第253話 魔剣の蔵の過去
■レオ
短剣を構えた魔剣の蔵の目付きとオーラが変わった。まるでネコからライオンのように。
――ドクンドクンドクンドクン
心拍数が増加する。これは緊張によるものではない。真祖ブラドの弟子であり禁忌の魔女の護衛である俺にとって今さら緊張する相手はいない。この心拍数増加は人間を超越した身体能力を生み出すために必要なのだ。
骨格筋に酸素を過剰供給して細胞呼吸によるATP合成を普通の人間の何十〜何百倍もの速さで行い、結果的に莫大なエネルギーを得ることができるのだ。
魔剣の蔵と初めて出会ったのは今から約30年前――あいつは15歳で、まだ無名の剣士だった。
三次元世界と四次元世界を繋ぐ孔――次元孔を形成することができるイオは現存する数多のガイストの中で特に異質な存在だ。
世界を段々畑に例えよう。上の段から下の段には飛び降りることはできるが、下の段から上の段に行くことは容易ではない。
つまり神霊や神獣が高次元世界から低次元世界に移動するのは苦労しないが、人間が高次元世界に移動するのは不可能に近いということだ。
だがイオは上の段へのハシゴを作り出すことができる。ガイストはもともと四次元世界の存在――霊魂なので次元孔の中に入っても発狂することはない。
そしてイオの宿主である魔剣の蔵は、普通の人間にもかかわらず次元孔の中に入っても発狂することはなかった。
法院はそんな希少な2つの存在を保護し、研究対象とした。この研究により高次元世界やガイストについて明らかになったコトはたくさんある。
法院での寝泊まりが増えた魔剣の蔵はとある人物に出会う。世界一の第六感覚覚醒者や大剣豪、妖刀使いや剣聖、死のサムライや魔術師殺しなどたくさんの二つ名を持つ男――メジロユキタカだ。
生前はテンプル騎士団の剣聖として最強と謳われたイオから剣術を学んでいた魔剣の蔵は、自分の実力を測るために当時最強だった。ユキタカに練習試合を挑んだ。
あっけなく――1秒もかからず魔剣の蔵は負けた。
当時の魔剣の蔵は法院で2番目に剣が上手だった。それはテンプル騎士団最強の剣聖であったイオを師匠として毎日剣を振っていたからだ。
しかしそんな魔剣の蔵さえ、全盛期のユキタカにはまったく適わなかったのだ。
なぜか。魔剣の蔵は単純な技術は十二分にあったが、致命的に足りていないものがあった。それは第六感覚――すなわち直感である。第六感を極めていたユキタカには未来が見えていた。すなわちその差が敗因だったのだ。
それから魔剣の蔵がユキタカの弟子になるまではそう長くはかからなかった。
こうして2人の剣聖から東西2つの剣術を学び、ユキタカからは第六感の修行も受け、魔剣の蔵は最強の剣士への階段を着実に昇り始めた。
法院からプトレマイオス就任を何度も要請されていたユキタカだったが、断固としてそれを拒否しフリーランスの形を取り続けた。自身の自由を維持するためだ。
3年が経ち、魔剣の蔵は西洋と東洋の2つの剣術を極め、第六感も以前とは比べものにならないほど研ぎ澄まされていた。
魔剣の蔵とユキタカは再び練習試合を行った。今度は1時間かかっても決着はつかず、決闘責任者の真祖アーサーが止めに入ってようやく試合は終了した。
無名の剣士が世界最強の剣豪に追いついたのだ。
それを認められて魔剣の蔵はプトレマイオスに就任した。
そして魔剣の蔵は「世界に散らばるあらゆる魔剣を収集する」という任務を命じられた。魔剣は剣のカタチをした魔導具。放っておけば犯罪に利用されかねない。
この任務は前任から引き継いだもので、当時法院には13本の魔剣が保管されていた。
法院で魔剣を保管するよりもイオの四次元世界に内包する方が安全なので、以後収集した魔剣はイオの四次元世界に収蔵されることになった。
現在、魔剣の蔵は世界に存在する半分以上の魔剣をイオの次元孔の中に保管している。魔剣の保有権が法院から魔剣の蔵に変わったのだ。
なので魔剣の蔵は普通の剣だけでなく、プトレマイオス就任後は魔剣も扱うようになった。このことから少年は以後、魔剣の蔵と呼ばれるようになった。
そこからがまた新たな伝説の始まりで、魔剣の蔵はその剣術と集めた数多くの魔剣を利用して破竹の勢いで昇格を果たしていく。
5年でセレスティアルに、7年でアポストルに、6年でフォルコメン7番手になり、さらに4年で現在のフォコメン3番手まで昇り詰めた。
その頃には師匠であるユキタカは現役を引退して日本に帰っており、師弟関係は終了していた。
そんな魔剣の蔵に俺は勝てるのか? ガイストなしでもプトレマイオス以上の実力があるんだぞ? いや――俺はリンとジョーカーの騎士。2人に降りかかる火の粉は火の元ごと振り払う。それが俺の役目だ!
To be continued!⇒
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