゅきれす〜! けっこんしてくだしゃ〜い!」
ゼロ距離で魅了の香水を嗅いでしまったイオの思考回路がおかしくなっている。
「どうしたんだブラドの番犬! うちのガイストと駆け落ちか? それは許さんよ。さすがに」
クソッ! 魔剣の蔵が追って来てる! はやくイオを正気に戻さないと!
魔剣の蔵まではまだ距離がある。ここは一旦路地裏に入ってイオを正気に戻そう。
迷路のような路地裏を進んでイオを下ろすが、未だにとろけながらわけのわからないことを呟いている。
こう見るとイオはかわいいと思う。薄い茶髪のミディアムボブはつやつやでキレイだし、顔も整っていてかわいらしく、デニムショートパンツやTシャツから露出する肌は絹のようにきめ細やかで美しい。もし俺がプトレマイオスの護衛を引き受けていなかったら、きっと好きになっていた。
イオのほっぺたをむにゅっとつねった。
すると、
「いたた! レ、レオさま!?」
「しーっ」
俺はイオの桃色の薄い唇に人さし指を当て耳元で、
「イオ、俺のために魔剣の蔵の弱点を教えてくれ」
「え?」
イオは頬を赤く染めるも困惑した様子だ。
ダメ押しだ。
「俺の味方になってくれ。キミとなら魔剣の蔵にだってきって勝てる」
俺は敵に何を言ってるんだ。だがこれが勝つための最適な手段なんだ。
「さあ、俺の手を取って」
イオに手を差し伸べる。
「はい……」
イオは気恥しそうに俺の手を握ってくれた。イオの手を握り返し、立ち上がらせる。
「正直に言います。ヤツに弱点はありません」
イオは申し訳なさそうに上目遣いで説明してくれた。かわいい……けど、なびくわけにはいかない。俺はリンとジョーカーを守らなければならないんだ。
そして魔剣の蔵に弱点はないと来たか。これがフォルコメン3番手――序列6位か。はは、笑えてくる。
「あらら、そんなところで何してんの」
魔剣の蔵の声が聞こえてきた。声の方を見ると、三日月をバックに魔剣の蔵は屋上から俺たちを見下ろしている。
「うちのかわいいガイストとイチャイチャされちゃあ困るよ」
魔剣の蔵は短剣を握り直した。
「逃げるぞッ!」
浮遊するイオを引っ張って俺はカイロの裏路地を駆ける。魔剣の蔵は屋上を飛び移って俺たちを追って来ている。
ここは俺のテリトリーだ。地の利はこっちにある。
角を曲がり、ヤツの死角に入る。そしてマンホールの蓋を開けてイオと一緒に下水道に降りた。
蓋は閉めてきたし、魔剣の蔵は俺とイオを見失ったはずだ。
通路は広いがドブ臭い。俺とイオは手を繋いでない方の手で鼻をつまみながら、しばらく道を進んだ、
途中で俺は立ち止まって、
「そこから地上に出て正面の店に入るといい。親切な爺さんがいるから、ジュースやお菓子でももらって決着が着くまで時間を潰していろ」
「レオさまは……?」
「俺はこっちに行く」
俺がそう言うとイオはしゅんとなってしまった。
そして何かを言いたそうに体をモジモジさせたり、俺の顔をチラチラと見てくる。
「イオはあいつのガイストで、あいつのことが大好きなので、イオはあいつを応援します。でもレオさまも大好きで、レオさまはイオの将来のハズバンドなので、もっともっと応援してるんです!」
思い切って言ってくれるが、ハズバンドって……俺はまったくその気はないぞ。てか魔剣の蔵が義父なんて絶対に嫌だ!
「だから……頑張って! ダーリン!」
だからダーリンでもないっての!
「ありがとうイオ。とっても嬉しいよ。だから、さあ行って」
俺は笑顔でイオを見送った。
さて、それじゃあ最終ラウンドと行こうか。俺はさらに下水道を進み、ある地点で地上に上がった。
地下からナイル川を横切り、隣のギザという都市にやってきた。ここからは大きな四角錐が3つばかり並んでいるのが見える。
最終決戦の場は世界有数の観光名所であり世界最大のオーパーツ――ピラミッドだ。
To be continued!⇒
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