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この街に『勇者』はいない【絶筆版】  作者: 田神 へいき
第一部 ■■■ to ■■■■■■■
21/36

第二章[表]合宿行こうよ大型連休②

ついに10万文字突破!!


そして物語は文量的には折り返しを跨いでおります。もうしばしお待ちを!!!!


…………これ面白い!!?????おもんないって感想くれてもいいのよ!!????悲しむけど!!!!!!

「着いたぁぁ……!」


 しのかが達成感のこもった元気良い声を上げる。


 バス停から歩くこと約五分、遂に今回の合宿の目的地、その宿泊予定地に到着だ。

 各々の顔には疲れが見えるが、しかし誰一人として暗い顔はしていない。これから始まる合宿を楽しみにしている、というより目の前の巨大な建築物に目を奪われているようだ。


 豊かな緑に囲まれた山の麓、高台の住宅地。そこから少し外れた坂の上にそれはあった。


 どっしりと鎮座する、一つの屋敷。


 歴史を感じさせる日本家屋は、囲まれた高い塀に阻まれて、その内側を窺い知る事は出来ない。その未知が放つ独特の雰囲気が、周囲にポツポツと点在する一軒家たちの中でも、一際存在感を放っている。圧巻だ。


 しかし山にある屋敷だと聞いていたから、森の中にひっそりと建つ怪しげな感じを想像していたのだが。裕也は普通に住宅地の中に建っていることを少し残念に思った。まあでかいから良しとしよう。


「おっきいねぇ〜」


 しのかはしみじみと見たまんまな感想を口にする。今回の合宿について、きっかけとなる情報をもたらしたのは裕也だが、引き継いで詳細を取り決めたのは彼女だ。ずいぶんと部長の貫禄が出たのではと、裕也は感心していた。

 先ほど聞いた話だが、なんとここに住まう夫妻はこの屋敷に二人暮らししているそうな。ここまで大きいと、いささか広すぎるのではないだろうか。


「これ、掃除とかどうしてるんだろう……」


 智紀が少しズレた感想を口にする。まあ確かに気になるわな。これだけ大きいと掃除一つとってもかなり大変そうだ。業者とか雇ってるのか? 維持費とかすごいんだろうなぁ。


「これクソデケェな! オレん家よりデケェぞ!」


 そりゃでかいわ。庶民の家と比較するもんじゃない。悲しくなるだけだからやめましょう。


「東京ドーム何個分だこれ!」


 そりゃでかいわ。さすがに東京ドーム舐めすぎだろ。いや東京ドームの大きさとかわからんけど。

 テレビとかでよくある『東京ドーム何個分』という表現。そもそも一個分の大きさが分からないから、結局でかいってことしか分からない。重大な欠陥なのではと裕也は思う。


 その見事な邸宅に各々勝手な感想を口にしていると、目の前の、これまた荘厳な門からが一人の着物姿の男性が、サンダルを鳴らしながら出てきた。

 そしてニカッと豪快かつ不敵に頬を歪める。


「よく来たなぁお前らーーいてて……ぁぁ飲みすぎた……」


「……こんな日くらい自重しなよ。ロッド」


 どことなく顔色が悪く、揺れる頭を拳でコツコツ打ち付ける姿に、裕也は溜め息を隠せない。隠さない。


「いーだろうが別に。酒は飲みてぇ時に飲みてぇだけ飲むもんだ。やることはやったし、俺が役立たずかどうかに飲む飲まないは関係ねぇよ。

 ーーお、もしかしてお前が例のしのかちゃんか。なんだ、ホントにこいつらにはもったいねぇぐらいの美人じゃねぇか! おい裕也。この()の可愛さに免じて、料金割引きしてやる。感謝しろよ」


「…………どうも」


「うふふふ〜ユウくん。この人いい人だね〜」


「先輩。詐欺に会いますよ」


「お、そこのお前はイケメンだな。帰るか?」


「何故!!?」


「おいおいオッサン。あまりいじめてやらんでくれ。こいつはオレの後輩なんだ……」


「え? この人結局この部活の人なんですか?」


「「違う」」


 先輩二人の即答に、智紀は如何(いかん)ともし難い絶妙な神妙顔で息を吐いた。

「でも後輩は後輩だろうが」誠人はどうでもいいことに食い下がり、それに裕也が雑に返事をして、瞬く間に意味の無い論争に発展する。

 ほわほわと和やかに笑う部長に対し、智紀はやれやれと苦笑した。この少年たちの取り扱い説明書はとても薄そうだ。そういうの読むのが苦手な自分にとっては良いことなのかなと、智紀は苦笑に呆れを深めた。


「あぁぁ、お前ら立ち話もなんだ、そろそろ中入れ。昼飯、まだだろ?」


 傍観していた着物男。咳払い混じりの提案で、彼は門前での三流問答を断ち切った。

 裕也の気のせいか、その言葉の前には微かな舌打ちが混ざっていたような気がした。


 門を通り、これまたドラマにでも出てきそうな石畳も通り、さらに今度は引き戸を通り、少年少女はまたもわずかな放心状態。すると建物の奥から穏やかに歳を重ねたような男女がゆったりと現れた。ロッドが紹介する。


「えー、こちらが今日からお前らがお世話になる、山岸夫妻だ」


「僕は明義(あきよし)、そして妻の京子(きょうこ)です。短い間ですが、本物のお爺さんお婆さんだと思って、気軽に接してください。どうかよろしく」


「今日から一泊二日、よろしくお願いしま〜す」


 しのかの挨拶に続いて、全員が深めにお辞儀をする。


 どちらも六十代前後、だろうか。白髪混じりの明義は黒縁の眼鏡をかけ、優しげな笑みがシワを刻んでいる。妻の京子は明義に比べると、幾分か強い目で気も強そうだ。

 どちらにしてもとても良く出来た人格者に見える。まあ比較対象が、今目の前にいる着物着崩した飲んだくれなのだから、誰であっても人格者になるだろう。


 ーーというか着物着てるのロッドだけなのな。


 この日本家屋の住民よりも、数段馴染んで見えるのはそういうことか。

 ロッドはもう一度鈍い咳払いをして、続けた。


「えー、決してお二方に迷惑諸々かけないように、誠人は最新の注意を払って過ごすように」


「なんーー」


「ーー以上!! では皆の者、飯だ!!」


 静かな喝采。足取りは軽やかに。


 合宿最初の食事はざる蕎麦(そば)。ダシはお手製。しばらくの間、蕎麦をすする音と賞賛の呟きが、世間話以上に部屋に響き続けるのだった。




 ーーーー




「いや〜食べたねぇ〜」


「美味しかったですね」


「ガチでマジで美味かったな。オレ無限に食えうぷっ……」


「マサ。ここで吐くなよお願いだから……」


「は! このオレ様にうぷっそんなクソみてぇな心配はむようぷっ」


「おい誠人てめぇ口塞げ。クソもんじゃ錬成したら叩き出すぞ」


 食後。それなりに腹を満たした裕也たちーー約一名危篤ーーは、まったりと寝転がって天井に向かい合っていた。


 畳の香りを肌で感じて、吹き込む涼やかな風に吹かれる。もう二月も経てば鈴の音色も加わるのだろう。チリンチリンと、きっと心地よい風情になるはずだ。うっすら鼓膜に幻視する。

 裕也は薄く伸びた雲のような眠気を感じる。食欲を満たせば訪れる当然の生理現象だが、そういえばバスの時もやたらと眠気に襲われた。昨日は合宿への備えに追われたせいか、寝つきが良くなかったのだろう。昼はとある備品の点検もしたし、個人的も色々と入り用だったのだ。


 欠伸(あくび)一発。羊の代わりに天井のシミの数でも数えて眠るかと、裕也は瞼を重みに任せてーー


「いてっ」


「ほらほらユウくん目を覚ませぇ〜 腹が減っては戦はできぬ。つまり腹を満たせば戦は目の前なんだよ〜」


 ちょっとよく分からないことを言いながら、しのかはぺちぺちと扇子で叩く。

 目頭を抑え、ちろりと周囲を見渡す。

 どうやら未だに惰眠に片足突っ込んでるのは自分だけのようだ。特段抵抗せずにのそりと起き上がった。


「お、やる気だね〜」


「ミーティングだろ? 起きるよ。僕はこれでも真面目キャラで売ってるんだ」


「くっさ」


 誠人が鼻で笑う。一言一句違わず同じことを自覚した裕也は、とりあえず部外者の無防備な腹を踏みつけて廊下に放り出すことにした。


「てめっ、マジぜってぇ許さうぷっっ」


「あ、トイレ右行って奥」


 それだけ伝えた。

 下腹部と口を抑えてふらつき歩く少年を見送る。


 しのかは少し離れた位置に立ち、全員の視線を受け止める。


「さてさてさ〜て〜。では全員揃ってるうちにミーティング始めちゃいま〜す」


 元気ハツラツ和やか笑顔。正直しのかは鬼だと思う。


「まず今回の合宿の目的について〜。みんな分かってると思うけど、我らが地域伝承研究会は今、()()()()()()()を活動の第一目標としていま〜す。ーーはいトモくん、言ってみな〜!」


 最近買ってお気に入りらしい扇子で智紀を指名する。少年は一瞬呆気にとられたようだが、すぐに記憶を引っ張り出した。


「『四足歩行の幽霊を見た』『夜空を走る人影を見た』『降り注ぐ流れ星を見た』 この三つですね」


「だいせいか〜い!」


 どんどんぱふぱふ〜。口で言った。


「まず少し昔の話から。三月の終わり。みんな覚えてると思うけど、あの時地震があったよね〜。この街だけの、なんだかおかしな地震」


「それが噂の原因。その一端じゃないかって話だろ。さんざん聞いたよ。しのか」


「まあまあ硬いこと言わないで〜 それぐらいの前置きはいいでしょ〜」


 しのかはちょっと冗談混じりに頬を膨らませた。


「なんだかおかしな地震に、立て続けに広まるおかしな噂。調査しなくちゃ部長が廃る! 当然みんなにも協力してもらったしだいで〜あります〜

 そしてそして〜、ついに”第一の噂”について、重要な参考人を確保することに成功したのです。ーーどうぞ!」


 大仰に物騒な呼びかけで、着物の男性が隣で立ち上がった。

 ずいぶんと酔いは冷めたのか、先ほどより幾分か血の巡りは良さそうだ。軽く頭を振ってから野太い咳払いをかます。


「えぇぇ、初対面も一応二人ぐらいいるみてぇだから、改めて自己紹介といこうか。俺はロッド。まあ血筋以外はだいたい日本人だ。好きなもんは意外にも酒だ。よろしく。

 あと、そこのひ弱顔とクソ錬成トイレマンは昔からの馴染みだから……なんだ、仲良くしてやってくれ」


「言うことないんだったら無理に言わなくていいよ……」


「あ? 別に構わんだろうが。ーーあぁ、そういうのが恥ずかしいお年頃か。すまんな察してやれんで…………分かった分かった。続き話せばいいんだろ。その死んだ顔やめろ」


 それなりに気を込めた視線に、ロッドはまたも咳払い。先程から何度もしているが、酒を煽りすぎて喉が焼けているのではなかろうか。


「自己紹介をもっと詳しくどうぞ〜」


「えーとな、好きなもんはーーさっき言ったな。趣味は……オカルト、だな。

 俺は昔からオカルト的なもの集めたり、色々と調べまくったりしててな。それが趣味といえば趣味だ。そんな奇っ怪なもんか続いてんのは、人脈が仕事柄そこそこあって情報収集には困らなかったからでもある。大事だぜ、人脈。

 まあここ五年くらいはその仕事柄ーーというよりは個人的な理由でこの街から離れてたわけだが、この通り、五体満足健康そのもので帰って来た。どこぞのカミサマにでも感謝するべきかね。そんで街に帰ってきたら面白そうな噂。調べちまうのは当然の帰結ってこった。

 そんでこの前誠人(まさと)にばったり会って。そりゃ完全に偶然だったんだが、俺はこの状況は必然なんじゃねぇかって思うな。面白いし。

 あとは……そうだな。このガキ二人との馴れ初めはもう十年くらいになる昔々のお話なんだが……」


「いやもういいよ。そろそろ本題」


 べらべらと続く自己語りは、このままだと果てしなく続き、早い段階で世界規模のスケールまで膨らむ恐れがある。彼は喋るのがお好きだ。

 ロッドは面白くない顔をした。


「なんだよ裕也。こっからが面白いところだろうが、お前俺がこの近くの川に連れてった時なんかーー」


「ーーはい本題!! 今回の合宿で僕らは一体何を得ることが出来るのでしょうかぁぁぁぁ!!」


「……チッ、つまんねぇ男に成長しやがって。誠人なら武勇伝の上乗せを図るぞここは」


「あいつはいいよ。僕はダメだ」


「はいはい了解致しましたですますよ。ーーんじゃまあ、本題と行こうか。」


 話が次のステップに進み、裕也は胸を撫で下ろす心地だ。前菜で胃が脹れてしまってはせっかくの主菜(メイン)を飲み下すことはできない。

 本命を切り出そうとするロッド。少し空気が張り詰めているような気がした。


「お前たちがこれから迫るのは、この街の角から裏から井戸端まで囁かれる一つの噂。『四足歩行の幽霊』についてだ。

 まず前提として、すまんが()()()()の正体はわからん。もう聞いてるだろうが俺が突き止めたのは()()()()()()()()()()()()、ってことだ」


「いえ、それでも十分すぎる進展です。感謝感激火の車ですよ〜」


「……火の車?」


 智紀呟きは誰の耳にも届くことなくかき消された。


「そうか。感謝云々は正直度外視だったんだが、喜んでもらえたなら趣味冥利に尽きるってもんだ。

 そんじゃあサービスでもう一つ。そいつら、例の幽霊たちの特徴の話をしよう。

 ヤツらはおかしなことに、黒いモヤみたいなのに包まれて実態が不明瞭だ。そしてお約束として神出鬼没。世界中を飛び回って幽霊云々は飲み仲間の俺の所感だが、それなりに解き明かすには骨が折れるやもしれんぞ。

 だがまあ、ここら辺は度々目撃情報がある穴場でな。元から猪やら鹿やら、そういう()()()目撃情報が絶えない田舎山ではあるが、()()()()()でも少し知れた場所でもある。ーーお前ら知ってるかい?」


 ロッドはいたずらを企む少年のような笑みを浮かべる。どこか凄みを感じるそれは、彼にはとても似合っているよう思えた。

 投げかけられた疑問に息つく空白。しかしそれは一瞬。しのかが挙手して答えてみせた。


「『宇宙人の着陸場』『花の結界』。ーーそして、『ソラガミ様信仰』」


今度に呆気に取られたのはロッドの方だった。


「その通り、正解だ。……いや、そこまで言い当てられるとは思わなんだ。流石に部長なだけあるねぇ」


 あごの無精髭を撫でながら感心げに褒めるロッドに、いえいえ〜、と嬉しげなしのか。この山にはそんな伝説、もとい小噺(こばなし)が伝わっている。何度かそれを目当てにこの山に来たこともあった。


「ここ一帯がまだ山を中心とした集落だった遥か昔から、人々を見守ったとされる銀英山の守り神。時には狼、時には鹿、時には(ふくろう)。人々の有事の際に様々な生き物の姿を借りて現れる。それがソラガミ様だ。マイナーだが、一番()()()()()話って言ったらこれだな」


「は! それでサクッと人々の頼み事を聞いてくださるわけだな。神様さまさまじゃねぇか」


「いやそれが違うんだよマサくん」


 いい、と前置きして、実に輝いた瞳でしのかは続ける。


「ソラガミ様は人々、というか、ほんの数人の前にしか現れないの。それで何一つコミュニケーションは取らないらしいんだよ〜」


「それを見かけた後に、偶然みたいなデタラメで状況が好転したりするんだよね」


 そう横から補足した裕也に、しのかは「ビンゴ〜」とうなづいた。


「ま、こんな話を真に受けで行動しろってわけじゃないが、そういう曰く付きの場所だってのは覚えときな。(たま)にある当たり話かもしれんし。もしかしたら幽霊はソラガミ様の使いかもしれねぇぜ」


「……またテキトーなことを」


「とりあえず今日から二日間。俺が場所を適時案内するから、そっからは自己責任で頼む。いいか。自己責任だ。俺は取れねぇからな。色々あったらそんときゃトンズラこく。

 ……俺からはこれぐらいでいいか。あんまし長々と話してても飽きんだろ。若いしな。質問ぐらいは受け付けるから手ぇ上げろー」


 そんなこんなで、記念すべき新年度最初のイベント。部活動の花、”合宿”が幕を開ける。

 桜が散って間もなく、世間一般の合宿からは少々気が早いような気もするが、それは文化部一筋である自分の勘違いなのだろうかと、裕也は晴れやかな青空に思った。


 明日も明後日も清々しいほどに晴れらしい。

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