第四十七話 かくれんぼ ◆sideフィーナ
「ダメだ、あとはフィーナだけなのだが……」
「んもう、あの子ったら、どこに隠れたのかしら」
『あの子、隠れるの上手だねえ』
『すごいねえ』
木の上に隠れてから二十分ほど経っただろうか。リュークは私以外の全員を見事見つけ、あとは私を残すばかりとなった。
近くを探し尽くしたリュークは、とうとう両手を挙げた。ちょうど私が隠れる木の下にいる。
「悔しいが、降参だ。フィーナ、どこにいる?」
どうやら私の勝ちで試合終了となったようだ。私はウォルと顔を見合わせ、ニヒッと笑い合う。
「リューク、ここよ!」
「フィーナ⁉︎」
上から手を振り声をかけると、リュークだけでなく護衛の騎士たちまでギョッと目を見開いた。
『そんなところに!』
『どうやって?』
『あの子が協力したんだよ、きっと』
『へえ、仲良しなんだねえ』
精霊たちは呑気にふわふわ飛びながら私に拍手を送ってくれている。
「フィ、フィーナ、とにかく落ち着くんだ。落ち着いて、ゆっくりと降りてこい」
「え? 落ち着いていないのはリュークたちの方だと思うけど……まあ、いいか」
確かにかくれんぼは私の勝ちで終わったようなので、そろそろ木から降りなければならない。
私が木の枝の上で立ち上がると、下が俄かにざわめいた。
「い、いいか! ゆっくり、ゆっくりだぞ!」
リュークがこちらに両手を伸ばして叫んでいる。確かに、屋敷の二階ぐらいの高さがあるから気が気じゃないんでしょうね。
ウォルに乗って降りてもいいんだけど、せっかくリュークが手を差し出してくれているものね。
私はウォルに目配せをして、リューク殿下に向かって叫んだ。
「大丈夫だから、しっかりと受け止めてね!」
「えっ、それはどういう……フィーナ⁉︎」
私は、「えーい」と木の枝を蹴って宙を舞った。
ミランダが悲鳴をあげ、クロエは呆れた顔で首を振っている。騎士たちは各々両手をあげてオロオロとリュークの周りをうろついている。
普通だったらこのままだとリュークにぶつかってお互い大怪我を負ってしまうけれど、私には優秀な狼、もとい風の精霊がついている。
『アオーン!』
ウォルが高い声で鳴いたと同時に、私の周りに柔らかな風が起こった。その風に包まれるように速度を落とし、私はふわりとリュークの腕の中に降り立った。
「ね、大丈夫だったでしょう?」
ニッコリ微笑んで見せると、リュークは私の腰に腕を回したままパクパクと口を開け閉めした。
「ば、バカモノ! 怪我をしたらどうするつもりだ!」
「精霊たちがいるから大丈夫よ。それに、ちゃんと受け止めてくれたじゃない」
「そ、それは速度がゆっくりだったし、フィーナから腕の中に飛び込んできてくれたか……らっ⁉︎」
ジッと至近距離で赤い瞳を見つめていると、リュークの顔がみるみるうちに真っ赤に染まり、肩を掴んで強引に引き剥がされてしまった。
「と、とにかく! 木の上に登るのは禁止だ!」
「ええー……」
二回戦があるかは分からないけれど、次はもう少し安全な場所を探さなければならない。
ぷう、と頬を膨らませる私と、真っ赤な顔でそっぽを向くリューク。そんな私たちをクロエとミランダが笑みを深めて見てくるのは何なの。
『あはは! 楽しかった〜!』
『うん、楽しかったあ』
『じゃあ、お礼にソナスの実の生る場所に連れて行ってあげるよ』
『行こう行こう』
不貞腐れている間に、精霊たちがキャッキャとはしゃぎながら聞き捨てならないことを宣った。
「え⁉︎ 本当に? 連れて行ってくれるの?」
『うん、特別〜』
『この子にも頼まれたしい? 君はこの子の大切な友達なんでしょ?』
そう言って精霊がウォルの頭の上にちょこんと座ってポンポンとウォルの頭を撫でた。
『ワフン』
ウォルはどこか誇らしげな顔をしている。やっぱりウォルが何か話して頼んでくれたのね。さっきのかくれんぼはソナスの実の生る場所に案内する見返りってところかしら。
『さ、行くよ〜』
「あ、待って!」
私たちは思わぬ急展開に慌てて精霊たちの後を追いかけた。
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