第五十七話 物憂げなミランダ ◆sideフィーナ
ジュエンナたまが屋敷にやってきて早くも二週間が経過した。
彼女はお母様の体調を常に気に掛けながらも、サンルームで花を育てたり、リューク殿下の鍛錬に参加したり、私の推しトークに付き合ってくれたりと充実した日々を過ごしているようだ。
すっかりアンソン辺境伯家の生活に溶け込んでいる。たまにセバスチャンがげっそり疲れた顔をしているのが気になるけれど。
「安定期に入ってからお母様も元気そうだし、ジュエンナたまという最強の助っ人も来てくれたし、天使爆誕に向けて着々と準備が進んでいるわね!」
ホクホクしながら一緒におやつタイムを楽しんでいたミランダに笑いかける。だけど、ミランダは両手でカップを包み込むように持ったまま返事をせずにジッとカップの中を見つめている。
「ミランダ? どうかした?」
「え……あっ、ごめんなさい。ボーッとしていたみたい」
ツンツンと肘を突くと、ミランダはやっと我に返った様子で顔を上げた。
「どうしたのよ、あなたらしくない」
『アオ?』
私の足元で丸くなっていたウォルも心配そうに首をもたげている。首元に両手を差し込んでもふもふ撫でてやると『グルル』と嬉しそうに喉を鳴らし始める。可愛い子。
「……ジュエンナ様は、優秀で経験豊富な助産師なのよね?」
「ええ、そうみたいよ。屋敷を出た後に王都で学んできちんと資格も持っているみたい。この世界にもそういった制度があるのねえ」
マカロンを手に取りポイッと口の中に放り込む。甘いわ。いちご味ね。
「そう……すごいわね」
そう言ったきり、ミランダは黙り込んでしまった。
また何か考えに耽っているようだけど、今はそっとしておいたほうがよさそうね。クロエが給仕しても黄色い声を上げないぐらいだからよっぽどのことがあるんだわ。前世の職業が助産師だって言っていたから、何か思うところがあるのかもしれないわね。それこそ、自分が立ち合いたい……とか?
「ミランダ、もしあなたもお母様の出産に立ち合いたいのなら、お母様に相談してみたらどうかしら?」
私なりの考えを伝えてみるも、ミランダは力無く首を左右に振るばかり。
「……いいえ、私が助産師だったのはずっと昔の話だもの。それこそ、ミランダになってからはそんな経験なんてないわ。ジュエンナ様みたいに専門機関で学んで資格を取ったわけでもないし……ただの貴族令嬢がいたって邪魔になるだけよ」
「?」
自分を卑下するような言い方に僅かな違和感を覚える。いつも強気でイケイケゴーゴーなミランダらしくない気がするわ。いつだって自信に満ち溢れていて勝気で明るいミランダは何処?
お父様のパパ育成計画の時はあんなに張り切って色々準備をしてくれたのに、どうしたのかしら? クロエまで怪訝な顔で「熱でもあるのでは?」と言いそうな雰囲気だわ。
この日は結局ミランダの真意を探ることはできず、終始心ここに在らず状態だった。
短めなので夕方にも更新します!




