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真・恋姫†無双 ~緑に染まる黒の傭兵~  作者: forbidden
拠点フェイズ5.益州にて其の三
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拠点フェイズ5.愛紗

「……愛紗ちゃん、それ絶対雛斗さんに恋しちゃってるよ」


「えっ……!?」


私は思わず声を上げた。

ご主人様と桃香様の執務室だ。

窓の外は既に暗く、ご主人様は自室に帰っている。


私は桃香様に相談をしていた。


「そっかぁ、愛紗ちゃんも雛斗さんの虜になっちゃったかぁ」


桃香様が満更でもないように言ったのに、私は耳が熱くなるのを感じた。

相談とは雛斗のことだ。

最近、雛斗と一緒にいると不思議な気持ちになる。

ご主人様に感じていたのと似たものだ。


「そ、そんな……私はご主人様を」


「その気持ちに嘘はないと思うよ。けどね、愛紗ちゃんの気持ちが雛斗さんにも傾き始めてる。ううん、もう傾いてるかも。最近の愛紗ちゃん、雛斗さんに目がいきっぱなしだよ」


「うっ……そうでしたか?」


「うん。雛斗さんの話題が出ると推すし、雛斗さんが庭で鍛練してるとぽーっとしながら見てるし」


「…………」


「愛紗ちゃんが気後れするのもわかるよ。ご主人様とは桃園の誓いからずっと一緒になって生きてきたからね。でも、雛斗さんも立派な仲間だよ」


「──それはわかってはいるのですが。ご主人様から目移りしたように自分自身、思ってしまうのです」


取っ替え引っ替え男を取り替えているような。

そういうのを私は嫌な感じを受ける。


「真面目な愛紗ちゃんらしいね。でも、雛斗さんはとても良い人だよ。強いし、頭も良いし、何より優しいよ。兵隊さんのことをよく考えてくれるもん。それを考えたら目移りしちゃうのも仕方ないと思うけどな」


「しかし」


「一旦、雛斗さんとご主人様に気持ちを伝えてみたら? もやもやしたまんまは良くないし、きっと雛斗さんかご主人様が見抜いちゃうよ。特に雛斗さんはね」


「ひ、雛斗とご主人様に!? そのようなはしたないこと!」


「全然はしたなくないよ。女の子の純粋な気持ちだよ。愛紗ちゃんだってちゃんと女の子なんだから」


「──軽蔑しないでしょうか? 男を二人、好きになった私を」


「しないよ。雛斗さんもご主人様も。二人の優しさは愛紗ちゃんもよくわかってるでしょ?」


「…………」


───────────────────────


最初はご主人様一筋だった。

でも今はどうだろう。

雛斗を見ていると胸が苦しくなる。

ときどき見かける寝ている姿を見ているともっとだ。

ふらっと近づいて手で触れたくなってしまう。


「…………」


雛斗は庭の東屋で本を読んでいた。

それを遠くから私は見ている。


桃香様に相談してから翌朝のことだ。

今日は雛斗は休みで、それで早速話してみようとしたのだが──遠くから見ているだけで足が進まない。


「……どうにも臆病者だな、私は」


「そんなことないよ」


「ひゃあっ!?」


いきなり側で声がして思わず飛び上がった。

見ると前に雛斗が目を見開いて私を見ていた。


「ご、ゴメン。驚かせた?」


「い、いや……すまない。大丈夫だ」


変な声を出してしまって恥ずかしい……。


「なら良いけど──愛紗は臆病なんかじゃないよ」


ホッとした表情から真剣な顔になった雛斗に息が詰まった。


「恋に関しては臆病かもしれないけどね」


ちょっと苦笑いしたその表情も私の胸を締め付ける。


「俺は愛紗を尊敬するよ。主や民たちのために戦うその勇気に。いつも隠れて奇襲してばかりの俺とは大違いだよ」


「雛斗は!」


思わず大声を出してしまった。

また雛斗が驚いている。


「──雛斗は奇襲の時も、突撃する時も先頭で突っ込んでいっているではないか。霞から聞いたぞ。傭兵だった時も雛斗は大将なのに先頭で槍を振るっていた、と」


「…………」


雛斗がばつが悪そうにちょっと顔を背けた。


「私こそ雛斗を尊敬する。尊敬するし──」


好き──かもしれない。


「……愛紗?」


雛斗が言葉を途端に切ったのに首を傾げた。


「私は……どうしたら良いのだ?」


口から出てきたのはそんな言葉。

情けない──雛斗にこんなことしか言えないなんて。

素直に好きかもしれない、と言えば相談に乗ってくれるかもしれないと言うのに。


「……愛紗。何をそんなに思い悩んでいるかは分からないけど、俺は相談に乗るよ? そんな苦しそうな顔、見てられないよ」


雛斗が私の顔を覗き込みながら言った。

その表情は優しい。

漆黒の瞳は澄んだ湖のようだ。

とくん、と一瞬頭に何も思い浮かばなくなった。

まるでその瞳に惹き込まれたようだ。


「雛斗……。私はどちらを愛したら良いか分からないのだ」


俯いたまま言った。


「どちら……? 愛するって、北郷殿のことが好きだったんじゃないの?」


「ご主人様と、他に──雛斗のことも」


「えっ……」


雛斗が口をぽかん、と開けた。


「いつの間にか、雛斗を目で追うようになっていて……雛斗といたくて、触れたくて……。しかし、私はご主人様のことを好きでいた。だから、私にはどうしたら良いか分からないのだ……」


「……愛紗」


雛斗の消え入りそうな声が聞こえた。


「──他人の思いは、神でも完全には分からないと思う。時には、自分の思いが分からなくなる時もある。それは自分自身そんな思いをしたことがなかった、知らなかったから。それを知りたい時、人は他の人に相談したくなる」


そう、私はご主人様と雛斗のどちらが本当の好きか分からない。

だから私は桃香様に相談した。


「わかる人に相談するしかないからね。でも、その人だって完全にはその人の気持ちを本当に理解しているのかは分からないと思うよ。それが今の俺だよ」


「…………」


「俺は愛紗の気持ちが本当には分からない。愛紗が北郷殿と俺、どちらが本当の好きなのか。──だから相談に乗るとか言っておいてすまないけど、俺には答えられない」


「……いや。いいんだ。その通りだと思う」


雛斗は精一杯に相談に乗ろうとしてくれた。

答えるのが苦しそうだったからだ。

その表情を見ているとこちらも辛くなる。


「でも愛紗──」


「なんだ……?」


「俺は愛紗のこと、好きだよ」


「……え?」


胸を何かに射抜かれたような気持ちがした。

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