12月24日
最終話です。
約束があるというのは、本来ならばウキウキするようなものなのだろうけど、俺の気持ちは逆にどんよりしていた。
工藤さんから昨日言われた言葉がどうしても気になって、眠れぬ夜を過ごしたからなのだが、いくら考えても分からない事は分からないので、結局は本人に確かめることにしたのだ。
俺は約束の時間に余裕ができるほどの時間をもって、指定されたその場所で待っていた。
「お待たせ!! 待ったかな?」
「え? 工藤さん!?」
「どうして驚くの? 待ち合わせしてたのに」
くすくすと笑う工藤さん。
――いや、驚くでしょ!! まだ待ち合わせ時間まで1時間もあるんだから!!
家に居ても落ち着かないので、早めに着替えて待ち合わせの場所に来たのだが、それが待ち合わせ時間までまだ1時間半ほどある時間だった。
「早くない?」
「えへへ。時間待っていられなくて早く来ちゃった。でももう飯間君いるしさ。それならもう待ち合わせ時間なんて良いかなぁとか思って……来ちゃった」
えへへと笑う工藤さんは今まで見ていた制服にコート姿でなく、しっかりとおしゃれな着こなしをした間違いなく一目で『デートだ』と思われるような姿をしていた。
「どうかな?」
俺の視線が工藤さんの姿を見ている事に気が付いたのか、工藤さんがクルっと回ってみせてくれた。
「に、似合ってると思う」
「それだけ?」
「え? か、かわいい……よ?」
「どうして疑問形なのよぉ~!! もう!!」
プリプリと言葉は怒っているようだけど、頬を赤く染めた工藤さんはとても嬉しそうだった。
「それで、今日はどうするの? どこか行く?」
「うん。実は近くでイルミネーションしているんだよ。そこに行きたいんだ」
「なるほど。いいよ行こうか」
「れっつごー!!」
いうのが早いか、工藤さんが俺の腕と身体の隙間にスッと腕を通してきて、そのまま腕を組む様な感じになる。
「え!? く、工藤さん!?」
「いいからいいから。今日はこのまま……ね?」
「うぅ~ん……工藤さんがいいなら……」
少し恥ずかしさもありながら、工藤さんに言われるままに、そのままでイルミネーションがあるという場所まで歩く。
そして夕方とはいえ、まだまだ陽が高いにもかかわらず、イルミネーションは点灯していた。
「凄いね!!」
「そうだな……」
二人で見上げた一本の大きなもみの樹。そこには多くの電球がデコレーションされていて、とても鮮やかに輝いていた。
しばらく二人で静かに見上げていた。
沈黙を破ったのは工藤さんで。
「あのね」
「うん」
「私の両親、離婚したんだ」
「うえぇ!?」
思ってもみない告白に驚く。しかし工藤さんの話は止まらなかった。
「中学2年生に上がるちょっと前のことだったの。私はね、お母さんと一緒に暮らすことにしたんだ」
「…………」
「はじめはね凄く悲しかった。仲がいいと思ってた両親が離れ離れになることがね。でもお母さんと暮らすようになってそれも仕方ない事だって納得するようになったの。そうなれたのも全ては約束を忘れなかったからかな?」
「約束?」
「そうだよ……ちーくん」
「あ、ちーくん……て呼んだ……」
話の途中から、工藤さんは泣いていた。それでも俺の返事にちょっと吹きだしてくすくすと笑いだした。
――あ、その顔……。
「あっちゃん……か?」
泣きながらくすくすと笑う工藤さんの顔には、間違いなく見覚えがあって、それが記憶パズルのピースがピタッとはまったような感覚がした。そして両親が離婚したという事であれば、名字が変わっていてもおかしくない。
「うん。そうだよちーくん」
そう言いながら俺に体を預けて来た工藤さん。
記憶の中のアイツは確かに男の子だった。しかし今俺をちーくんと呼ぶのは女の子なのだ。だからこそ混乱する。
「女の……子だった……?」
「あ、やっぱり気付いて無かったんだね」
そう言いながらまたくすくすと笑う。
「わたし髪も短かったし、男の子みたいだったもんね。ミニバスケしてる時も何となくそうじゃないかなぁとは思ってたんだ」
そう言いながら少しだけ俯く工藤さん。
「待ってたんだ会いに来てくれるの」
「あ、ごめん……」
「ううん。私も引っ越しちゃったし、会いに行っても会えなかったと思うからいいの」
「でも……」
俺の口をスッと人差し指で塞ぐ工藤さん。
「だから今度は、ちゃんと約束しよう? これから先のこと」
涙はまだ止まっていないものの、ニコッと笑ったその笑顔は間違いなく、今まで感じた事の無い感情を俺の中に生んでくれた。
言葉を交わす二人の頭上で、ひらりはらりと白い結晶の花が舞い降りる。
数年後の二人の約束を見通していたかのように――。
「ねぇ~ちーくん!!」
「なぁ、そろそろその呼び方止めないか?」
「えぇ~何でよ?」
「いやだってさ、俺たちもう……」
二人で並んで見つめ合う。ベールを上げる俺を見ながら彼女はニコッと笑った。
「家族になるんだね」
「うん。これからはずっと一緒だ」
俺は灯に口づけをした。
リンゴ―ン……リンゴ―ン……リン……
鐘の音が二人を祝福するように鳴り響く。
「わたしをお嫁さんにしてくれる?」
笑顔のままで灯が言う。
「教会で結婚式しようか」
涙を拭いてあげながら俺は笑って答えた。
俺たち二人は幼馴染から夫婦になった。
数年前に二人が幼馴染から恋人になった日でもある、12月24日が結婚記念日。
それがあの時にした約束。
お読み頂いた皆様に感謝を!!
いかがでしたでしょうか?
少し自分らしくない作風なところもあったと思います。
間を開けるとか……。
これも単発連載だから出来る事でして、少しのチャレンジ精神ですね。
その辺の感想は感想欄でお願いします。
クリスマスにはまだ期間がありますが、ちょっとそんなイベントを先乗りした気分で読んで頂けましたら嬉しいです。そして少しの『キュン』をお届けできていたとしたら、大変満足でございます。
※あまりにも酷い感想、作品に関係のない内容の書き込みなどは削除させいて頂きます。




